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264話 監視の目を避けての行動

 大型船トレニアのブリッジ。

 そこでは険しい表情を浮かべた者たちが集まっていた。

 戻るべき者が、予定の時間を大幅に過ぎても戻らずにいたせいで。


 「連絡の一つもありません。つまりメリア様の身に何かあったというわけですが」

 「取り戻しに行く……のは戦力的にきつそう」

 「罠が待ち構えているはず。なのでお母さんの救出は、秘密裏に行う必要があります。ただ、どこにいるかまでは不明ですけど」


 ファーナを中心に話し合いが行われるも、次どうすればいいか決めかねている状況だった。

 今のところ、宇宙港において怪しい動きはない。

 つまり、こちらから仕掛けない限りは見逃してもらえているため、動く前に徹底的に準備を整えることができる。

 あるいは、そういう動きを監視しているのかもしれないが。

 あーだこーだと各々の考えを口にしていく中、新たにやって来る人影があった。

 それはアンナ。

 彼女はやれやれとでも言いたそうな様子で手を叩き、自分へ注目を集める。


 「ちょっと、仲間外れは悲しいわ」

 「アンナですか。何か考えが?」

 「あるわよ。でもその前に、言いたいことがあるわけ」


 昨日、自分だけ無視されたことを根に持っているのか、アンナは数分ほどメリアに対する愚痴を話し続け、ある程度満足した辺りで考えを口にする。


 「ふぅ……メリアを捕まえた誰かさんだけど、今の私たちのことをどうにかすることはできない」

 「そうですね。どうあっても目立ちますから」


 一キロメートルもの大きさがあるトレニア。

 大型船が停泊できる宇宙港は限りがあるものの、そういうところには自然と他の大型船が集まるので紛れることができる。

 なのであまり目立たなかったりするが、それは何も問題が起きていない場合のみ。

 火災などの問題があれば、一気に注目が集まる。

 被害が宇宙港全体に広がる可能性があるためだ。

 戦闘が起きようものなら大騒ぎになる。

 それゆえに、宇宙港やその周辺にいる限りは安全というわけだった。


 「とはいえですよ、どうするんですか? メリアさんは地表のどこかにいるとしても、居場所を調べようとした時点で向こうに目をつけられるわけで」

 「……行きます。血の力を使って、聞き出せばいい」


 真っ先に手をあげるのは、この場にいる者の中では幼さの残るセフィだった。

 何か調べるという部分では、人を操れる血の力を含めて一番適任と言える。


 「う、うぅん、セフィちゃんはその存在が知られてないし、確かに監視の目を避けるという意味では適任だろうけど……」

 「さすがに心配ねえ。私たち全員、あなたがただの子どもではないことを理解しているとはいえ、十五歳という幼さは不安が残るわ」


 ルニウとアンナのどちらも、十五歳の少女たるセフィが単独で行動することに否定的だった。

 だが、既に姿を知られてる者が同行していてはすぐに怪しまれる。

 ならどうするか?

 これについての答えをセフィは口にする。


 「大丈夫です。ルシアンを連れていきますから」

 「……なるほど。犬のサイボーグなら、確かに戦闘も支援もこなせそうですね」

 「ファーナ。ルシアンに声を届けてくれますか? 通信で」

 「こちらの端末にどうぞ」


 ファーナは頷くと、近くにある小さな端末を手に持つ。

 セフィがその端末に向けて、ルシアンの名前を口にしてからここに来るようにと伝えると、数十秒ほどで見覚えのある短い毛並みの中型犬がやって来る。

 一見するとただの動物。

 しかし、実際はその肉体の大部分が機械で構成されたサイボーグ。

 犯罪組織を率いていた教授の護衛だった時もあるため、その実力は確かなものと言い切れる。


 「ルシアン。捕まってしまった人を助けに行きます。その際に演技もするので合わせてください」

 「ワオン」

 「というわけで、早速地表に降ります」

 「待った。一応、この船から出たことを知られないよう簡単な偽装をしないと」

 「どんな偽装ですか」

 「私が船から出て、近くの宇宙港内のカフェとかに寄る。そうすると監視の目は私に集まる。で、セフィちゃんはルシアンと一緒にコンテナの中に隠れて、地上行きの宅配便の中に紛れたまま降り立つって感じ」

 「身の安全が不安です」

 「中身は脱出ポッドだから大丈夫」

 「それなら、まあ」

 「じゃ、業者の人を呼ぶから」


 計画はそこまで難しくない。

 脱出ポッドが入ったコンテナを地上に送り込むだけ。ただし、トレニアからの荷物とは気づかれないようにする必要があるが。

 宇宙から地上へ、あるいは地上から宇宙へ

 軌道エレベーターを経由せずに運びたい物を運ぶための業者というのは、それなりに存在する。

 国から認められた合法なところと、認められていない非合法なところの両方が。

 ルニウが連絡を取るのは、非合法なところ。

 そういうところは、追加料金次第とはいえ顧客の要望をできる限り叶えてくれるのだ。


 「どうも。こちらのコンテナですか?」

 「はい。多少揺れても大丈夫ですが、この要望通りにお願いします」

 「……少々費用がかかりますが、問題ありません」


 コンテナの受け渡しは宇宙空間で行われる。

 その際、機械とぶつかって一部が歪み、コンテナには小さな穴が空くが、これはわざと。

 どこからかトレニアの貨物を監視しているだろう者に見せつける意味合いがあった。

 セフィの入ったコンテナは中型の宇宙船に格納され、しばらく経ってから地上へと降下していく。


 「お嬢ちゃん、この布を被ったまま、犬と一緒にこれに移りな」

 「黒い布と車、ですか」

 「このコンテナはしばらく経ってから、さっきの依頼主のところに運ぶ。中身を食料や機械部品に偽装した上で。一応、言っていくが、顔を出すなよ。お仲間の計画が破綻するぞ」


 セフィはルシアンと共にやや広めな後部座席に向かうが、座ったりはしない。

 足元の空いているスペースに、黒い布を被った状態でしゃがむ。

 これは窓から中を見られても、後ろには誰も乗っていないと思わせるための小細工。

 窓からわずかに見える赤い空は、今が夕方なことを示していた。


 「お嬢ちゃん、訳ありか? 犬の方はサイボーグときた」

 「そうじゃない人のが珍しいのでは。運転手さんが、このような仕事をしているなら特に」

 「……ふん、違いない。馬鹿な質問をした。忘れてくれ」


 それからしばらくして、外がビルだらけになってくると車は停止する。


 「出ていいぞ。帰りはご自分で」

 「ありがとうございました」


 薄暗いビル街で放り出される形となったセフィは、走り去る車を軽く見たあと、辺りを確認してから歩き出す。

 ルシアンの首輪に繋がるリードを持ったまま。


 「ワン」

 「こら、ちょっかいかけない」


 人が多く行き交うからか、ペットを連れている人もそこそこいる。

 その中には散歩途中の犬も存在しており、ルシアンは人間がするナンパみたいなことをしようとしていたが、セフィに叱られると渋々離れる。


 「まあ、しっかりと言うことを聞かせられるなんて羨ましい」

 「怒る時には怒る。これが大事です」

 「なるほどねえ」


 ペットを連れた女性と気さくに会話しながら、セフィは共和国についての話題に移る。


 「そういえば、あそこにある大きな建物って……」

 「ああ、あれ? 共和国の実質的な中枢で、少し前にクーデターで大変なことになった中央管理局よ。議会は隣の小さい方。知らないってことは、他の星から来たの?」

 「はい。お母さんと一緒に旅行でここに」

 「あらまあ。ここは治安がいいけれど、一人歩きは感心しませんよ」


 軽く注意されると、注意すべき事柄を教えられる。

 国の中枢に近い場所ということで、辺りには監視カメラが多く、治安はかなり良いが、その代わり詐欺とかには気をつけないといけないとのこと。


 「まあ、それでも酔った人の喧嘩とかはあるから、あなたがよければ、私の車で行きたいところへ送ってあげましょうか?」

 「……お願いします」


 いきなりのお誘い。

 だいぶ怪しく感じるが、セフィは拒否せずに頷くと、ルシアンには普通の犬を演じるようこっそりと指示を出す。

 やがて、道路を走っている自動操縦らしき小型の車が目の前で停止した。


 「凄いでしょう? オプションとして自動操縦をつけたけど、割りと好きな時に利用できるから、とても便利なの」

 「でも、お高いのでは?」

 「それなりには。さ、乗って乗って。あ、ペットに関しては後部座席にね? 警察に見つかると注意されちゃうから」

 「はい。ルシアン、おとなしくしておくように」


 セフィが助手席に座ると、相手の女性は運転席に座り、道路の状況を確認しつつ出発する。


 「行きたいところは?」

 「中央管理局の近くまで行ってみたいです」

 「ふむふむ。信号次第で遅くなるかもしれないけど、そこは我慢してね」


 車での快適な移動。

 ビル街ということもあって、遠くの状況がわかりにくいが、それでも目的の建物へと近づいているのはわかる。

 しかし、途中から異変が起こる。

 むしろ遠ざかると、乗っている車は倉庫の立ち並ぶ怪しげな一角へ入り込んだ。

 そこには人はおらず、自動操縦らしきトラックが行き交うだけ。

 無人化された輸送システムといったところだろう。

 車は空いている倉庫に侵入すると、即座に倉庫は閉まり、閉じ込められることに。


 「これはどういうことですか」

 「馬鹿なガキを取っ捕まえただけだよ。見たところ、それなりに金を持ってそうな家の子どもだから、誘拐したというわけ」


 運転席にいた女性だが、先程までの雰囲気は消え失せ、今はセフィに対してビームブラスターを向けていた。

 窓の外では、荒くれ者らしき男性が数人近づいてきており、逃げようにも逃げられない状況だった。


 「田舎から来たおのぼりさんは、ちょいと優しくしてやればホイホイとついてくる。笑っちまうよ。ははは」

 「……身代金目的。そう考えていいですか?」

 「ああ。そうだよ。親がお金を払ってくれることを願うといい」

 「つまり、普通の集団での犯罪? ここは監視カメラとかに見られていない?」

 「あ? そうだよ。だから誰かが助けに来るなんてことは……」

 「ルシアン。少し暴れてもいいですよ。ただし、殺さないように。利用したいので」

 「ワオン」


 それは一方的な戦闘だった。

 まずは運転席の女性に襲いかかり、ビームブラスターを叩き落とす。

 セフィはすぐに拾い上げると、非殺傷設定になっているのを確認してから撃って女性を無力化してしまう。

 そして次は外の荒くれ者なのだが、外は狭い車内よりもルシアンの実力が発揮できるため、あっという間に地面に転がしてしまう。

 噛まずに体当たりを駆使することで、サイボーグの犬がやったとは思わせない配慮すらもしてみせた。

 全員が倒れたあと、セフィは車から降りて一人ずつビームブラスターで撃っていき、最終的には無力化した全員を縛り上げる。


 「さて、この中でリーダー格なのは誰ですか?」

 「……私だよ。くそっ、なんてガキだい」

 「田舎のおのぼりさんにやられるようじゃ、都会の人もまだまだですね」


 嫌味を言うと睨まれるが、勝敗は決しているのでセフィの感情はまったく反応しない。


 「……それで、こっち全員をわざわざ生け捕りにした目的は?」

 「少しばかり、手足として動いてもらおうかと。とある人を助けるために」

 「なんだ? どこかの組織が相手か?」

 「はい。相手は、現共和国のトップ、マクシミリアン・レイヴンウッドです」

 「ばっ……!」


 クーデターによって共和国を掌握した男性。

 そんな有名人となれば、しがない犯罪者ですら知っている。

 まさかの名前を耳にしたせいか、縛られている犯罪者の男女は弱気な様子でいた。


 「む、無茶だ」

 「できるわけがない」

 「クーデターやって成功させたんだぞ。裏にどんな組織がいることか」

 「……こいつらの言う通りだ。いくらなんでも協力は」

 「じゃあ警察に突き出します。でも、協力するなら今回のことはなかったことにします。選んでください」

 「こ、このクソガキめ。提案に乗るしかない状況に追い込んで選択させるとか……。協力する。すればいいんだろ」

 「一応、支援はあるので安心してください」


 セフィは犯罪者の集団の誘いにあえて乗ることで、返り討ちにして自らの手足とすることに成功する。

 現地で暮らしている者を協力者にできたのは大きいが、ほんの始まりでしかないため、これからの計画と行動こそが重要だった。

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