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259話 命懸けの追いかけっこ

 「あれは、どこの……」


 メリアが最後まで言う前に、謎の艦隊は攻撃してくる。

 最初は遠巻きにしつつ、こちらがワープゲートから少し離れたところを見計らい、一斉にビームを放ってきたのだ。

 幸い、相手が怪しかったこともあってすぐに回避行動を取ることができたため、致命的な被害は出ていない。


 「三隻沈みました。他にも損傷のせいで動けなくなった船が」

 「使い物になるのは?」

 「こちらは三十隻のみです」

 「相手の数は?」

 「およそ百隻。ただ、他のワープゲートにも似たような艦隊が存在し、こちらへ向かってきています」

 「ちっ」


 状況の悪さを耳にしたメリアは盛大に舌打ちする。

 この星系にあるワープゲートの数は四つ。

 つまり、どこからか四百隻の戦力が送り込まれ、分散して待ち伏せていたようだ。


 「星系の外側じゃなく、内側でやり合うつもりだってのか。こっちとしてはパトロール艦隊が来るまで逃げるだけだ」

 「戦力差的にそうするしかないわけですね」

 「包囲を避けながら惑星の近くに向かえるか?」

 「難しいかと思います。図を出します」


 スクリーンの一部に簡易的な立体地図が映し出されると、メリアはすぐに顔をしかめた。

 恒星を挟んだ反対側の位置に、惑星があるからだ。

 戦闘を観測するところがあったとしても、実際にまとまった戦力がやって来るまで時間がかかる。

 あるいは、そのまま見殺しという可能性もあり得た。


 「人間が暮らしている有人惑星はいくつかありますが、数百隻単位での戦力を動かせるのは、ここから反対側に位置している惑星のみ。他は、戦力的には頼れないでしょう。なので、巻き添えを避けるためにも傍観するだけかと」

 「やれやれ、パトロール艦隊どころじゃないね。無人の船を盾として使い潰してでも、有人惑星の近くに向かう。そこまで行けば、謎の艦隊はさすがに引き下がるだろうさ」

 「わかりました。船内にいる戦えない者には、大きく揺れるので備えるよう通達します」


 無理をすれば、ギリギリながらも勝つことはできるだろう。

 しかし、その結果として告発を行うリラたちに被害が出ては意味がない。

 なら、いっそのこと惑星を守っている軍を巻き込む。

 戦力がないならあるところに頼ればいい。

 有人惑星の近くで艦隊戦を続けるというのは、軍の面子を傷つける行為であり、全面的にやり合うのでもなければ、嫌でも引き下がるしかないわけだ。

 そして、命を懸けた厄介な追いかけっこが始まることとなった。




 「な、何が起きてるんだ!? せ、戦闘!?」

 「急げ急げ! 撮影機材の用意! 告発してる人らが、どこかの艦隊に襲われてるところを撮れるとか、運が良い」


 メリアたちの艦隊から遅れること数分。

 放送局の社長から送り込まれた者たちも、ワープゲートを越えて来るが、目の前で戦闘が起きているため大急ぎで撮影の用意をしていく。


 「運が良いって、あの、これ自分たちも撃たれる可能性って……」

 「あるだろうな。まあ安心しろ。謎の艦隊さんは、告発者を消すことを優先してるみたいだから」

 「ええと、安心できないんですが」

 「うだうだ言うな。社長にクビにされるか、ここで死ぬか、社長から特別手当を貰うか。このどれかしかない」


 宇宙での撮影というのは、なかなかに大変である。

 なにせ宇宙空間というのは広大で、撮るべき相手は高速で動いており、どこにいるか常に把握していないといけない。

 その上で映像などをしっかりと撮る必要があるため、船や機材には、それを可能とするため多額の費用がかかっていた。


 「置いていかれないよう、一定の距離を保ち続けろ! ただし近づき過ぎるんじゃないぞ、謎の艦隊に撃たれるからな」


 指示が出たあとの動きは早かった。

 戦闘には向かないが、撮影に特化しているため、多少の電子的な妨害を無視できる。

 撮影するべき対象は百隻近い規模の艦隊に追われており、撮ること自体はそこまで難しくない。

 しかし、放送局の者からすると、それでは物足りない。

 人の目を惹きつける良い構図が欲しいわけだ。


 「他の班はどうだ?」

 「うーん、ちょっと微妙」

 「こっちは対象が艦隊に隠れてるせいで全然です」

 「社長に言い訳が立つ程度には頑張らないといけない。こちら第一班、距離を詰める」


 複数の小型船のうち、一番先頭を飛んでいるものがさらに加速していく。


 「あー、葬式には出ますよ」

 「上が空いたら自分たち出世できますかね」

 「……おい、聞こえてるぞ」

 「聞こえるように言ってるので」

 「だって半分自殺行為でしょ。無事を祈るくらいはしますけど」


 大型船を中心とした艦隊は数を減らしながらも恒星を通り過ぎ、それを追いかける謎の艦隊は後方と側面から攻撃をしていた。


 「複数の艦隊……いったいどこがこれほどの戦力を」

 「軍並みに戦力ありますよね。これ首突っ込むのやべーのでは?」

 「だが、社長がやれと言うならやるしかない」

 「告発した人たち、無事に逃げ切れるといいんですが。でないと次は自分たちなわけで」


 追われる者がいて、追う者がいる。

 そしてその後ろには、そんな両者を撮影する者たちがいた。




 「……報告です。すべての船が沈み、とうとうこのトレニアだけとなりました」

 「恒星を過ぎて、遠いながらも有人惑星が見えてきた。トレニア自体は無傷。上出来だよ」


 命懸けの追いかけっこをしていたメリアたち。

 かなり危険な状況に、報告するファーナの声はどことなく重苦しい。

 しかし、目的地は見えてきた。

 ここまで戦闘せずに逃げることを優先しているため、追いかけて来ている謎の艦隊は陣形が乱れている。


 「陣形が乱れ、効果的な攻撃はできなくなりつつある。結局のところ、同じような船を揃えても中のパーツとかには差があるからね。全力で移動すれば、それだけあちこちへの負担はでかくなる。……こっちは、あとどれくらい最大速度を維持できる?」

 「無理のない範囲では二十分ほど。無理をさせれば一時間」

 「なら大丈夫か。問題が起きる前に到着できる」


 技術の発展に伴い、宇宙船の速度は向上していくが、中にいる乗組員のことを考えると、どうしても限界というものはある。

 このトレニアという大型船は、失われたアルケミアという船の代わりとして購入した代物であり、性能は高いがそれだけ高額でもあった。

 ただ、そんな高級品であるからこそ、中の乗組員の安全を維持したまま、かなりの速度が出せる。

 大型なため、最大まで加速するには多少の時間はかかるものの。


 「後ろはどうなっている?」

 「惑星から一定の距離を保っています。向こうは軍を刺激するのは避けたいようです」

 「そうかい。あたしたちの勝ちだね」


 二十と数分が経過する頃には、有人惑星にかなり接近するため、他の宇宙船との衝突事故が起こらないよう減速する。

 その際、狙われるのではないかと警戒するが、周囲にいる他の船が実質的な盾になっているからか、謎の艦隊は引き上げていく。


 「メリア様、通信が来ています。攻撃してきた艦隊から」

 「とりあえず、出よう」


 無視してもよかったが、相手のことがわかれば少しは対策しやすい。

 映像通信により、スクリーン越しにやりとりするわけだが、相手の顔を見た瞬間メリアは険しい表情になる。

 見覚えがあったからだ。

 それは、アステル・インダストリーという大企業の私兵として艦隊を率いていた男性。


 「おや、わざわざ通信をしてくるとはね。大企業の私兵様が」

 「既に私は大企業の手から離れている。別のところで働いている」

 「それはどうもご丁寧に。で、何の用だい?」

 「研究所で作られた子どもは、その船にいるのか」

 「ああ、そうなるね。そっちが沈めた他の船には一人もいない」

 「海賊。お前は……この国が大きく乱れることを行おうとしている」

 「今更だ。説得するつもりなら意味はない」

 「混乱が起き、大勢が死ぬ」

 「だろうね。けれど、そもそも共和国自体が人命を軽視していて、定期的に死者を出してる。労働者を軽んじる企業によって」

 「…………」

 「企業同士の争いも見逃せないね。裏でどれだけ死んでるのやら。それに海賊と繋がっているところもあるから」

 「後悔するぞ。敵は、大きい」


 どこか考え込むような表情を見せながら、相手からの通信は切れた。


 「最後のはどういう意味だと思う?」

 「警告、あるいは助言、でしょうか」

 「共和国において大企業よりも大きい敵、ね。気になるけど、まずは告発のための生放送が先だ」


 リラと子どもたちは無事に送り届けることができた。

 少しして、惑星の地表から宇宙船が直接やって来る。

 国営の共和国放送が送ってきた船だった。

 これは、動物の耳や尻尾を生やした子どもというのは、軌道エレベーターで行き来するにはあまりにも問題があるため。

 地表に降り立ち、国営ということで大きな建物に向かい、ここでもリラによるアステル・インダストリーへの告発が行われた。

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