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257話 地下駐車場にて

 誰の物かわからない車両が並ぶ中、メリアは壁際を歩いていく。

 もし戦闘になった場合、囲まれないようにするためだ。

 あとは、周囲を見ていく時に、あまりきょろきょろしなくて済むというのもある。


 「警備員さん、少しいいですか?」

 「はい? どうしました?」


 外への通路に繋がるゲート部分には、警備員が詰めていた。

 遠くから見ると、あくび混じりに仕事をしているため、上の方で行われている生放送については知らないのだろう。

 そこでメリアは声をかけると、ここを封鎖することはできるか尋ねた。


 「どういう意図の質問かわかりかねますが」

 「社長の邪魔をする者を逃がさないため。気になるなら、直接連絡を取ってください」

 「……少々お待ちください」


 警備員の一人は数秒ほど無言になったあと、身につけていたビームブラスターを抜いてその銃口をメリアへ向けようとする。

 その前にメリアは相手の腕をつかんでビームブラスターを奪い取ると、逆に銃口を向けて見せた。


 「突然の凶行。説明をお願いしても?」

 「…………」

 「せ、先輩、いきなり人に撃とうとするとか、クビなりますよ」

 「え、え? いったい何が?」


 まさかの出来事に、残る警備員は驚くばかりだったが、いきなり撃とうとした者を放置できないのか、困惑しつつも手足を縛り上げて拘束していく。


 「あの、あなたは」

 「今、重要な生放送が上の方で始まっています。その妨害が、この地下駐車場にて行われそうになっていることが判明したので、止めにきたわけです」

 「は、はぁ……」

 「ここの封鎖はできますか?」

 「できますが、その場合はエレベーターに通じる部分も閉まるため、しばらく出られません」

 「問題ないのでお願いします」


 一番良いのは、ハッカーだけ残って他の者が外に出ていくことだが、それはさすがに難しい。

 とりあえず、誰も出られないならそれでいいということで、封鎖を行わせる。


 「……まあ、ある程度は予想通り、か」


 メリアは軽く舌打ちする。

 ハッカーが何かする場合、あらかじめ内部に協力者がいた方が、いろいろと物事はスムーズに進む。

 警備員に協力者がいるかもしれないと考えていたら、実際にいたわけだが、すぐに無力化できた。

 あとは、他にどのくらい怪しい者を見つけ出せるかだが、これについてはファーナが声をかけてくる。


 「とりあえず、その辺を歩き回ってください。ハッキングを人力で支援しているのを邪魔するだけでも、わたしが有利になるので」

 「そうする」


 地下駐車場はそこそこ広く、百台は収容できそうに見えた。

 そのせいか、人はまばらに散っており、歩くたびに足音が辺りに響く。

 封鎖されているのに気づいた人々は、警備員がいるところに集まるが、そうではない者もいる。

 果たしてハッカーなのか、単に人混みを避けているだけなのか、その判断は難しい。

 とはいえ、それは人間視点の話。

 人工知能であるファーナからすれば、ハッキングによる攻防をリアルタイムでしている関係上、すぐに予測ができる。


 「あの壁際に集まっている人たちが怪しいです。突然向こうの動きが鈍くなり、こちらが有利になっていったので」

 「五人、か」


 他人が近づいたらハッキングの支援を緩める。

 その動きは、ファーナからは筒抜けであり、メリアはこれ見よがしにビームブラスターに手を伸ばす。

 すると、壁際に集まっていた五人は、近くの車を盾にしながら撃ってくる。

 早期に怪しげな者を発見できたことは喜ばしいが、全体的な動きからして軍にいた経験がある者と考えてよかった。


 「ちょっと動きが止まるかと思いきや、いきなりの銃撃戦とはね。思いきりが良いというか」

 「手が離れて完全に支援が途絶えたからか、数分ほどで相手のハッキングを無効化できます。しばらく耐えてください」

 「それは嬉しい話だね。一人で耐える必要があるのは嬉しくないが」


 今メリアが盾にしている車両への被害を見ると、相手は殺傷設定で撃ってきている。

 当たらないよう慎重に撃ち返すも、お互い距離があるので有効な攻撃にはならない。


 「ああくそ、グレネードの一つでもあれば」


 ちまちまと撃ち合うよりは、グレネードを投げ込んだ方が一気に状況を変えられるものの、当然ながら地上への持ち込みは禁じられているので手元にはない。

 撃って隠れてを繰り返すうちに、運良く一人に命中する。

 これにより、相手の攻撃がわずかに弱まるため、メリアは隠れる場所を変えた。

 ずっと同じ位置では、対処されやすいためだ。

 あとは、盾にしていた車両がだいぶぼろぼろになっていたのも大きい。


 「まずは一人」


 それから時間はかかりながらも、一人また一人と倒していくメリアであり、五人すべてを無力化したあと大きく息を吐いた。

 肉体的な疲労よりも、精神的な疲労が影響しているが、休む前に確認することがある。


 「ファーナ、放送は?」

 「滞りなく完了しました」

 「こっちも相手を生け捕りにした。次の放送局に向かうためにも、リラや子どもたちを早急に軌道上のトレニアへ」

 「メリア様はどうします?」

 「少し尋問してから、合流する」


 通信を終えたあと、警備員に声をかけて縛るものを借り受けると、倒れている五人を縛り上げ、その次に封鎖の解除を求める。

 そして一般人が文句を言いながらも去っていったあと、いよいよ尋問が行われるのだが、警備員には手出ししないよう事前に言い含めた。


 「起きろ」

 「う……」


 まずは目覚めの一発として頬を手のひらで叩く。


 「なぜここの建物にハッキングを?」

 「……金になる情報を求めてのことだ」

 「嘘臭い。それなら、もっと安全にできる時間帯があったはず。そもそも、現場に出向いて人力での支援をする必要がない。……目的は生放送の妨害では?」


 わざわざ、リラによる告発が始まってからハッキングを仕掛けている。

 それゆえに、メリアは相手の言い分を信じなかった。


 「さあな」

 「言いたくないなら、言いたくなるようにブラスターを有効活用するという手段もある」


 銃口を見せつけ、非殺傷設定にした一撃を、人体の各部位に至近距離で当てていく。

 それも気絶しないようギリギリに威力を抑えた上で。


 「ぐううぅ……」

 「非殺傷設定のビームブラスターは、自衛用の代物ならば民間人でも所持できる。いやはや、なんて恐ろしい話だろう。こうして痛めつけることにも使えるんだから」


 威力をさらに弱めて、股間、喉、耳を撃っていく。気絶させず苦しめるために。

 どこか拷問じみたそのやり方は、もし警察に見つかればメリアが捕まってしまうほどには危ない。


 「そろそろ言いたくなってきたはず」

 「だ、誰が」

 「ならもう一セット」


 手足が縛られたまま、人体の急所などを、威力をかなり弱めたビームで繰り返し撃たれる。

 これはかなり効果的だった。

 一人目は徹底的にやられて起き上がることができなくなり、そこで二人目に行こうとした時、自分の番が訪れた二人目は渋々ながらも話し始めたのだ。


 「俺たちは、雇われただけだ」

 「どこの誰に?」

 「知らない。毎日この放送局に出入りして、機会が訪れたら指示を出すからそれに従うように、ということしか聞いていない」

 「気長なことだけど、いつからこの仕事を?」

 「俺は、十年前……。他の顔ぶれはたまに変わる。仕事をやめる奴が出ると新しい奴が入ってくるから」

 「なるほど。それじゃ、警備員の一人とはどういう関係だった?」

 「詳しいことは知らない。こっちで用意した内部の協力者としか聞いていない」

 「なら……」


 さらなる質問をしようとした時、背後で驚くような声が出た。

 メリアが振り返って見てみると、さっき縛り上げたはずの警備員が拘束から抜け出し、他の警備員をこっちに押し倒しながら外へ走り去っていく。

 逃げ足の速さはかなりのもので、封鎖する前に外へと逃げられてしまう。


 「ちっ、逃げる機会を待っていたか。警備員二人、そこに倒れている者が逃げ出せないようにした上で、社長からの指示を貰うように」

 「あの、あなたはどうするんですか?」

 「ここには長居できないから、他の惑星に向かう」


 一度、アステル・インダストリーに対する告発を生放送した。

 このあとは速度が求められる。

 まだ共和国のわずかな人々しか目にしていない。さらに大勢に広めなくてはならない。

 不祥事が広まり、誰もが注目したところへ、海賊との繋がりを暴く。

 そうすることで、共和国内部の海賊を一掃する動きを作り出すわけだ。

 今の段階でも、ようやく正規軍が重い腰を上げているが、それを後押しする形になる。




 「うーむ、生放送があれだけというのは物足りない。もう少し色々話してくれた方が視聴率が稼げたのに」


 地上から宇宙へ飛び去っていく宇宙船を見つめながら呟くのは、規模としては中堅な放送局の社長。

 彼は動物の耳や尻尾を生やした子どもたちのことを気の毒に思っていたが、それと同時に子どもたちでどう視聴率を稼ぐかを考えていたりする俗な人物であった。


 「社長、どこかの犯罪組織が警備員に人員を潜入させていた件ですが」

 「警察に任せたらいい。適当に有耶無耶にするだろうさ。いや待てよ? おい、急いで軌道上のトレニアという宇宙船を追いかける用意を。放送用の機材を忘れずに」

 「な、何を……」

 「大企業に対する告発、それを妨害しようとする動き。つまり視聴率を稼げる。美味しいネタを現地の放送局に取られるくらいなら、こっちから取りに行く。わかるか? わかるだろう?」

 「理解はできますが……送り込んだ者は戦闘に巻き込まれるのでは?」

 「死んで減ったら、その分だけ新しく雇えばいい。結局のところ、ここも共和国の企業だ」

 「……はぁ、わかりました」


 利益のためなら人命を軽視する社長に対し、呆れ混じりながらも言われた通りにする社員たち。

 軌道上にいるトレニアにやや遅れながらも、追跡を開始した。

 その際、社長からの指示で新たなスクープを得るために追いかけているというのを、それとなく伝えることも忘れない。

 怪しまれて攻撃されるのは困るからだ。

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