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256話 妨害の気配

 その放送を目にするのは、数百万人だけ。

 惑星一つどころか、大陸一つ分すら届かない範囲ではあったが、緊急の生放送ということで普段よりは多くの人々に注目された。


 「初めまして。この場を借りてお伝えしたいことがあります。それは人為的に生み出されたこの子たちと、作り出すことになった私。そして作るように命じてきたアステル・インダストリーについてです」


 それは告発であった。

 画面に映るのは、極秘の研究所に配属された研究者と、商品として作り出された子どもたち。

 人間の遺伝子を調整するだけでは不可能な、動物の耳や尻尾を生やした存在。

 人間に対して別の動物の遺伝子を掛け合わせるという禁忌が行われたことを示す生きた証拠であり、生放送されている告発を見る人々は瞬く間に増えていく。


 「この子たちは商品でした。……愛玩用として、そしてハンティングの獲物として」


 リラは淡々と語る。

 研究者としての能力を認められ、アステル・インダストリーの社員となったあと、目にすることになったおぞましい出来事を。


 「人工子宮の中で、この子たちは少しずつ大きくなっていきます。しかし、無事に生まれることができるのは半分ほど。成長できなかった残りは廃棄処分されます。人間と他の動物の遺伝子を掛け合わせるという、普通では成り立たないことを、現代の技術で無理矢理に実現したからです」


 話していくうちに少しばかり表情は険しくなり、彼女の周囲にいる子どもたちは、そっと寄り添う。

 そんな様子をカメラの範囲外から見て、軽くガッツポーズをする男性がいた。


 「よしよしよしよし、視聴率はどんどん上がっている……! 最初は怪しい人物だと思えたが、話に乗って正解だったよ」

 「社長……せめて別の場所で喜んでください」

 「いいじゃないか。私が社長となって既に一年。あと数年もすれば他の者に交代する予定が、この一件で遠くなるのだから」


 一人喜ぶ男性と、彼にやや白い目を向ける周囲の者たち。

 放送されていないところでは、やや生臭い話が行われていたが、目の前で語られることに比べれば些細なものではあった。


 「この子たちを購入するのは、途方もないお金持ち。その中には、共和国だけでなく帝国や星間連合の人々も含まれています。私は一度、共和国のお金持ちな人物に、スポーツハンティングへ半ば無理矢理に誘われました。……その時、目にした光景は、ただただ悪趣味としか言い様がありません」


 素を出さず、演技しながら話していくリラの姿は、なかなか堂に入ったものであり、少し離れたところで見ていたメリアからすると、思わず感心してしまうほど。


 「……さて、ある程度話したら別の惑星の放送局に向かうとして」


 一つの惑星だけでは足りない。複数の星系に広めないといけない。

 それゆえに次どこに向かうか考えるメリアだったが、ファーナが周囲を気にしながら腕を引っ張ってくる。


 「メリア様、気になることが」

 「どうした?」

 「実はこの放送局にハッキングを仕掛けていたのですが、外部から新たなハッキングが行われています」

 「さらっと違法行為をやらかすんじゃない。……で、どこの誰が新たにハッキングを?」

 「不明です」

 「きな臭いね」


 大手の放送局は、複数の星系、複数の惑星に同時に放送できるくらい規模が大きいのだが、今いるここは、精一杯良く表現しても中堅といったところ。

 そんなちっぽけなところで、ハッキングが行われている。

 ほぼ確実に、告発を快く思わない勢力からの仕業と考えていい。


 「予想以上に動きが早い。あるいは色んなところに常日頃仕込んでいるのか。仕掛けている奴らは実力行使に出てくると思うか?」

 「可能性としてはあり得るかと。ただ、その場合……」


 話の途中、ファーナはカメラを向けられている子どもたちに視線を向ける。


 「それなりに犠牲が出るでしょう。放送局の警備程度では、いないのと変わりありません」

 「未然に防ぐか、放送を切り上げて逃げるか」

 「宇宙船に乗って大気圏を突破、そのまま大型船トレニアにて回収。……犠牲なしは難しいかと」

 「はぁ……仕方ない。ファーナはルニウと一緒にここを守るように。あたしはちょっと怪しい奴をボコりに行く」

 「では、この少女型の端末はここに待機させるとして、わたしは通信によって遠くから支援します」


 ファーナは人工知能であるため、同時に複数の場所での活動が可能。

 ある場所では現地で警備しつつ、ある場所ではオペレーターとして案内をするというわけだ。

 ハッキングにより、場所によっては直接的な支援も可能であるため、メリアは自ら謎の勢力の妨害を防ぎに行くことを決めた。

 そうでないなら、もう少し別のやり方を考えていた。


 「一応、ここのお偉いさんには話を通そうか」


 メリアは少し離れたところで喜んでいる男性のところに向かうと、どこかからここにハッキングを仕掛けている存在がいることを伝えた。


 「それがわかるということは、君のお仲間もここにハッキングを……まあそれはいい。こちらの警備員を貸そうか?」

 「いえ、結構です。使えそうな武器があるなら貸してほしいとは思いますが」

 「うちには非合法な代物はないよ。その代わり、死者さえ出さなければ大抵のことは揉み消すとも」

 「ご配慮痛み入ります」


 もし戦闘になった場合、建物の内部はかなり被害を受けるだろう。

 それを揉み消してくれるのなら、だいぶ荒っぽい手段を使うことができる。

 メリアは軽く頭を下げたあと、小型の端末から聞こえるファーナの声に従い、移動していく。


 「おおよその位置はわかるか?」

 「ハッキングの形跡を辿ると地下になります。内部構造を確認する限り、一般人もそれなりに出入りする駐車場のようです」

 「ちっ、撃ち合いになるとまずいね」


 一般人を巻き込んでしまっては、無用な混乱が起きてしまい、誰か亡くなる可能性が高まる。

 そうなると、だいぶ困る状況になってしまう。


 「ハッキング自体を放送終了時間まで妨害することは?」

 「難しいです。向こうは以前から準備していたのか、複数で進行しており、途中で放送を止められる可能性が高いです。襲撃と合わせてくることも考えると、守りに徹するのはおすすめできません」

 「ふぅ……困ったもんだよ。どこの誰が仕掛けてるのやら」


 わかるのは、リラによるアステル・インダストリーに対する告発を、快く思わない勢力という部分だけ。

 普通なら、大企業であるアステル・インダストリーが妨害のために雇った者かと思うところだが、それにしては動きが妙だった。


 「もし、あたしたちをこっそりと追跡していて工作員が潜り込んだなら、そもそも放送前にハッキングしてしまえばいい。それだけの時間的猶予はあった」


 まずは交渉を行い、次は生放送を行うための準備、それによりいくらか時間がかかっていた。

 その間にハッキングして混乱を起こしてしまえば、もはや放送どころではない。

 しかし、実際には生放送の開始から少ししてハッキングが行われている。


 「大企業とはまた別の組織か? それともただのハッカーが偶然ここを狙っただけ? まあ、取っ捕まえてしまえばわかるんだが」

 「駐車場には、確認できるだけで二十人ほどがいます。そのうち警備員は三人」


 エレベーターで降りていく途中、駐車場の監視カメラを乗っ取って現場を見ていたファーナからの報告が入る。

 まさか全員がハッカーということはないだろうが、集団の可能性が高いため、メリアはビームブラスターが非殺傷設定になっているのを確認したあと、先程やりとりした社長に繋ぐよう指示を出す。


 「あー、もしもし? まさか通信が来るとはね。何か?」

 「駐車場の車だけど、破壊しても?」

 「え……そ、それは……私の車もあるわけで」

 「まるで、他人の車なら破壊されても構わないように聞こえますが」

 「んんっ……人聞きの悪いことを言うのはやめてもらいたいですよ。よろしい、駐車場の車を破壊するのを認めますとも。ただし、すべて破壊されると色々と困るので、できる限り控えてもらいたいというのを、切実にお願いしたいというか」

 「善処します」


 いきなり過ぎる質問に、困惑するような声が返ってくるも、最終的には認めてくれた。

 内心、嫌そうにしているのを感じ取れたが、許可が出た時点で些細なこと。

 そしてエレベーターは地下駐車場へ到着した。

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