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253話 大企業の私兵

 「メリア様、向こうの艦隊から通信が来ています。どうしますか?」

 「出るよ。その間に、子どもたちとかを戦闘になっても安全な区画に案内してやれ」


 いきなり戦闘が始まることはなく、通信を入れてくるのはなぜなのか。

 メリアは疑問に思いながらも、通信を受けることを決める。

 宇宙服とヘルメットによって、素顔を隠した状態で。


 「初めまして。さらなる挨拶をしたいところだが、まず質問がある」

 「質問。それはどのような?」

 「あなたは、どこの手の者であるのか」


 スクリーンに出てくるのは、四十代半ばの男性。

 いくらか整った顔には、これまでの経験を思わせるシワが刻まれており、鋭い視線は油断なくメリアを見据えている。


 「わざわざそんな質問をしてくるとはね。いきなり攻撃しないことには驚いた」

 「我々は無法者ではない。そちらと違って」

 「むしろ、こっちが聞きたいね。そっちこそ、どこの手の者なんだい? ある程度予想はできるが」


 それは時間稼ぎと相手の揺さぶりを兼ねた質問。

 あまり効果はないが、多少表情を険しくすることには成功した。


 「……言う必要性を感じないな」

 「ならこっちも言わない。お互い、戦う必要性なんてなさそうだし、このまま通してほしいね」

 「ふん、逃がすものか」


 通信は途中で切られると、即座に大量のビームが飛んでくる。

 距離があるため沈む船は出なかったが、代わりに大量に損傷してしまう。

 その結果を受けてか、ファーナが少し焦りをにじませながら報告をする。


 「厄介なことが判明しました」

 「なんだ」

 「敵艦隊に大型船はいません。中型船と小型船が混ざった編成です。しかし……敵の小型船は中型船と同等の出力をしたビームを放っています」

 「正規軍にそういう装備をしたのがあるというのを聞いたことがない。つまり、ずいぶんと金がかかってる艦隊のようだね」


 正規軍が兵器に対して求めるのは、性能もそうだが費用という部分も意外と重要。

 高くて数を揃えられないものより、そこそこの費用で大量に数を揃えられるものの方が好まれる。

 軍縮を避けるということは、必然的に数を用意する必要があるからだ。

 とはいえ、性能次第では費用の部分に目を瞑ることができなくもないが、小型船が中型船と同等のビームを放つことができても採用されないのを見るに、正規軍からしてみればあまり魅力がなかった様子。

 そもそも小型船は、海賊に奪われて悪用される危険があるため、海賊をちょうどいい脅威としておきたい派閥からすれば、あまり受け入れられないのだろう。


 「艦隊同士での撃ち合いは避ける。星系内部の小惑星帯に急げ」

 「はい」


 二つの艦隊の位置は、真上から見れば斜めになっている。

 なのでメリアの艦隊は、移動に専念すれば多少の犠牲が出るとしても星系内部に入ることができる。

 そうなれば、小惑星帯を利用して無人機を比較的安全にぶつけることができるわけだ。


 「報告、五隻が撃破されました。損傷が激しく移動が不可能となったのは十隻。こちらの攻撃で相手には三隻の被害を与えました」

 「……やれやれ、小型船のビームは連射ができる。そして威力は一回り上となれば、予想よりも厄介か」


 大型船であるトレニアは、強固なシールドによって敵の攻撃を防いで反撃を行うこともできているが、小型船の方はというと、次々と被害が増えていく。

 だが、メリアはそこまで焦っていなかった。

 少なくとも、大型船が複数いるよりはまだ楽だからだ。


 「移動できない船は相手の足止めに。少しでも距離を稼げると、それだけ楽になる」

 「自爆は?」

 「可能ならやれ。おそらく、向こうは無視しないだろうけど」


 トレニア以外の船は、すべてが無人。

 だからこそ、移動できなくなった船をすぐに捨て石とすることができる。

 敵艦隊は、進路上にいる移動不可能な船を攻撃するため、わずかに速度を落とした。

 ぼろぼろになって散発的な攻撃しかできないため、そのまま進んでも問題ないものの、明らかに怪しいため無視することはできないのだ。


 「十隻すべて破壊されました」

 「稼げた時間は数秒程度か。まあいい」


 数を減らしながらも、小惑星帯の内部に入り込む。

 艦隊が普通に移動できるくらいには密度が薄いが、それでも障害物がまったくない宇宙空間よりはかなり違う。


 「どこまで逃げますか?」

 「もうしばらく引き込む。小惑星帯の中とはいえ、密度が薄いなら向こうも追いかけてくるから」

 「その後、無人機によって敵艦隊をかき回す、と」

 「海賊の寄せ集めな艦隊と違って、無人機だけじゃあまり被害を与えられないだろうから、こっちの艦隊からも積極的に攻撃していく必要はあるが」


 宇宙における戦闘は、結局のところ数が多い方が勝ちやすい。

 宇宙空間には障害物となるものがほとんどないからだ。

 しかし、それは大規模な場合。

 比較的小規模な戦いにおいては、やり方次第である程度どうにでもなる。

 逃げながら無人戦闘機を周辺へ放っていき、小惑星帯の密度が増しているところへ到着すると同時に、艦隊を反転。

 その際、いくらかの隙ができるが、そこは無人戦闘機が敵艦隊に突入することによって攻撃する機会を与えない。


 「よし、狙いが分散した。艦隊の内側にいる戦闘機と、外側にいるあたしたちに」

 「では、反撃に移ります」


 無人戦闘機は一気に突入しない。

 いくつかに分かれて、少しずつタイミングをずらしながら撹乱をしている。

 密度が低いとはいえ、周囲には岩塊などが漂っており、そんな障害物のせいで敵艦隊は万全な迎撃が行えない。

 とはいえ、さすがにきちんと迎撃しているのか、少しずつ無人戦闘機の数は減っていく。

 完全にいなくなる前に、メリアたちの艦隊は攻撃に出ると、大型船であるトレニアの一撃によって一気に数隻を沈めてみせた。

 随伴している小型船は、火力的にそこまで頼りにはならないが、それでも数十を越える数は威力の低さを補うものであり、十隻ほどを沈めた。


 「メリア様、再び通信が来ています」

 「出してくれ」


 戦闘の最中に通信。

 そこまで多くないとはいえ、珍しいものではない。

 基本的には、これ以上の戦闘を望まず降伏を呼びかけるか、降伏を申し出る場合がほとんどだが、スクリーンに映し出される男性の表情を見るに、そのどちらでもないようだった。


 「海賊。貴様は自分が何をしているのか理解しているのか」

 「怪しげな施設を襲撃して、色々良さげなものを奪い取った。よくあることじゃないか。それこそ、企業同士の抗争ともなればありふれた日常だ」

 「何を奪い取った?」

 「はっ、通信をしてきたのは、それを聞き出すのが目的か? とんでもないものとだけ言っておく」


 極秘の研究所が襲われた。

 ならば奪い取られたものがなんなのか気になるというものだろう。

 もちろん、メリアは馬鹿正直に話したりはしない。


 「聞き入れないだろうが言っておく。共和国において企業を襲うことはやめろ。企業なしにはすべてが成り立たない」

 「その企業ってのは、共和国政府に、傀儡と化した議員を送り込んでいる大企業様かい? それならお断りだね」

 「大企業というのは、この広大な領域を支配する共和国にとってもはやインフラであり、そのインフラを攻撃する貴様はテロリストだぞ」

 「海賊なんぞを手駒にしている企業ばかりの国で、テロリスト呼ばわりとは面白いね。大企業だけでなく、中小企業も海賊を利用してるところから考えると、共和国そのものがテロリストじゃあないのかい?」


 明らかに馬鹿にするような口調でメリアは言い放つが、意外なことに相手は軽くしかめっ面になるだけで済ませた。

 表も裏も知っているからこその対応であり、何を言おうが相手は冷静さを維持するだろう。

 とはいえ、このまま通信を切るのもあれなので、メリアは相手の問いの一つに答える。


 「そうそう、さっき何を奪い取ったのか言うけども……遺伝子にかなり手を加えて動物の耳や尻尾を生やした子ども」

 「なんだと……!?」

 「知らなかったのかい? つまりあたしは、私兵ですら知らされていない重要な代物を確保したわけだ」

 「待て、詳しく……」


 それは想定外の答えだったのか、男性は目に見えた驚いていた。

 そんな様子を見届けたメリアは、通信を一方的に切ると、軽く息を吐いた。


 「これはまた、とんでもない存在を連れていくことになったのかもね……」

 「敵艦隊、さらに十隻の撃破を確認。残存しているものも半数が戦闘不能となり、退却を始めています。追撃しますか?」

 「いや、いい」


 会話している間にも戦闘は続いており、小惑星帯の内部における戦いは、メリアたちの勝利に終わった。

 とはいえ、長居はできない。

 追跡を避けるためにも、すぐに最も近いワープゲートに向かい、その後も何回か複数の星系を経由する。


 「ひとまず撒けたか。まあ、相手が動揺してくれたおかげで、早期に決着がついてよかった」

 「戦力の補充と、連れてきた者たちをどうするか考えないといけません」

 「他への襲撃の前に、そっちが先になるか」


 違法に生み出された子どもたち。

 どこからどう見ても厄介事の塊なわけだが、それゆえに効果的な存在でもある。

 問題は、いつ世間に明かすか。

 メリアは目を閉じると、やれやれとばかりに頭を振った。

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