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251話 偶然を装った襲撃

 セレスティア共和国という国は、セレスティア帝国から分離独立した結果生まれた。

 かつての帝国は、宇宙における人類の領域の三分の二を支配していた超大国であったが、その半分が共和国として独立した結果、三分の一に縮小してしまった。

 残る半分である共和国は、独立当初こそ帝国へ対抗するために腐敗を許さずにいた。

 国力の無駄遣いをしていては、旧領の回復を考える帝国に攻められる可能性が高かったからだ。

 しかし、腐敗を許さぬ理念も長い年月と共に形骸化していき、共和国は大企業とその傀儡たる議員により支配され、腐敗はあちこちに蔓延していた。


 「やれやれ、広い範囲に散らばってるから移動が面倒だね」

 「だからこそ、向こうも戦力が分散しているため、攻めるわたしたちからすると、楽ではありませんか?」

 「違いない」


 共和国の中でも、帝国と星間連合の二つに接している星系。

 そこにメリアたちは訪れていた。

 あまり大規模な艦隊だとすぐに怪しまれるため、十隻の小艦隊を複数に分散させて星系内部を移動しているのだ。

 アンナから提供された、機密扱いとなっている研究所の位置を見ながら、少しずつ襲撃の用意を進めていく。


 「よし、そろそろ星系外縁部に向かう。正確にはその外側だが」

 「今回の戦力は五十隻。ほとんどはこの星系で購入した小型船ばかり。しかも中古船ですが」

 「使い捨てるにはちょうどいい。あたしたちのことを中古船を取り扱う企業だと誤認させることもできる」


 分散させている艦隊を次々に星系外縁部に向かわせ、メリアたちも移動していき、数時間後には何もない宇宙空間を五十隻の艦隊が進む形となる。

 機密扱いとなっているからか、強力な隠蔽が施されているようで、レーダーには何も反応がない。


 「いきなり襲うと、向こうに色々知れ渡ってることが気づかれる。というわけで、しばらくは模擬戦闘でもしておく。ついでに、向こうが盗み聞きできる程度の無線通信も行う。演技付きでね」

 「複数の海賊同士が、なんらかの取引のために集まるも、交渉が決裂して戦闘になる。こんなところですか」

 「ああ。取引する代物は、希少な鉱物ということにしておこうか。そして戦闘の最中、流れ弾が極秘の研究所に当たり、怪しい施設の存在に気づいたことで戦闘は中断。襲撃をかける」


 希少な鉱物がなんなのかは言うまでもない。

 そして事前に決めた通りのお芝居をしていき、流れ弾によって偶然怪しい施設に気づいたふりをすると、一気に襲撃をかけた。


 「有人機がいないと怪しまれる。あたしとルニウも突入し、相手との通信を試す」

 「危険な役回りですね。ところでセフィちゃんは?」

 「さすがに留守番だよ」


 まずはハッキングと並行して、無理矢理に船を施設にドッキングさせる。

 宇宙空間に存在する施設という時点で、どこかしらに外部と接続する部分はあるからだ。

 そうしないと物資や人員を運び入れることができない。

 海賊としての襲撃ということで、監視カメラやガードロボを破壊しながら進んでいく。


 「規模としては、中型船以上で大型船未満。小さめな施設だね」

 「縦にも広がりがあるので、そこ含めるとそこそこ広いんじゃないですか」


 金属質な通路を進むと、やがて避難途中の研究者らしき人影を見かけるようになる。

 すぐに扉を越えてロックがかけられるが、所詮はただの扉。


 「ルニウ、少し下がって周囲を警戒。ビームナイフを使う」

 「はい。まあファーナの動かす機体もいくつかいるんですけども」


 ビームの刃が、金属製の扉を少しずつ切断していく。

 速度はゆっくりだが、確実に扉を焼き切る状態は、避難している研究者からすれば恐ろしくて仕方ないことだろう。

 数分後、扉を破壊したメリアが見たものは、自らの頭に銃口を向けている研究者の姿だった。


 「来るな! 捕まえるつもりならこっちにだって手はある!」


 近づくと、相手は女性であることがわかる。

 足は少し震えているが、危機的な状況にしては抑えられている方。

 極秘の施設に配属されているだけあって、多少は覚悟ができているようだった。


 「どうします? 本当に撃ちそうですけど」

 「少し下がれ。あたしが直接やりとりする」


 ルニウが部屋から出ていったあと、メリアは機甲兵から降りると、宇宙服のヘルメットを外して相手に素顔を見せる。


 「安心していい。ひどい扱いはしない」

 「海賊を信じろと?」

 「なら、死ぬかい? こんな極秘の施設に配属されるくらいには能力があるんだろうに」


 説得を試みるメリアだったが、途中で研究者の女性の表情は変わる。

 まるで嫌なものを思い出すかのような表情であり、あからさまに不愉快そうにしていた。


 「こんな施設、配属なんかされたくなかった」

 「なんだい、ろくでもない研究でもされてるのか」

 「ええ。海賊ですら恐れおののくようなものをね」

 「それはずいぶんと気になる話だ。見てみたい」

 「条件があるわ。私を殺さない、痛めつけない、そしてどこかに売り飛ばしたりしないこと。これらが保証されるなら、案内してあげる」

 「ああ、約束する」


 メリアのその言葉に、研究者の女性はゆっくりと銃口を下ろした。


 「あなたの名前は? 私は、リラ。この研究所では、少し偉い程度の立場」

 「メリアだ。海賊たちを率いている」


 お互いに名乗ったあとは無人の機甲兵にリラを乗せて、彼女の案内に従って施設の内部を移動していく。

 生身のままだと危険なのと、戦闘になっても通信によって会話が行えるように。


 「それで、この研究所ではどんな研究を?」

 「売り物を、作ってた」


 質問に対する返答は、どこか歯切れが悪い。


 「どんな売り物を? ニュースに出てきたような遺伝子を弄った動物か?」

 「喋れるクマね。あれだったらどんなによかったことか」


 施設自体の防衛能力は高くない。

 途中で何体かガードロボが出てくるが、メリアが銃を撃ち込めばすぐに沈黙する。

 警備員の類いは、いるにはいるようだが、機甲兵相手とやりあえる装備はないのか、追い詰めるとすぐに降伏するという報告がファーナから届く。


 「もっとひどい代物となると……想像がつかないね」

 「あらいやだ。海賊を長くやってそうな人がそんなことを言うとはね。予想できているんじゃあないの?」

 「あんたの口から、さっさと言ってもらいたいんだがね。リラ」

 「慌てなくても、もうすぐ見れるから。このエレベーターを下に行った先に、輸送前の商品がいる」


 ずいぶんと大きなエレベーターだった。

 大型のトラックでも余裕で入るくらいには。

 少し視線をずらせば、トラックが行き来するのか、大きくて幅の広い通路があったが、そちらはファーナの動かす無人機と、施設を防衛するガードロボが戦闘をしていた。

 なお、戦況はファーナ側の圧倒的有利。


 「でかいエレベーターだ」

 「商品を一気に運び出せるようにしてある。ここから、輸送用の宇宙船まで楽に移動できるように」


 全員で中に入ったあと、リラがボタンを押すと、ゆっくりと下降していく。

 やがて目的の階に到着すると停止するので、開いた扉から外に出ると、再び無機質な通路が現れるが、いくらか目を引くものがあった。

 まず手前には、複数のトラックが存在する駐車場と、辺りをうろうろする武装した警備員。

 その奥に、なんらかの建物が存在している。


 「何者……いや愚問か。目的は?」


 警備員の男性は、武器を下ろしたまま質問してくる。

 目の前にいるのは機甲兵に乗った海賊、そして自分たちの戦力では敵わない。

 そのことを理解しているようだった。


 「とある研究者から、この場所を教えてもらってね」

 「そうか。なら通そう」

 「おや、いいのかい? 警備員が守らなくても」

 「機甲兵には勝てない。対抗できる装備がない。それに、ここを知ってる研究者は少ない。知っている者が教えたなら、どうにもならん」

 「ま、ある意味助かるよ」

 「ついでだが、見逃してもらいたい。こっちも死にたくはない」

 「ああ、いいよ。あたしらが去ったあと、ここの所有者に消されそうだが」

 「なあに、その前に他の企業へ逃げるさ」


 この警備員はずいぶんと図太い性格なのか、メリアたちが敵対しないとわかったあとは、他の警備員と共に、脱出するための計画を立て始めた。


 「リラ、ここにいる者はなかなか企業への忠誠心がないようだが」

 「そりゃ、あれを作らされて、世話させられるなら、そうもなるでしょ」


 ため息混じりの言葉であり、やってられないとでも言いたそうだった。

 ここは機密扱いの研究所だというのに、中で働く者にそこまで言わせる代物とはなんなのか。

 メリアは内心首をかしげていた。

 とはいえ、目の前にある謎の施設には機甲兵では進めないこともあって、ひとまず他の機体に警戒させつつ自分は降りる。


 「中は、受付みたいな感じだね。奥に進むにはこの扉か」

 「少し待ってちょうだい。私のIDで開けるから」


 やや大きめな扉は、リラが網膜による認証を行うことで開いた。

 なかなかに厳しいセキュリティだが、いったい何が待ち受けているのか、メリアはビームブラスターを握りつつ奥に入るが、そこにいる存在に思わず固まってしまう。


 「これは……」

 「ようこそ海賊さん。人の欲望が生み出した商品たちが住まう場所へ」


 目の前には、動物の耳や尻尾を生やした異質な人間がいた。

 それは明らかに、遺伝子にかなり手を加えただろう存在。いや、そんな言葉ですら生温い。

 この研究所にいる者が、禁忌に手を染めた証でもあった。

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