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250話 大企業の秘密に関する情報

 「いやあ、もうね、大変だったのよ!? わかる!?」

 「わかるわかる。だから近くで大声出すんじゃない」


 メリアはアンナと宇宙空間で合流したあと、相手の小型船をトレニアの格納庫に収容してから直接会うのだが、これまでの出来事と愚痴を聞かされる羽目になり、渋い表情を浮かべていた。

 メリアのそんな反応を不満に思ったのか、アンナは黙るどころか腕を組んでさらに話を続ける。


 「宇宙船をレンタルしたら、その中に武装した男女が数人いたのよ? これがどれほど恐ろしいことか」

 「……まあ、明らかに狙われてるわけだね。心当たりは?」

 「上層部のうち、大企業と親しい派閥辺りかしら? そもそも、私を消したい者ってそこそこいるから。元々が帝国の貴族で、自分で言うのもあれだけど有能だし」

 「で、その有能なアンナさんは、いったいどんな情報を持ってきたのか、教えてもらえますか?」


 話の途中、メリアはわざとらしく丁寧に言ってみせると真面目な表情になる。

 すぐにアンナは小さな記録媒体を取り出すのだが、少し問題があった。

 中に入っている情報は暗号化されており、すぐに見ることができない。

 こうなるとファーナに任せるしかないため、見られる状態になるまで待つことに。


 「あら、さすがにうちの部署はしっかりしてるわね」

 「そういうのは事前に把握を……まあいい」

 「あ、そうそう、メリアは私以外の者にも情報を求めてるだろうけど、そっちはどうだったりする?」

 「駄目だった」


 メリアは険しい表情のまま首を横に振る。

 配下となった海賊のルガー、彼の伝手を利用して共和国で活動している海賊に話を持ちかけた。

 だが、途中経過を尋ねようとしても連絡が取れない。

 各地への襲撃の合間に、一度だけ連絡が取れたものの、この話からは降りるという答えが返ってくるだけ。


 「ふーん? 何かあったのかも」

 「海賊が他の海賊を襲うという、混沌とした状況になった。深入りせずに逃げ出すという考えも理解できなくはない」

 「いいの? 約束を反故にされたわけだけど」

 「所詮は海賊。そこまで期待はしていない。あたしが言うのもあれだけどね」


 物事がすべて上手く行くとは限らない。

 海賊を使うのは駄目だったが、幸いにもアンナによる情報収集は成功した。

 休憩がてら、市販されている紅茶を飲んだり、冷凍してあったケーキを解凍して食べたりしているうちに、ファーナから記録媒体の中身を見ることができるようになったという連絡が届く。


 「どんな内容だった?」

 「アステル・インダストリーに関するものです。具体的には、機密扱いとなっている研究所の位置と、海賊との広範な繋がりを示す証拠が入っていました」

 「どのくらい繋がってる?」

 「単純計算ですが、共和国で活動している海賊の二割ほど」

 「はっ、一つの企業がそれだけの繋がりを持っているとか、世も末だね。というか、そういう証拠用意できる時点で共和国の上の方も海賊と繋がってるだろ」


 ファーナからの説明を受けて、メリアは苦笑混じりに軽く頭を振ると、この情報を持ってきたアンナの方を見る。


 「これは大きい。助かるよ」

 「極秘の研究所となると、違法な資金源になってそうねえ。それで稼いだお金で海賊を大量に雇ってしまえば、表と裏の両方で自分たちに有利になるよう工作することができる」

 「表の世界で力を持つ大企業が、裏の世界で活動している海賊たちを大量に従えている。なかなかのスキャンダルになるね。とはいえ、そんな企業に擁立された議員の存在も厄介だが」

 「なるようになるわ。多分」

 「……まあ、あたしは共和国の海賊をどうにかするために来てるから、それ以外の部分は共和国の人間がどうにかしてくれとしか言えない」


 今後役立つ情報を得られたため、あとは別れるだけだが、アンナは乗ってきた船に戻ろうとしない。


 「まだ何か用件が?」

 「お礼とか、欲しいんだけど? 襲撃者を返り討ちにしてまであなたに情報を届けたお礼!」

 「……じゃあ、お金で」


 面倒くさいなという態度を隠そうともせず、メリアはアンナにお金を渡そうとするも、受け取られない。


 「お金よりも、誠意が欲しいなって」

 「…………」

 「変なことは頼まないから安心して。お互い、もういい年をした大人だもの」


 子どもの頃は友人だった。

 しかし十五歳の時、メリアは自らの出生の秘密を知り、それだけでなく廃棄処分されそうになるという事件が起きてしまう。

 その時から、関係は断ち切れてしまっていたが、少し前に偶然再会したのを契機に昔ほどではないとはいえ関係は戻る。

 それは決して強固なものではないことを自覚しているのか、アンナはやや寂しそうな表情を浮かべると、メリアの手を取った。


 「子どもの頃、遊びに行ったところがあるでしょ? 今回の一件が終わって時間が空いたら遊びに行かない?」

 「それくらいなら」


 知り合い同士でどこかに遊びに行くこと自体は珍しくない。友人ともなればなおさら。

 しかし、ここで割り込む声があった。


 「わたしがいるからこそ、数々の戦闘に勝利できたんですよ。なのに置いていくんですか?」

 「そうですよそうですよ。むしろ私たちの方がメリアさんを助けてきたわけで。こっちにも誠意を見せてくださいよー」

 「というか、嫌でもついていくという選択を取ります」

 「揃いも揃って……じゃあ全員で遊びに行く。これなら問題ないだろ」

 「むむむ、どうせなら二人きりがよかったけど、仕方ないか」


 ファーナ、ルニウ、セフィからの抗議を受けて、全員で行くことが決まる。

 アンナだけはやや不満そうにするが、こうなったらどうしようもないため肩をすくめて受け入れた。


 「予定を決めるのはいいとして、まず生き残らないと話にならない。アンナ」

 「ええ。私は死なないから心配しなくても大丈夫。むしろ、そっちこそ気をつけて。宇宙での戦いはとても危ないから」


 軽く手を振りながら、アンナは乗ってきた小型船に入るが、すぐに出てくる。

 中に襲撃者の死体があるからか、処理や内装の掃除などをお願いしてきたのだ。


 「ったく……よくもまあ死体があるのに操縦できたもんだね」

 「珍しくもないでしょ? 後ろ暗い世界で活動していれば、こういうことはあるもの。メリア、あなただって海賊をしていたんだから経験あるはず」

 「否定はしない。ただ、金目のものを奪ったらすぐに宇宙へ放り出すから、ずっと死体と一緒なんてことはない」

 「それについては、民間のところからレンタルしたやつだし、ろくな武装がないんだからしょうがないでしょ? わざわざ海賊がいそうなところを通るのも危ないし」

 「はいはい、こっちで処理できる面倒事は処理しておくよ。ルニウ、死体を取り扱うから手伝え」

 「はいはーい」


 宇宙における死体の処理というのは、そう難しいものではない。

 一番手っ取り早いのは、宇宙空間に放り出すというものだが、これはいくらか証拠を残すことになるため、より確実に隠蔽できる手段が取られる。

 それは、ビーム砲によって一気に消失させるというもの。

 人間が扱える銃器では、火力が足りない。

 しかしながら、船に搭載されているビーム砲ともなれば、人間を消失させるだけの火力がある。

 そんなビームを防ぐために船体を覆うシールドがあるが、今回はそれも利用されることとなった。


 「これは、偽造された身分証。けど、あたしでもわかるくらいには質が低い」

 「使い捨ての鉄砲玉ってやつですか」

 「生きてたら色々聞けただろうけど、死んでちゃどうしようもない。宇宙空間に放り出す用意をしておくように。あたしは操縦席に向かう」


 まず、死体を乗せたまま小型船を宇宙空間に移動させ、そのまま放り出す。

 そのあと、流れ弾が出てもトレニアのシールドが防いでしまう位置に小型船を動かすと、メリアはビームを放っていく。

 小型船といえども、人間相手なら威力は充分過ぎるため、あっという間に死体は消失した。

 その際、トレニアのシールドが貫通してきたビームを受け止めるため、周囲からは死体の処理をしていたとは思われない。


 「ファーナ、内部の掃除は任せた」

 「では、適当に、掃除する機械を操りますね」


 再び格納庫に戻ったあと、小さなロボットたちがメリアたちと入れ替わる形で小型船の中に入り、二時間ほどで掃除は完了する。

 先程まで死体が存在していたとは思えないほどであるが、戦闘が起きた痕跡はそのまま。


 「ありがとう」

 「内部は結構ぼろぼろだが。グレネードでも投げたのか」

 「そこはちょっと人数差がね。まあ怪しまれそうな部分は修理するから大丈夫。規約的に罰金はとられるだろうけど」


 アンナはお礼を言ったあと、小型船に乗って今度こそトレニアの格納庫から去っていった。


 「しまった。掃除の料金でも請求しとけばよかった」

 「まあまあ。ところで次どうします?」

 「そりゃ決まってる」


 ルニウの問いかけに対し、メリアは記録媒体の中身が表示されている端末の画面を見せつけた。


 「大企業様の違法な資金源を潰しに行く」

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