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247話 隠し持った情報

 いくつかの星系を経由し、追跡されていないことを確認してからフルイドを通じてのやりとりが行われる。

 細かい部分は抜きにして、星系外縁部よりも外側に作られた秘密の施設の中で目にしたことをメリアは語った。

 それに対する返答は、直接会って話がしたいというもの。

 フルイドの意識の伝達という手段では、細かい部分を詰めながら話すのには向かないのが理由であるとのこと。


 「ちっ、会わないといけないとは」


 この際、個人的な感情は抜きにしないといけない。

 それくらいには、重要で厄介な存在を目にしてしまったがゆえに。

 道中、捕らえていた海賊たちを近くの宇宙港に降ろし、身軽になったあと、フルイド越しにメアリが指定した座標へと向かう。

 そこは共和国と帝国の国境とも呼べる星系であり、帝国からの船が珍しくはないところ。

 少しばかり宇宙空間で待ち続けると、遠くから二百メートル級の中型船が近づいてきた。


 「有線通信をしたいんだけど、そちらにケーブルを接続していいかな?」

 「……ああ」


 聞き覚えのある声が許可を求めるため、メリアは険しい表情のまま許可を出す。

 すると、向こうの船から作業用機械が射出され、トレニアに直接飛び乗ってくるではないか。

 普通なら、厳重注意か威嚇のための攻撃が行われるところ、メリアは相手が接続する作業をスクリーン越しに見つめるだけ。

 やがて、映像通信が行われる段階となり、茶色い髪と目をした忌々しい美人が現れる。


 「やあ、変わりないようでなにより」

 「そっちこそ。まず聞きたいが、フルイドがなんらかの実験に関与している可能性は?」

 「それはないと言い切れる。フルイドという種族は、意識の伝達が可能であるため、何かあれば他の仲間に伝わる」


 種族としての特性。

 それはフルイドという存在が、共和国とは距離を置いていることを示している。


 「こっちで入手した映像だが、これを見てみろ」

 「……なるほど。君の危惧はよくわかる」


 秘密の施設で行われていた実験の映像。

 これを再生して見せつけると、おふざけの混じった先程までの様子は鳴りを潜め、どこか真面目な表情となる。


 「今の私ができることは多くないものの、支援をすることはできる。資金以外には、情報だけどね」

 「……どんな情報がある?」

 「君の役に立つものとしては、共和国の主要な大企業が抱える、違法な出来事に関連する証拠の数々。不祥事の塊とでも言おうか。これを、私の持つ繋がりを利用してばらまくことで、共和国全体に混乱を招き、共和国政府が嫌でも大企業を取り締まる機会を作り上げる。ただ、それじゃ海賊をどうにかすることができないままになるから、使いどころを考えないといけない」


 メアリは軽く語るものの、それは共和国にとっては致命的とも言える情報。

 どれくらい信頼できる言葉かはともかく、メアリという人物が口にするからには、一定の被害を向こうに与えることができてしまうだろう。


 「……その大企業に対する情報は、元々どういう時に利用するつもりだった?」

 「今だから語ろうか。内戦で君に邪魔されなかった場合の話を。帝国における内戦でひとまずの勝利を得たとして、すべての者がひれ伏すことはなく、抵抗を続ける者は残る。そういった者すらも私に味方するしかない状況を作るために、共和国の軍事的な介入を引き起こす予定だった」

 「くそったれな予定だね」

 「そして、外国からの介入があるとなれば、抵抗を続ける者は渋々ながらも私に降伏し、外国との戦いに身を投じる。これにて帝国を私が一つにしたあと、軍事的な介入をしてきた共和国に対し、先程の情報をばらまくわけだね」


 メアリが語る内容は、メリアからするとまったくもって忌々しいことだが、帝国を完全に掌握するための策略としては効果的であると思えるものだった。


 「共和国の根幹をなす大企業の不祥事がばらまかれたら、軍事的な介入どころじゃない。士気が低下した相手なら、フルイドと協力して簡単に倒して追い返せる……」

 「しかしながら、私の考えたこれらの戦略は、君の活躍によって阻止されてしまい、共和国の情報は宙ぶらりんというわけだよ」


 メアリは肩をすくめながら話すが、それは油断を誘う演技と見ていい。


 「……睨まれても反応に困るんだけどね」

 「その存在自体が、警戒したくなる」

 「おやおや、ひどい言い草だ。今は君のために、これまで隠していた情報を利用する気になったってのに」

 「いつ、情報をばらまく?」

 「さて、これがなかなかに難しい。企業に痛手を与えるだけで終わったら、もったいない」

 「……違法な実験、それも動物関連のからやってくれ」

 「へえ? メリア、私のクローン、君はどんな考えがあるのかな?」


 クローンと言われ、メリアは露骨に顔をしかめるが、話を進めるためにも文句を口にせずに済ませた。


 「まずは共和国の人々に、大企業の不祥事への注目を集めさせる。連日ニュースになれば、興味ない人間もさすがに話題にするわけで」

 「まあ、大事なことだね。企業にとって、人々が注目するかどうかは大きい」

 「そして、少しずつ、よりセンセーショナルな内容のをメディアに流していく。強い刺激のあと弱い刺激にならないように」

 「慣れさせないわけか。いいねいいね」


 いったい何が嬉しいのか、メアリは画面越しに笑みを浮かべており、もしこの場に男性がいたなら彼女の笑みに魅了されていただろう。

 それは演技なのか、素なのか。

 どちらにせよ、メリアにとっては鬱陶しいことに変わりはない。


 「いよいよもって、注目が最高潮に達した時、さっきの人間が化物になる映像をばらまく」

 「効果的ではある。しかし、既に実験が行われた施設や、実験体らしき存在は消失しているんじゃないかい? この映像だけでは、色々と難しいんじゃないかな」

 「それについては、これを使う」

 「紙の日記、か」


 メリアは、紙の日記を取り出す。

 それは雇われていた海賊が書いたものだ。

 どれくらい証拠として使い物になるかはわからないが、中にアステル・インダストリーの名前が書かれているため、共和国の人々が不祥事に注目している時ならば、そこそこ効果を発揮するだろう。


 「単体では効果が薄い。組み合わせても普通の時では大企業の圧力で揉み消せる」

 「しかし、人々が不祥事に注目している時なら大きな効果が出る、と。わかった。メリア、君の言う通りにこっちも動こう。ただ、準備とかあるから二週間か三週間くらい待ってほしいけど」

 「問題ない。こっちも情報集めてるから、動いてる間にそれくらいの期間は過ぎるだろうさ」


 自らの出生のこともあって、メアリのことは気に食わないメリアだったが、味方とするならこれほど心強い相手もいない。

 なにせ、数百年前は皇帝だった人物。

 つい最近も一時的に皇帝の座にいたが、これは内戦の敗北によって自ら降りることになった。

 どうあっても、帝国において強い影響力を持つ人物であり、彼女自身の優秀さもかなりのもの。

 内心、苛立つことはあるが、それを我慢するだけの価値はある。

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