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244話 企業と結びついた海賊

 「メリア様、前方に擬装された施設が存在します」

 「例の情報通りか。襲撃の用意だ。あちらさんも気づいてるだろうから、急ぎで」


 星系外縁部を越えた先には、何もない空間が広がっている。

 小惑星だった破片や、かつて宇宙船だったデブリらしき代物が多少は漂っていたが、無視できる程度しかない。

 とりあえず、前方に適当にビームを放ち、通り過ぎることがなかった部分へ攻撃を集中させていく。


 「いくらか離れているとはいえ、共和国軍の秘密基地とかがあたしたちの行動を見ている」

 「わたしたちは、企業からの依頼を受けた海賊として振る舞うことで、色々と誤魔化すわけですね。上手くいくといいのですが」

 「まあ、大なり小なり目をつけられるかもね。少数ながらも百隻相手に勝ったせいで。こっちには大型船があったから、注目度としてはそれなりだろう」


 話をしながらも、スクリーンや機器類から目を離さないメリア。

 攻撃を続けていくと、何もないはずの空間から巨大な施設が現れた。

 大まかな形状としてはニキロメートルはある箱。

 それは基地の役割を持っていたのか、内部からぞろぞろと宇宙船が出てくるも、次々と破壊されていくため、やがて何も出てこなくなる。


 「モグラ叩きは終わり、と」

 「次はどうしますか?」

 「あー、降伏勧告からの武装解除。そして価値がありそうな代物を強奪。これで行く」

 「相手が従わない場合は?」

 「攻撃続行。基地が壊れそうになれば、向こうから降伏してくるだろうさ」


 距離が近いのでひとまず映像通信を行うと、相手はすぐに出た。

 一目見て海賊に思えるような荒くれ者だが、危機的な状況ながらも、険しい表情を浮かべるだけで怒鳴ったり取り乱したりしないので、それなりの分別があるようだった。


 「……目的はなんだ」

 「降伏、武装解除、そして価値ある物を得る。異論は? 従わないなら、攻撃を続行する用意がある」

 「ここを襲う意味をわかっているのか」

 「悪いけど、こっちは依頼主の指示を受けてるだけだ。そっちもそうだろう?」


 企業と結びついた海賊。

 実質的な私兵であり、汚れ仕事を任せるちょうどいい手駒でもある。


 「お前は……どこに雇われている……?」

 「あえて言うなら、自分自身」


 共和国の海賊をどうにかできれば、世の中は多少とはいえマシになる。

 きっかけはメアリというオリジナルだが、行うことを決めたのはメリア自身の意思。

 それゆえの返答だった。

 表向きには、どこかに雇われたという形を演じる必要があるものの。


 「ちっ、気狂いめ」

 「で、降伏するかどうか聞きたいが」

 「……しない。いや、できない。したところで、こっちにはあとがない」

 「小さい企業ではなく、でかい企業の私兵をしているからか」

 「なんとでも言え」


 通信は無理矢理に切られるため、メリアは軽く頭を振ってから命令を出した。


 「こっちにはわからない事情があるんだろうが、こうなったら攻撃を続けるしかない。ファーナ、やれ」

 「はい」


 あとはもう一方的だった。

 隠蔽に特化しているからか、施設自体に攻撃能力はなく、大型船による巨大なビームは大きな穴を空けていく。

 それから数十分後、なんらかの施設だった建造物はただの廃墟と化した。


 「わずかな生き残りが脱出しているようですが」

 「放っておきな。野垂れ死ぬか、今回の出来事を雇い主に報告したあと消されるか、どっちかしかない。まずは調査が先だ。あたしも出る」

 「危険です」

 「遠くから様子を見ている共和国軍向けのパフォーマンスだよ。無人機だけですべて済ませることができているのに気づかれたら、注目度が上がってしまう」

 「今はまだ、警戒すべき海賊という範囲に留まっている、と」

 「ルニウにも出るよう連絡を。有人機は多い方がいい」


 廃墟となった施設だが、各所に大穴が空いているものの、崩壊まではしていない。

 大型船が至近距離で待機し、格納庫からいくつもの機甲兵が現れると、大穴から内部へと侵入していく。

 無機質な通路と、生活感のある部屋を通り過ぎていくが、今はそのどちらにも元の住人はいない。


 「放棄されているが、部分的には電気が生きているか」

 「ところでメリアさん、何を回収するんです?」

 「とりあえず機密らしい物をすべて」

 「うへえ、戦闘はファーナに任せて楽ができたと思いきや、地道な作業が待っているとか」

 「その地道な作業が一番大事だ」

 「あ、それとですけど、捨てられている物の中で再利用できそうなのは回収しても?」

 「……いいよ。作業の邪魔にならない程度なら」


 襲撃したところから色々と手に入れるのは、まさに海賊そのもの。

 一応、足は洗ったのに、どこまでも海賊であることから離れられないことに、メリアは機甲兵の中でため息をついた。


 「ファーナ、ハッキングで情報を抜き取れそうか?」

 「電気系統が分断されているため、ネットワーク関係も分断されています。何ヵ所かに分かれてデータを吸い出す必要があります」

 「そうなるか。なら、あたしは一番偉い奴がいそうな部屋を探してみるか。残っていればいいけどね」


 ルニウが海賊として色々漁っている時、メリアは独自に行動する。

 少しとはいえ、ファーナの動かす無人機が護衛としてついてくるため、何か起こった場合の安全面はそこそこ。

 内部の構造については、データを吸い出したファーナから簡易的な地図が送られてくるため、それを参考にしつつ探索していく。


 「ここは、倉庫か」


 そこは巨大な空間だった。

 ちょっとした宇宙船なら内部に格納できるほどに。

 そしてそんな広い倉庫にあるのは、大量のコンテナ。

 主に食料品などがまとめられていたらしく、戦闘による衝撃のせいでコンテナから飛び出たのか、スナック菓子の袋などが辺りを漂っていた。


 「やれやれ、どうせなら安いお菓子なんかよりも、高い銃火器とかのがいいんだけどね」


 合法なものより、非合法なものの方が高い傾向にある。

 回収せずにその場を離れようとするメリアだったが、機甲兵のセンサーにわずかな反応があったため、武器を持ちつつ辺りを見回す。


 「ファーナ、なんらかの反応があった。そっちは……」


 通信は最後まで言うことができなかった。

 コンテナの一つが勝手に開くと、中から人の形をした生物らしき存在が現れたからだ。

 頭は一つ、手足が二つずつあるが、空気はないのに苦しむ様子がない。なので確実に人間ではないことがわかる。

 それは周囲に漂う食べ物を回収すると、倉庫に空いている穴から出ていき、姿を消した。


 「今の映像は記録したか?」

 「はい。あれはなんでしょうか?」

 「さあね。とりあえず、ルニウと合流しよう」


 謎の人型生物の実力はわからないが、空気がなくとも問題なく活動できている時点で普通ではないため、警戒のため合流しての行動を進めることに。


 「メリアさん、何かやばい存在を見つけたみたいですね」

 「おそらく、ここを守っていた海賊が、あたしらに降伏できない原因と考えていい」

 「企業からやばい代物を任されていた、とか」

 「好戦的ではないみたいだけども、その存在を知ってしまったなら、捕まえないという選択はできない」

 「企業次第ですけど、かなりの脅しの材料になりますからねえ。特に人間に似せてあるという部分が」


 遺伝子を弄ることで手間がかからないようにしたペットというのはそれなりにいる。

 病気にかかりにくくしたり、寄生虫が体内で暮らせないようにしたり、食べても大丈夫な食材の範囲を広げたりなど様々。

 特別に許可を得ることができた場合に限り、外見に関して好きなようにできるが、それでも元の動物を逸脱しない程度という制限がある。

 少なくとも、人に近しい姿にすることはすべての国において禁じられている。


 「ファーナはデータの吸い出しを継続。ルニウはあたしと一緒に実験生物らしき存在を確保」

 「生死は?」

 「生け捕りがいいけど、無理そうなら仕留めることもあり得る」

 「なかなかに不安ですが、やれるだけやっておきます」


 明らかに表には出せない存在。

 思いがけぬ発見であるが、どういう目的があって生み出されたのか。

 それを確かめるためにも、メリアはルニウと共に探索を再開した。

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