240話 もう一度支援を得るために
「ふう……」
大型船トレニアの一室。
そこでメリアは大きめな端末と睨み合う。
画面上に表示されているのは、なんでも屋の大まかな状況と、惑星ドゥールにおける工事の進捗率といったもの。
「どうですか?」
「どうもこうもない。なんでも屋の方はギリギリ赤字になったが、まあこれはいい。現地任せでこうなら、あたしたちがでかい仕事をこなせばどうにでもなる」
すぐ近くにいたファーナは軽く問いかけるが、メリアは背もたれに寄りかかると、目を閉じて目頭を指で揉む。
「ドゥールの方は一応順調と言える。そもそも基礎の段階なので、一ヶ月は経たないと目に見えた成果はない。……というか、あのくそったれなオリジナルが送ってきた座標まであとどれくらいだ?」
「一時間もすれば到着します」
「……目が疲れたから少し休む」
「ご一緒しても?」
「何するつもりだ」
「ただ近くにいるだけです。実はメリア様にベタベタと触れたいところですが、それをすると怒られそうなのでしません」
「……いるだけなら、認める」
わずかに顔をしかめるも、追い出すまではしないメリアであり、それを聞いたファーナは早速近づいてから床にしゃがむと、見上げるような姿勢になる。
「おいこら」
「近くで見ているだけですから。触れたりはしません」
至近距離からの視線というものは、非常に鬱陶しい。
しかし、追い出そうとして体を動かすのもそこそこ面倒なため、メリアは目を閉じたまま顔をしかめるだけに留めた。
それからおよそ一時間が過ぎ、メアリから送られた座標に到着すると、なにやら宇宙空間を漂うおんぼろなコンテナがあるだけ。
周囲に船の反応は一切ないため、とりあえずコンテナを回収してみると、中には機械に侵食したフルイドが一体と、記録媒体が入っていた。
「メリア・モンターニュ。あなたのことは他の個体による意識の伝達を通じて理解している」
「その意識の伝達を利用して、メアリと連絡を取るということでいいのか」
「その通り。我々は連絡手段として同行する。メアリ本人があなたと通信を行うのは、周囲にいらぬ誤解を与えることに繋がる。そしてなにより、盗聴を避けたいという彼女の意思もある」
「……いつでも安全に連絡が取れるのは、大きいか。指定された座標に到着したと伝えてくれ」
「わかった。……返信が来た。…“記録媒体の中に今後の動きとかを保存してあるのでそちらを参考にして”とのこと」
「さーて、どんな内容なのやら」
フルイドを含めて全員がブリッジに移動したあと、記録媒体は再生される。
表示されるのは文章のみ。
そこにはこう書かれていた。
“共和国の企業は、帝国や星間連合と同様に、海賊を使い勝手のいい駒として利用している。自分たちがやると問題がある後ろ暗いことを行わせるための戦力として。そこで君にやってもらいたいのは、大企業に喧嘩を売ること。色々なスキャンダルが出てきて弱ったアステル・インダストリーだけど、依然として共和国でもトップに位置する大企業であり、海賊とは手を切った企業と共にここへ喧嘩を売って、共和国中を大いにかき乱してほしい。ちなみに協力を得られそうな企業については、わかる範囲で別のページにまとめておいたよ”
画面を切り替えると、大量の企業の名前が現れる。
これだけを見るなら心強いが、メリアは軽く息を吐くと、ファーナに声をかける。
「で、この中でそれなりに規模がある企業はどれくらいだ? 大企業を相手にするなら、小さな企業がいくつ集まっても無力だ」
「ネットで検索できる範囲では……これだけになりますね」
大量にあった企業の名前は次々に消えていき、最終的に残るのは一つだけ。
クローネ・アームズ。
帝国の内戦において、メリアが支援を受けたところだった。
「……たった一つだけか。共和国だけでも企業の数は億を軽く超えるってのに」
「大半が中小企業ですが。中には大企業と取引することで成り立っているところも」
「クローネ・アームズはそこそこの規模があるとはいえ、大企業に喧嘩売るとなるとささやかな支援を貰う程度が限界。どうしたもんだかね」
腕を組んで険しい表情でいるメリアに対し、横からルニウが言う。
「とりあえず、リストにある分の企業の力を借りておくのはどうですか? 小さいとはいえ、集まればそれなりの力にはなると思うので」
「仕方ない。そうするか」
「クローネ・アームズへの連絡は任せてください。向こうの会長やってるロズリーヌとは友人なので!」
「ああ、期待しておくよ」
早速、近隣の惑星に寄って星系間通信を行うのだが、ルニウが個人的に連絡をしたせいか、厳しい言葉が投げかけられた。
「何いきなり連絡してくるわけ? あんたと違って、こっちは仕事で忙しいんだけど?」
「ええと、その、少し力を貸してほしくて」
「どんな感じで?」
「メリアさんに対しての支援を」
「……なーるほど。少し予定を確認するから待ちなさい」
通信は一時的に止まるが、数分後には再開した。
「スケジュールの問題があるので、一週間後までに、以前訪れた支社に到着しておいて。もし遅れたら、支援の話はなしだから」
「はーい」
あまり詳しい内容を話すことができないのはお互いに理解しているためか、これといった問題はなく通信は終わる。
「ということなので、一週間後までに共和国へお願いします」
「支援は欲しいし、遅れないよう急ぐか」
いくつかの星系を挟んでいるせいでだいぶ距離はあるものの、六日目までには共和国へと入り、クローネ・アームズの支社がある星系に何事もなく到着できた。
すると、既にやって来ているのか、ロズリーヌからの通信がトレニアに届くため、今回はメリアが出る。
「言いつけ通り、間に合わせましたよ」
「メリア・モンターニュさん、案内の者を送るので、その者に従ってください」
隠したい設備などがある区画。
そういったところに部外者が踏み入ることがないよう、わざわざ案内の者が送り込まれる。
そのままついていって、支社の中を歩き続けると、見覚えのある人物がいる広い一室へと入る。
「お久しぶりです。社長をしているノーマン・リンドバーグです。お元気そうでなによりです」
「会長ということになっているロズリーヌ・プエシュです。本日は、どのような用件があってこちらに?」
「共和国の大企業へ喧嘩を売りに」
メリアがそう言うと、辺りは静まり返る。
より具体的には、ノーマンとロズリーヌが驚き混じりな様子で顔を見合わせた。
「あえて勘違いするような言い方となりましたが、私は共和国の海賊をどうにかしたいと考えていまして」
「……そのために大企業へ喧嘩を売る、と」
「これはまた、驚くべきこととはいえ、今は置いておきます。メリア・モンターニュさん。あなたは我々に何を望んでいますか?」
ロズリーヌは真面目な表情で尋ねてくるため、メリアも相手に合わせた。
「基本的には、内戦の時と同じような支援を。その他には、大企業相手と戦ってもいいという企業との繋がりを得たいとも思っています」
「……さすがに無償ではできません」
「では、お金を支払います」
あの時は、帝国が二つに分かれて争うという状況だったからこそ、無償での支援を貰えた。
だが、今回はそうではない。
逆に言えば、お金さえ払えばどうとでもなるということに他ならない。
お金を払うことをメリアが伝えると、ロズリーヌは受け入れるように大きく頷いた。
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