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239話 メアリというオリジナル

 目的の人物はすぐに出てきた。

 茶色い髪と目を持つ、美しい女性。

 高価な衣服に身を包み、画面越しでもわかるくらい堂々とした態度で椅子に座っている。

 その顔には何か面白がるような笑みが浮かんでおり、普通の人々ならつい見惚れてしまうだろう。

 しかし、メリアはそんな相手を見て顔をしかめる。

 そこにいるのは、自分のオリジナルであるメアリ・ファリアス・セレスティア。

 自分という存在を生み出した、くそったれな人物。


 「おやおや、映像通信だからちょっと気合い入れたのに、いきなりそんな表情とはね。私は悲しいよ。とほほ」

 「死ね」


 明らかにおふざけの混ざったやりとりに対し、メリアは手短に返す。それは本心でもあった。


 「ふふふ、それは聞けない相談だよ。せっかく、あの時私を殺せる機会があったのにねえ。いやー、残念」

 「…………」


 メアリは、まるで挑発するように、腕を広げてわざとらしく言う。

 当然ながら、メリアとしてはかなり苛立ってくるが、相手は画面の向こうにいるため、ひとまず連絡するに至った目的を優先する。


 「ずいぶんと出てくるのが早い。暇してたのか」

 「そうなる。どこかの誰かさんが私の顔を砕いたから、安静にするしかなかった。その間にできることを済ませていったら、今は何もすることがない。ようやく、数日前に包帯とかを取ることができるようになったわけだね」

 「内戦のあと、あたしにプレゼントを送ってきたろ。あれの中身はなんだ?」


 その問いかけに対し、メアリは笑みを浮かべる。


 「あ、今までずっと放ったらかしにしてたね? それで暴走したから鎮圧したと」

 「質問に答えてもらいたいんだが」

 「ソレイユのブリッジで戦ったことを覚えているかい?」

 「当たり前だ。そこでの勝敗が、内戦の勝敗を決めたに等しいから」

 「その時、私が着ていたのは、生きている機械とも呼ぶべき代物。人類の技術とフルイドの協力が合わさることで生み出されたそれは、生体装甲という」

 「生体装甲……」


 当時の戦いを思い返すメリアは、少しばかり表情を険しくする。

 通常のパワードスーツよりも頑丈で、しかも自己修復機能があるときた。

 そして三メートル前後ある機甲兵よりもコンパクトながら、同等以上の性能を確保できているというのは、圧倒的な汎用性の高さを示している。

 生身と変わらないサイズでいられるなら、あらゆる場所で利用でき、なんなら生体装甲を着たまま機甲兵に乗ることだってできるわけだ。


 「一つ購入したいとか言っていたから、内戦が終わったあと、送ってあげたわけだよ」

 「なんで暴走した?」

 「うーん……話に聞いている私は予想するしかないけど、利用者を殺してしまわないようセーフティが存在するものの、それが時間と共に緩んでいったからじゃないかな?」

 「なんだい、その欠陥品は」

 「試作品の段階だし、多少の欠陥はしょうがない。運用してデータを集め、改良を進めていく途上にあるわけだから」

 「そんな代物を送りつけるんじゃない」


 物騒な代物に対してメリアは文句を言うが、メアリは肩をすくめてみせるだけ。


 「まあよかったじゃないか。暴走したのが武器とかない場所で。もし武器とかあったら、周囲に大きな被害が出ていて、君はもっと怒り狂っていただろう?」

 「……はっきり言って死んでほしい」

 「そこは君自身の手で殺しに来ないとさ。待ってるよ」


 とりあえず、謎のプレゼントの正体はわかった。

 その代償として、かなり苛立ちが増してしまうが、相手は画面の向こうなので拳を叩きつけることはできない。

 メリアは舌打ちだけで済ませると、映像通信を切ろうとする。


 「待った。少しいいかな?」


 だが、その前にメアリが呼び止めるので渋々ながらも手を止めた。


 「なんだ?」

 「せっかくだから一緒に遊ばない? 殺し合った仲だし、オリジナルとクローンという関係でもある」

 「適当なところに頭ぶつけて死んどけ」

 「つれないね。通信では話せないこととか話せるのに」


 通信では話せないこと。

 その単語が出てきた瞬間、メリアは怪訝そうな表情になる。

 今それを言うのは、何か秘密裏に話したいことがあるというわけだが、仮にも皇帝だった人物が何を話すというのか。


 「色々あるんだよ? 今の私の立場はかなりあやふやなもので、一応は皇族となっているけど、次の皇帝が誰になるか次第で、こちらの動きも変わる」

 「もし皇帝になるつもりなら、全力で妨害しにいくが」

 「そこまで敵意を剥き出しにしなくても」

 「勝手に生み出される。これはまだいい。だけどね、廃棄処分ということで殺される。これは我慢ならない」

 「……ふむ」


 メリアの言葉を受けて、メアリは何か考え込むような様子を見せる。

 数秒ほど目を閉じて無言でいたが、目を開けると口を開く。


 「時に、君は帝国についてどう思う?」

 「質問の意図がわからない」

 「ああ、いや、思ったままを言ってくれていい。ちなみに、かつて私が皇帝だった時に耳にした一番ひどい評価は、酔っぱらいの吐瀉物以下というもの。私は特権階級の側だから、そういう評価は新鮮だったよ」

 「……くそったれな国だよ。共和国や星間連合も同様だけども」

 「これはこれは、とても興味深い答えだ。理由を聞いても?」


 何が楽しいのか、わずかな笑みを浮かべて続きを聞こうとするメアリであり、そこには純粋な興味だけがあった。


 「まず、武装したその他の犯罪組織を含めて海賊という存在を野放しにしている点」

 「海賊であった君が言うのかい?」

 「海賊だったからこそ言える。軍縮を避けるためのちょうどいい脅威として、小規模なうちはそこそこ見逃される。一般人に被害が出ても適当な対応で済ませるほどに。その結果、規模の大きくなった海賊はさらに多くの一般人に被害を与えるが、その段階になってようやく軍は重い腰を上げる」


 それは、平和が続いて軍縮を求める声を抑えるための方策として、軍縮に反対する各国の派閥が今まで行ってきた行為に対する非難であり、対象は帝国というよりも現状の世界そのもの。


 「メリア、君が喜べることを話そう。帝国における海賊は、内戦によって大きく数を減らした。軍縮に反対する派閥も含めて。外国との戦争をするつもりはない者が皇帝となるなら、これまでよりはマシな状況になるとも」

 「だといいけどね」

 「あとは、星間連合の方でも、海賊やその他の犯罪組織が大きく勢力を弱めた。どこかの誰かさんが、大暴れしたおかげで。いったいどこの誰だろうねえ? 意外と近くにいるのかも。そう思わない?」

 「…………」

 「それにより、星間連合の中央政府は治安の改善に力を入れることができるから、こちらも色々とマシになるだろう」

 「……そうかい。それは喜ばしいね」


 帝国はともかく、星間連合においてそのような話が聞けたことは、メリアとしては嬉しいものだった。

 ユニヴェールという一族、そして組織、その一員だったオリヴィアという女性、そして彼女の死。

 そのことを思い返すうちに、メリアの顔には少しばかりの悲しさが浮かぶ。


 「おや、なにやらしんみりしているみたいだけど、星間連合で犯罪組織と戦っているうちに何かあったのかな?」

 「色々とね」


 ユニヴェールは大きな犯罪組織だったが崩壊した。

 その次は、オラージュという組織と戦った。

 教授と呼ばれる人物が率いる犯罪組織であるが、彼を実質的に追い詰めたのは、彼が偶然作り出したセフィという少女。

 彼女の工作により、教授は準備は整わないまま動き、それは彼の死とオラージュという組織の崩壊へと繋がっていく。

 メリアすらも利用する少女の策略は、末恐ろしいものがある。


 「帝国と星間連合は、海賊とかが大きく数を減らした。なら、あとは共和国だが」

 「そこで私からの提案があるわけだね。共和国の海賊とかも壊滅させたくない? そうすれば、銀河はそこそこ平和になる」

 「……考えさせてくれ」

 「通信で話すのもあれだ。直接会おうよ。見せたいものもあるから」

 「場所は?」

 「あとで座標を送る」


 少し悩むメリアであったが、厄介なオリジナルからの提案に乗ることを決めた。

 海賊として生きていた時、色々なものを見た。基本的にはろくでもないものを。

 それゆえに、海賊をちょうどいい脅威として利用する者たちへの怒りは溜まっていたわけだが、短い間に状況は変わり続け、もはや海賊は勢力としての数を維持できない。

 共和国においても海賊が実質的に壊滅したならば、銀河は少しはマシになるだろう。


 「まあ、マシでしかないが」


 通信が切れたあと、メリアは苦笑混じりに首を振り、向かうべき座標が送られてくるのを待った。

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