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236話 面倒な客人たち

 惑星ドゥールの空をいくつもの宇宙船が飛んでいた。

 それらは民間企業が所有するものであり、今は軌道上から大気圏内部に降下しているところだった。

 大小様々な種類の船が、何百隻も降りてくる光景というのは、地上にいる者からすれば圧巻の一言。


 「メリアさん、映画くらいでしか見たことない光景ですよ、これ」

 「そうかい」

 「宇宙にも交通ルールはあるわけでして。軌道上の近くとか厳しくて、一度に何百隻も降りてくる光景って普通は見れないですもん」

 「だろうね」


 ルニウは水色の髪を揺らすほどに興奮した様子で話すものの、適当な返事をするメリアに対してむっとした表情となる。


 「なんですかなんですか。人が話してるってのに」

 「糞面倒な相手が来るという連絡が来てね。ほら」


 メリアは弄っていた端末を持ち上げると、画面上に表示されている文章をルニウに見せた。

 そこには、フランケン公爵とジリー公爵からの連絡が届いており、開発のための工事が始まるまでに訪れるという内容が記されていた。

 つまり、帝国における公爵という存在が、二人もここにやって来ることに他ならない。


 「この事って、開発を行う企業には?」

 「まだ教えてない」

 「うわあ……ひどい」

 「出迎える身としては、頭が痛いわけだよ」


 公爵という客人を、伯爵として出迎えることになったメリアは、盛大なため息をついたあと、ファーナに連絡を入れた。


 「糞面倒なお客人を出迎えることになったから、近くの星系に買い出しに行ってこい」

 「人間がいないといけないので、セフィを連れていきます」

 「ああ、わかった。それとセフィにはお小遣いを渡しとくか。買い出しついでに好きな物を買えるように」


 ファーナとの連絡が済んだあと、早速ルニウから抗議の声が出てくる。


 「私にもお小遣いください!」

 「子ども相手だからやってるわけで、お前は大人だろうが」

 「ください!」

 「……ったく、ほら」


 普段連絡を取るのに使う小型の端末には、電子化されたお金がいくらか入っている。

 メリアはやれやれとでも言いたそうな表情になりながらも、ルニウの持つ端末にお金を送ると、ここから出ていくよう促した。


 「これで満足したろ。あたしは、面倒なお客人があとどのくらいで到着するのか通信する。ほら出ていけ。しっしっ」

 「くっ、対応が冷たい……!」


 ややおふざけ混じりとはいえ、言われた通りにルニウは出ていく。

 一人になったあと、まずはフランケン公爵であるソフィアへ通信を試みるメリアだった。


 「お久しぶりです。あ、この映像通信ですが、周囲に人はいないので、無理に演技をせずとも大丈夫ですよ」


 映像通信により、茶色い髪と目を持つ幼い少女の姿が表示される。

 ソフィア・フォン・アスカニア。

 彼女はかつてしがない伯爵であったが、メリアの助力によってフランケン公爵位を相続することができた。

 それゆえに、見知った仲であるわけだ。


 「それはなにより。早速だけど、あとどのくらいで到着するのか聞きたいね」


 星系を越えて通信を行うには、大型の設備が必要になる。

 そのため、メリアは買い出しを他に任せて自分はドゥールに残っている。

 とはいえ、通信を受ける方も専用の設備がなくてはならないが、公爵ともなればその圧倒的な資金力でどうとでもなる。


 「三十時間くらいになります」

 「わかった。とはいえ、ドゥールは陸地がなくて一面が海ばかりな星だ。宇宙港から軌道エレベーターで降りるとしても、護衛込みで少数に留めてもらいたい」

 「わかっています。来る前に少しは調べてましたから」


 あとは到着してからということで、映像通信は切れる。

 ここまでは特に問題ないが、次の相手に通信をしようとした時、メリアはわずかに顔をしかめた。


 「あたしに譲る前の所有者だから、気になるのはわかるが、わざわざ来るとはね……」


 ソフィアは、あまり長くないとはいえ、彼女からの依頼をこなすために一緒に過ごしたことがある。

 その際、他の海賊との戦闘があったりしたが、それはもうとっくに済んだこと。

 しかし、イネス・ジリーという人物に関しては、どういう目的があって来るのか当たり障りのない予想しかできない。


 「まあ……聞けばわかるか」


 あまり気乗りしないメリアだったが、イネスへと連絡を行う。

 距離があるせいで多少待つことになるが、見覚えのある女性の姿が表示されると、少しばかり姿勢を正した。


 「まさか、あなたから通信が来るとは思いませんでした」

 「……あのような連絡をしておいて、よくもまあ」

 「いいではありませんか。定期的に所有者が変わるせいで、開発がなかなか始まらなかった海ばかりな惑星。その開発が始まると聞けば、気になるわけですよ」

 「だからといって、公爵自らが足を運ぶというのは、他への迷惑をもう少し考えてほしいもんだ」


 やれやれとばかりに肩をすくめるメリアであるが、その様子を見たイネスは何か思いついたような顔になる。


 「そういえば、幼いフランケン公爵も来るらしいですが、そちらにも私と同じことを言ったりしましたか?」

 「は? 何を言って……」

 「その反応からすると、言ってはいないようですね。つまるところ、顔見知り程度な私たちよりは深い関係であると予想しても?」

 「……おふざけにしたって、もう少し面白いのがあるだろうに」


 相手するのが面倒くさいことを隠そうともせず、メリアはイネスからの質問に対して手を適当に振って、答える気がないことを示す。


 「割と退屈なんですよ。星系間の移動というのは」

 「ああ、そう……」

 「私の領地からだと一週間以上はかかるので、興味の湧いた娯楽もやり尽くしてしまい、そうなると誰かをからかうのが意外と楽しくなるわけですね」

 「……糞面倒な趣味だね。やめてもらいたいんだが。というか、そんな一面があるとは」

 「ジリー公爵であるが、イネスという個人でもある。メリア・モンターニュ、あなたはモンターニュ伯爵であるが、それ以上にメリアという個人でもある。違いますか?」

 「違わない」


 生まれは、昔の皇帝のクローン。

 育ちは、十五歳までは貴族の令嬢だったが、そこからは海賊として過ごし、最近になって伯爵の地位を得た。

 これまで生きてきた間に起きたあらゆる事柄が、自分という存在を構成している。

 メリアにとって、良いことも悪いことも混ざりあった人生であるが、どれかを肯定してどれかを否定することはできない。

 今までの経験こそが、メリアという人物を形作っているために。


 「それで、ただ見物のためだけにここに?」

 「いけませんか?」

 「映像を見るだけでも充分だと思うけどね」

 「皮膚に感じる風、湿気、日光などは、その場にいないと感じ取れません。遠くからではわからないことというのは、ありふれています」

 「それだけ興味があるわけだ」

 「海だけの惑星、どのように開発を進めるのか気になるものでしょう。あとは、あの時も言ったように、あなたとの交友関係を深めたい部分もあります」


 公爵自ら、交友関係を深めたいと口にする。

 それは普通なら、かなり喜ばしいことであるが、言われた当人はなんとも言えない表情となるだけ。


 「光栄です、とでも言うべきか。とりあえず目の前に見える公爵閣下の顔を立てるためにも」

 「思ってもないことを言われても、私にはわかるので、無理に言わなくても構いません。それに、個人的に気になるのは、フランケン公爵となったソフィア・フォン・アスカニアという少女の方です。少しばかり、あなたについてのお話を聞いてみたら、面白いことが聞けたりするのではないかと考えていまして」

 「…………」

 「ふむ、綺麗過ぎる相手から睨まれても不快な気分になりませんね。これは新しい発見とでも言いましょうか」

 「鬱陶しい公爵様だよ。本当に」

 「この程度、まだまだ。貴族の中には私よりも鬱陶しいのがいるので、慣れておくといいでしょう」

 「……それはどうも」

 「それと最後に。私がそちらに到着するまで二十時間から三十時間になると思われます」


 ため息混じりに通信を切ったあと、メリアは背もたれに体を預けつつ天井を眺める。

 帝国の公爵という面倒なお客人を二人も出迎えないといけないため、その顔にはやや疲れたような表情が浮かんでいた。

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