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235話 相手の弱みと利益

 「言い訳があるなら聞きます」


 メリアは苛立ちを隠そうともせずに、目の前にいる二人の男性へ言い放つ。

 時間は既に深夜。

 大企業の社員である二人の男性は、非常に気まずそうな様子でその場に立っていた。


 「逃げ出そうとは考えないように。ビームブラスターを撃つので」


 ただの脅しではないことを示すかのように、二人の足元にビームが放たれた。

 それぞれ、ファーナとルニウが放ったものである。

 セフィは幼いため別室で待機しているが、代わりに端末を通じて同じ光景を共有している。


 「開発計画と共に、お二人の名前を見ました。帝国のマリユスに、共和国のクラーク。あなた方がこの施設内部で怪しい動きをしていたことに、気づかないとでも?」

 「自分たちはどんな処分を受けるのですかね?」

 「…………」


 対照的な二人だった。

 片方は積極的に話しかけてきて、なんとかこの状況を切り抜けようとしている。

 もう片方は、険しい表情のまま黙り込んだまま。


 「それはそちらの反応次第。まずは質問を。あの潜水艦について何か知っていることは?」


 本来ならドゥールという惑星には存在しないはずだった、正体不明な潜水艦。

 操縦していた下っ端らしき人物は、秘密を漏らさないよう口封じされてしまったが、それは簡単に切り捨てられるくらいの低い地位でしかないことを示している。


 「知っている、と言ったら?」


 そう話すのは、積極的に話しかけていたマリユス。


 「ひとまず内容を聞かないことには」

 「あの潜水艦ですが、共和国のGOEと帝国のEOGのどちらかが抱えている、特殊な部門が保有しているのではないかと」

 「ふむ」

 「まあ、どこの大企業も非合法なあれこれをする部門はあるわけですが。特に遺伝子関連ともなれば」

 「遺伝子といえば、私の髪の毛を手に入れようとしたのはどちらが主導を?」

 「あ、それはこちらの共和国の者がですね」

 「待て、上からの話では、帝国の者と協力するようにとあった。上が組んでいるわけだから、こちらだけに押しつけるのはやめてもらおうか」


 目の前で言い争う二人を目にし、メリアはわずかに顔をしかめたあと、片手をあげる。

 すると次の瞬間、二人の足元に再びビームが放たれるので、言い争いは強制的に終了した。


 「つまり、二つの企業は共同で私に対する悪巧みをしていたという話になりますが。この落とし前はどうつけるべきか」


 苛立ちを視覚的にわかりやすく見せつつ、脅すような言葉をぶつける。

 ドゥールという惑星の所有権はメリア個人にあり、そこで違法なことをしていた存在がいた証拠も揃っている。

 あとは、これを各種メディアに流してしまえば、色々な者が食いつくだろう。


 「……モンターニュ伯爵。提案があります」

 「あなたは、クラークでしたか。どうぞ、言うだけ言ってみてください」

 「今回の開発計画において、費用はすべてこちらで負担致します。ですので、どうか今回の出来事は内密に……」


 費用の負担。

 その言葉を聞いてメリアは少しだけ表情が変わる。

 それこそ、都市を丸ごと建設するに等しい膨大な費用がかかるため、一つの企業だけで負担できるとは思えなかったのだ。

 だが、もしもそれが実現するなら、実質的にかなりのお金を得たのと同じであるため、向こうからの提案を受け入れるだけの価値はある。


 「一番の問題は……それが可能なのかどうか、ですが」

 「上に聞いてみます。しばらくお待ちいただいても?」

 「ええ、どうぞ」


 メリアが頷くと、クラークは端末を取り出してどこかへと連絡を取り始める。

 そして相手が出た瞬間、現在の状況を手短に話してしまうのだが、わずかな怒鳴り声のあと、悩んでいるのか唸るような声が端末の向こう側から聞こえてくる。

 少しして、なんらかの返答があったのかクラークは端末を仕舞うと、メリアの方を向いた。


 「申し訳ありません。協議する相手と話し合うため、もうしばらく時間が欲しいそうです」

 「その相手は、そこにいる人物が所属している企業?」

 「はい。共和国のGOEと帝国のEOG、双方の上層部が今回の出来事において話し合いをするそうで」

 「やれやれ、あなたたちも大変ねえ? せっかくの未開発な惑星なのに。余計なことをしなければ、旨味に満ちた計画を推し進めることができたというのに」


 そこそこ嫌みのこもったメリアの言葉に、大企業から派遣された二人は無言のままでいた。

 というよりもそうするしかなかった。

 自分たちは、よりによって内戦で活躍した帝国貴族相手に、結構なやらかしをしてしまった立場であるわけだから。


 「このまま立ち続けるのあれだから、返事が来るまで別室に。ルニウ、案内を」

 「はい」


 モンターニュ伯爵家よりも前に惑星ドゥールを所有していたのは、イネス・ジリー公爵。

 さらにその前は、また別の貴族になるわけだが、施設にいる研究者などを見る限り、ジリー公爵の手がずっと前から入っている。

 つまり、メリア・モンターニュを敵に回せば、イネス・ジリーも敵になる可能性が高い。

 帝国における公爵という存在は、貴族という特権階級の中でもかなり高位の立場。

 敵対するならば、最低でも他の公爵家を味方につけないとどうしようもない。


 「いいんですか?」

 「何が?」


 二人きりになった瞬間、ファーナが声をかける。


 「向こうの提案を受ける感じですけど」

 「大金を払うから自分たちのやらかしを見逃してください。そう頼み込んできてるんだ。これがちょっとやそっとの金額なら、大企業の不祥事としてメディアに高く売りつけるところだけど、惑星の開発費用を全部向こうが負担してくれるというなら、それに乗っかる方がいい」

 「なかなかに悪党ですね」


 海賊としての経験は、メリアの考え方に一定の方向性を示している。

 自分の利益になるならば、ある程度の悪事は利用してしまうというものに。


 「まあ、現地の生物を勝手に運び出すとかはやばい行為だけど、それだけだ」

 「メリア様の遺伝子情報とかを手に入れようとしてましたけど、そちらについては?」

 「どうしたもんだかね。適当に両方の企業を探って、不祥事とかないか調べるくらいか。いざという時の脅しの材料がある方がいい」

 「やるだけやってみます。なんらかの結果が出るまで数日かかりますが」


 あとは待つだけだった。

 とはいえ、その待つ時間が長い。

 一時間が過ぎ、二時間が過ぎ、眠気から大きなあくびが出るものの、完全に寝入るわけにもいかない。

 半分起きて半分寝ている状態のメリアに対して、眠らずに済むファーナは音を立てずに近づく。

 そしてしゃがむと、しばらく顔を見つめていた。


 「……何してる」

 「メリア様の寝顔を眺めていました。触れると起きてしまうので」

 「…………」

 「話はまとまったのか、あの二人が来ます。睨むのはそのあとにどうぞ」


 メリアは盛大な舌打ちをしたあと、小さな鏡で自分の格好に崩れている部分がないか確認し、大企業の社員二人を出迎える。


 「モンターニュ伯爵、お待たせしました」

 「それで、答えは?」

 「共和国のGOEと帝国のEOGの双方が、共同して開発計画を進めることは可能でしょうか?」

 「なにぶん、そうしないとお互いの上が揉めてしまうので、それでないとまとまらないんですよ、はい」

 「構いません。そちらの“誠意”を断るわけにもいきませんから。計画はどの程度変わりますか?」

 「多少のすり合わせはありますが、提示したものと変わりはありません。ただ、双方の企業が関わるということで、進捗には遅れが出る可能性が高いです。お互いに規模を半分ずつにして投入する形になりますから」


 それは短い間に多くの妥協が行われたことを感じさせる案だった。

 相手が相手なので、数日もかけられないからなのだろうが、それにしても一つの事業を二つの企業が分担して請け負うというのは、なかなかに思いきった判断ではある。

 メリアはそう考えると同時に、立ち上がって背中を向ける。


 「そして費用も半分に。そうすることで、傷を浅く済ませると。……資材や人員はいつ来ますか?」

 「発注や輸送などを含めておよそ一ヶ月。そこから調査や建設をしていきますが、未開発な惑星、しかも陸地のないという状態なので、年単位での計画になります」

 「その間、見学されるもよし。他の惑星で過ごすもよし。お好きになさってください」

 「なら、一つ注文を。ここの代表者にパウロという海洋学者がいます。彼の意見を参考にしながら開発を進めてください」

 「海洋学者……わかりました。伝えておきます」


 一通りの話は済んだため、一度解散となる。

 翌日、集まった企業の者たちに向けて、二つの大企業に対して開発計画の許可を出し、惑星ドゥールにおけるあれこれはひとまずの決着を見せた。

 主に、相手の弱みを握ったメリアが大きな利益を得る形で。

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