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233話 表と裏

 一度外に出て、港にある潜水艦を見物したあと、どの企業を選ぶかの結論を出すのは明日以降というモンターニュ伯爵からの言葉により、惑星ドゥールに訪れた企業の者たちは一日近い休みを得ることとなった。

 もはや結果は予想できているため、中小企業の者たちはのんびりし始めるのだが、大企業ともなるとそうはいかない。


 「我々どちらかが、この惑星における最初期の開発に関われる」

 「おや、わざわざ話しかけに来るとは。そちらは不安なようで」


 惑星の開発計画において本命と見なされているのは、共和国のGOEと帝国のEOGの両企業。

 どちらも、海に関連する企業の中では最大手と呼べるところであり、そんな同業他社であるからか、争う相手ながらも一定の交流はある。


 「不安になるとも。これだけ大きな仕事は初めてなのだから」

 「まあ、陸地がなくて海しか存在しない惑星というのは、ここしかないので、その気持ちは理解できますよ」


 どちらもベテランと呼べるくらい長く働いている男性であり、今はカフェで仕事用の端末を弄っている最中だった。

 自分たちは派遣されている身であるため、現地の状況を報告しているわけだ。

 大きな仕事が駄目になった場合でも、その他の部分でドゥールにおける新たな仕事を見つけ出すために。


 「ところで、メリア・モンターニュ伯爵についてだが」

 「おや、ここで聞きますか。個人的には、そういう話はもう少し人目がないところでしたいのですが」

 「どこであっても盗聴されている可能性はある。ならばいっそのこと、こういうところで話す方がいい」


 共和国のGOEの者があくまでもそう話すため、帝国のEOGの者は軽く肩をすくめてから話に参加する。

 今いるカフェテラスは、現地に滞在する研究者たちなども利用しているからか、それなりに席が埋まっていた。当然ながら、他の企業の者たちもいる。

 ドゥールという星を所有している貴族について語る場合、それなりに配慮しないと、仕事の契約などで問題が起きてしまう。


 「やれやれ、共和国のお人はこれだから。帝国で貴族の方々相手に仕事をしていると、注意しないといけない部分は多いというのに」

 「そう言うが、これでも帝国担当ということでそこそこ長く暮らしてる。貴族についてもある程度理解しているとも」


 今回の仕事は、そもそも帝国に暮らしている者でないと関わることが不可能である。


 「……どこから話しましょうかね。正直なところ、第一印象としては驚くくらいに若いと感じました」

 「それは確かに。ここへ訪れる前、資料に目を通したのだが、モンターニュ伯爵は二十五歳であるという」

 「帝国で内戦ありましたでしょ? その時に活躍したから、このドゥールという惑星を貰ったそうなんですが、それより前のことは知っていますか?」

 「……いや、資料には乗っていなかったので私は知らない」


 知らないという言葉に対し、帝国のEOGの者は軽い笑みを浮かべると、名刺を取り出した。


 「そういえば連絡先とか名前とか伝えてませんでした。自分はマリユス。残りはそれに書いてあります」

 「クラークだ。本来なら、宇宙港で会った時に渡しておくべきだった」


 お互いに名前と連絡先を交換すると、今話題の貴族についての話に戻る。


 「モンターニュ伯爵ですが、貴族となったのは実は最近だったりします」

 「理由は?」

 「既に亡き家族の仇を取ったから、らしいですよ。こちらでわかっているのは、当時の皇帝陛下によりモンターニュ家の再興が決められたあと、彼女が一度監獄惑星に囚人として送られたという部分まで。タルタロスってやつです。今はフルイドという知的生命体の居場所ですが」

 「……なんということだ。伯爵という立場ながらも、かなり重要な人物ではないか」


 共和国の人間であるクラークからすれば、モンターニュ伯爵は普通の貴族よりも特別な人物に思えた。


 「まあ、その後皇帝陛下は暗殺されたんですけどね。流れとしては……家の再興、監獄惑星に送られる、大昔の皇帝だったメアリという人物が内戦を引き起こす、皇帝暗殺事件、内戦の決着、惑星ドゥールの所有権をモンターニュ伯爵が手に入れる。こんなところですか」

 「これはますます、今回の開発計画を通したくなる」

 「さて、そればかりは本人が決めること。自分たちにできるのは、ただ待つことだけ」

 「予算、期間、その他諸々を合わせてどちらを選ぶのやら。待ち続ける時間は、少しばかり心苦しい」


 結果がわかるのは明日。

 それまでは悶々とした気持ちを抱えながら仕事に打ち込むしかない。


 「ま、お互い似たような気持ちがあるわけで。そろそろ自分は失礼しますよっと」

 「もう話は終わりか」

 「ほら、あそこ」


 マリユスはさりげなくカフェテラスの入口を示した。

 その先には、モンターニュ伯爵の配下と思われる水色の髪をした綺麗な女性が、カフェテラスに今にも入ろうとしているのが見えた。


 「さすがに、伯爵殿の配下がいる前で話すのは怖いので、そろそろ終わりにしようかと」

 「それなら、仕方ない。内戦で活躍した結果、このドゥールという惑星を手に入れるに至った伯爵。そんな彼女の配下ともなれば、なかなかに厄介だろうから」


 帝国の内戦。

 それは人類以外の知的生命体という存在をも巻き込み、帝国が二つに分かれて争った出来事。

 そんな内戦で活躍したという事実は、モンターニュ伯爵だけでなく、その配下すらも只者ではないと思うには充分過ぎた。


 「ふう……」


 帝国のEOGから送り込まれたマリユスが立ち去ったあと、共和国のGOE本社に送る資料を作成していくクラーク。

 数十分後、彼はカフェテラスを出ていくが、水色の髪をした女性へ軽く視線を向けたあと、歩きながら端末を弄る。


 「ルニウ・フォルネカ……帝国のファリアス大学を二十歳で卒業した人物……」


 端末の画面上には、ルニウ・フォルネカという人物のこれまでを示す経歴が表示されていた。

 普通の人間は滅多に手を出さない、総てに対する遺伝子調整を施された人物。

 遺伝子調整する部分が多くなればなるほど、費用は高額になっていくが、彼女の両親はそれでもなお、自分たちの子に対して徹底的な遺伝子調整を行う。


 「……こんなところで、彼女を目にすることができるとは」


 一度トイレに向かったあと、個室の中で画面は切り替わる。

 通常、人間に対して行われる遺伝子調整というのは、限られた部分がほとんど。

 費用的な問題もあるし、成功や失敗の確率が増減するためだ。

 もちろん、遺伝子調整する部分が多ければ多いほどお金はかかるし失敗しやすくなる。

 それがまさかの成功をしたということで、一部の界隈では有名になった。


 「総てに対する遺伝子調整……生まれて生存できているだけで奇跡。水棲生物で実験的なことを行ったことはあるが……」


 クラークは途中で呟きを止めた。

 GOEは大企業だけあって、海に関連する生物の遺伝子を用いた実験を行う部署がある。

 その中に非合法な実験をしているところもあったりするが、今のところ上手くいったことはない。

 時折、役に立つかもしれない副産物があるかどうかという有り様。


 ブブブブ……


 考え込みながらズボンのまま便器に座っていると、連絡が来たのか端末がわずかに振動する。

 すぐにクラークは画面をまた別の部分に切り替えると、その顔はやや険しいものとなる。


 「新しい仕事か……表の方に影響が出ないよう動かねば」


 画面に書かれた文章はすぐに消されるが、そこにはこう書かれていた。

 “帝国の者と協力して、伯爵と配下の遺伝子情報を入手せよ。切った髪や爪、あるいは垢でも構わない”


 「やれやれ、今回の一件、上は組んでいるか」


 重いため息のあと、トイレを利用したという風に見せかけるため、水を流してから個室を出た。

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