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229話 潜水艦内部

 遠方から、潜水艦が宇宙船に牽引されながら運ばれてくる光景は、何度目かになる驚きを現地にもたらした。

 それを見ていた者の一人として、海洋学者のパウロは軽いため息をつく。


 「……しばらく平穏な日々は遠ざかる。これはもう、本腰を入れて伯爵を手伝うしかないか」


 武装した潜水艦。

 それは、違法な手段によって持ち込まれた代物であることは確実。

 問題は、どこの誰がそのようなことを実行したのかという部分。

 大勢が見ている中、とうとう港に潜水艦が到着する。

 そして宇宙船の方はというと、空いているところに着陸した。


 「……モンターニュ伯爵」

 「研究所からの手伝いを求めることがあるかもしれないので、その備えをしてもらえると助かります」

 「ここが戦場にならないのであれば」


 海洋学者たるパウロは、平穏を求めてこのドゥールという辺鄙な場所にやって来た。

 あまり人がおらず、自分のしたいことに集中することができる静かな環境。

 彼は、メリアに対して会釈したあと、研究所の中に戻っていった。


 「メリア様、潜水艦は閉じたままですが」

 「ハッキングか、物理的に扉を破壊して中に入る」


 損傷のせいで潜れない潜水艦であるが、その扉は固く閉ざされている。

 周囲に人の目があるので、対応をファーナに任せようとするメリアだったが、その時扉が開くと、中からパワードスーツに身を包んだ女性が現れる。


 「こっちもパワードスーツ……さてどんな繋がりがあるのやら」

 「ああいうのを見ると、どこかの工作員だったりするんじゃないのかってのが、私の意見ですけども」


 さすがにルニウも怪しんでいるようで、いつものふざけた様子は鳴りを潜めている。

 パワードスーツの女性は両手をあげているため、メリアは隠し持った武器にさりげなく手を置いたまま近づいた。


 「中に入りたい」

 「おや、罠があるとは考えないのですか?」

 「その時は、外にいる者がお前を殺す」

 「まあ、あまり表沙汰にできない話とかをするなら、中のがいいでしょうね。こちらへ」


 メリアとルニウがついていき、ファーナは外で待つ。

 実のところ、外にいながらもメリアの所持する小型端末に入り込むことで、実質的にファーナも同行することができる。だが、それについては教えないことで、いざという時の備えとした。


 「……広いところと狭いところの差が大きいね」

 「潜水艦なので」


 他には誰もいないのか、がらんとした内部はそれなりの広さを保っている。

 ただ、一部の通路では、しゃがまないと通れないところがあったりするなど、宇宙船と比べると不便な部分が目立つ。

 やがて、宇宙船の操縦席と同じような一室に入ると、そこはいくらか生活感があった。


 「これは、宇宙船のパーツを流用して作られている?」

 「水の中に潜り、普通に移動できる程度の性能があれば事足りるので」

 「ま、戦闘用ではないということか。多少は戦えるよう改造されているとはいえ」


 宇宙船のパーツを流用しているということは、整備がしやすいということでもある。

 そして一番のメリットは、どこでパーツを購入しても怪しまれないという部分。

 軍から民間といったあらゆるところで宇宙船は利用されている。

 大量の人々の中に紛れることで、潜水艦として利用していることに気づかれる可能性を極限まで減らすことができるというわけだ。


 「あのー、お話し中に横から失礼しますけど、これって……」


 ルニウは会話に割り込むと、やや引き気味な様子で壁を指差した。

 そこには、生物の死骸となんらかの液体に満ちたガラスの容器が大量に並んでいた。

 揺れても大丈夫なよう、ゴム製の抑えが存在するが、メリアは無造作に容器の一つを手に取ってみせる。


 「これは、この星の生物か」

 「そうなります。遺伝子情報の収集のために、腐敗する前に保存を」

 「……許可なく現地の生物を他の惑星に運ぶことは、法で禁止されているってのに」

 「法を真面目に守る企業は、大きくなれませんよ。あなたも、後ろ暗い仕事をしていたならわかるはず」


 やれやれとばかりにメリアは頭を振る。

 目の前にいる相手が言っていることは、なんとも腹立たしいことではあるが一理ある。

 大量の企業が存在する宇宙において、他を上回るためには、法律を真面目に守っていては大きくなることは難しい。

 何十年、何百年もかけて少しずつ大きくしていく真面目なところもあるにはあるのだが、全体から比べると少数派でしかない。

 そもそも、メリア自身、海賊時代に企業からの違法な仕事をしたことはある。


 「……裏の世界を知っている身からすると、否定できないのがなんとも」


 ため息混じりに呟きつつ、メリアは空いている手で小型の端末を持ち、それを近くに置いた。

 そして隠すように立つ位置を変えると、端末の中に入っているファーナが独自に行動を始めた。


 「ええと、ところでお名前とかは」


 その事にルニウも気づいたようで、注意を逸らすために名前を聞き出そうとする。


 「名前は……」


 パワードスーツを着た女性が名乗ろうとした瞬間、パワードスーツにて小さな爆発が何度も起きる。

 それは中にいる人間を害するものであるのか、女性は血を吐いて床に崩れ落ちると、苦しそうな声を出す。


 「まさか、このパワードスーツは口封じのための仕込みがされているのか」

 「潜水艦もやばそうですけど、脱出しますか?」

 「いえ、問題ありません。わたしは潜水艦にハッキングを仕掛けましたが、自爆するようなあれこれがありませんでした」


 潜水艦から様々なデータを吸い出そうとしたファーナからの報告を受け、とりあえずもうしばらくは潜水艦に留まることに。

 これ自体が、違法な行為が行われていたという証拠の塊であるため、ひとまず調べるためだ。


 「こいつは……死んでるか」


 人の命を奪うことは意外と簡単。

 心臓か脳に重大な損傷を与えるだけでいい。

 駄目押しとして、他の臓器も傷つけたならば、さらに確実。

 倒れている女性の傷を確認したメリアは、険しい表情となる。


 「頭と胸がやられてる」

 「確実に殺しにきてますね。でも、この人は口封じされるとは思っていなかったみたいですけど」

 「使い捨てられるだけの下っ端でしかなかった、という話だよ。ありふれているけどね」


 仕事を頼むだけ頼んで、無事に終わったあと口封じのために消そうとする。

 そうやって消された海賊はいくらでもいる。

 なんなら、しょっぱい犯罪者でもよくあること。


 「ファーナ、このパワードスーツから情報を得られるか?」

 「データを転送してからです。もしかすると、接続した端末を破壊するようなものが仕込まれているかもしれません」

 「わかった。しばらく待とう」


 待つ間、メリアは潜水艦の中を探索していく。

 内部は事実上の密室ながらも一人暮らしができる程度には設備が整っており、シャワーなども完備してある。

 冷蔵庫があるので開けてみると、中は宇宙港でも購入できるようなものばかり。


 「物資面では、これといった苦労はしてなさそうだね」

 「でもでも、きついと思いますよ。ずっと自分一人で仕事し続けるのって」

 「給金とかもそこそこ貰えてたはず。わざわざ潜水艦を用意してしまえる規模の企業となると……意外とあるね」


 小規模なところでは無理とはいえ、中規模なところでも数千万はある。


 「人類の領域が広いせいで、企業の数も膨大だ。まいったね、これは」

 「一つの惑星でもあれなのに、有人惑星以外にはコロニーとかもありますからねえ」


 自殺行為に近い宇宙の開拓を行う者がいる。誰も足を踏み入れたことのない宇宙空間に、何世代にも渡って活動できる大型船へ乗って飛び出す者たちが。

 成果はあったりなかったりするが、それでも着実にあらたな惑星を見つけては、人類はワープゲートを設置してその領域を拡大していく。

 そしてそれは、海賊などの後ろ暗い者たちにとっても、活動範囲が増える喜ばしいことであった。


 「……企業以外の、犯罪者が仕事を頼んだという線も捨てられない」

 「メリアさんみたいに、犯罪者だけどひとまず足を洗って表の仕事に集中しているという可能性も」

 「まあ、結局はどんな情報を得られるか次第」


 しばらくすると、ファーナからデータの転送が終わったのでパワードスーツに接続するという通信が入る。

 メリアとルニウはすぐに戻り、警戒したまま武器に手を伸ばすと、解析が終わるのを待った。

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