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227話 怪しい小型船

 「小型船の動きは?」

 「他の惑星に向かう様子です。位置的には、軌道エレベーターの真反対側になるでしょうか」


 こちらから動けば、すぐに相手に気づかれるため、今は宇宙港に留まったまま監視を続けるしかない。

 レーダーには、一定の速度を保ったまま移動していく怪しげな小型船の進路が表示されていたが、その時通信が入ってくる。

 それは地表にいるルニウからのもの。


 「どうした?」

 「パウロという学者の人から、解析が済んだことを伝えるように言われまして」

 「降りることはできない。気になる船を見つけたからね。結果をこっちに送ってもらうことはできるか?」

 「一応、聞いてみます」


 通信は一度途切れ、数分後にもう一度行われる。


 「こちら、パウロ・ハンプトン。モンターニュ伯爵には、直接話す必要があると判断した」

 「わざわざそうするということは……調査を頼んだあの代物は、ただのゴミではない?」


 メリアがそう問いかけると、パウロは軽く同意する。それと同時に、解析した結果が送られてくる。

 書かれていたのは、機械の部品について。

 特殊な金属で構成されたそれは、元々は宇宙船の一部に使われるような代物であるが、摩耗した結果使い物にならなくなっているとのこと。


 「宇宙船の部品……」

 「正直なところ、この程度ならいくらでも再利用が可能に思える。なぜ捨てたのかはわからない」

 「どこの企業が作ったものであるのかについては?」

 「そちらもさっぱり。謎は深まるばかりだ」

 「そうですか。調査してくださってありがとうございます」


 通信を切ったあと、メリアは腕を組んで顔をしかめる。


 「潜水艦に使わせるために、再利用できる部品を捨てている……? しかし、それならあの潜水艦が存在する意味は……」

 「小型船、進路を変えてドゥールへと向かっています。大気圏へ突入するような動きがあります」

 「大気圏への突入か。こっちも突入できるオプションがついたのを使って追いかけるか」


 メリアはそう言うと、大型船トレニアの格納庫へと急ぎ、単独で大気圏へ突入できる小型船に乗り込む。


 「メリア様が乗るよりも、わたし単独で動かした方が安全ですが」

 「大気圏内における宇宙船の動かし方ってのは、だいぶ癖がある。経験はそんなにないだろう? あたしがやった方が上手くいく。ファーナは軌道上付近で待ち構えておけばいい」

 「わかりました。もし対象が宇宙へ逃げてきた場合、すぐ捕まえてみせます」


 ファーナはそう言いつつ、発進直前の小型船に自分も乗り込むと、大型船の方にはさらに別の端末を配置させた。


 「別に乗る必要はないんだけどね」

 「少しでも一緒にいたいという、わたしの思いが」

 「はいはい」


 ファーナは人工知能という存在であるため、自分の体となる端末があれば、複数の場所に同時に存在することが可能である。

 とはいえ、さすがに限度はあるのだが。


 「人型の端末は、あとどれくらい残ってる?」

 「出会った時と比べて、だいぶ数を減らしたので、今は十体ですね。エーテリウムを使用できれば、いくらか数を増やすことはできますが」

 「そうかい。今いる分だけで足りてるけどね」


 小型船を格納庫から発進させたあと、メリアは怪しげな小型船のあとを追いかける。

 相手は既に大気圏に突入している最中であり、こちらに気づいたところで動くに動けない状況。

 やや遅れる形でメリアも大気圏への突入を行うと、対象の船がレーダーの範囲内にいるかどうか機器類にも気を配る。


 「あとは追いかけっこだね。もし大気圏からの離脱を行うのなら、軌道上でトレニアが待ち構えている」

 「果たしてどのような目的でこの惑星に……」

 「捕まえればわかる。向こうは死にたくないのか、自爆して証拠隠滅するってこともなさそうだし」


 大気圏内では、宇宙空間のように速度を出すことができない。

 重力や大気のせいで船体に負荷がかかるのと、そもそも宇宙空間より狭いのが理由だった。


 「まずは、小手調べといこうか」


 速すぎても遅すぎてもいけない。

 相手の速度に合わせて、少しずつ加速しながらビーム砲による攻撃を加えていく。

 当然ながら、船体を覆うシールドに防がれてしまうが、相手の動揺を誘うことに成功したのか、スクリーンに映る小型船はわずかにふらついていた。


 「沈めたら色々と終わりですよ」

 「わかってるよ、そんなことは」


 厄介なことに、ドゥールには陸地がない。

 辺り一面、海だけが広がっている。

 宇宙船という代物は、海の上に浮かぶことを目的に作られた船とは違い、海に浮かぶことができない。

 推進機関を無力化した場合、海中に沈んでいってしまう。


 「さてさて、向こうの小型船に海にも対応したオプションがついてると楽だけど」

 「わざわざドゥールに来ているとなると、浮力を増すなんらかの設備があるかもしれませんが、戦闘によって破損する可能性もあるので」


 一応、ワイヤーなどで船同士を繋ぎ、牽引することもできなくはないが、そのためには作業を行う時間が必要。

 作業の間、沈まないことが必須である。


 「まあ、武装優先でいくか。攻撃手段がなくなれば、降伏を受け入れるかもしれない」

 「その前に、こちらがやられないようにする必要がありますが」


 いつまでも逃げ続けることはできないと判断したのか、小型船はこちらを向くと、撃てる武装をすべて利用して反撃に打って出た。

 ビームに関しては、シールドが尽きないうちは少し当たったところで問題ないが、当たらないに越したことはない。


 「ちっ、さすがにそこそこやる!」


 小型船というのは、大型船や中型船と比べて最も個人の技量が影響する。

 見た目は市販されているのと似たり寄ったりだが、中身は改造されているのか、全体的に動きが良い。

 技量ではほぼ互角、しかし操縦している宇宙船の性能の差からややメリア側が不利。

 そんな状況だった。


 「それでは、わたしが通信を行い、向こうの集中力を乱します」

 「ああ、やってくれ」


 メリアが戦闘に集中している間、ファーナは独自に通信を試みる。

 無線の場合は無視される可能性があるが、幸いにも相手は通信に出た。


 「降伏を。こちらにはまだまだ戦力があります。今なら、そこまでひどい罰を与えないことを約束しましょう」

 「……断る」

 「なぜですか? こちらとしても、殺すつもりはありません。この惑星は貴族が所有しており、勝手に侵入したあなたは、どう処罰されても致し方ない状況にあります」

 「そちらは、貴族の私兵か」

 「大まかには。どうします? このまま大気圏内での戦闘を続けますか? それとも宇宙へ逃げますか? 軌道上には、既に別の戦力が待機しています」


 返答はなかった。

 しかし、多少は集中力が乱れたのか、メリアの攻撃が命中する割合は増え、あちらの攻撃を回避する割合も増えていった。


 「少しは楽になった」

 「ではもう一度通信を……む、切られています」

 「仕方ない。機能が駄目になるくらい攻撃を加えるしかないか」


 ファーナによって集中力を乱すというやり方により、一時的にメリアが有利な状況になる。

 その有利を拡大させるため、さらなる攻撃を続けていくと、相手の船体の一部から煙が出てくるように。

 それを見たメリアは、すぐさま相手に通信を入れる。


 「今一度こちらの要求を伝える。降伏を。下は海しかなく、落ちれば沈むだけ。拷問の類いは行わないことを約束する」

 「…………」

 「降伏しないのであれば、こちらとしても攻撃を続行するしかないが」


 通信に出た時点で、なんらかの迷いがあることは確実。

 相手がずっと無言のままでも、メリアは辛抱強く待つが、その時ファーナが近くにやって来ると、こっそりと耳元で囁く。


 「……レーダーに新たな反応。潜水艦です」

 「……助けに来たか? あるいは口封じか」


 牽制として、反応がある辺りに威力を弱めたビームを何発か撃ち込むと、少しずつ潜水艦は遠ざかっていく。

 そしてレーダーから反応が消えると、ずっと無言だった通信相手が口を開いた。


 「……手荒に扱わないのであれば、降伏する」

 「もちろん、約束する。念のために、砲台を無力化させてもらうが」

 「……最小限の被害で」

 「ああ」


 小型船は空中で静止し、一時的にシールドが解除される。

 船体が損傷しないようビーム砲のみを破壊したあと、軌道エレベーターまで一緒に飛行していく。

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