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223話 海洋学者の提案

 「早急な説明を」

 「ふむ、そのゴミは水中から? なら、この星について多少なりともお話しましょう」


 軌道エレベーターの地上部分を増設するような型で存在する各種施設、もとい研究所。

 メリアは戻ったあと、険しい表情のまま、海洋学者のパウロに会いたいというのを近くの研究者を通じて伝える。

 すると、惑星の所有者である貴族からの要請を無視することはできないのか、パウロが現れる。

 彼は最初面倒そうな表情でいたが、メリアが持っている藻のついたゴミを見ると、真面目な表情へと切り替えた。


 「宇宙から来た時点でお分かりになられたでしょうが、この星には衛星が少ないのです。人工的な方ですが」

 「……大気があるにもかかわらず、武装の搭載されている防衛衛星は十基のみ。普通は、民間とかのを含めれば数千。現状はあまりにも少ない」

 「未開発な惑星であるため、色々な部分が軽視されているのです。……こちらへ」

 「同行者は?」

 「いない方が好ましいと思っています」

 「それなら仕方ない。全員、適当なところで待っておくように」


 何か見せたいものがあるのか、パウロはついてくるよう促す。

 ただし、来ていいのはメリアのみという条件を出してくるため、今のところはそれに従う。

 いくらか歩くと、機材の揃った一室に入る。


 「ここは?」

 「修理用の部品が揃った倉庫といったところです。あまり他人に聞かれても困るので」

 「そうなると、とても厄介なことを聞けそう」


 メリアがややおふざけ混じりにそう言うと、パウロは表情を変えずに肩をすくめる。

 それなりに歳を重ねた彼の顔から読み取れるのは、ある種の諦めだった。


 「この星にいるのは、多くても百人前後。軌道エレベーターの大規模な点検の際は千人以上にはなりますが、基本的に人はいません」

 「だから人工衛星とかは少ない、と」

 「あとは、このドゥールという星の所有者が、定期的に変わっているというのも大きいです。早ければ一年、長くても十年。その間にコロコロと所有者が変わり、それゆえに開発が進まないのです。なんとも困ったことに」


 惑星の所有者というのは、文字通りの意味である。

 惑星全体に対する権利を持っているため、開発を行いたい企業からすれば、所有者に話を通しておかないといけない。

 なお、軌道エレベーターに関しては建設された地点から半径数キロメートル以内は帝国が権利を所有することになっている。

 そのため、通常なら軌道エレベーターを起点に色々と事前の準備が行われるのだが、ドゥールという惑星は海しかなく陸地は存在しない。

 一応、比較的水深が浅いところに軌道エレベーターは建設されているものの、企業が何かするのは難しい。


 「増設された形の研究所ですが、これはジリー公爵が私費を投入することで作られました」

 「帝国の公爵という立場ならば、帝国が所有するという部分を実質的に自分が所有するという形に持っていくことはできる、か」


 帝国において貴族というのは特権階級。

 公爵ともなれば、貴族の中でも上位であり、そこそこ無理を通すことができてしまう。


 「資金的な支援を受けている我々からすれば、ジリー公爵はありがたい人物ではありますが」

 「成り立ちは理解しました。それで、このゴミについての話に移りたいのですが」


 メリアが藻のついたポッドを持ち上げると、パウロは少し目を細め、ゴミと化したそれを見つめる。


 「端的に言うと、監視の目が足りないので違法な業者が捨てに来るわけです」

 「単独で大気圏に突入できる船によって?」

 「状況的にはそうなります。軌道エレベーターは一つのみ。我々がいるので隠れて通り抜けることは不可能」

 「……海の汚染に繋がるというのに、宇宙のどこかではなく、わざわざ惑星に捨てに来るとは」


 海についてそこまで詳しくはないメリアだが、それでも貴族としての教育を受けたことがあるため、自然環境について学んだことはそれなりにある。

 呼吸可能な大気がある惑星において、環境に悪影響を与える行為は厳しく制限されているが、これは空気という資源に問題が出ては困るため。

 結局のところ、人類の活動範囲は空気がある惑星次第な部分が大きく、それは必然的に国の領域にも影響するからだ。


 「不法投棄を防ぎたいのであれば、警備用の艦隊を巡回させればよろしい。もっと踏み込んで、現行犯を捕まえたいのであれば、監視する手段を増やして、怪しい船をその場で捕らえるくらいでしょうか」


 パウロからの提案はありふれたものだった。


 「個人的には、捕まえたいと思っています。ついでに、不法投棄する業者や、そこに依頼しただろう企業を訴えることも想定していまして」

 「それはまた……大変なことです。一定の戦力を整えてからのがいいでしょう」

 「戦闘になると?」

 「自分を訴える者に対して、運悪く“事故”が起きてしまえば、企業にとっては楽な限りですから」

 「まるで見てきたかのように言いますね」


 その言葉に対する答えなのか、わずかな苦笑が返される。


 「長く学者をやっていると、企業との関わりが出てきます。その時、偶然見かけることはあるわけです。見たくもないものを」

 「だから、こんな何もないところに?」

 「ええ。企業の対立に巻き込まれて死ぬのは避けたい。なので、平穏だろうここを選びました。……モンターニュ伯爵の行動次第では、その平穏がなくなるかもしれませんが」


 それはどこか注意するような言葉であり、警戒を促すものでもあった。

 つまるところ、行動次第では危ういことになる可能性が高い。そんなところが関わっている。

 言外にそう語っているわけだが、パウロは詳しいことを口にはせず、そろそろデータの確認があると言って立ち去っていった。


 「……何か知っていそうだが、あの様子だと言うつもりはないか」


 一人残されたメリアは、壁に寄りかかると端末を取り出す。

 普通なら連絡を行うためだが、特に画面上を弄ったりはしない。

 既に内部にファーナがいるため、その場でやりとりできるからだ。


 「端末に入り込んでいたから、さっきの会話を聞いてたろ。どう思う?」

 「後先考えないなら、パウロという学者を取っ捕まえて無理矢理にでも聞き出すのが手っ取り早いですね。何か隠していることも聞けそうです」

 「後先考えないなら、あたしが惑星の所有者になることもないわけで」

 「そうなると、提案された通りに監視の目を増やすしかありません。ただし、不法投棄する業者に怪しまれないように」

 「……まったく、ゴミを捨てるなら宇宙空間に捨てておけと。なんで惑星に捨てるのやら」

 「確かに不思議ですね。大気圏への突入、そして離脱というのは、大なり小なり宇宙船に負担を与えるのに」


 はっきり言って、わざわざ惑星に降り立って不法投棄するのは効率が悪い。

 人のいない星系に出向いて、適当な宇宙空間に捨てる方がよっぽど楽。

 なのに、わざわざそうするのはなぜなのか。


 「……あたしが見つけたのは人工子宮としてのポッドだ。こうなると、他のゴミについても探してみる必要があるかもしれない。何かの手がかりにはなるはず」

 「では、監視網の作成と、海におけるゴミ拾いを並行して進めることにしましょう」

 「ああ。次は近隣の星系に買い出しに行かないとね」


 必要なものを揃えるために、メリアたちは一時的に別の星系へと移動する。

 監視とかがしたいなら、各国にそれ専門の企業があるのだが、そういうところに頼ると問題が起きた時に揉み消すことが難しくなる。

 自分たちで準備を進めることで、何が起きても誤魔化せるようにしておくというわけだ。

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