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219話 海賊としての差

 宇宙空間というのは、惑星の表面という限られた範囲と比べ、圧倒的なまでに広大であり、特定の対象を探すとなると苦労する。

 とはいえ、技術が発展していくにつれレーダー関係の性能は良くなっているため、大型の宇宙船が搭載できるような代物ならば、かなり広い空間を探知することができる。


 「レーダーに反応がありました。依頼人が示したところとほぼ変わりありません」

 「……罠でないといいけどね」

 「メリア様、誘拐犯にはどう接触しますか?」


 ファーナは尋ねる。

 正面から仕掛けるのか、別の存在になりすますのか。

 メリアは苦笑混じりに答えた。


 「まあ、悪党らしく海賊として接触しよう」

 「宇宙港に立ち寄ったりしたところを知られていると思いますが」

 「そこはどうにでもなる。交渉はあたしが行うから、他の者は全員黙っておくように」


 今ファーナが動かしているのは、市販されている大型船なので、海賊として振る舞っても怪しまれない。

 一定の速度を保ちつつ、目標となる地域に近づくと、黒いシートらしきものに包まれた中型の宇宙船が三隻いるのを、カメラが捉える。


 「なんとか拡大して見れる程度の距離には近づいたけど、二百メートル級とはね。そこそこお高い代物じゃないか」

 「中型船の中では大きめですね」

 「それを複数揃えてるということは、油断ならない相手というわけだ。……映像通信を行う。ルニウ、セフィ、画面の中に映らないよう離れているように」

 「はい」

 「そうします」

 「わたしはどうしましょう?」

 「顔を隠してロボットな手足を剥き出しの状態に」


 メリアたちは一つの艦隊として行動している。数十隻ある船のうち大型のは一つ、残りは小型ばかりだが。

 そのため、相手は攻撃する動きを見せない。戦闘になればどうなるかは、火を見るよりも明らかであるためだ。

 そこが狙い目だった。

 近づきながら映像通信を試してみると、画面上にはどこか安堵した様子でいる、荒くれ者な男性が現れる。


 「へへへ、わざわざ連絡してくるとは、物好きがいたもんだ」

 「そっちこそ、小惑星とかの身を隠すものがない宇宙空間で、わざわざ黒いシートを被せているのはどうしてだい。まるで、何かを待っているような感じだが」

 「そこまで理解しているなら、あんたはもう気づいておられるんでしょうよ」


 浮かぶのは下卑た笑み。

 メリアのことを同類と認識してのものだが、当のメリア本人からすれば、あくびが出るような相手でしかない。


 「何か盗んで、それをこの宙域で取引する。そんなところか。海賊相手に取引するのは、同じ海賊か、あるいは表沙汰にできないことを依頼するどこかの企業……特に医療関係」

 「その言い方ですと、あんたも似たようなことをしてきたようで」

 「まあね。で、そっちはどんな代物を取り扱ってる? 盗んできたものによっては、少し買い取りたい。自分で盗みに行くよりは買った方が簡単だからねえ」

 「いやー、それがちょいと、他の海賊に売るのは避けたい代物で」

 「ふーん、そうかい。なら宇宙のゴミになってもらうか。残骸漁りは、あれでなかなか楽しいから」


 相手はたった数隻と少数であり、自分たちは艦隊として数十隻もの戦力がある。

 それを背景に、メリアは脅していく。

 当然ながら、画面上に映る荒くれ者な男性は慌てた様子になり、少しすると渋々ながら部下にとある物体を持ってこさせる。

 それはつい最近目にした、見覚えのある卵型の機械。

 中には胎児らしき存在がいるのが確認できる。


 「……これはまた珍しい代物だ。ポッド型の人工子宮。しかも胎児入り」

 「欲しがる者がいる。俺たちはそいつに売りつける。それだけだ」

 「どこの誰が欲しがるのか知りたいけれども」

 「おいおい、それは勘弁してくれ。こういう仕事は、信用ってのが大事になる。ほいほい口にしてたら、仕事が来なくなっちまう」


 そう簡単には取引先を口にしないのを見て、メリアは腕を組んで考え込む。

 映像通信の最中なので、わざとその姿を見せつけているわけだ。


 「うーん……困ったね」

 「な、なんだよ」

 「例えば、あたしがここにずっと居座ったらどうなる?」


 攻撃はしない。しかし逃がしもしない。

 人工知能であるファーナによって、艦隊は海賊たちを包囲するように動いていく。

 こうなると、秘密裏に取引をすることは不可能になる。


 「……くそったれ、何が目的だ」

 「とりあえず、積み荷は全部貰うことにしようか。なに、こっちで有効利用するから安心するといい」

 「てめえ、ふざけるんじゃねえぞ!」

 「なら、死ぬかい? 小型船をいくらか仕留めたところで、全滅という結果になるが」

 「ぐ、うぎぎぎぎ……」


 画面上には、歯ぎしりする相手の姿が映っていた。

 それはもう、かなり怒りに満ちた様子だが、戦力差は圧倒的なので、攻撃するという選択肢を選べないのだ。

 そこでメリアは追加の言葉を口にする。


 「ふん、むさ苦しい荒くれ者が、己の無力さに対して怒りながらも動けない姿は見物だったよ。こちらにも、多少の優しさはある。どこの誰と取引するのか教えてくれるなら、いくつかのポッドだけで我慢しよう」

 「……お前みたいな海賊には、二度と会いたくねえ」

 「お褒めの言葉ありがとう。悪党としては嬉しい限りだよ」


 演技なのか、本気でそう思っているのか。

 どちらにも思えるメリアの態度は、映像通信に入り込まないようにしているルニウやセフィからすると、なんとも堂に入っている姿だった。


 「……メリアさんてば、悪党を演じるのは上手いですね。いやまあ、これまで海賊やってきてる時点で悪党側なんですけど」

 「あれくらい凄い人物という感じを出せるなら、お母さんとして選んだのは間違いないと思えます」

 「というか、よくもまあメリアさんをお母さんにしようと考えますよね。五歳くらいしか差がない私はできないのに」

 「ふふふ、子どもの特権とでも言いましょうか。ただの子どもでは親を選べない。血の力があってこそ。ちなみに、ルニウと似た感じで迫っても暴力使って追い払われないのは、やはり子どもだからです」

 「ずるい。子どもであることを最大限に利用するとか。こっちは大人なのに」


 二人がこそこそ話している時、物が飛んでくる。

 それは中身が入っているドリンクのボトル。

 話が聞こえてきたメリアが、黙らせるために投げつけたのである。


 「うおっと」


 距離があったので、ルニウはぶつかる前に掴み取ることに成功し、しばらく口を閉じて静かにし始める。

 セフィもそれに続くため、メリアは軽いため息のあと画面上に映る男性に目を向けた。


 「なんだなんだ。いきなり画面の外に投げつけたが」

 「個人的な事情でね。それで、取引先を教えてくれるのか。教えないのか」

 「教え、いや、教えない」


 荒くれ者な男性は、顔をしかめたまま教えると言おうとしたが、画面の外を見て表情を変えると、教えないと言い切った。

 おそらく、レーダーを見て増援が来たことを確信したのだろう。


 「ファーナ、レーダーの反応は」

 「識別不明なのが、五十隻。大型船が十、残りはすべては中型船です」


 識別不明。

 それは近づくべきではない存在。

 普通なら、民間船は民間船としての識別が、軍艦もそれ相応の識別が設定されてある。


 「……無人の機甲兵で、黒いシートに包まれた船の推進機関を破壊。その後、無力化した船をこの大型船トレニアに繋いでその場から移動。ファーナ」

 「お任せを。艦隊については?」

 「ドゥールの宇宙港に連絡入れろ。軌道上を漂ってる衛星の指揮権を寄越すように交渉する。それと合わせて迎撃だ」


 行動はすぐに行われた。

 無人の機甲兵は、損傷を恐れずに攻撃を加えることができるため、怪しげな中型船は瞬く間に砲台や推進機関を潰されることで、宇宙を漂う棺桶と化した。

 その後、惑星ドゥールの宇宙港に連絡をいれると、メリアは自らモンターニュ伯爵であると名乗り、惑星の権利書については映像通信越しに見せつけた。


 「早く返答を。一刻を争う」

 「わ、わかりました」


 惑星の周囲には、隕石やデブリを迎撃するための武装を搭載した防衛衛星というのが、大なり小なり存在する。

 このドゥールにも、たった十基とはいえビーム砲を搭載した衛星が存在するため、少しでも戦力を増やすためにメリアは利用するつもりだった。

 あとはこのまま戦闘に移行するかと思われたその時、謎の艦隊は接近するのをやめて、やがて逆方向に進む。

 そして他の星系に繋がるワープゲートによって去っていく。


 「……宇宙港とかを傷つける危険は避けるか」

 「何者でしょうか?」


 軌道エレベーターと一体化している宇宙港。

 もし、流れ弾によって軌道エレベーターが損傷、あるいは倒壊するような事態になれば、ここはセレスティア帝国の領域なので、帝国軍が大々的に動く。

 地上と宇宙を繋ぐ軌道エレベーターへの攻撃は、それほどまでに禁じられているのである。


 「まあ、今の奴らがどこの誰かは、あいつらから聞くとしようか」

 「お母さん、この血を飲ませて無理矢理に聞き出しますか?」

 「セフィの血には頼らない」


 それは、ある意味とても手っ取り早い手段。

 しかしメリアは首を横に振ると、セフィが血を流すことを拒否した。

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