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214話 やや忙しい時

 大型船トレニアの中に設けられた一室。

 そこではなんでも屋の社長として、各地域の状況を確認するメリアの姿があった。

 海賊という裏の世界で過ごす犯罪者ではなく、表に暮らす者として企業を設立したのだが、ようやく本業に戻ることができたのである。

 視線の先にある端末の画面上には、大まかな収支が表示されていた。

 最初は大きな仕事をこなしたこともあって黒字ばかりだが、途中からはほぼ放置していたに等しいため、赤字続きという有り様。


 「メリア様、支社の一つから連絡が」

 「こっちに回してくれ」


 実質的な秘書として活動するファーナからの報告を受け、どういう連絡が来ているのか確認をする。


 「社長~! こちらではこなせない仕事を頼む貴族の方々ばかりなんですが、どうすればいいですか。社長を指名しているものばかりで」


 なかなかに悲痛な叫びであるが、余裕自体はある様子。

 どういう仕事なのか、リストとしてまとめられたものを見てみると、メリアはわずかに顔をしかめた。


 「デートのお誘い、訓練として艦隊規模での模擬戦闘、あまり表沙汰にできない荷物の輸送。やれやれ、普通の仕事はなさそうだね」

 「どうしますか?」

 「なんでも屋以外の部分ですることがあるから、全部お断りで」

 「わかりました。メリア様が目を通した上で断ったとなれば、帝国の貴族としてもさすがに引き下がるでしょう」


 少し前、帝国を二分する内戦があった。

 簒奪者であるメアリ・ファリアス・セレスティアを中心とした皇帝派と、以前の皇帝に忠誠を捧げている反皇帝派に分かれて。

 メリアは反皇帝派に加わり、当時皇帝であったメアリと戦い、それに勝利した。

 その結果、やや押され気味だった反皇帝派はなんとか内戦における勝者となったため、帝国貴族からすればメリアは頼れるが恐ろしい人物という評価がなされている。

 それゆえに、あまり失敗してほしくない仕事を依頼しているのだろうが、赤字続きとはいえ潰れるほどではない。

 なのでメリアからすれば、仕事を断ることができたのである。


 「小さな仕事は、現地の方でどうとでもなる。大きい仕事は、星間連合での戦闘で負った損害をどうにかしてから」

 「しばらくは、赤字と黒字を行ったり来たりですね」

 「潰れなきゃそれでいい」


 経営に関するメリアの考えは、かなり大雑把なものだった。

 潰れないならどうにでもなる。

 普通なら、企業したばかりの時は頑張っておくべきなのだろうが、初期に大きな仕事をこなしたことと、内戦における勝利の立役者ということが合わさり、名前はそこそこ売れている。

 そのため、あまり関与せずに放っておいても、従業員の給料を支払える程度には仕事が入ってくるというわけだ。


 「そういえば、ここからだと所有している惑星まであとどのくらいかかる?」

 「一週間ほどになります」


 メリアの質問を受けて、ファーナは帝国全域が描かれている地図を表示した。

 現在いる星系と、目的地となる惑星がある星系を繋ぎ、大まかな日数も付け加える。


 「微妙な範囲だ。もう少し短いなら行く気になるが……」

 「あ、メリアさんメリアさん。それなら、途中に私の両親が住んでるところがあるので、そこに立ち寄りながら貰った惑星を目指すのはどうですか?」

 「こら、勝手に画面を共有して盗み見るな」


 少しすると、帝国全域の地図を勝手に見ていたルニウからの通信が入ってくる。

 さらに、両親がいるという星系を示すピンも設置されるという始末。


 「ここです、ここ」

 「まあ、道中にあるなら立ち寄れるが」


 距離的には、二日もあれば到着できるところ。

 メリアは画面の一部を切り替え、ルニウの顔が映るようにした。


 「なんですか、私の顔が見たくなりました?」

 「そうだと言ったら?」

 「え、その、そう言われると……」


 メリアとしては適当に言ったのだが、言われた本人は、わずかながら動揺していた。

 とはいえ、すぐに落ち着きを取り戻す。

 メリアの視線は、何か観察するようなものであるからだ。


 「なんですか、なんなんですか。そりゃ、自分の顔には自信ありますけど」

 「ちょっと黙れ」

 「むむむ、はい」


 静かにしていれば、という言葉がつくがルニウはかなりの美人である。

 しかし、彼女が持つ水色の髪と目というのは、遺伝子調整していることを示すものであり、その美しさは親によって作られたものであるという見方もできる。

 基本的に、遺伝子調整できるお金があるなら、自分の子どもにそれを行うのが普通。

 なにせ、安定して見目麗しい子どもを育てることができるから。

 さらに追加の料金を支払えば、見た目以外に勉強や運動に関する才能も付与することができるときた。

 例外としては帝国貴族だが、こちらは遺伝子調整していないという、ある種のブランドを維持する目的があるので、代わりに大量の子どもを作り出してその中でも優れた者を選別している。


 「ルニウの親は、いくらかけたんだろうね」

 「具体的な金額は聞いてませんけど、かなりの大金なのは確かです」


 綺麗な見た目以外に、頭が良く、身体能力にも優れている。

 遺伝子に手を加える部分が増えれば増えるほど、費用は高額になっていく。

 一つを弄るより、複数を弄る方が、肉体や精神面での異常が出ないようにする難易度は高いからだ。

 ただ、メリアからすればルニウは割と異常な部分があるため、遺伝子の調整に失敗した部分があるのではないかと考えたりする。

 さすがに口に出したりはしないものの。


 「ルニウの両親は、お金持ちなのかい」

 「いいえ。中流な感じです。私一人のために、貯金とかが一気になくなる程度には」


 両親について話すルニウは、普段とはどこか様子が違っていた。

 それだけ親に対して複雑な感情を抱いているわけだが、メリアは当たり障りのない範囲で会話を進めていく。


 「住居は軌道エレベーターの近く?」

 「だいぶ離れてます。交通機関が揃ってるので、そこまで問題にはなりませんけど」


 一般的には、軌道エレベーターに近いほど土地の値段は上がり、家賃も高い傾向にある。


 「会いに行くとして、事前の連絡は?」

 「こっちでしときます。ほぼ確実に会えるとは思います。あ、来るのはさすがにメリアさんだけの方が」

 「わかってる。ファーナやセフィを連れて行ってもあれだしね」


 あまり大勢で向かっても、それはそれで問題がある。

 自らの子に徹底的な遺伝子調整をした親という存在。

 それはメリアにとって、どこか気になるものだった。

 メリア自身、クローンという生まれの秘密があるとはいえ、十五歳までは帝国貴族としての教育を受けていた。

 それゆえに、交流するのは遺伝子調整をしない他の貴族の子ばかり。

 海賊として活動していた時は、そもそも相手が遺伝子調整しているかどうかなんてわからない。

 ルニウのように、明らかに普通では出てこない髪の色をしているならなんとか判別できるが。


 「そういえば、どういう関係であると伝える?」

 「そこはまあ、社長と従業員が妥当でしょう。海賊関係のは隠しててください。両親は、私のことをどこかの企業に入っていると思っているので」

 「なら、少しは社長らしく振る舞おうか」


 当面の目的は決まる。

 まずルニウの両親に会い、そのあと自分のものになった惑星を目指す。

 そのあとのことは、またその時に考えればいい。

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