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206話 待ち伏せ

 「……ここを嗅ぎつけるのが、存外に早いな。困ったことだ」


 いくつものモニターが存在する一室において、ため息混じりの呟きが響く。

 基地の主である教授が、目の前で見ることのできる厄介な状況に頭を痛めていたのだ。

 画面上に映し出されているのは、基地の内部における戦闘の様子。

 大きな人型の機械が先頭に立ち、その後ろから数十名の兵士が援護している。

 それはまるで一つの塊のようであり、その塊に基地内部の戦力は次々にやられていく。


 「こうなっては、致し方ないか」


 このままだと若返りの研究どころではないため、教授は近くの機器類を弄ると、画面の一部を切り替えてコードを入力していく。

 まず一つ目は、製造途中の生体兵器の解放が行われる。

 二つ目は、基地の自爆という文字と自爆までの残り時間が表示される。

 もはやここを離れるしかないため、あらゆる証拠と共に基地を破壊するつもりであるわけだ。

 使い捨てること前提の戦力をぶつけて足止めしつつ。

 そのあと、教授は足早にとある一室へと向かう。

 そこにはセフィがいた。


 「どうしましたか」

 「ここを出る準備を」

 「とうとう見つかりましたか。この基地が」

 「ああ、残念なことに。君にとっては喜ばしいだろう」

 「そうですね。待ち続けた甲斐がありました」


 白い髪に白い服をしているセフィは、着のみ着のままの状態で部屋を出る。

 教授はそれを見て、わずかに首をかしげる。


 「おや、しばらくは不自由な日々になるが」

 「問題ありません。事態がどう転ぼうとも、より良い結果に繋がると思っていますから」

 「そうか。ついてきなさい。脱出用の船に向かう」

 「わかりました」


 基地の内部では激しい戦闘が起きていた。

 だが、教授とセフィの二人だけはそんな状況とは無縁かのように歩き続け、やがて一隻の小型船がある格納庫へと到着する。


 「ちっぽけな格納庫が、まさかの当たりとはね」

 「……その声、メリア・モンターニュか。他には誰もいないのは、分散して侵入しているからかね?」

 「そうだよ。覚悟してもらおうか」


 そこには本来いるはずのない存在がいた。

 三メートル近い機甲兵らしき代物に乗ったメリアがいたのである。

 教授はそれを確認すると、セフィを抱きかかえて盾にしつつ格納庫を移動していく。


 「はっ、平然と盾にできるとはね」

 「君にはこの子を撃てまい。助けるために来たのだから」

 「教授、あんたにとっても大事な存在だろうに」

 「私の身の安全、セフィの確保、一石二鳥というやつだよ」


 格納庫部分は重力が弱めてあるのか、教授はとても軽快に移動するため、メリアは接近して捕まえようとする。

 しかし、それを妨害するものがあった。

 格納庫にある小型船が、ビームを撃ってくるのだ。


 「そうそう、ちなみに言っておくがその船を破壊すると、機甲兵に乗っている君はともかく、生身の私たちは爆風などで死んでしまう。それには気をつけてほしい」

 「ちっ、くそったれな話だ」


 手っ取り早いのは、船かビーム砲台の破壊。

 ただ、自動で動いているのか小刻みに回避しようとするため、なかなか砲台を破壊することはできない。

 持ってきている武器は実弾のしかなく、宇宙船を守るシールドのせいで砲台を狙ってもいくらか逸れてしまう。

 そもそも、宇宙船に搭載できる程度の砲台とはいえ、ビームを受けたら機甲兵は一撃でやられてしまうため、攻撃よりも回避すべき場面が多いのも影響している。


 「さて、セフィはここに入っていなさい」

 「シェルター、ですか」


 メリアが無人の船相手に戦っている間、教授は壁の一部を開けてセフィに入るよう促す。


 「シェルターであり、緊急用のポッドでもある。私は彼女を排除するが、その間に流れ弾に当たってはいけないからね」

 「どちらかが死ぬというわけですか」

 「そうなるだろう」

 「……そうですか」


 セフィは何か言おうとしたが、結局は口を閉じてしまうため、教授はそのままシェルターを閉じると、すぐさま別の壁に近づき、設置されている機器類に対して何か認証を行う。

 すると、今度は壁の一部が大きく動き、やや古めなパワードスーツと、専用の銃火器や装備が置かれている一室が現れる。


 「やれやれ、一応用意したこれを着ることになるとは。肉体や神経が鈍っていないことを願おう」


 機甲兵よりも小型であるが、その分あらゆるところで使い勝手の良いパワードスーツ。

 教授はそれに身を包むと、手早く近くの装備を見繕い、メリアへと襲いかかった。


 「くっ、まさか直接戦いに来るとはね」

 「自分の手でやらないといけないことは、それなりにあるものだ。メリア・モンターニュ。君の排除もその一つ」


 小さなビームを高速で連射するマシンガンを撃ちながら接近してくる教授に対し、メリアはセフィがこの場からいなくなったのを確認すると、バーニアを吹かして船の真上に飛び移る。


 「教授、あんたとの戦いよりも先にこいつを潰す」

 「いいのかな? 弾薬にも限りはあるだろうに」

 「そっちの相手しながらビームを撃たれるよりはいい」


 まずは実体の斧を叩きつけることで砲台を破壊、さらに後方へ回り込むと、推進機関にライフルを何度も撃ち込んで行動不能にする。

 これにより、あまり広くはない格納庫に大きな障害物が生まれることになったが、メリアと教授、二人の戦いはここからが本番だった。


 「教授、一応言っておくよ。降伏する気は?」

 「ない」

 「外は艦隊が包囲してる。逃げ出したところで捕まるだけだが」

 「突破する方法は用意しているとも」

 「そうかい。なら戦うしかないわけだ」


 お互い、種類は違えど機械に身を包んでいる。

 それゆえに、生身では無理な銃火器を使うことができるため、激しい撃ち合いとなった。

 接近すると危ないため、どちらも一定の距離を保つが、目まぐるしく上下左右に動くので攻撃が命中することはない。


 「さすがは本職の海賊だけある。低重力下においてそれだけやれるとは」

 「これくらいできなきゃ、とっくに死んでる」

 「海賊というのは、本来一人ですべきものではない。集団でするものだ。そういう観点から見ると、君は実に惜しい。ここで死ぬのだから」

 「ほざいてろ。死ぬのはそっちだよ」


 長く続く撃ち合いだが、それにも終わりは訪れる。

 弾には限りがあるからだ。

 実弾だろうと、エネルギーだろうと、補充しないなら銃はやがて使い物にならなくなる。

 メリアは勝負を決めるため、回避のために小刻みに吹かしていたバーニアの出力を一気に増加させると、突撃を仕掛けた。

 多少の被害を覚悟しての行動であり、それに対して教授は動かずに待ち構える。


 「これで終わらせる!」

 「まだ終わらんよ。私は」


 メリアは斧を振りかぶり、速度と質量を合わせた一撃を放つも、教授はわずかな動きだけでギリギリのところで回避すると、メリアの乗る機械を両腕で掴み、そのまま投げる形で床に叩きつけた。


 「ぐっ、くそ、何が」

 「君は機械に乗っている。しかし私は機械を着ている。その違いだよ、これは。人間の肉体の延長線上として運用できるため、操縦する代物よりも繊細な動きが可能なのだ」


 説明するような言葉と同時に、教授はビームの刃を発生させる剣を手に持つ。

 それをそのまま、倒れているメリアへと振るう。

 機甲兵はデブリにぶつかっても大丈夫なよう、頑丈に作られているが、ビームの刃を受けて無傷でいられるほどではない。

 装甲は切り裂かれ、内部の搭乗者にも被害が出る。


 「……まだ、終われない」

 「いいや、終わりだよ。今の一撃で死ななかったのは驚くが、ならば突き刺すだけだ」


 その瞬間、メリアの乗っていた機体は弾けた。

 より正確には、装甲となる部分を高速で全方位に射出したのである。

 そのせいか戦闘は不可能になるほど壊れるも、射出された破片は、至近距離にいた教授をパワードスーツごと貫いていた。


 「ぬ……馬鹿な……このような、ことは」

 「は、ははは。市販されてる代物じゃない。海賊の使う代物だ。それを忘れているんじゃ、こうなるさ」


 メリアはまともに動かなくなった機体から出てくるが、ビームの刃による怪我は大きいのか、立っていることすらやっとという有り様だった。


 「はぁ、はぁ……ああ、くそ……息をするだけで痛い。だけどこれで」


 だが、なんとか気力をふりしぼると、血を流しながらうずくまる教授に向けてビームブラスターを構えた。

 何か切り札を使われても困るため、その前にトドメを刺そうとしたのだが、その時遠くからセフィがやって来るのが見えた。

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