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204話 荒っぽい手段

 「メリア、緊急連絡」

 「何があった?」


 アンナは手短に説明する。

 オラージュは星間連合の政府以外にも、軍との繋がりを持っていることを。

 そして豪華客船を護衛する周囲の巡洋艦に半数が乗り移っているということも付け加える。


 「事態がこう転ぶかわからないわ。どうした方がいいと思う? 個人的には、方針を変更してもいいと思うけど」

 「……いや、このままエミラテスという豪華客船を襲う。人質を確保している限り、巡洋艦は手出しできない」

 「あらら、頑張って確保し続けないといけないわね。戦闘になれば犠牲が出てしまうし」

 「一度引き下がるのも、ありだとは思ってる。でもね、エミラテスに残った幹部の動向が割と気になってね」


 半分だけ巡洋艦に移り、残りの者が留まる理由。

 それはもしかすると、オラージュという組織を追い詰める上で役に立つのではないかとメリアは考えた。

 そしてもう一度アンナとルニウが船内で行動しようとしたその時、ハッキングが完了したという報告がファーナによって行われる。


 「どうしますか?」

 「船内の隔壁をすべて作動させて乗客が身動きできないようにしろ。そして、名簿の中にあった幹部の者たちを捕らえて尋問だ」


 やるべきことは単純明快。

 まず豪華客船をハッキングしたファーナが、偽の避難警報を鳴らす。

 すると、何もないのに警報が鳴ったことを疑問に思う船長により、乗客の方々は部屋に一時的に待機するようにという指示が出される。

 これは混乱を避けるためなのだろうが、それこそがファーナの狙いだった。


 「た、大変です! 隔壁が!」

 「何が起きている!?」


 大量の乗客が自由に動き回っていると、隔壁で動きを制限しようとしても限界がある。

 だが、部屋に戻ってくれたなら、扉を弄って閉じ込めることができ、船員たちもバラバラに分断することで早急な対応ができないようにしてしまう。

 あとは簡単である。

 ファーナの案内によって孤立している警備員のところに向かい、襲撃して武器を奪う。

 これを何度か繰り返して武装を整えたあと、いよいよ本命であるオラージュの幹部のところへと向かう。


 「こちらの部屋に、幹部の一人がいます」

 「ファーナ、ありがとう。あなたのおかげで楽に物事を進めることができるわ」


 扉のロックが解除されると、武器を構えながら部屋に入る。

 中には、一人の女性がいた。

 それなりに歳を重ねているのか、髪には白いものが混じっている。

 白髪の範囲的に教授よりは若い。

 犯罪組織の幹部だけあって、隠し持ったビームブラスターで撃ってくるが、アンナは軍に所属している人物、ルニウは荒事を経験してきた、そんな二人が相手では勝ち目などあるはずもない。

 早々に無力化されると、丸腰なのを一度確認してから尋問が開始される。


 「……ずいぶんと、荒っぽいやり方のようだけど」

 「いくつか聞きたいことがあるわ」

 「怪しい動きをしたら撃つので、気をつけてください。人は簡単に死ぬので」

 「脅しても無駄。外の護衛が黙ったままでいるとでも?」


 幹部だからなのか、一切の動揺を見せない。

 それどころか、護衛である巡洋艦のことを口にすることで主導権を取ろうとしていた。


 「どこの手の者?」

 「さあ」


 質問に対してアンナは首をかしげてみせる。

 真面目に答えるつもりがないからだが、駆け引きをするような時間はないので、まずは非殺傷設定にしたブラスターを何度か相手に撃ち込んだ。

 最初は末端の手足、そこから少しずつ胴体の近くを撃ち、最後は心臓部分に。


 「ぐっ……」

 「主導権はこちらにあります。その事を理解した上で、こちらの質問に答えてくれると嬉しいわ」

 「質問、ね」


 幹部の女性は、アンナに睨むような視線を向ける。


 「オラージュを束ねている教授はどこに? 私たちは少しばかり用があって。あなたのような幹部なら、何か知っているかなーと」

 「言うとでも?」

 「なら、用はないので死んでもらいましょうか。別の者に聞く。犠牲はあまり出したくないけれど、犯罪組織の幹部なら多少は問題ない」


 既に何度も撃ったからか、銃口を目の前にまで持っていくと、さすがに幹部の表情は変わる。

 アンナの引き金の軽さは身をもって実感したため、死が間近に迫っているのを理解しているのだ。


 「……脅されても、言うものか」


 恐怖からか手足にはわずかな震えがあるものの、言わないという覚悟があった。

 脅しのために何度か撃ったところで、効果は薄いだろう。

 そこでアンナは別の質問に切り替える。


 「しょうがない。なら居場所は諦めるとして、オラージュがここで何をしていたのか教えてもらえる?」

 「……そちらが、本命か」


 何か勘違いしているようだが、アンナにとっては都合がいいのでそのままにする。


 「まさか、のんびりと豪華客船での日々を過ごしていたわけでもないでしょう」

 「……裕福な者でも、表では手に入れることのできないものはある。そういう者に対して、裏での取引をしていた」

 「ふーん? まだまだ隠されていることがありそう」

 「ここでの取引は、大したことないものを扱っていた。遺伝子を弄った違法な動物とかを。わかりやすいところで言えば、数ヶ月前にあったパンドラ事件というものにおいて、アルクトスというクマがいたでしょう。その同類を販売していた」


 共和国の大企業アステル・インダストリー。

 その不祥事はあまりにも凄まじいものであったため、当然ながら他の国にもニュースは広まっている。

 アンナとルニウは悪事を暴いた当事者であるのだが、それについては明かさない。


 「やれやれ、とんでもないことをしているわね。……言葉を話せるようにしてあるの?」

 「高級品は、色々と弄っているので話せる。そうでないものは、鑑賞用として見た目などを変えている」

 「取引相手のリストとか貰える?」

 「持っているはずがないでしょう。そちらが勝手に探せばいい」

 「まあ、今回はこれで済ませましょ」


 幹部の女性との話を切り上げるアンナであり、部屋から出たあとルニウに囁く。


 「残っている幹部に、教授の居場所を知っている者がいると思う?」

 「いたらいいなとは思っています」


 あまり期待できないからか、ルニウは渋い表情で答える。


 「他の幹部にも当たってみましょう。正確な居場所はわからずとも、ヒントくらいは得られるかも」


 他の幹部がいる部屋に向かうと、撃って脅したりしつつ色々聞き出そうとする。

 アンナは割とニコニコしながら撃つため、幹部からしたらとんでもない危険人物に見えるわけだ。

 意外と口が固い者ばかりなため、目ぼしい情報は最初の幹部から聞き出したものくらい。

 これではわざわざ豪華客船を襲った意味がないため、先程以上に荒っぽい手段を使うことをアンナが決断すると、ルニウにも手伝うよう求めた。


 「ちょっと相手を押さえてもらえる?」

 「ちょっとじゃ済まない気が。まあ手伝いますが」

 「な、何をするつもりだ。たとえ拷問されても……」


 非殺傷設定のビームブラスターは、威力を弱めることで当たった相手を麻痺させることができる。効果時間は短いものの。

 まず、別の幹部を麻痺させたあと、手足を縛って身動きできないようにしてしまう。

 そして、アンナはビームブラスターを殺傷設定に切り替えると、威力を高めて範囲を極限まで狭くしたものを指の関節に撃ち込む。

 こうして指が千切れない程度に穴を開けたあと、非殺傷設定にした弱いビームを傷口に撃つ……というよりは照射していく。


 「あ、あああっ!!」

 「最初は痛みに気づかない。でも、時間と共にその痛みは脳に伝わる。じっくりと焼いていくから」

 「うわ、恐ろしいことしますね」

 「神経のいくつかがやられても、再生治療を受ければ問題ないわ」


 数秒ほど照射し、数秒の休憩。

 それを何度か繰り返してから、アンナは問いかける。


 「教授の居場所を教えてもらいたいのだけど」

 「ぐ、ううう……」

 「我慢するのはいいけど、人間には神経があちこちにあるの。痛みを感じるものがたっぷりとね。言わないなら、脳が遮断しない程度の痛みを与え続けるけど」


 どこで学んだのか、手慣れた様子で拷問を行うアンナに、ルニウは内心引いていた。

 それを口に出すと、目の前で縛られている幹部が我慢を続けそうなので黙っていたが。


 「言う……言うからこれ以上は……」

 「オラージュのトップである教授。彼はどこに?」

 「帝国との国境付近にある、星間連合のとある星系。その小惑星の一つに、偽装された基地がある」

 「判別方法は?」

 「わからない。幹部でも知っているのは一握り。ただ、物資の搬入などで船がドッキングする場合を考えると、小惑星やデブリが集まっている場所のはず」

 「そう。情報ありがとう」


 アンナはお礼を言うと、情報を口にした幹部を撃ち殺した。


 「なぜトドメを?」

 「教授の居場所を喋ったという情報が伝わるのを阻止するため。今までにも、オラージュの者とは戦って殺してきたでしょ?」

 「それはそうですけども」

 「あとは適当にマスクしながら乗客から色々と奪って、ただの海賊の仕業にしてしまいしょ」


 教授という人物。オラージュという組織。

 それらを相手するなら、ぬるいやり方では対抗できない。

 情報を得た二人は、来た道を戻りながら適当に乗客から色々と巻き上げつつ、ファーナと合流し、そのあと戦闘機に乗り込んでエミラテスという豪華客船から離脱する。

 推進機関を動かさず、ステルス状態を維持したまま。

 その後、遠隔操作によってエミラテスは加速していき、巡洋艦はあとを追いかけるため戦闘機とは距離が開く。

 それを確認したあと、戦闘機は推進機関を動かしてその場から去っていった。

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