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188話 わずかな情報

 襲撃してきた者をどうにかしたあと、ファーナによる安全確認と並行する形で、メリアは怪しげな中型船に目を向ける。

 その後、脱出艇から小型船へと乗り移った。


 「あの船に通信を繋ぐ。ルニウ、合図を出したら損傷しない程度に脅しをかけてやれ」

 「任されました」


 すぐに通信を行うが、抵抗するような動きが見えたため、メリアはきっぱりと言う。


 「こちらの要求を伝える。降伏をしてほしい」

 「…………」

 「中型船一隻だけで何ができる? 周囲を見れば、勝ち目がないことは理解できるはず。こちらの言うことに従うなら、命は取らない」

 「……お優しいことだ。しかし、ここでほいほいと降伏なんぞしたところで、そのあと殺されてしまう。当然、この通信は記録されてて送られてるわけでな」

 「こっちも忙しいから、考えが変わることを待ってるよ」


 通信が記録されて送られていると聞いて、メリアはすぐに通信を切った。

 そしてファーナに連絡を入れると、ハッキングができるかどうか尋ねた。


 「できるかい? 船そのものを使い物にならなくすれば、あの中にいる口の固い者たちは、色々と話すはず」

 「予備の端末を船体の表面に送り込みます。ただ、口封じのために向こうの船が自爆する可能性があるので、ハッキングは失敗する可能性が」

 「まあ、失敗したらしたでその時だ」


 ファーナは、予備の少女型の端末を機甲兵に乗せた状態で送り込む。

 一見すると、脅しとして軽い攻撃を加えるための機体に思えるが、実際には少女型の端末を隠すためのもの。

 船体の表面に降り立つと、表面の装甲を破壊して内部のケーブルを引きずり出す。

 そこから有線でのハッキングを行うわけだが、さすがにいくらかの時間がかかる。

 ハッキングに気づかれないようにするため、ルニウに合図を出して散発的な攻撃を行うが、あくまでもシールドを突破しない程度に留めた。

 それから数分後、ファーナからの報告がメリアに届く。


 「ハッキングはまだ完全には完了していませんが、自爆や通信関係を機能不全にすることはできました」

 「なら、あとはわかりやすい行動だけだね」


 メリアはそう呟くと、中型船に対してルニウと共に攻撃を行う。

 これまではシールドを突破しない程度の攻撃だったのが、船体そのものを損傷させる勢いで仕掛けていく。

 通信はできないので向こう側の様子を確認できないが、推進機関は動かないので、ファーナに制圧用の機甲兵を出すように指示する。

 船に取りついた機甲兵は、内部に繋がる扉を無理矢理に抉じ開けようとするが、その時船内から出てくる者がいた。

 機甲兵の手に掴まれた状態でメリアの操縦する小型船にやって来ると、お互い宇宙服を着たまま話し合いが始まる。


 「我々は降伏する。ハッキングにより、何もできなくなってしまったせいで」

 「それはよかった。こちらとしても、殺さずに色々と聞きたいことがあるから」


 殺してしまうのは楽だが、それでは情報を得られない。

 ファーナによる安全確認は、格納庫部分は完了したとのことなので、中型船に乗っていた者たちをすべて大型船であるトレニアに移すと、いよいよ尋問が開始される。


 「まず聞きたいのは、どうして襲ってきたのか。それも、キメラという生体兵器を体内に仕込んでまで」

 「それは……」

 「メリア・モンターニュ。あなたに賞金がかけられているからだ」

 「へえ、興味深い話だね」


 言いにくそうにする者はいたが、一人だけ意を決した様子で口を開く者がいた。


 「どこの誰が、そんなことを?」

 「それはわからない。あなたを殺したなら、大金が貰える。ここにいる者はすべてそのために集まった」

 「お、おい……それを言うのは」


 あまりにもきっぱりと言うので、周囲の者たちは焦り始めるが、降伏したのだから危害を加えるつもりはないとメリアが口にすると、少しずつ落ち着いていく。


 「なぜお金が必要か聞きたいね」

 「とにかくお金がないから。だからこんな仕事をするしかない」

 「……まあ、理由はそれでいい。重要なのは、どこでキメラを体内に仕込んだのか。普通の場所じゃないはず」


 小型化したキメラという代物。しかも卵からの運用ときた。

 制御できない大型のものと比べれば、格段に扱いやすくなっているが、だからといって適当な場所に保存はできない。

 手術できる設備、キメラを生産できる設備、そういった代物が揃ったところでないと、体内に仕込むなんてことは不可能。


 「残念ながら、わからない。手術を受けた者によれば、船で運ばれている最中、ずっと個室に閉じ込められ、歩いて移動する時は目隠しをされていたとのこと」

 「秘密の場所か。どこに隠されているのやら。……手術を受けた者とはどこで合流した?」

 「星間連合の、この星系」


 メリアは、目の前にいる人物に星間連合内部を記した地図を見せると、特定の場所が示される。

 そこは現在位置から二つほど星系を越えた先にあり、時間にしておよそ四日かかる。


 「発展が遅れてるところとなると、中央政府のことを気にせずに済むか」


 ホライズン星間連合という国は、元々は帝国に対抗するために複数の国々が組むことで誕生した。

 その成り立ちゆえに、地域によって豊かなところと貧しいところが存在し、その格差は大きい。

 そしてその格差は、犯罪組織の活動を容易なもにしてしまう。

 お金さえあれば、どうにでも丸め込むことができてしまうために。

 今はなんとか一つの国になっているが、各地を取りまとめる中央政府にとっては頭が痛い問題ではある。


 「手術を受けた者は、どこの組織に運ばれていたか知っているか?」

 「いくつかあった。無名なものから、オラージュという有名なものまで」

 「複数、ね」


 十中八九、この件に関してはオラージュが中心なのだろうが、一応他の組織を巻き込むことで狙いを絞らせない意味合いがあるのだろう。

 いくらかの情報を得ることはできたが、決定的なものはなかった。

 なので、オラージュという組織を叩くという方針に変化はない。


 「さて、このあとのことだが、あの中型船からのデータの吸い出しが終わったら解放しよう。他の組織にやられないよう頑張るんだね」


 無駄な人員を抱えていても仕方ないため話はこれで終わると、メリアはファーナに、中型船のデータを吸い出すよう指示を出す。

 ハッキングができるなら、船に残る各種データを得ることは難しくない。

 数分もしないうちに、データを手に入れたという報告がファーナから行われるため、早速見ていく。


 「何か使えそうな内容は?」

 「これといったものは特に。ただ、他にも似たような役割を持った者たちがいるのか、キメラを体内に隠した者はまだいるようです」

 「よくもまあ、あんな異質な卵を体内に入れる勇気があるもんだ」


 ぼやいても仕方ないため、降伏した者たちを中型船に戻す。

 そのついでに発信器を設置した。

 もし、万が一にも教授やセフィのいるところに向かうことを期待しての行動である。

 距離は離れていくが、この星系における目的地は同じなのであまり気にしなくていい。


 「教授は、意外と尻尾を見せないね」

 「今のところは、以前決めた方針通りに、ですね」

 「惑星に到着しても何かあったりして」


 ルニウのその言葉に、メリアはげんなりとした。

 可能性としてはあり得るとはいえ、襲ってくる者がいても、せめて何か情報を持っていてほしいという思いから。

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