167話 予定外の状況
「おい、ここを通りたければ通行料を出せ。出せないなら痛い目を見てもらう」
「はん、これはまたずいぶんと元気の良い海賊だ。痛い目を見るのはそっちだよ」
メリアたちは星間連合が保有する星系の一つに訪れていた。
そこは海賊のせいで開発が進まず、そのせいで政府にあまり重要視されないからか、警察や軍がほとんど活動していない。
そのせいでますます海賊などの犯罪者が集まるという悪循環が繰り返され、今ではすっかり犯罪者御用達の星系となっていた。
「メリア様、無人機を出しますか?」
「まだいらない。戦闘の映像は、どこかから記録されてそうだから。ルニウ、さっさと片付けるから手伝え」
「はいはいー、メリアさんとは離れてしまったので早く会いたいですよ」
航行していると、野良の海賊たちから通行料を要求される。
小型船が十隻と数だけはそれなりだったが、連携も何もない動きだった。
今はメリアだけでなく、ルニウも小型の宇宙船を操縦しており、一隻ではなく二隻で戦うことができるので、海賊を倒すことを決定する。
「一隻ずつ確実に仕留める。いいね?」
「了解です。数で負けてるなら、さっさと数を同じにしないと」
普通なら、二隻で十隻を相手にするのは自殺行為。
だが、経験というものは数の差を覆すことができる。
まずは敵艦隊から距離を取ったあと、一気に加速して外側に位置している船を狙う。
メリアが撃ったあと、やや遅れてルニウも同じ目標を撃つ。
お互いに小型船同士なこともあって、寄せ集めの海賊はどんどん数を減らしていく。
「な、な、なんて強さだ。こ、降伏する!」
「受け入れよう。で、襲ってきたのはなぜだ?」
「……二隻しかいないから、少し脅せば金目の物を出してくるだろうと思って」
「それでたった二隻に返り討ちにされるわけだ。ほら、生き残りを回収してどこかに行け」
「あ、ああ」
損傷した船から生き残りを回収したあと、海賊は逃げ去っていく。
「やれやれ、この分だと合流する予定の奴らは何人か死んでるんじゃないか」
「それならそれで、わたしが全力を出せばどうにでもなります。ヒューケラとオプンティア以外に、他の船を用意することが大前提ですが」
「奪えるものがあるといいけどね」
指定された座標へ数時間かけて向かうと、小規模な戦闘が起きているのを発見する。
五隻の小型船を襲うのは、数百メートルほどある一隻の大型船。そしてその艦載機たち。
今はまだ距離があるので安全だが、近づけば大型船との戦闘になる可能性は高い。
「襲われているのは、オラージュから送り込まれた者たちですね。メリア様、どうしますか?」
「無視するわけにはいかないだろうさ。無人機を使うしかない」
「わかりました」
貨物室にある無人機は、機甲兵が二つに戦闘機が一つ。
ルニウの操縦している小型船にも無人機は積み込まれており、そちらも投入すれば数は倍になる。
情報を持っているだろう者が、全員死ぬ前に助ける必要があるため、出し惜しみはせずにすべて一気に投入した。
ファーナの動かす無人機部隊は、戦闘機に取りつけた取っ手の部分を機甲兵が持つことにより、高速での接近を可能としている。
ただ、無人機だからこそ可能であり、有人機で同じことをすれば中の人間が耐えられない。
「船体に取りつきました」
「砲台を優先して潰せ。こっちは向こうの戦闘機とやりあう」
目立った損傷のないまま大型船に取りつくことに成功した無人機部隊は、そのままビームを放つ砲台へと攻撃を行う。
当然ながら、船体に取りついた異物を排除するために敵の戦闘機部隊が動き始めるが、そちらについてはメリアとルニウが対処する。
「ルニウ、相手を排除する以上に自分の身の安全を考えろ。死ななきゃどうにでもなる」
「オラージュからの依頼が失敗になるとしても? あの教授はセフィちゃんを狙いにくるかも」
「その時は、適当なところに頭を下げて助力を求めればいい。伝手はあるんだ」
「ま、そんなもんですか」
「一番良いのは、ここであの大型船を倒して、オラージュから送り込まれた者を助けて情報を得ることだが」
元々は民間船であり、戦いに耐えられるよう改造してあるとはいえ、かなり小回りが利く戦闘機が相手では苦労する。
なかなかビームを直撃させることができないからだ。
「どうやら、向こうも素人じゃなさそうだ」
「チクチクと攻撃を受けてて、今は耐えれてますけど、シールドが不安になってきます」
「我慢しろ。ファーナの動かす戦闘機が来たから、ここから反撃だ」
砲台を壊せば壊すほど余裕が生まれる。
大型船での活動が一段落したのか、数で大きく負けているメリアたちの援護のため、ファーナは無人戦闘機の狙いを敵戦闘機部隊に変更した。
無人機というのは、中に人が乗っていないためかなりの無茶ができる。
それは急な加速や減速、さらには中の人間が潰れるほどの旋回も可能としていた。
「うわお、宇宙での無人機って恐ろしいですね」
「こら、見物してる暇があるならさっさと攻める!」
縦横無尽に暴れまわる無人戦闘機。
その動きは、もはや一種のショーに思えるほど。
メリアとルニウが相手の攻撃を引きつけ、相手の注意が逸れたところをファーナが横合いから攻めていく。
これにより、先程までの苦戦が嘘のように敵戦闘機部隊を壊滅させたあと、いよいよ仕上げに取りかかる。
「そこの大型船、降伏するなら命は……」
メリアは降伏を呼びかけるが、大型船はそれを無視して全速力でこの場を離れていった。
やろうと思えば、船体に取りつかせた無人の機甲兵に推進機関を狙わせて、動きを止めることはできたが、メリアは軽くため息をつくと、ファーナに無人機を戻すよう指示を出す。
「やれやれ……まあいいさ、まずはこっちからだ」
物事には優先順位がある。
大型船を仕留めに行くよりも、まずは襲われた艦隊の生き残りを探すことが先だった。
多勢に無勢、小型船の艦隊はほとんど原型を留めていない状態であり、かろうじて形が残っている船も、小規模な爆発が連続しているので長くはもたないだろう。
「メリア様、駄目です。生体反応がありません」
「ちっ、遅かったか。なら消火を急げ。船にあるデータを吸い出す」
この星系は危険なところであるため、そんなところを教授がわざわざ選んだということは、送った人員が全滅した場合の用意もあるはず。
そう考えたメリアは、消火をファーナに任せると、ルニウと共に残骸を漁っていく。
「好戦的な海賊がいるということは、これは稼ぐチャンスだったりして」
「目立てば、それだけ面倒事もやって来るが」
「うーん、アルケミア並みの大型船がないと無茶はできませんか」
「まずは回収してから。無駄話はそのあと」
周囲を無人機によって警戒しつつ、目ぼしいものを貨物室に移したあと、データの吸い出しが行われる。
これが終わったあとは、売れそうな残骸を回収し、そうではない物を宇宙に捨ててからデータの確認に移った。
「この五隻は、メリア様の手伝いをするためにオラージュから送り込まれたようです」
操縦室のスクリーンには、いくつもの文章や画像が表示される。
ファーナが話していくと同時に、それらは少しずつ切り替わっていく。
「戦闘や通信の記録などを見ると、この星系に到着してから一日ほどが過ぎており、ユニヴェール一家に属している海賊と揉めてしまったようです」
ノイズまみれの映像と音声が再生される。
「……たち、何の……ここを……れた?」
「大した……じゃな……。ただ、待ち合わせを」
「隠し……ころで無駄だ。……にわかっている。……リウムだろう? アクルに……されていた代物。それをお前たちは狙っている」
通信はここで終わったのか、途中で切れる。
「……はぁ、エーテリウムに関することがバレてるわけだが」
「まずいですね。聞き込みとかしたら、襲われそうです」
「いやいや、ここはただの海賊として聞き耳を立てればいいんですよ。この星系にいる海賊が、わざわざ襲ったということは、この星系に盗んだ海賊がいる可能性が高いわけでして」
「ふむ、一理ある」
アクルという学園コロニーで展示されていたエーテリウムが盗まれた。その事実は、星間連合の大きなニュースとして広まっている。
当然ながら、大きなニュースとなれば海賊も見るため、知っていること自体はおかしくない。
だが、襲うとなれば話は別。
追っ手を警戒して消しにかかるということは、この星系にあると言っているようなもの。
「盗んだ海賊は、おそらくユニヴェール一家と取引をした。しかし、支払いがまだなので渡してはいない」
「そう考える根拠はなんでしょう?」
「既に取引が完了していたなら、たった五隻の小型船を襲うなんてことはせず、無視すればいい」
「どこにいるかは予想がつきますか?」
ファーナのこの質問については、メリアは頭を横に振りつつ肩をすくめてみせる。
「さっぱりだね。まあ、それを調べるためにも、まずは人がいるところに向かおうか」
この星系にある有人惑星は一つのみ。
迷うことはない。
ただ、他の海賊との衝突に備えて準備をしておく必要はあった。




