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163話 記録されていない空間

 コロニーの地下、より正確には外殻と内殻部分の中間となる区画。

 メリアとルニウの二人が入り込むも、そこは暗闇に満ちていた。


 「ちっ、秘密の通路には明かりは存在しないか」

 「本来ならメンテナンスとかのために、一定間隔で光源が設置されてないといけないんですけどね」

 「ルニウ、狭いから乗っている機体をぶつけないよう気をつけるように」

 「はーい」


 今、二人が乗っているのは、高等部の生徒が作った機甲兵とはいえ、必要な性能は満たしている。

 市販されているのとほぼ同等であるのだが、メリアが自ら改造したものや、ファーナが独自に設計して生産したものに比べると、どうしても見劣りする部分は多い。


 「今は緊急事態ということで、警報が鳴り響いている。ここからでも聞こえるから、多少の音は誤魔化せるものの、金属同士がぶつかれば泥棒には確実に気づかれる」

 「ぎりぎりまで気づかれない方がいいですもんね。戦闘になるわけなので」


 狭いところでは、戦い方に大きな制限がかかる。

 そのため、メリアとしては気づかれずに相手も武装などの様子を確認をしたかったが、そもそもどこにいるかわからないので、まずは見つけないとどうしようもない。


 「……んん? メリアさん、なんだか声が」

 「静かに」


 進めば進むほどに、うるさかった警報の音は小さくなっていく。

 やがて、ほとんど気にならなくなるが、その時ルニウがどこかから声が聞こえてくると伝えるため、メリアは足音を抑えながら機甲兵を進ませる。

 一般的なメンテナンス用の通路とは違い、秘密裏に作られたこの通路は、できる限り気づかれないようにするためか、多少曲がりくねっているが分かれ道などは存在しない。

 一本道なので迷わずに済むが、それは相手に気づかれやすいことをも意味している。


 「話し声からして、人数は三人……」


 曲がり角の前で一度立ち止まると、乗っている機甲兵の機器類を弄り、外部から聞こえる音を増幅させて聞き耳を立てた。


 「それにしても、よくもまあここまで上手くいったもんだ。なんか拍子抜けというか」

 「まあ、警備員と泥棒が組んでるとか普通は思わない。しかも警備員が撃たれたとあれば。ただ、非殺傷設定でも痛いものは痛い」

 「そもそも警備員は身元の調査が厳しいわけだ。しかもエーテリウムの警備となれば、念入りに調べられる。……ま、そこは我らオラージュの頭脳とも言える教授のおかげで、上手く潜り込めたわけだが」


 オラージュと教授。

 この単語を耳にしたメリアは、無言で顔をしかめるが、まだ話は続くので動かずにいた。


 「そういや、でかいエーテリウムの塊を盗んだ奴らとは、どの辺りで合流するんだ?」

 「ん? ああ、合流はしない。警備員が姿を消すのはよくないし、泥棒を追跡したが逃げられたという形を取る」

 「教授の計画では、実行犯である海賊たちを襲って、別の場所で奪い取るらしい。なので、俺たちは綺麗な身分を維持したままでいられる」


 それはなかなかに恐ろしい計画だった。

 重要な警備に組織の者を潜り込ませ、それでいて組んでいる海賊に盗ませたあと、自分たちは横から奪い取る。

 これは、リスクを相手に押しつけながら、リターンだけは自分たちで得るという悪辣な方法。


 「……恐ろしいもんだ、教授は」

 「何を今更。遺伝子弄くって、血から特別な薬物を生産できる子どもを作り出した時とか、正気なのかと思った」

 「おいおい、そういう話はその辺で終わりだ終わり。その子どもはもう、うちの組織からはいなくなってるんだから」


 会話は一段落したのか、口数が少なくなった辺りで、メリアはルニウに通信越しに声をかける。


 「そろそろ仕掛ける。用意はいいね?」

 「もちろんです。まずは装備を奪い取らないと」


 学園内で作られたからか、乗っている機体に武装らしい武装はない。

 奇襲によって相手の武装を一つか二つは奪い取らないと、色々ときつい部分がある。


 「あ、そろそろ時間が」

 「泥棒組はもうすぐ宇宙か」

 「戻るぞ。警備員に扮した他の奴らと合流して、口裏を合わせないとな」


 嬉しいことに相手の方からやって来るため、メリアはとルニウは曲がり角で潜伏し続ける。

 そして相手の機体が出てきた瞬間、一気に仕掛けた。


 「な、なんだ!?」

 「学生……いや違う!」

 「まさか同業者か!」


 体当たり、そして殴りや蹴りを駆使し、先頭と二番目の相手から銃器を奪うと、最も後方にいる三番目の機体に向けて射撃を行い、爆発したのを確認すると一度後退した。


 「興味深い話を耳にしたが、その続きをぜひ聞かせてもらいたいね」

 「降伏するなら、命は助けますよ?」

 「降伏だと? 誰がっ!」

 「おい、待て……」


 近接装備が残っていることから、一人だけ突撃してくるも、メリアとルニウの射撃によって、あっという間に撃破されて爆発を起こす。


 「ちっ、逃げたか。追うよ」

 「はい」


 その際、煙や衝撃などで視界が悪化し進むのに躊躇していると、その間に残った一機は逃げ出したのか姿を消していた。

 すぐさま追いかける二人。

 だいぶ外殻に近いところでようやく追いつくものの、そこには新たな機甲兵が二機存在していた。

 一機はエーテリウムを傷つけないようクッションに包んだ状態で、警備員に扮した者が乗る機体と一緒にエアロックから先に進み、もう一機は足止めするつもりなのか前に出てくる。


 「ここから先には進ませねえ」

 「ん? その声は……宇宙港でやり合った誰かさんじゃないか」


 通信越しながらも、聞き覚えのある声を耳にしたメリアは、少しばかり警戒を強めた。

 前に戦った時とは状況が違うのと、既に一度戦ったことから相手が油断しないだろうという判断から。


 「そこの警備員に扮した奴だけどね、あとでそちらさんを襲う算段らしいよ」

 「……あの時の女海賊か。余計なお喋りはいらない。お前を倒したあと聞き出せばいい」


 生身の人間基準ならそれなりに広い通路だが、機甲兵が活動するとなると、それも複数はさすがに狭い。

 そんな場所で、若い海賊は斧らしき武器を振り回す。

 それだけでなく、小型のビームガンも所持しているため、メリアたちは曲がり角のあるところまで一時的に後退するしかなかった。


 「場所が悪すぎる。ついでに装備の問題もある」

 「どうします? 宇宙の方はファーナとセフィに任せてますが」

 「ひとまず通信を……くそ、宇宙の方に繋がらない。軽微なジャミングか何か」

 「戻るよりは、進んだ方がいいですよね? 私があれを抑えますんで、メリアさんはその間にエアロックの先に向かってください」

 「……悩んでる時間がもったいないか。わかった、任せる」


 海賊の機体は、曲がり角に近づかず待ち構えている。

 まずはルニウが出てくると、奪い取った銃器が弾切れになろうとお構いなしの射撃を仕掛け、さらに突進も行おうとする。

 これにはさすがに相手が動くため、メリアも飛び出して牽制としての射撃を行いつつ、エアロック部分に入り込む。


 「ふん、すり抜けたか」

 「へへへ、次はこっちの番ですよ」

 「舐めるなよ。お前、あの女海賊よりは弱いだろ。それにその機体は損傷している。さっさと倒して追いかけるだけだ」


 相手の言う通り、ルニウの乗っている機体はだいぶ損傷していた。

 最初に出た時、ビームガンを何発か受け、さらには斧が機体の表面をかすめたせいで。

 しかし、それでもルニウは余裕そうな態度を崩さない。


 「前に負けた時も、そんな風に油断してたりして」

 「てめえ!!」


 軽い挑発だったが、図星だったのか激怒した様子で接近してくる。

 さすがに近接戦闘は不利なので下がるも、機甲兵の性能の差や、前進と後退による速度の違いも合わさり、すぐに壁際まで追い詰められてしまう。


 「死にたいならお望み通りにしてやる」

 「ただ殺すんじゃなく、ひどい感じにお願いしますよ。そうなれば、あの人が悲しんでくれるかもしれない」

 「……何を言ってる?」


 死への恐怖どころか、どこか異常とも思える言葉に、振るわれようとした斧は止まる。


 「私が死んだら後悔してくれそう。私が死ねば、表面上は強気でいてもこっそり涙を流してくれそう。いや、もしかするとそこまでいかない可能性が」

 「気色の悪いことをペラペラと」

 「私はですね、あの人が苦しむ姿が見たい。悲しむ姿が見たい。一番良いのは、私が死んだと聞いて吐いてくれたら最高なんです。それはすなわち、ずっと心の傷となって私という存在が刻まれるわけで」

 「もういい、死ね!」


 これ以上聞いていると耳が腐ると言わんばかりの剣幕で、高く構えられた斧は振り下ろされた。

 しかし、ルニウの乗る機体が海賊の乗る機体を突き飛ばすことで、必殺の一撃は腕を切断するだけに留まる。


 「最後まで押さえつけないと。もしかして私の話に聞き入りました? どこで死ねば一番悲しませることができるか悩んでるので、ここで死ぬのはちょっと勘弁ですよ」

 「待て……くそっ!」


 腕は破壊されようとも、足が無事なら逃げることはできる。

 ルニウは戦闘を放棄すると、元来た道を逆に進み始めた。

 海賊はというと、追いかけるかどうかわずかに悩み、結局はエアロックから外へと出ていく。

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