表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

163/302

161話 学園祭への襲撃

 学園コロニーのひとつであるアクルは、数千万人が暮らせるくらいには広く、それゆえに内部はしっかりとエリアごとに分けられている。

 数歳の子が活動する部分や、成人した者が活動する部分などに。

 しかし、学園祭ともなれば、一時的にその垣根は取り払われる。

 小さな子から、成人した者まで、様々な生徒たちが行き交う状態は人によっては目を回しそうなほど。


 「メリア様、あれやってみたいです。なのでお金ください」

 「……無駄遣いはしないように」


 人の波をかき分けていく途中、とある屋台をファーナが指差す。

 そこはダーツができるところで、的に当てると得点が貰え、その得点によって受け取れる景品が変わるというもの。

 この場における一番の年長者はメリアであるため、まとまったお金を手渡す。

 その時、腕をトントンと叩かれる。


 「“お母さん”。今は学園祭、たっぷりのお小遣いが必要だと思うけど」

 「……わかってる。セフィにもあげるから」


 どこかわざとらしい言葉ながらも、学園祭という特別な日に、保護者へお小遣いをせびるのは間違ってはいない。

 セフィにもまとまったお金を手渡すと、さらに腕がトントンと叩かれる。


 「メリアさん、私にも遊ぶお金を」

 「いや、ルニウには渡さないから。給金払ってるし、自前のお金があるでしょ?」

 「くっ……便乗するのは無理があった……!」


 周囲の目もあることから、メリアは演技を崩せない。まさか怒鳴るわけにもいかないからだ。

 とはいえ、断るのは難しくない。

 なんでも屋の社長と社員という関係であり、給金の支払いはしっかりとしてある。

 子どもならまだしも、いい大人が求めるんじゃない。

 メリアがそんな視線を向けると、ルニウは残念そうに引き下がった。


 「ここでは、一回分の料金で三本までダーツを投げられます」

 「まずは一回だけ挑戦します」

 「では、こちらのダーツをどうぞ」


 ファーナは屋台にいる高校生らしき生徒に料金を支払うと、三本のダーツを受け取る。

 慎重に狙いをつけて投げると、一本はボードから外れ、残りは得点の低い部分に刺さった。


 「残念。景品はこちらのお菓子になります」

 「…………」


 どうやら、予想よりも悪い結果になったのか、ファーナはお菓子の箱を受け取ると、無言でメリアのところに戻ってくる。


 「こんなはずでは……」

 「まあ、ファーナはダーツをするのは初めてだから、こんな結果になるのも仕方ない」

 「次はもっと良い得点を取ります」


 次に挑戦するのはセフィ。

 料金を支払い、ダーツを投げる。

 これを三回繰り返した結果は、ファーナよりは少しだけ高い得点。


 「あらら、惜しいのがあったね。景品としてこちらのお菓子をどうぞ」

 「……初めてならこんなものですか」


 不満はあるが、納得はしている。

 そんな表情を浮かべるセフィであり、メリアのところに戻ってくる。


 「意外と難しいです。ダーツって」

 「残るは馬鹿一人だけども」


 最後に、意気揚々といった様子で挑戦するルニウ。

 支払いを済ませ、ダーツを手に持ち、深呼吸してから狙いを定める。

 一本目と二本目はボードから外れるが、三本目は真ん中を捉えた。


 「よし! 私の勝ち!」

 「おっと、最後に良いところに当たったので、景品はこちらの小型ラジコンになります。ただ、お姉さん、大人なのに子ども相手に勝ち誇るのはどうかと思いますよ」


 外見だけなら普通の少女に見えるファーナとセフィに対し、二十を越えているルニウが勝ち誇るのは、屋台をしている高校生からは微妙な反応が返ってくる。

 しかし、当の本人はあまり気にしないでいた。


 「さあさあ、次はメリアさんの番ですよ」

 「いや、特にやる気は」

 「いえ、ここはするべきだと思います」

 「一人だけしないのもどうかと思うので、やるべきでは?」

 「……そこまで言うのなら」


 自分一人だけしないのもどうかという声に、やれやれといった様子で屋台に向かうメリア。

 だが、ダーツを投げる機会は訪れなかった。

 突然の警報が、コロニー内部に鳴り響いたからだ。


 「緊急事態が発生しました。コロニー内部にいる方々は、今すぐに避難を開始してください」


 焦り混じりの声による放送がされると、学園祭を楽しんでいた生徒や保護者たちは困惑の表情を浮かべる。

 だが、すぐに誰もが避難を始める。

 大学が集まっている区画の方から、爆発と煙が発生したために。


 「……何が起きてる?」


 ひどい混乱とまではいかないが、誰もが避難のために宇宙港へと殺到するせいで、渋滞に近いことは起きてしまう。

 メリアはそれに巻き込まれるのをよしとせず、港の方の状況が一段落してから向かうつもりだった。

 そのため、まずは爆発が起きた方を見た。


 「ファーナ、何が原因かわかるか?」

 「いいえ。遠いのと、屋台などで視界が制限されているせいでわかりません。監視カメラの類いにも繋がりません」

 「つまり襲撃に手慣れている者がいる可能性が? メリアさん、どうします?」

 「さて、どうしたもんだかね」


 周囲から人がいなくなったため、メリアは演技やめて考えるも、取れる行動は少ない。

 港の方へ避難するか、爆発が起きた原因を確かめるために向かうか。


 「セフィはどうしたい?」

 「だいぶ難しい質問ですが……学園祭を台無しにした何者かを見てみたいとは思います。場合によっては、捕まえることを期待してもいいですか?」

 「なかなかな要求だ。まあ、叶えてやれるけどね」


 苦笑混じりに言うメリアを見て、ファーナはわずかに首をかしげる。


 「メリア様、もしかして怒っています?」

 「多少は。帝国の内戦という面倒事から解放され、こういう一般人の集まるところで息抜きしようと思ったら、まさかの襲撃だ。……さすがに腹が立つってものだよ」


 学園祭という大きなイベント。

 それは長い月日を海賊として過ごしてきたメリアにとって、気分転換が期待できるものだった。

 争いの日々から離れて、安全で穏やかな時間を過ごせるはずが、何者かによって中断されてしまったのだ。


 「あーあ、これもう襲撃者は死にましたよ。メリアさんを怒らせるとか」

 「あたしを怒らせたことがある誰かさんが言うことではないと思うが。……まあそれはともかく、セフィ、どうする? あたしの船に避難しておくか、一緒に来るか」

 「わざわざ学園祭の時に、ここを襲撃してくるような相手なので、港の方も危険そうです。なので、ここはお母さんに同行するのが、ある意味安全でしょう」

 「なら、乗り物がいるね」


 自分の船から無人機を投入することはできない。

 港には大勢の人がいるのと、当然のように監視カメラが稼働しているためだ。

 そこで現地で戦力になりそうな代物を見繕う必要があるが、これについてはセフィが名乗りをあげた。


 「まずは機械関係を取り扱う学科のところへ向かいましょう。学園祭の出し物で利用される予定だった、武装が取り除かれた機甲兵がいくつかあるので」

 「それは嬉しい情報だ」


 近くの校舎に走って向かうと、避難のために無人のバスに乗り込む生徒たちを見つける。

 セフィのクラスメイトも混じっているのか、心配そうに声をかける者が数人ほどいた。


 「お、おい、セフィ。お前、避難するバスに乗らないのか!?」

 「というか、一緒にいる人たちって……」

 「こちらのことはご心配なく。茶色い髪の人がお母さん。水色の髪の人は社員。白い髪は個人的な知り合いなので」


 これまでの学生生活において、メリアやルニウのことはそれなりに話すことがあったのか、だいぶ短い説明ながらも納得するクラスメイトたち。


 「な、なるほど。それなら心配はいらないか」

 「いやいや、おかしいでしょ。セフィ、あなた何をするつもりなわけ?」

 「ちょっと襲撃者を確認しに行くので、機械科の鍵がどこにあるか教えてくれます?」

 「そんなこと言われて、はいそうですかってわけには」

 「ふーん。なら、先生の育毛剤に脱毛剤を混ぜたことを、隠さずに教えに行きますけど」


 セフィが小声でそう言うと、クラスメイトの一人が露骨に慌て始める。


 「ちょ、おまっ、それは秘密にするって約束」

 「うわー、そんなことしてたわけ? 前にセフィと馬鹿なことやって怒られたでしょうに」

 「ほらほら、早く教えないと、さらに口が軽くなってしまいますよ。例えば、テストの」

 「うぐぐぐぐ……予備の鍵が壊れた鉢植えの下に隠してある」

 「ありがとうございます。この口はもうしばらくの間、秘密を隠し続けることでしょう」


 鍵の場所を聞き出したら、あとは用済みとばかりに別れる。

 そんなセフィとクラスメイトのやりとりを見て、メリアは軽くため息をついた。


 「学園での生活は、いつもあんな感じなのか」

 「大まかには」

 「……なんというかもう、ある意味安心したよ」


 さすがにどうなのかと思わなくもないが、これといって不仲でもなかったため、何を言うべきか迷ってしまう。


 「誰しも秘密にしたいことってありますからね。それを見つければ、口を閉じる代わりにお願いしたいことを通すことができるので」

 「セフィが養子でよかったよ。どこか他人事でいられる」

 「それを保護者が言うのもどうかと思いますが」


 やがて、シャッターの降りた大きな倉庫の前に到着すると、セフィは壊れて地面に同化しつつあった鉢植えへと近づく。

 それを持ち上げて軽く土を掘ると、鍵が出てくるため、そのままシャッターを開ける。

 そこで一同が目にしたのは、様々な種類の機械たち。

 人間が搭乗するタイプから無人のものまで、あらゆる機械が揃っていた。


 「へえ、学生とはいえ本格的だ」

 「わたしが遠隔操作できそうな機械もあります」

 「おおー、ここまで揃っていると、なんだか少し申し訳なさも感じますよ。私たちが使うものは確実に壊れるだろうから」

 「なんだか警備の動きが鈍いので、全員それなりに武装してから向かいましょう」


 セフィは何か気がかりな様子で、コロニー内部の空を見た。

 人工的に天候が操作され、時間帯によって朝から夜までが再現される特殊な天井。

 学園コロニーというのは、そんなシステムが存在するお金がかかった建造物であるため、武装した警備員もそれなりにいる。

 なのに、今のところこれといった動きが見られない。

 それは、言葉にできない不安を感じることに繋がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ