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159話 希少な金属の価値

 「ただいま戻りましたー」

 「戻りました」

 「はいはい。船籍の偽装は済んだから出発する。適当なところに座るように」


 一人と一体が戻ってきたため、メリアは手をひらひらと振って座るように促す。

 追跡者に備えた各種の偽装が、果たしてどの程度効果を発揮するかは不明なものの、あまりのんびりとしてもいられない。


 「学園祭までは……残り数日」

 「距離と船の速度を考えると、余裕を持って到着できますね」

 「あ、今のうちに着替えてもいいですか?」

 「好きにしたらいい。ただ、宇宙服を着込めないような服だと、いざという時に死ぬ確率が高まるが」


 能天気そうなルニウに対してメリアは脅しを混ぜて注意する。

 宇宙船には、いくらかの攻撃を防ぐシールドが船体を覆うように存在しており、リアクターやシールドに関係する装置の性能によって耐久力は変化する。

 シールドが維持できなくなるほど攻撃を受け続ければ、当然のように消失し、船体その物の装甲で耐えるしかないが、小型船だと穴が空きやすい。

 もしも穴が空いた時に宇宙服を着ていなかったら、空気がなくなり、有害な宇宙線に晒され、どうあっても生存は絶望的であるわけだ。


 「脅さないでくださいよ」

 「まだ気を抜ける状況じゃない。それに今後のこともある」


 メリアはそう言うと、帝国のニュース映像を流す。

 これは宇宙港にいる間にダウンロードしたものであり、内容は主に内戦に関わるものばかり。


 「内戦は早期に終結し、一時的に皇帝の座が空白となりました。帝国は果たしてどうなるのか。皆さん気になるものだと思われます」

 「いやあ、驚きました。あの方が自発的に降りるとは。その、言いにくいことですが、全体的な戦況は……あちら側が有利でしたよね?」


 惑星一つに対し、数十のテレビ局が存在する。

 帝国全体となれば相当な数になるため、内戦に対する論調は様々。

 映像の中には数人の男女が映っており、恐る恐るといった様子で内戦の状況を語っていた。


 「……ええ。ワープゲートを通じて攻めるのは、どうしても多くの犠牲が出てしまいます。あれは陽動であるかと」

 「そうなると、本命となる攻撃を行う者がいるわけですが」

 「はい。メアリ・ファリアス・セレスティア。彼女自身を狙うために攻める戦力がありました。その艦隊が勝利した結果、今に至るというわけですね」

 「ヴィクトル・リウヴィル伯爵以外にもう一人、あの場で艦隊を率いていた貴族の方がいたそうですが」

 「情報が錯綜していて、誰なのか不明なままです」

 「それはまた、激しい戦いが起きていたことを物語っていますねえ。……情報が隠されている可能性とかは、どれくらいありますか?」

 「それについては、わかりません」


 あの時、あの場でまともに戦えたのは、メリアが率いるわずかな艦隊のみ。

 途中でリウヴィル伯爵の艦隊が増援としてやって来るも、ワープゲートに細工をされていたせいですぐに増援は止まってしまう。

 にもかかわらず、ニュースではリウヴィル伯爵が普通に活躍したという風に伝わっている。

 これを見て、ファーナとルニウはどちらも憤慨した。


 「あのソレイユという船にアルケミアをぶつけてまで戦ったというのに、わたしたちの活躍が消されています」

 「百歩譲って、メリアさんの顔がそっくりなのを隠すためだとして、これはひどい!」

 「……まあ、仕方ない。大昔の人間のクローンが作り出されて、オリジナルと戦った。この事実は、色々な意味で広めることができないだろうさ」

 「メリア様はそれでいいのですか?」

 「そうですよ。活躍を横取りされたんですよ?」

 「そりゃあ、気分はよくない。けれど、明かしたら明かしたで、そのあとが大変だ。良くも悪くも銀河中の有名人になる」


 帝国以外に、共和国や星間連合においても、内戦がどうなるかは注目されていた。

 そうなると、どのような形であれ早期に内戦を終わらせた立役者のことが気になるわけだ。

 フルイドという異質な戦力を保有するメアリ皇帝に対し、誰がどうやって勝利してみせたのか?

 それはメリアからすれば、許容範囲を超える騒々しさに繋がるため、複雑な気分ながらも現状を受け入れる理由にはなった。


 「いつか有名人になるとしても、それは今じゃない。それにやることは多い。気分転換ついでに学園祭に向かったあとは、アルケミアの代わりとなる船を見繕い、それと並行してドゥールという水の惑星についても色々確認しないといけない」


 アルケミアという便利な船を失った代わりに、惑星を一つ手に入れることができた。

 内戦で活躍したからこその報酬であるわけだが、どうやって利益を得るかは今後次第。


 「陸地が存在しない、水だけの惑星。どのようなところなのか気になるところです」

 「というか、メリアさんはこれで領地を持った貴族になったわけです。これはもうお金持ちへの道をどんどん駆け上がるわけで」

 「ルニウ、給金とかについては今のところ変えるつもりはない」

 「……そ、そんな」


 石のように固まるルニウを無視して、メリアは目的地である学園コロニーを目指す。

 操縦している小型船ヒューケラは、外観から船籍まで色々なところを偽装しており、それが功を奏したのか追跡者らしき存在は見当たらない。

 安心から少し気が抜けるメリアだったが、その時ルニウが声をかける。

 操縦室にある、箱に入ったエーテリウムを見ながら。


 「そういえば、宇宙港を探索していた時、エーテリウムについて凄いことを聞いたんですよ」

 「凄いことって?」

 「熱とか電気とかを独自にエネルギーに変えるそうですが、なんとそのエネルギーには人間の老化を抑制する効果があるんだとか」

 「へえ? それならあの値段も納得できる」


 老化の抑制というのは、とにかくお金がかかる。

 若い時なら、身近な電化製品と同等の金額で済むが、歳を取るにつれ必要な金額は増えていく。

 最終的には、費用の問題から老化の抑制を諦めるしかないわけだが、エーテリウムならばその問題を解決できるというわけだ。


 「ところで、メリア様やルニウは老化の抑制を行っていたりするのですか?」


 ファーナからの疑問に、どちらも首を縦に振った。


 「まあ、多少は」

 「もちろん、若さの維持のためにお金かけてますよ」

 「そうですか」


 ファーナは納得するように頷いたあと、メリアに近づくと背後から抱きしめる。


 「……で、いきなりそうする理由は?」

 「人型をしたこの端末ですが、わずかながらもエーテリウムが使われているわけです。つまり、こうして密着することでメリア様は若さを維持できるというわけですが」

 「どうせ爪の先にも満たない程度だろうに。大して変わりはしない。離れろ」

 「嫌です」

 「ルニウ、引き剥がせ」

 「はいはーい」


 しがみつくファーナと、それを引き剥がそうとするルニウ。

 その争いは、操縦しているメリアの邪魔になっているが、今のところ平穏に飛べているのでそこまでの問題にはならない。

 やがて、別の星系に繋がるワープゲートの反応をレーダーは捉えるが、それとは別の反応もあった。


 「なんだ……?」


 近づくと、小規模な戦闘が起きているのを発見する。

 十隻ほどの艦隊に対し、一隻の船がおそいかかっているという状況だ。

 普通なら勝ち目がないのだが、優秀な機甲兵乗りがいるのか、数で上回る方が沈んでいき、最終的には二隻だけが残る。

 これが操縦室の大きなスクリーンに映し出されると、ファーナは真面目な様子となり、メリアから離れた。


 「海賊船と、それに襲われる民間の武装船団といったところだが……」

 「あの船には見覚えがあります」

 「あれってもしかして、宇宙港で近くにいた海賊のやつじゃないですか? 機甲兵で喧嘩しにきた者がいた、あそこですよ」


 ここは一般の船が行き交う航路。

 ずいぶんと命知らずで乱暴な海賊だなという感想を抱くメリアだったが、その時通信が入ってくる。


 「おや、さっきぶりじゃないか。こちらの仕事を邪魔しないなら、同業者のよしみで見逃してやるとも」

 「……こっちは一般の船なんだが。海賊と仲良くしてるなんて知られたら困る。なんでこの航路で船団を襲った?」

 「まあ、なんだ、普通はしないんだが、どうしても重要な代物があってな。それ以上探るようなら、お互い不幸な状況になる」

 「……まあいいさ。見なかったことにする」


 ここで戦闘をすれば、船体に施した偽装が解ける可能性がある。

 明らかに何か隠しているとはいえ、相手の実力は侮れないこともあって、メリアは見なかったふりをするが、通信が切れたあとファーナとルニウに声をかける。


 「……少し気になることがあるから、すれ違う形で進む。もしエーテリウムに何か反応があれば、あたしに教えてくれ」


 それはちょっとした疑問。

 エーテリウムを売った海賊が、わざわざ一般人に見つかりやすいところで襲撃をした。

 しかも、誰の手も借りずにたった一隻で、十隻以上もの船団を相手に。

 これは普通ではないため、残骸を避けようと速度を落としながら、海賊船とすれ違う。


 「メリア様、エーテリウムがわずかに光りました」

 「……ちっ、そういうことか」

 「え? え? どういうことなんです?」

 「ルニウ。あの海賊は、エーテリウムを売ったあと、買い取った奴を襲って回収してるんだよ」

 「うっわ。まさかそういうことするなんて」

 「……実力があるから、そんな手段を選べるわけだ」


 物を売ることでお金を稼ぎ、そのあと売った相手を襲って回収してしまえば、もう一度売ることができる。

 あまりにも悪辣な方法であるが、稼ぐことだけを考えるなら効率が良い。

 なにせ、普通の代物ではなく、魔法の金属と呼ばれるエーテリウムであるのだから。


 「内戦の直後で、軍や警察の手が回っていないのも影響してるだろうね」

 「メリア様は似たようなことをしたりは?」

 「するわけないだろ。危険過ぎる」

 「そうですよー。評判的に危ないし、売るのも難しくなっていくわけで」


 なんとも厄介な海賊がいるものだが、帝国から星間連合に移動すれば出くわすこともない。

 それから三日後、メリアたちは何事もなく学園コロニーへと到着した。

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