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155話 二週間後のために

 「あらかじめ言っておくけれど、これは録画したものなので、文句を言ってもこちらには届かない」


 画面上に映っている女性は、頭部のほとんどを包帯とギプスに覆われているという、異様な姿をしていた。

 そうなった原因は、ソレイユ内部での戦闘なのは言うまでもない。

 あの時、人型の作業用機械に乗っていたメリアは、相手に馬乗りになると、頭部に機械の拳を何度も振り下ろした。


 「いやあ、乙女の顔をこうするとか、ひどい人間もいると思わない? 私でなかったら復讐を考えていたよ」

 「……内戦を引き起こした癖によく言う」

 「まあ、今の医療技術なら問題なく治るから、寛大な私は水に流すことにする。私ではないもう一人の私に負けるのであれば、それは仕方ないことだからね」


 オリジナルとクローン。

 その関係性は、親子よりも濃い血の繋がりがあると言える。

 メリアとしては、画面の向こうにいるメアリに対して睨むような視線を向けていたが、相手が次の話題に移るので我慢して視聴を続ける。


 「さて、どうしてこんな映像を送ったのか不思議に思うことだろう。理由はいくつかあるけれど、まず一つ目は私の顔をぐちゃぐちゃにした誰かさんへの嫌がらせ」


 その瞬間、メリアは舌打ちをする。


 「ちっ」

 「まあまあ、抑えてください。わたしたちが勝ったわけですから」


 ファーナに宥められながら映像を見ていくと、画面の向こうにいるメアリは何かを取り出そうとする。


 「二つ目は、私の生き写したる者に対して、プレゼントを送るつもりだから、それを知らせておこうかと。確か、なんでも屋をしているんだってね? そこに送るから受け取って確認してほしい」

 「……ファーナ、会社の方から何か連絡は?」

 「ええと、事業所の一つから来ています。中身が不明なコンテナが届いているらしく、どうするべきか指示を求めていますね」

 「……しばらくは、地下かどこかの目立たないところに保管」

 「伝えます」


 いったいどんなプレゼントなのか不安なこともあり、ひとまず開けないで保管しておくことを決定する。

 確認はまた後日となるわけだ。


 「それと三つ目だけどね、君を私の配下に迎えたい。受ける気があるなら、指定したところにある惑星に訪れてくれると嬉しい。ま、とりあえずはこれだけ」

 「誰が行くか」


 誰かに仕えること、それも自分のオリジナルなど冗談じゃないとばかりにメリアは吐き捨てると、すぐに映像を切った。


 「まったく、あいつが皇帝を降りた途端に、多少なりとも関係を結ぶとか、反皇帝派のジリー公爵もとんだタヌキだ」

 「だからこそ、反皇帝派という集団をまとめることができていたのかと」


 反皇帝派をまとめていたイネス・ジリー公爵。

 彼女が、皇帝の座を降りたとはいえメアリ・ファリアス・セレスティアとの関わりを持っていた。

 そのことにメリアは肩をすくめてみせたあと、次の予定を確認する。


 「一度フランケン公爵領の方に足を運んで、ソフィアと話してから、クローネ・アームズに向かうとして……日数には余裕があるか」


 およそ二週間後に始まる学園祭。

 それに間に合わせようと急ぐ。

 フランケン公爵領には三日かけて向かったあと、ソフィアと会うことになり、そこでお礼の言葉を伝える。


 「このたびは、フランケン公爵のご高配に深く感謝いたします。公爵閣下が提供してくださった艦隊などの戦力により、内戦を有利な形で終わらせることができました。改めてお礼を申し上げます」

 「……はい」


 長い付き合いではないとはいえ、普段のメリアを知っているソフィアは、滅多に見ることのできない貴族としてのメリアを目にして、どこか驚きに満ちた表情となっていた。

 そのせいか、反応もぼんやりとしたものになる。


 「何を驚いてる?」

 「あまりにも珍しいものを見れたので、つい驚きが顔に出てしまいました」

 「ちゃんとしたお礼を伝える必要がある時は、いくらなんでも真面目になる」

 「普段から真面目にするというのは?」

 「そんなことは、やってられない。長く続けると歯が浮き出そうになる」

 「そういうものですか?」

 「そういうものだよ」

 「なるほど」


 ソフィアは納得するように頷いたあと、少しばかり室内を歩き回り、メリアを観察してから近くに寄ると見上げてくる。


 「これからも宇宙を巡るんですか?」

 「そうなるだろうね。何が理由かはともかく」

 「どうかお元気で」


 長くは滞在せず、次は共和国に入る。

 フルイド関係で混雑していることもあり、移動と手続きだけで一日が潰れてしまうが、クローネ・アームズの支社にはすぐに到着できた。

 中には既に、社長のノーマン・リンドバーグと会長のロズリーヌ・プエシュの両名が揃っており、なぜかルニウも滞在していたようで、ここで合流する形に。


 「ううっ、メリアさんが無事に歩いている姿を見て安心しました!」

 「ああもう、鬱陶しい。治ったことは既に伝えているというのに」


 抱きついてこようとするルニウを押し退けてファーナに任せたあと、メリアはやや崩れた衣服を整える。


 「おお、モンターニュ伯爵、怪我は大丈夫ですか? 深く刺されたと聞きましたが」

 「ええ、内臓まで達していましたが、現代の医療技術のおかげで無事に治りました」


 壮年の男性であるノーマンは、自らの脇腹辺りに手をやると、やや険しい表情を浮かべる。


 「人間というのは、思ったよりは丈夫で、それでいて案外脆い。工場での事故などを見ると、嫌でも実感することになります」


 労働者が、機械によって大きな怪我をするというのは、それなりにありふれている。

 重大な事故が起こらないよう、様々な対策が施されているとはいえ、それでも事故を完全に無くすのは難しい。

 しかも、クローネ・アームズでは実験のための部隊が存在する。

 社長である彼が、凄惨な事故を目にする機会はそこそこあるわけだ。


 「メリア・モンターニュさん。そこにいるルニウから聞きましたよ。新しい船の中で、皇帝と一騎討ちをしたそうですね」


 次に声をかけるのは、若い女性であるロズリーヌ。

 ルニウと同じ大学に通っていた彼女は、色々なデータが表示されている端末を手に持ち、画面上で指を動かし軽く弄っていた。


 「ええ。あの時、殺そうとしたのですが、殺しきれませんでした」

 「……いきなりなことをお聞きしますが、メアリ皇帝が作り上げたソレイユという船に関するデータがあるなら、高値で買い取らせていただきます」

 「会長は、ずいぶんと興味がおありのようで」

 「おかしいですか? 人類以外の存在と協力して作り上げたという船。それは内部映像だけでも価値があります」


 ロズリーヌからすれば、帝国の内戦がどうなったかよりも、新しい技術が使われただろう船の方が重要なのか、ここぞとばかりにメリアへと迫る。


 「今回の援助において、帝国への進出がわずかしか進まない結果となりました。どうせなら、元を取れるだろう情報が欲しいというわけです」

 「データの提供に関しては、こちらも色々と資金が必要になってきたので、お受けしますとも」

 「では、金額について話し合いを……」


 アルケミアという便利な大型船の代わりを手に入れるには、とにかくお金が必要。

 そこでメリアは、クローネ・アームズという企業に情報を売ることにした。

 船内以外にも、アルケミアが突入したことによって生まれた断面、搭載されていた防衛用ロボットとの戦闘、そして生体装甲が記録されている映像についても引き渡した。


 「……なるほどなるほど。これは貴重な代物です。大まかにですが、これくらいでどうでしょう?」

 「ではそれで」


 提示された金額は、市販されている大型船が二隻は買えるほど。

 交渉して金額をもう少し吊り上げてもよかったが、それなりに大金ではあるため、今後の付き合いを考えてメリアは妥協する。

 外国の企業、それも後ろ暗い実働部隊を抱えているところというのは、かつて海賊だった経験から考えると、お近づきになっておく方が良いからだ。

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