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153話 内戦のあと

 帝国の内戦が終結したことで、共和国と星間連合から大勢の人々が帝国にやって来るようになった。

 その目的はもちろん、人類以外の知的生命体であるフルイドという存在。

 画面越しではなく、実際に自分の目で見ようとしたのである。

 帝国としては、これから皇帝を決めようという時に騒がしくなるのは避けたいという考えがあった。

 なので止めようとするが、当のフルイドから他の国の人々と関わりたいとの申し出が出るため、渋々ながらも認める方向に動いていく。


 「メリア様、果物を切りました。どうぞ」

 「…………」

 「空気に触れると劣化していくので、早く口を開けてください」

 「自分で食べられる」

 「駄目です。大量の出血以外にも、内臓に達するほど深く刺さっていたんですよ? もうしばらくは安静にしないといけません」


 帝国各地が騒がしくなっていく中、メリアは病室のベッドで横になっていた。

 ファーナが付きっきりの看病を行うせいで、気が休まる時は少ない。

 身体を動かそうとすると、即座に止めてくるのも理由としては大きかったりする。


 「もう治ってる。今は、手足が吹き飛んでも数ヶ月あれば再生できる医療技術があるんだ。内臓に達するくらい深く刺されても、死なないなら問題ない」

 「……仕方ありませんね。このあとどうしますか」

 「とりあえず、まずはこの病室を出るところからだよ」


 全身を軽く動かして、これといって問題がないのを確認したあと、退院手続きを済ませる。

 費用については、この惑星を統治している反皇帝派の貴族が出してくれたため、実質的に無料だった。

 そして無人タクシーに乗って近くの都市へ。

 軽く買い物をしてから、宇宙港に向かうつもりだったが、ここで異変に気づく。

 ルニウの姿が見当たらないのだ。


 「そういえば、ルニウはどこにいる? あたしが寝たきりの時とか、色々とちょっかい出すために来そうなものだけど」

 「メリア様の代わりに色々と後始末を。ソフィアから借りた艦隊を返すことや、企業から派遣された実験部隊を共和国まで送ったりとかです」

 「そうかい。あとでお礼の言葉を伝えるか」


 寝たきりで動けない間、自分の代わりに動いてくれたことには、内心感謝するメリアだが、本人の前で言うつもりはなかった。

 調子に乗るのが目に見えているからだ。


 「メリア様、わたしたちは内戦によって色々と失いました。あるのは小型船二隻と、いくらかの無人機だけです。それらも、新しく生産することはできません」

 「……生きているならどうにかなる。会社の方は儲けが少ないけど、儲かってはいるから」

 「そうですね。なので、一つお願いしたいことが」

 「お願い?」

 「手を繋ぎましょう。ここしばらくご無沙汰でしたので。死んでいてはできません」

 「……まあ、生きていないと無理か」


 死んでいたなら手を繋ぐどころではない。

 メリアは軽く頷いてから、ファーナが差し出す手を握る。

 硬くて柔らかい、人間とは異なる独特の感触が手を通じて伝わる。

 無人タクシーの中で、しばらくそうしていたが、治療を受けていた病院から都市はそこまで離れていない。

 目的地に到着したので、そろそろ手を離して降りようとするメリアだったが、ファーナが手を離さないのでやや険しい表情となる。


 「おいこら」

 「いけませんか? わたしがそうしたいから、そうするわけです」

 「まったく……」


 渋々ながらも受け入れたあと買い物に向かう。

 そこまで買う物はないため、買い物自体はすぐに終わるが、無人タクシーを探して歩いている途中、ビルの大きなガラスに手を繋いで歩く姿が映ると、ファーナは立ち止まって口を開く。


 「こうしてみると、親子みたいですね」

 「…………」

 「無視はひどいです」

 「無視したくなるようなことを言う方が悪い」


 今のメリアは、女性向けの一般的な衣服を着ており、ファーナがロボットであることに目を瞑れば、身長の違いなどから親子に見えなくもない。


 「そういえば、セフィの方はどうなってる?」

 「それは直接聞いた方が早いです。わたしたちは惑星にいるので、宇宙港辺りで星系間通信を行えばすぐですよ」

 「なら少し急ごう。今後の予定にも関わる」


 宇宙港を探すのはとても簡単。遠くからでも見える軌道エレベーターを目指すだけ。

 地上の施設で手続きを済ませたあと、軌道上の施設に移動するのだが、混んでいるせいかしばらく待つように言われてしまう。


 「申し訳ありません。数十分ほどお待ちいただく必要がございます」

 「そうですか。ちなみに、何か事故などが?」

 「いえいえ、帝国以外の国から、大勢の人々が訪れていまして。フルイドと呼ばれる存在を見るために」

 「ああ、それはまた大変ですね」


 当たり障りのない会話を済ませてから受付を離れたあと、星系間通信ができる施設へと足を運ぶ。

 利用料金は、距離と時間次第で変動するため、宇宙港内部で長く利用する人はそこまで多くない。

 セフィが過ごしている学園コロニーに連絡を入れて、教師らしき人物に呼び出してもらうと、授業中ではないからか、見覚えのある少女の姿が画面上にすぐ現れる。


 「はい。こちらセフィです。宇宙港から連絡してくるなんて、珍しいですね」

 「色々と面倒なことが片付いたから、そちらの様子を確認したいと思っていて」


 周囲を歩く人々の存在や、通信が記録されていることが合わさり、メリアは演技混じりに尋ねる。


 「クラスメイトと馬鹿なことをして、先生に怒られたりするのが何度かありました。あと離れた学科の生徒から告白もされましたが、面倒なので断りました」

 「……学園生活を満喫しているようでなにより」


 セフィはかつて、自分を捕らえていた犯罪組織を、当時薬物と化していた己の血を利用して壊滅させた事実がある。

 端的に言って物騒な少女だが、今のところ学園生活は問題なく送れているため、メリアとしては少し安堵した。

 このセフィという少女を養子にしているからだ。


 「学園祭が始まるまでに来れそうですか? 帝国の内戦の影響もあって、二週間後に延期しましたけど」

 「二週間ね……来れると思う。来れそうにない時は、あらかじめ連絡するから」

 「来てください。クラスメイトに舐められるので」


 通信はこれで終わるが、メリアは思わずファーナの方を見た。


 「クラスメイトに舐められるって、どういうことだと思う?」

 「いけすかない相手に馬鹿にされる、とか? あるいは、周囲は親と一緒なのに自分だけ一人は避けたい、というのも考えられます」

 「ある意味平和な悩みだ。叶えてやらないとね」


 命の奪い合いに比べれば、なんとも平和な限り。

 内戦という面倒事、それに加えてメアリという自分のオリジナルから距離を取る良い機会でもあるため、メリアは学園祭に間に合うよう急ぐことを決める。


 「あ、わたしたちが軌道エレベーターに乗る順番が近づいています。そろそろ行かないと」

 「ああ」


 軌道上にある宇宙港に到着したあと、停泊している小型船に入る。

 そして出発しようとするが、とあることを思い出す。


 「そういえば、アンナ辺りから連絡は?」

 「一応、来ています。連絡したい時は、ここにするようにとだけ」


 ファーナが手に持つ小型端末の画面には、宛先が表示されていた。

 直接連絡するのは問題がある状況なのだろう。

 すぐに連絡を試すメリアだったが、数回しても繋がらない。

 一度諦めるかと考えたその時、ようやく繋がったようでアンナの声が聞こえてくる。


 「ごめんなさい、ちょっと立て込んでて」

 「忙しそうだね」

 「あ、今のうちに謝らせて。あなたに対する支援だけど、上の方が認めてくれなくてね」

 「もう過ぎたことだからいい。そっちは今何をしてる?」

 「共和国の方の、好戦的な方々を抑えるために色々やってるの……」

 「内戦に介入しようとでもしていたか」

 「大雑把にはそうなるわ。もっと過激なのだと、星間連合と共に帝国を二分割しようという意見もあったりしたけど。こういう人を止める大変さってわかる!?」

 「誰かさんの愚痴を聞きたくて連絡したんじゃないんだが」


 仕事関係でストレスが溜まっているのか、アンナは愚痴を言い始めた。

 これは長引くなと感じたメリアは、早々に話を切り上げようとするが、アンナは一度引き留める。


 「待って待って。切る前に最後にこれだけは聞いて」

 「それは?」

 「帝国の内戦でどこも騒がしくなってたけど、とりあえず終結した結果、帝国に向かうはずだった力の流れが、別の場所で暴発とかあるかもしれないから注意して」


 通信が切れたあと、メリアは軽く息を吐いた。


 「まだまだ一波乱あるってことを言いたいのか……」

 「共和国が内部で揉めてるのはわかりました。となると、何か起こるとしたら星間連合辺りが危なそうですね?」

 「……ちょっとしたことなら、その国の誰かが対処するだろうさ。あたしがいるところで起こらなければそれでいい」

 「そうですね。大変だったのでしばらくは平穏が一番です」

 「まったくだ」


 それは紛れもない本心からの言葉。

 なお、何事もないのが一番良いとはいえ、関わったものが色々とあるため、どれくらい今の平穏が続くかはわからない。

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