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151話 ソレイユ内部にて

 「……うぅ、今の衝撃で死んだ奴は?」


 船に船が突っ込む。

 それは一歩間違えれば、お互いに爆発して終わりという結果に繋がりかねない危険な行為。

 しかし、アルケミアの頑丈さか、あるいはソレイユという船が普通ではない方法で作られたからか、お互いに大きく破損する程度で済んだ。

 ただ、その際の衝撃は凄まじく、人型の機械に乗り込んでいないと命の危険があるほど。


 「本体と端末を含め、わたしは無事です」

 「ルニウですけど、装備が散らばりました」

 「あー、こちらトーマス。機体を損傷した者はいるが負傷者はいない」


 ひとまず無事であるという報告を聞いたメリアは、人型の作業用機械の手に大型の銃器を握らせると、ひしゃげた格納庫の扉の奥を見る。

 帝国製の船にありがちな内装に、生物的特徴が混ざった、どこか異質なソレイユの船内が見え隠れしており、警備用のロボットが稼働し始めていた。


 「ファーナ、ソレイユにハッキングは? 船内の構造を知りたい」

 「……かなり難しいです。構造については、アルケミアが突入した際にいくらかソレイユの断面を確認できたので、予想図を用意することはできます」

 「ならそれでいい。外で味方が戦っている間は、流れ弾を恐れてあの皇帝は脱出したくてもできない。終わったら逃げられるから、その前に仕留める!」


 有人機、無人機、合わせて数百もの戦力がアルケミアの格納庫から飛び出すと、皇帝であるメアリがいるだろうブリッジへと移動していく。

 だが、ソレイユという船が巨大であるからか、防衛のための戦力はかなり存在し、すぐに足止めされてしまう。


 「ちっ、数が多い」

 「全長五キロメートル、直径は二キロほど。その分だけたくさん入るわけですね」

 「言ってる場合か。資源を輸送する大型船よりでかいということは、利用できるワープゲートは存在しない。それなのに作り上げたのは、何か厄介な意図がある」

 「この分だと、単独でワープできたりして」


 通信に割り込むルニウの言葉に、メリアは口を閉じると考え込む。

 人類は未だに、星系間の移動にはワープゲート以外の手段を持たないでいた。

 人類の領域を拡大するため、膨大な探査船が未知の宇宙へと送り出されており、そのような船にはパーツごとに分けられたワープゲートが積み込まれている。

 実はこれは専用に作られた特別製のものであり、人類の領域に設置してある特定のワープゲートにしか繋がらない。

 もし、専用のワープゲートを作るとしても、時間的な問題がある。ソレイユという巨大船と同時に作ることはほぼ無理と言っていい。


 「いや、さすがにそれはない。こんな代物と同時に作るのは無理がある。なにせ、海賊行為で色々奪ってきたんだ」

 「そうでしたそうでした。私たちで大量の物資を奪っていったので、向こうにとっても万全な状態ではないわけですよ」

 「まあ、万全な状態なら、ルニウの言うことも実現する可能性はあるけどね」


 船内は大量のロボットが迎撃に出てくるが、生物の姿は存在しない。

 人間とフルイドのどちらも。

 何十機目かのロボットを破壊したあと、メリアはそれに気づいた。


 「……乗組員とかを見かけた者はいるか」


 この質問に対して、全員が見ていないと答える。


 「ちっ、こうなったら内部を爆破してでも最短ルートを進む。もし皇帝が逃げだしたら、船内に残ったままだと確実に死ぬ」

 「以前、わたしがアルケミアの慣性制御システムを切ってから、急加速と急減速を繰り返した時と同じことが起きますね」

 「……うへぇ、あの時の光景は今思い出しても背筋が寒くなりますよ」


 当時の光景を目にしたメリアとルニウの二人にとって、それは絶対に経験したくない出来事。

 それもそのはず、通信を聞いていたトーマスが思わず驚くほどのものであるのだ。


 「あー、伯爵殿、とんでもない話が聞こえてきたんだが」

 「企業の実験に関わってるなら、何度も見てきたはず」

 「まあ、それはそうなんですが。……画期的な新型の推進機関の実験をしようとした時、慣性制御に意識を向けるのを忘れて、実験を開始した際にひき肉になった者とかいますからねえ。もっとひどいのだと、スープになったりとか」

 「……なので、船内を爆破してでも無理矢理に突き進む必要がある」

 「なら、我々にお任せを。こういう工作についても慣れていますので」

 「敵対する企業に襲撃をかける時とか?」

 「それは……お好きに想像なさってください」


 明言することを避けるトーマス。

 実験部隊の隊長である彼は、その立場ゆえに色々見てきたのだろう。

 すぐさま工作に特化している装備の者が進み出ると、メリアが指示した場所に専用の爆薬を仕掛けて爆破する。

 すると、小さな穴ができるため、その穴をビーム兵器によって拡大したあと移動していく。


 「もうすぐブリッジの近くに到着します。ですが、アルケミア内部に敵が侵入。船内の工場で生産した無人機で対抗していますが、そちらへの支援はできなくなります」

 「わかった」


 進めば進むほどに、同行する無人機の数は減っていく。

 有人機の盾になって破壊されるもの以外に、敵を抑えるために残ったりするのが増えていくためだ。

 今のところ有人機に被害が出ていないのは、運が良いとしか言えないくらい、ソレイユ内部にいる防衛用のロボットは膨大だった。


 「……ここは」

 「あそこに他とは違う扉が」

 「待ってください。何か出てきます」


 ブリッジに通じているだろう扉が開くと、何体かの人型をした存在が現れる。

 生物と機械が混ざったようなその存在は、これまでとは違う相手であることが一目で理解できる。


 「フルイドか……。ここで出てくるということは、ある意味大当たりだが」

 「侵入者よ。皇帝のところへは向かわせない」


 すぐさま攻撃命令を出そうとするメリアだったが、その時船内への通信が行われる。

 声の主は、皇帝であるメアリ。


 「ここまで来たんだ。メリア・モンターニュ伯爵だけは通っていい。他の者はそこで待つんだね。私の護衛をしていたフルイドの者たちを排除すれば通れるけど、果たしてそれができるかな?」

 「……通るか、それとも戦うか。選ぶのはそちらだ」

 「通る方を優先する」

 「メリア様、わたしたちはどうしましょう?」

 「好きな時に行動すればいい」

 「ではそうします」


 今戦わなくても、あとで戦えばいい。

 ファーナとルニウはフルイドの方を警戒し、トーマスたちの部隊は、皇帝側の増援が来ないよう他に通じている通路や穴などにおいて、簡易的な陣地を形成した。

 そしてメリアは、人型の作業用機械に盾と銃器を持たせた状態で、ソレイユのブリッジへと足を踏み入れる。


 「ようこそ。私の生き写しであるクローン。君を歓迎するよ」


 ブリッジには、メアリだけがいた。驚くことに、パワードスーツのような代物を着た状態で。

 他の乗組員は存在せず、彼女の指示によるものか扉には鍵がかかる。


 「はん、あくびで涙が出るくらいには感動的な歓迎だね。……他の乗組員とかはどうなっている? これだけ巨大なのを誰が動かしている?」

 「それは、君のところにいるファーナのような存在が、私にもいるとだけ」

 「人工知能か。果たしてまともなのかという問題があるが」

 「それは、まともの基準とどこに置くかで変わる。それよりも、少し話をしようじゃないか」

 「……どんな話をするって?」


 パワードスーツのような代物の性能は不明。

 なので無理に仕掛けず、相手の提案に乗るメリアだった。


 「この辺りで手打ちにしよう。殺したし、殺された。もう十分だと思う」

 「あの時は、あたしを排除しようとしていた者が、ずいぶんとお優しい考えに変わったもんだ」

 「フルイド側の犠牲も大きいものになってきた。これ以上は、私を見限る可能性が出てきたんだよ」


 悲しそうな声を出し、やれやれと肩をすくめてみせるが、素顔は隠れているので本心かどうかはわからない。


 「アルケミアの突撃が影響してるのか」

 「そうなるね。あとは、反皇帝派の攻撃も侮れない。捕まえたフルイドを調べて、多少の対策を講じてきた。なんだと思う?」

 「……人類からすれば、おかしい存在とはいえ、フルイドも生物には違いない。毒か何かのはず」

 「動物や植物が持つような毒を濃縮させ、船体の表面に塗るための塗料に混ぜる。そうすると、フルイドによる侵食を防げるというわけ。場合によっては、毒の入ったカプセルを撃ち込むとかも」

 「本体は不定形で水分が多そうだから、毒の回りも早いか。そもそも遅かれ早かれ、そういう対策は出てくる」

 「とはいえ、予想よりも早い。せめて内戦の最中は、気づかないでほしかった」


 対策は、ある意味単純なもの。

 宇宙船が飛び交う時代において、動物や植物の持つ毒と同じ成分を生産することは難しくない。

 いくら金属を侵食する不可思議な生物であっても、毒に対しては弱いわけだ。


 「もし受け入れるなら、君を含めて私に敵対した者すべての罪を不問にする。さて、こちらはだいぶ譲歩しているけれど」


 内戦で敵対した者を罪に問わない。

 それは破格の申し出であった。

 しかし、メリアはそれを受け入れず、首を横に振る。


 「あたしが真っ先に受け入れるわけにもいかない。それに、今を逃がしたらオリジナルを殴れる機会は無くなる」

 「前者は建前、後者が本音だろう?」

 「大した問題じゃない」

 「まあ、良い機会ではあるか。オリジナルとクローン、どちらが強いか決めよう」


 戦うことが決まった瞬間、メリアは銃弾を皇帝に向けて放つ。

 反皇帝派の戦況はわからないため、内戦の勝利を求めるなら殺すしかない。

 その方が後腐れもない。

 しかし、そう簡単に殺されてくれる相手ではないのか、軽々と避けてしまう。

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