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146話 犯罪組織の影

 広大な帝国内部において、複数の勢力が争う状況というのは、軍や警察の目が届かない場所が増えることを意味している

 平和な時なら安全だった地域も、今では危険なところになっていたりする。


 「そこの大型船、止まれ。抵抗はするなよ。死にたくないだろう?」


 いくつかの星系を越えて、星間連合と接する国境部分に到着したメリアであったが、航行途中にまさかの出迎えを受ける。

 それは海賊の集まりだった。

 数にして二十隻以上もいるため、海賊にしてはなかなかの規模。

 ここを支配しているはずの貴族は何をしているのか、軽く文句を言いたくなる状況だったが、わざわざ選んで向かったのは自分なのでどうしようもない。


 「ちっ、わざわざ親皇帝派のところを選んでやって来たってのに」


 本来なら国境となる地域の貴族は、他国へ備えるため積極的な中立を宣言するはずが、ここだけは親皇帝派であることを選んだ。

 なので軽く暴れて一時的に注意を集めてしまおうと考えるメリアだったが、既に面倒な先客が暴れていた。

 これをどうにかしないことには次に進めないため、とりあえず通信に出る。


 「あなた方は海賊、ですか」


 相手から民間人に思われるよう、メリアは怯えた演技をしつつ対応するが、通信画面に映らないところではファーナとルニウに指示を出していた。

 いざという時、こちらから攻撃を行うために。


 「はっはっはっ、こわーい帝国軍はわざわざ内輪揉めしてくれてるからな。このチャンスを物にしないと、もったいないわけだ」


 アルケミアは現在、武装の乏しい民間船に見えるよう外観を偽装してあるため、海賊たちからすれば美味しい獲物に見えるわけだ。


 「いやはや、俺たちはこう見えて優しいからな? 積み荷とかをまとめたコンテナを放出してくれたら、船自体は見逃してやるとも。おっと、何もないだなんて言わないでくれよ? 一隻だけで航行する大型船、その中には何かあると言ってるようなもんだ」

 「……わかりました。格納庫からコンテナを出すので攻撃はしないでください」


 通信が切れたあとは、鬱陶しい海賊の撃退準備が進められる。


 「ファーナ、コンテナの中には無人機を入れろ。それを大量に宇宙へ出したあと、全速力で移動しつつ近い奴から撃て」

 「素直に物資とかを差し出すのも一つの考えかと。あの海賊たちは、わたしたちの代わりにこの星系を荒らしてくれるのですから」

 「あんな戦力じゃ、護衛艦隊とかに返り討ちされるだけだよ。あとは、少し話を聞きたいから実力差を見せつけてやれ」

 「ふふ、了解しました」


 ファーナは笑みを浮かべると、言われた通りにコンテナへ無人機を格納していく。

 戦闘機と、機甲兵もどきの二種類を。

 数にして百近くと奮発したため、コンテナが宇宙にばらまかれたあと、海賊たちは驚きからか連携を欠いた動きとなる。

 もし、今の状態で攻撃を受けたら、浮き足立つことは間違いない。


 「駄目だね。獲物を前にあれじゃ、遠からず討伐される」

 「そろそろ仕掛けますか?」

 「ああ、相手は……中型船と小型船が混ざっているから、中型船を優先的に沈めるように」


 巨大なスクリーンを通して海賊の動きを眺めていたメリアは、頃合いということで合図を出した。

 コンテナの回収作業をしている作業用機械を吹き飛ばす形でコンテナが自壊すると、大量の無人機が現れる。

 あまりにも突然のことに、海賊側は状況を把握するために動きが止まるが、それは大きな隙を晒すことに繋がる。


 「お、お前、これはいったい……」

 「お前たちは襲う相手を間違えた。その結果だよ」


 慌てた様子の通信が入るも、メリアはあくび混じりに答えると、頬杖をついて目の前の光景を眺める。

 ファーナの操作する無人機部隊は、圧倒的な連携によって一方的に海賊船を沈めていく。

 アルケミア自身の攻撃もあるため、数分も経たないうちに海賊の艦隊は壊滅してしまう。


 「排除完了です。生き残りはどうしますか?」

 「回収できる分は回収。そのあとは監視付きで格納庫に。何か知ってそうな者がいれば、別室で聞き出す」

 「ではそのように」


 中型船と小型船による艦隊だったため、元々の人数は多くない。

 自動化が進んでいるので、人員が少なくても船は動かせるからだ。

 そのため、船外作業していた者を含めて生き残りは三十人程度。

 回収して格納庫に集めたあとは、機甲兵もどきが銃器を持ったまま監視として周囲を固め、船内通信によってメリアが質問をしていく。


 「この星系は、親皇帝派の貴族が統治していたはず。どうして海賊が堂々と活動を?」

 「あんた、知らねえのかい? 星間連合から、俺たちのような奴らがわんさかとやって来ているのを」

 「ある程度予想はしていた。けれども、ここまでとは思わなかった。……もし、詳しく話してくれる者がいるなら、それなりの待遇でもてなす」


 メリアがそう言うと、海賊の生き残りたちは顔を見合わせながら小声で話し始める。

 言うべきかどうか相談しているような感じだが、あまり乗り気ではない様子。

 それだけ上が怖い組織ということになるわけだが、そこでメリアは相手が言う気になるよう後押しをする。


 「周囲をよーく見てみろ。色々あるだろう? これはお前たちと同じように海賊として手に入れた積み荷だ」

 「……あんたの実力を疑っているわけじゃない。今あんたに殺されるか、戻ったあと組織に殺されるか。どうせ死ぬなら話す意味がない」

 「とりあえず、どこの組織の者かは話してもらいたいね」

 「ああ、それくらいなら。俺たちは、オラージュというところに所属している」


 海賊の一人が口にしたオラージュという単語。

 これを耳にしたメリアは顔をしかめると、内心舌打ちをする。


 「……よりによってそこか」


 それは厄介な犯罪組織。

 今は教授と呼ばれる者が乗っ取っており、彼は遺伝子操作の果てにセフィという少女を生み出した。

 少女の血から精製される薬物をきっかけとして一度争い、休戦をしたものの、オラージュという組織がこうして動いているという事実は、メリアからすれば様々な懸念が浮かんでくる。


 「オラージュは今も教授が率いているのか?」


 まずはそれを確認しないことにはどうしようもないため、直接質問をしてみると、海賊たちは目に見えて騒がしくなる。


 「あんた、教授といったいどんな関係……」

 「質問してるのはこっちだよ」

 「あ、ああ。オラージュは教授が一番上で、あの人の命令で俺たちは帝国を荒らしている」

 「その理由は?」

 「俺たちのような下っ端が知るもんか。襲えと命令されてるから襲ってるだけだ」


 これはどうしたものか。

 メリアは腕を組んで考え込むが、選択肢は少ない。

 一つは、このまま捕まえている海賊たちを警察辺りに放り込み、適当に星系を荒らしてから帰るというもの。

 もう一つは、この海賊たちを通じてオラージュに接触し、教授に直接問いかけるというもの。

 なかなか厄介な問題が出てきたため、すぐにファーナとルニウを交えての話し合いが行われる。


 「どうするべきだと思う?」

 「帝国が内戦状態だから、この隙に稼ぐ……というのも安直過ぎる気がします」

 「そうそう。でも、セフィちゃんを狙うとかじゃなさそう。あの子は星間連合の学園コロニーにいるから」


 教授が生み出したセフィという少女。

 彼女はメリアの養子となったあと、幼いこともあって学園コロニーに滞在することになった。

 学園コロニーではなく帝国に仕掛けているということは、何か別の目的があってのことだろう。

 とはいえ、情報がないので考えてもはっきりした答えは出ない。


 「……とりあえず、接触するだけしてみようか」

 「いざという時に備えて、無人機の増産をしておかないといけませんね」

 「どうなりますかねえ。協力できそうにも思えるし、敵対しそうにも思えます」


 不安な部分もあるが、メリアは船内通信によって海賊たちに伝える。

 オラージュを率いている教授に会いたいということを。

 その瞬間、大きなどよめきがあったものの、それは可能だという返事が来た。

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