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145話 大きな戦闘のあと

 「モンターニュ伯爵。あなたの助力に感謝の意を示したい。内戦に勝利した暁には、あなたが望むものを得られるよう、私を含めた艦隊の者たちによる口添えをさせていただく」


 映像が流れている画面に指先が触れると、小さな音と同時に映像は停止する。

 これは戦闘が終わったあとメリアに対してリウヴィル伯爵が送ってきたお礼のメッセージであり、あの艦隊にいた他の貴族によるお礼の文章も同封されていた。


 「大きな貸しを作れたのはいいけれど、問題は全員生き残れるかどうか」


 首都星周辺における艦隊戦を目にしたメリアは、ため息混じりに頭を振る。

 新兵器に、新たなる戦術。

 今回はなんとか勝てたものの、今後待ち受けているメアリとの戦いでは、勝敗にかかわらず大きな犠牲が出るだろう。

 もしもリウヴィル伯爵たちが死んだなら、口添えどころではない。


 「メリア様、輸送船団が降伏しました」

 「ん、ああ、それなら貰えるものを貰ってから退散だ」


 首都星を巡る争いに勝利したとはいえ、内戦の終結には程遠い。

 戦闘のあと、ソフォラを拠点となる場所に移送し、すぐに親皇帝派への襲撃を再開する。

 基本的にアルケミア単独の行動となるが、ファーナの操る無人機部隊のおかげで、十隻くらいまでなら護衛の艦隊を無傷で蹴散らすことができた。

 そのため輸送船団への襲撃はかなりの成果を上げ続けている。

 親皇帝派を襲う神出鬼没の存在。

 それは、メアリに与する貴族の数を大きく減らすことに貢献していた。

 反皇帝派に加わることはないが、だからといって簒奪者である今の皇帝に協力することもない。

 そういう曖昧な選択をする貴族を増やしていくことで、少しでも有利な状況を作り上げるわけだ。


 「輸送船団は大量の資材を運んでいますが、どういう目的があるのでしょう?」

 「さあね。戦闘艦の建造に、色々整備できる宇宙の基地の作成、他にも使い道はかなりある」

 「そうなると、このまま襲い続けるのが一番というわけですか」

 「そうだよ。おかげで、あたしたちは金を使うことなく必要な物資とかを賄うことができてる」


 海賊行為の大きな利点は、無料で色々調達できるところにある。欠点は、平和な時にすると犯罪者となってしまうという部分。

 食料や資材を購入するとなると、かなりのお金が必要になるが、メリアの保有する財産だけでは到底足りない。

 しかし相手から奪ってしまえば、タダで手に入れることができるので、襲撃をすればするほど潤う形になる。


 「格納庫には……まだ余裕があるね。あと何回か別の船団を襲って、色々と巻き上げてから帰るとしよう」

 「どこを狙いますか?」


 ファーナがそう言うと、帝国全体の地図が表示される。

 それは、光年単位で距離のある星系の位置を正確に記したものではない。

 位置的に正確な代物は、必要な空間の問題もあって巨大な施設でしか目にすることはできない。

 これは距離を完全に無視し、ワープゲートによる繋がりだけを見て、平面的に星系を配置していった簡易的な地図。


 「一度、地図の下側部分に行ってみようか。ここなら襲われないだろうという安心を打ち崩すためにも」


 地図の下側、つまりは帝国が星間連合と接する地域。

 接している範囲は広いが、目指す場所はすぐに決まった。

 豊かでありながらも、少し治安がよろしくないところである。


 「それでは、急いで向かうことにします」

 「あたしは部屋に戻る。到着したら連絡しとくれ」


 何事もなければ、一日か二日ほどで到着できる。

 よっぽど性能の低い宇宙船でもない限り、一つの星系の端から端まで、およそ数時間で移動が可能。

 とはいえ、それは他の宇宙船がまったく存在しない場合のみ。

 宇宙にも交通ルールというのはあるため、守れる部分は守った方がいい。

 そうでないと、高速で移動する宇宙船同士が衝突するという悲惨な事故に繋がってしまうために。


 「……会社の方は順調みたいだね」


 アルケミア内部にある殺風景な個室の中、メリアは端末を弄っていた。

 それはなんでも屋の状況を記した様々なデータであり、社員からの報告も含まれていた。

 大部分が、積極的な中立を宣言したフランケン公爵の領地で仕事をしており、そのおかげか大した問題もなく上手く回っている。


 「……ふう、反皇帝派に協力する形で海賊活動をやるのも、ある意味なんでも屋みたいなものか」


 軽く呟いたあと苦笑する。

 海賊から足を洗っても同じようなことをしているというのは、なんとも皮肉な限り。

 背もたれに寄りかかり、平穏は遠いなとぼんやり考えていると、いきなり扉が叩かれる。


 「メリアさん、入っていいですか?」

 「用件は?」

 「一人でいるのって寂しくて退屈。なので会いに来ました」

 「帰れ」

 「待ってくださいよー。どうせ、次の星系に到着するまですることないのに。あと話したいことが」

 「……まったく」


 メリアが扉のロックを解除すると、すぐさまルニウが入ってくる。

 ウキウキとしている様子は、現在進行形で内戦に関わっているとは思えないほど。

 ついでに、その手にはお菓子の袋がいくつか存在していた。


 「あ、食べます? 襲った船団から手に入れたやつですけど。いやあ、初めて見るお菓子とかあって、戦利品を物色するだけでも楽しいですよ」

 「いや、いらない」


 複数の星系にまたがるような大きな企業があれば、一つの惑星どころか、一つの大陸や島でしか営業していない企業もある。

 海賊活動によって手に入れた戦利品の中には、滅多に販売されないような代物が混じっており、ルニウは物色することを楽しんでいた。


 「いいもんですね。お金持ちってのは」

 「突然どうした」

 「アルケミアの格納庫にある、大量の戦利品を見ての感想です。貴族ってのは、ちょっと命じるだけで大金を、それだけの物資を動かせる。平民からすれば夢のよう」

 「そんなことを言うとはね。ルニウは帝国の一番良い大学を出ただろうに」


 大学というのはお金がかかる。

 優秀な学生向けの制度はあるとはいえ、それでもいくらかのお金は必要。無償ともいえるほどの補助を貰えるのは、ほんの一握り。

 ルニウは平民でありながらも、帝国の最高学府たるファリアス大学を卒業したため、メリアからすれば何を言っているのかという話になる。


 「そういえば、メリアさんって大学行ってないんですよね」

 「そもそも高校にも行ってないが」


 十五歳の誕生日に検査があり、自らの生まれの秘密を知ることとなった。そして廃棄処分となるも、海賊の襲撃によって難を逃れた。

 学歴という部分を見ると、メリアはルニウ以下ということになる。


 「うーん……よく今まで生きてこられましたね」

 「なんかむかつく言い方だけどね、これでも生き残るために必死に勉強していたんだよ。まあ大変だった。……で、話したいことは? 無駄話だけならそろそろ帰ってもらうが」

 「次どこに行くのかなって」

 「ここだよ、ここ」


 メリアは半ば呆れ混じりに、帝国全体の簡易的な地図を表示させると、向かう場所に指を置く。

 星間連合と接する地域の一つへと。

 それを見たルニウは、一瞬表情を変えるが、すぐに戻した。

 まるで何かを隠すような様子に、メリアは質問をする。


 「ルニウ、その反応はなんだ? 何か問題でもあるのか」

 「ええと、問題はないんですけど、その」


 数秒ほど、しどろもどろな状態が続くも、ルニウは唸りながらもなんとか答えを言う。


 「うーん……ここって私の両親が住んでるんですよね」

 「へえ? なかなかに気になる情報だ」

 「まさか会いに行ったりとかは」

 「どうだかね。最優先は、親皇帝派の輸送船団を探しての襲撃。余裕があれば、一目見てみたいところだけれども」

 「人の親を見ても面白いことなんてないですよ。いや本当に」

 「今までのルニウを見てきたあたしからすると、そういう反応の時点で少しばかり面白いわけだが」

 「うぅ……」


 珍しく弱気な態度となるルニウであり、メリアからすればこれは驚くべきことだった。

 あの小生意気で鬱陶しい人物が、こうなるとは。

 さすがに口には出さないものの、それなりの付き合いであるからかルニウは察知し、無言で視線による抗議を行う。

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