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144話 首都星を巡る争い

 まずはリウヴィル伯爵率いる二万隻の艦隊が、最初に仕掛けた。大量の艦船によって膨大なビームの奔流が放たれる。

 二万隻が丸い壁のように薄く広く展開しているため、まるで巨大な円筒形の光の塊が発生しているように見えなくもない。


 「効果は……薄いか。再計算のあと配置を変更する」


 首都星付近に展開している七千隻もの防衛艦隊だが、数隻が爆発するだけに留まる。

 その結果を目にしたリウヴィル伯爵は、表向きには冷静さを保っていたが、内心驚愕していた。

 艦船以外に、シールドを発生させる何かを用意しているだろうと考えていたのだが、予想外の代物がビームを防いだゆえに。


 「報告! 敵艦隊正面に謎の発光物体を確認」

 「観測データを見るに、ブロック状のエネルギー体であると推測されます」

 「帝国で研究中だったバリア弾か、まさか実用化されているとは。……このまま攻撃を継続。相手の動きには注意するように」


 二つの艦隊の間に、いつの間にか光の壁とも呼べる何かが存在していた。

 四角いブロック状のエネルギー体が、いくつも合わさって巨大な壁を構成し、それがビームの奔流を防いだのである。

 とはいえ、完全に防げるわけではないのか、防衛艦隊にわずかな被害が出ていた。

 それでも、真正面から攻撃を受けてこの程度の被害で済んでいるのは驚異的としか言い様がない。

 数分後、二度目の攻撃が行われるものの効果はなかった。


 「二度目の斉射ですが、今度は完全に防がれました。ブロック状のエネルギー体がその場に留まり続けており、敵艦隊はエネルギー体をさらに展開させたようです」

 「動きは?」

 「ありません。守りを固めたまま、その場に留まり続けています」

 「ひとまず場所を変える。エネルギー体を無限に用意することはできないはずだ」


 正面に盾があって攻撃が防がれるなら、横に移動して攻撃を加えればいい。

 分散しないのは、フルイドという戦力を警戒してのことだが、そのせいで移動には時間がかかり、その間に一度反撃を受ける。


 「十隻が沈み、三十隻が戦闘不能となりました」

 「戦えないのは後方に下がらせろ。航行に問題がないなら、モンターニュ伯爵の簡易基地で修理を受けてもいい」


 わずかな被害。しかし、相手に与えた損害よりも大きい。

 防衛艦隊は大きい動きを見せないため、リウヴィル伯爵は周囲から見えないようにした上で拳を強く握りしめる。

 フルイドという存在は厄介だが、親皇帝派も油断ならない相手であることを実感したために。




 「あれは、なんなんだ?」


 二つの艦隊が戦っているのを遠くから眺めていたメリアは、近くのモニターに映し出される光景を見て警戒と共に呟いた。

 いったいどういう仕組みなのか、光でできた四角いブロックが壁となるほど大量に出てくると、膨大な量のビームを防いだ。


 「先程の場面を再生します」


 ファーナがそう言うと、攻撃をした時の映像が別のモニターに表示される。

 位置的に、二つの艦隊を横から見えるようなところにアルケミアは存在していたため、映像を記録できていたのだ。

 まずリウヴィル伯爵が率いる二万隻による大量のビームが放たれ、それは防衛艦隊へと近づく。

 すると、防衛艦隊の方はミサイルを放った。

 数千以上の数だが、それらは途中で爆発すると、ブロック状のエネルギー体を放出して壁を形成した。


 「ミサイルということで、それなりに速度や位置を調整できるようです。なので発射に多少のズレがあっても、そこそこ綺麗な壁を形成できているのだと思われます」

 「……ビームは防いだ。なら実弾はどうなる? 試せるか?」

 「建造システムのソフォラによって、レールガンを一基用意できました。ただ、こちらから攻撃すると、反撃が来ますが」

 「ひとまず基地のシールドで耐える。最悪の場合は、コア部分を回収して撤退」


 ワープゲートが近いからこその作戦であり、ファーナは数秒ほど計算したあと、レールガンによる攻撃を実行に移した。

 距離はあるものの、宇宙空間ということで遮るものはほとんどなく、デブリが漂うようなところでもないため、発射された弾頭はブロック状のエネルギー体へと命中した。


 「どうなってる?」

 「命中した部分のブロックは消失してますね。ただ、まだ大量に残っているので、何十や何百と撃つ必要があります」

 「実弾でどうにかするのは、大艦隊なら多少現実味がある程度か」

 「反撃来ます」


 遠く離れているから見逃されていたものの、攻撃してくるとなれば無視できないのか、防衛艦隊の一部がビームを放つ。

 多少拡散して威力が弱まっていたからか、幸いにも被害は出なかった。


 「さすがに耐えるね。これはそこそこ心強い」

 「テストは成功といったところですか」

 「ま、問題は艦隊同士の戦いに勝利できるかだが」


 反皇帝派から提供された基地建設システムは、十分に実用性があることを確かめることができた。

 あとはリウヴィル伯爵率いる艦隊が勝利すれば言うことはないのだが、そう簡単にはいかない。


 「メリア様、敵艦隊の一部が防衛衛星に」

 「……なるほど、そう来るわけか。ファーナ、ルニウ、増援の用意を。おそらくまずい状況になる」

 「はい」

 「ついに出番ですか」


 艦隊の一部が防衛衛星に近づくと、フルイドが侵食していると思わしき小型の機械が乗り移る。

 すると防衛衛星はその形状を即座に変えていく。


 「なるほど、防衛衛星に見えたあれは、別の何かか」


 この戦闘が始まる前から、既にフルイドによる侵食は進んでおり、今までただの防衛衛星に見えるよう偽装していたのだろう。

 防衛衛星自体、縦にも横にもそこそこ大きく、その分だけ質量があるのだが、フルイドによって侵食された防衛衛星は巨大な宇宙船へと変化した。

 中型船と大型船の中間と呼ぶべきそれは、一部分に蠢く肉塊を露出させており、明らかに今までとは違う代物であることを感じさせる。


 「……あたしはどうすることもできない。あの暑苦しい伯爵は、どう対抗するのやら」


 メリアはわずかな戦力しか連れてきていない。

 できるのは補助くらいだが、大規模な戦力がぶつかり合うとなると、できることは少ない。

 モニターが映し出す映像を、じっと見つめるメリアだった。




 「なんだあれは!?」

 「わ、わかりません。おそらくはフルイドが侵食している物体であるかと」

 「敵艦隊、こちらへと接近しています!」


 ヴィクトル・リウヴィル伯爵が乗っている大型戦闘艦の内部は、非常に慌ただしい状況となっていた。

 防衛衛星には事前にフルイドが侵食しており、機動力を持つ艦船となった。

 それが意味することは、千隻もの戦力が相手に増えたということ。

 しかも接近しているということは、明らかに惑星タルタロス周辺での戦闘と同じことをしてくるのは明らか。


 「艦隊を四つの方向に分散させろ! そのまま包囲する形を取りながら射撃を継続させ、後退するように!」


 相手は一つの塊となって接近しており、正面からの攻撃はバリア弾で防がれてしまう。

 そこで分散しての攻撃を行うわけだが、効果は少ししかない。

 数十、数百と敵艦隊に被害を与えていくも、やがて四つに分散したうちの一つが追いつかれてしまうと、フルイドによる体当たりからの侵食により機能停止する艦が続出。


 「ヴィクトル様……いかがなさいますか?」

 「敵が味方に食らいついている。それはある意味、貴重な攻撃の機会でもある。……全力で攻撃をせよ」

 「は、はい」


 リウヴィル伯爵は迷うことなく攻撃命令を出すと、混戦状態にある味方もろとも敵艦隊への攻撃を行う。

 これはかなりの効果を発揮し、大量の爆発が宇宙で発生する。

 千、二千、三千、どんどん増えていく爆発は、敵味方問わないものであり、攻撃命令を出したリウヴィル伯爵はその光景に顔をしかめた。


 「敵艦隊、壊滅状態となりました。戦っていた味方艦隊は……全滅です」

 「降伏の呼びかけを」


 もはや勝敗は決した。

 五千隻を失う結果となったが、それ以上の数の相手を倒せたので、なんとか必要な犠牲であると言い繕うことができる。

 生き残った戦力は、もはや数百というものであり、あとは事後処理を行うだけ。

 そう考えていたリウヴィル伯爵であったが、それがいけなかった。


 「……! 敵残存艦隊がこちらに向かってきています!」

 「まだやる気だというのか!?」


 わずかな気の緩み。

 そのせいで命令を出すのが遅れてしまい、その遅れは、自殺覚悟で突撃する残存艦隊の一部が辿り着くことへと繋がった。


 「報告! この艦は侵食を受けています!」

 「ええい、避難を……」


 バリア弾によって攻撃を防ぎ、フルイドが侵食している艦船が接近する。

 その組み合わせはあまりにも凶悪だが、途中でオペレーターが困惑した様子で報告を行う。


 「は、反応消失。船体に大きな被害はありますが、侵食は止まっています」

 「通信が来ています。モンターニュ伯爵の送ってきた増援のようです」

 「出してくれ」


 映像通信なのか、水色の髪をした女性が画面上に現れる。


 「危なそうということで、私といくらかの戦力が送り込まれたんですけど、間に合ってよかったですよ」

 「一つお尋ねしたいが、どう対処した?」

 「私が操縦する小型船に、無人機を搭載していまして、通常の攻撃と自爆を合わせて、取りついたフルイドを引き剥がしました。そちらのカメラとかに映っていませんか?」

 「……ああ、確認した。恐ろしいものだ。あの有り様で生きているというのは」


 複数の画面のうち一つに、ぼろぼろとなったフルイドが表示される。

 死んではいないのか、わずかに動いていたが、損傷のせいで移動や攻撃などは不可能になっていた。


 「モンターニュ伯爵に伝えてほしい。このたびの救援に感謝すると」

 「ええ、お伝えしますとも。それでは!」


 自らの仕事を終えたとばかりに映像通信はすぐ切れ、水色の髪をした女性は遠くにある小規模な艦隊へと戻っていく。


 「さて、フルイドと生存者の回収を」

 「はっ」


 首都星セレスティアを巡る争いは反皇帝派の勝利に終わる。

 飛び地となっていた部分を潰せたため、より効率的に戦力を集中させることができるようになるが、それは些細なこと。

 正統性の確保と、研究のためのフルイドを手に入れることができたのが、最も大きな収穫と言えた。

 そしてそれは、内戦を終わらせる決戦へと少しずつ状況を近づけていく。

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