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142話 捕虜と身代金

 「これはまた、どんな思惑があるのやら」


 宇宙を映し出すアルケミアのモニターを眺めながら、メリアは呟いた。

 そこに表示されているのは、大量の輸送船と、牽引されている大きな機械の類い。

 それは反皇帝派から提供された基地建設システムの一つ。名称はソフォラ。

 このソフォラは、宇宙の戦場において簡易的な要塞を短期間で建設できるという代物であり、ユニット単位に分けてある砲台やレーダー施設を基地のコア部分に連結、接合していける。

 さらに、資材を使って基地ユニットを増やしていくことも可能。


 「この星系に大きな基地を作って、わたしたちに皇帝派と戦ってもらいたいのでは? もし基地があるからといって相手が無視するようであれば、心置きなく海賊行為ができるというものです」

 「ま、皇帝派に打撃を与えてくれることを願っての支援か」


 資材に関しては、違法に廃棄されたゴミから使えそうな物を再利用できる。

 なんなら小惑星そのものを盾や武器に使ってもいい。

 ワイヤーと爆弾を用いた罠という古典的なものから、推進機関を取りつけてミサイルの代わりにしたりなど。


 「捕虜についてはどうなってる?」

 「脱出を試みるので監視が大変です。早くどうにかしてください」


 反皇帝派からの思いがけないプレゼントから、捕らえている捕虜へと話題は変わる。

 以前の戦闘で討伐艦隊を撃退したが、破壊された艦船の内部には生存者が残っていた。

 そういった者たちを回収したあと、個室に閉じ込めていたのだが、ファーナはやれやれとでも言いたそうな表情で答えた。


 「どうにか、ねえ……? 向こうが話に乗ってくれないとどうしようもない」

 「とりあえず話してみてください」


 ファーナに急かされるまま、メリアは一度惑星の方へと向かう。

 目的は、捕虜について親皇帝派の者と話し合うこと。

 星系間通信のために惑星へ立ち寄るが、軌道上に展開している警備艦隊は、付かず離れずの距離を保っていた。

 完全に無視することはできず、かといって手を出して手痛い反撃を受けることも避けたい。

 そんな葛藤が見え隠れする行動であり、メリアは軽く頭を振る。


 「下っ端は苦労が多いね。あたしが言えたものでもないが」


 星系間通信を行うと、少し応答がない時間が続いたあと、見覚えのある顔が出てきた。

 それはメリアからすれば非常に腹立たしい人物。

 皇帝の座を奪い取ったメアリが、笑みを浮かべたまま画面の向こうに立っていた。


 「やあ」

 「…………」


 茶色い髪と目をした美しい女性が軽く手を振ってくるが、メリアはわずかに顔をしかめると、無言のままでいた。


 「無視するのはひどい。君からの通信が来たらこちらに繋ぐよう命じてたのに」

 「わざわざご苦労なことだけどね、それをする意味は?」

 「気にならない? 自分とほぼ同じ存在が、今どうしているかというのは」


 オリジナルとクローン。

 遺伝子的には同一の存在。

 だが、もし今の二人を他人が見れば、外見が似ているだけの別人だと思うだろう。

 それほどまでに、二人が纏う雰囲気や、態度というのは違っていた。


 「ストーカーとは恐ろしい話だよ。さっさとくたばってもらいたいね」

 「それはできない相談というもの。私の命は一つしかないから」

 「大勢の命が消える争いをしてるくせによく言う」

 「そこは視点を変えたらいい。帝国人は数百億もいる、減っても増やせばいいんだよ。人工子宮といった技術の発展は、国民を安定して生産することを可能としているからね。生産計画に手を加えるのは色々と落ち着いてからになるけど」


 かけがえのない個人。

 しかし帝国人という枠組みからすれば、数百億いる中の替えが効く一人でしかない。

 経済に合わせて国民の生産計画には適宜変更が加えられており、内戦が終わったあとは生産数を増やせば元の人口に戻る。戻すことができてしまう。

 つまるところ、メアリという皇帝にとって国民は消耗品でしかないわけだ。

 ただ、海賊として活動しているうちに他人の命を奪った経験はあるため、メリアとしても強く言うことはできない。


 「……無駄なお喋りは終わりだ。こちらにいる捕虜を引き取ってほしい」

 「身代金と引き換えに?」

 「そうなる。艦隊の生き残りに、フルイドも一体いる。もし断るなら、捕虜はこっちで適当に処理する」

 「なるほどね。見捨てたらあとが面倒だし、その申し出を受けることにするよ。ところで場所は?」

 「エール星系で交換を。受け取りに来ていい数は十隻まで」

 「代理の者を送るよ。私自身が行ったら君が殺しに来そうだし。ふふふ」


 話がまとまったあと、メリアは顔をしかめたまま通信を切る。

 軽くやりとりするだけで、だいぶ苛立ってきたからだ。

 とはいえ、ずっとそうしていても仕方ないため、捕虜に近々解放されるということを伝えに行く。

 人に関しては通信越しでいいが、フルイドに関してはそうもいかない。

 建造途中であった拠点の一室に隔離してあるため、一度格納庫に向かう。

 その途中、実験部隊の隊長であるトーマスに遭遇する。


 「おや、ちょうどいいところに。少しいいですか? アランが話があるそうで」

 「うん?」


 彼の横には、両足が義足となっている少年のアランがいた。

 かつて惑星マージナルにあったゲームセンターで見かけた時と姿は変わらず、向こうもあの時会ったことを覚えているのか、微妙に落ち着かない様子でいた。


 「ほら、社長と会長が見込んだ人物だから緊張するのはわかるが、自分から話したいと言っていただろう」


 だが、その時のことを他人には言っていないようで、トーマスはなにやら勘違いしていた。

 それは個人的には嬉しい勘違いであるため、メリアは笑って済ませる。


 「用事があるので、何かを話したいのなら早めに」

 「フルイドを捕虜にしていると聞きました」

 「確かに、一体だけ捕虜にしていて、今は隔離してあるけれども」

 「会うことはできますか?」

 「…………」


 即答することはできなかった。

 人類以外の知的生命体。

 子どもからすれば、実際に目にしたいところだろう。

 しかし、安易に認めると他にも会いたがる者が出てくるかもしれない。


 「ふうむ、アランの護衛として自分も同行して構いませんか?」

 「トーマス隊長、あなたが見たいだけなのでは?」

 「多少は、そういう気持ちはありますとも。なにせ、人類以外の知的生命体です。企業の実験動物とかじゃなく、どこか遠い宇宙から来た存在。宇宙で仕事する者にとっては、気になっても仕方ないとは思いませんか? モンターニュ伯爵」


 現に、この話を聞いたトーマスはフルイドという存在を見たがっていた。

 メリアはやや渋い顔になるも、最終的には認めた。

 小型船で建造途中の拠点に向かい、隔離されている部屋に入ると、侵食されている機械が形状を変化させているところに遭遇する。


 「……何をしているのか言わないと、撃つ必要が出てくるので説明を」


 驚くことに、一切の熱を感じないのにまるで溶けた金属のようになっていたため、メリアはすぐにビームブラスターを構えた。


 「侵食した機械に馴染んできたため、より動きやすい形状になろうとしていた。脱出や襲撃の意図はない。それよりも、わざわざ来たということは、このあと別の場所に移されるのか?」

 「……メアリ皇帝と交渉した結果、捕虜を身代金と交換することになったため、それを知らせに訪れた。そしてもう一つ、こちらにいる余計な客人については、人類以外の知的生命体を見物したいとの申し出があったため」

 「なるほど理解した」


 その後、数分ほど滞在したあと、メリアたちは部屋を出る。


 「初めての存在を目にした感想は?」

 「正直、信じられない」

 「自分もアランに同意します。どうやって声を発しているのかとか、内臓とかどうなっているのかとか、気になって仕方ありません」

 「けれども、そんなフルイドと戦う機会は近い」


 メリアの言葉に、アランとトーマスは考え込むと、大きく息を吐いた。


 「なんというか、悲しい」

 「自分としては、常温なのに溶けたような感じの金属とか回収したいところですが」

 「それについては、こちらで掛け合うので心配はいらない、はず」

 「はずって……」

 「いやまあ、確実ではないのでそういう言い方はわかるんですが、実際に聞くと何か言いたくなりますな」


 それから数日後、捕虜を引き取りに十隻の大型艦による艦隊が訪れる。

 早速、身代金と交換していくが、フルイドを引き渡す段階になってメリアは言う。


 「その溶けた機械は返してほしい」

 「致し方ないがわかった」


 意外にも、フルイドはあっさりと侵食の果てに溶かした金属を脱ぎ捨てた。

 本体が出てきて、帝国軍の兵士は微妙に動揺していたが、無事に回収されると、あとはそのままお別れとなる。


 「さて、トーマス隊長、これをクローネ・アームズに送り届けてもらえますか? フルイドそのものではなくとも、研究の役に立つはず」

 「いやはや、ありがたいことです。社長と会長もお喜びになるでしょう」


 トーマスは実験部隊から数人を連れていくと、部隊が所有する小型船でそのまま共和国へと向かった。

 これで多少なりともフルイドに有効な戦い方が判明すればいいが、メリアはあまり期待しなかった。

 研究がどう進むとしても、その前に大規模な戦闘が起こるだろうからだ。

 それを証明するかのように、手元の端末には反皇帝派からの文章が存在する。少し前に届いたものである。

 親皇帝派に打撃を与えるため、そしてフルイドを生け捕りにするため、余裕があれば協力されたし。

 そのような内容が書かれていた。

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