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140話 秘密裏の接触

 討伐艦隊を撃退したあと、エール星系内部において拠点の設立が進められていく。

 必要となる物資などは、残骸と化した艦船を再利用したり、不法投棄された大量のゴミから使えそうな物を見繕ったりする。

 それでも足りない場合は、近隣の星系に移動して海賊活動で手に入れる形となる。


 「いやあ、お見事。さすがは社長や会長が見込んだお方だ。メリア・モンターニュ伯爵」

 「トーマス隊長。お世辞はいりません」


 メリアは拠点の設立などで留まる必要があるため、海賊活動に出かけるのはファーナとルニウだけ。

 他人ばかりということもあり、貴族として振る舞いながら色々と指示を出していたところ、クローネ・アームズから派遣されている実験部隊の隊長であるトーマスが話しかけてくる。

 戦力で大きく負けているにもかかわらず、討伐艦隊を撃退したメリアの手腕について、彼は純粋に感心したような様子でいた。


 「そうは言うものの、千隻もの艦船を温存したまま三千隻ほどを追い返すことができた。死者を出すことなく。これには思わず賞賛の言葉が出てしまうというものです。違いますか?」


 小惑星とゴミの密集している範囲は、全体からするとそこまで広くはない。

 ソフィアから譲り受けた千隻の艦船については、分散して他の部分に配置していた。

 いざという時に、討伐艦隊を奇襲するために待機させていたのだ。


 「追い返すとは言うけれど、あれは向こうがさっさと引き上げた部分も大きい。もし、こちらを潰すことを優先していたなら、かなりの犠牲が出ていました」

 「ふむ、確かに。ただ、そうなると向こうは本気で討伐する気ではなかったということになりますが」

 「どこも一枚岩ではない。それだけのこと。そもそも内戦が起きている時点で……」


 メリアは言葉を途中で切ると、険しい表情で頭を横に振る。

 数百年も昔の時代に生きていた人間が、よりによって今の時代の皇帝となる。

 それだけでも厄介なのだが、これに人類以外の知的生命体が協力しているときた。

 帝国の内戦がどのような結果に終わるとしても、世の中が大きく変わることだけは間違いない。


 「とりあえず、今回の勝利は反皇帝派を利することでしょう。このエール星系は、誰からも見向きされていなかったものの、拠点を作れば皇帝派は無視できなくなる」

 「位置が良いところにあります。なにせ、反皇帝派と親皇帝派のちょうど中間辺りにありますからねえ。無視できるほど遠くはなく、即座に潰しに行けるほど近くもない」


 遠すぎても近すぎてもいけない。

 面倒な位置にあるからこそ、勢力としては小規模ながらもやっていける。

 とはいえ、それは二つの勢力が争っていて、こちらに向ける戦力にあまり余裕はないからこそ可能なことではある。


 「っと、話しているうちに通信が来ています。……反皇帝派から。どうやら、さっきの戦いをどこからか見物していたようで」

 「まずは会いましょう」


 三千隻近い艦隊ともなれば、どういう行動をするのか気になるため監視していたのだろう。

 親皇帝派の討伐艦隊が被害を受けて星系から退却したのを頃合いと見て、接触しに来たようだった。

 それからほどなくして使者が訪ねてくる。

 乗っていたのは光学迷彩付きの小型船。戦闘よりも隠密性を重視した代物であり、このような監視は他の星系にもいると考えてよかった。


 「お初にお目にかかります。私は……ひとまずメッセンジャーとでもお呼びください」


 現れたのは、飄々とした風采をした壮年の男性。

 護衛はおらず一人だけ。

 正直なところ、怪しい以外の言葉は出てこない。


 「……帰ってもらってもいいのですが」

 「おっと、お待ちを。怪しく思われるのは仕方ないとはいえ、そこまで率直に言われると悲しいものが。遠路はるばるエール星系へとやって来たはいいものの、定期的な報告以外にすることはなく、ずっと隠れながら過ごす日々を」

 「無駄なお喋りを続けるなら、実力行使する用意があります」


 建造途中の簡易的な建物の内部において、メリアは片手をあげる。

 すると、護衛代わりに付き従っている実験部隊の面々は、メッセンジャーを自称する男性へと銃口を向けた。


 「では本題を。メリア・モンターニュ伯爵。我が主たるイネス・ジリー公爵閣下は、あなたと協力関係を結びたいと考えています」

 「見返りは?」

 「ふーむ……そう申されましても、私の一存では答えることが難しいですね。資金や物資は提供できます。それ以外については不明です」

 「協力関係を結ぶのは歓迎したいところですが、こちらの行動については指示をしないというのが前提となります」

 「それは、我々が救援を求めても助けに来るかどうかはモンターニュ伯爵の一存で決まるということですか」

 「そうなります。それに、勝手に動いた方が、そちらにいるかもしれない親皇帝派の密偵の裏をかけますから」

 「なるほど、あなたの意見はわかりました。我が主にお伝えします。返答については、再び訪れるのでその時にでも」


 メッセンジャーと名乗った男性は一礼すると、小型船に戻ってから星系を出るためにワープゲートへと向かっていく。


 「密偵と言いましたが、心当たりが?」

 「いいえ。そもそも反皇帝派の陣容についてもわからないことばかり。ただ、いないはずがないという確信はあります」


 メリアは演技混じりに答える。

 様々な準備をしてきただろう自らのオリジナルが、敵対する陣営に密偵を送り込まないはずがない。

 それはある種の信頼であった。無論、悪い意味であるが。


 「ははは、案外、ここにも密偵がいたりする可能性が」

 「笑えない冗談はやめること。まずは拠点の構築に手を尽くしなさい」

 「はいはい、了解しましたとも」


 小惑星帯の内側には、人が過ごす部分と、戦闘に備えた部分が別々に存在している。

 外から見ただけではわからないよう偽装してあるため、作業自体は平均よりもやや遅いペースで進む。

 拠点の構築から数日が過ぎると、再び来客が姿を現す。


 「どうも、お待たせしてしまいました」

 「それで答えは?」


 メリアがそう言うと、メッセンジャーを自称する男性は大きく頷いた。


 「あなたの要求を全面的に受け入れます。資金や物資については、また後日」

 「それはよかった」


 支援は嬉しいことだが、一番重要なのは独自の行動権。

 結局のところ、メリアにとっては反皇帝派もそこまで信頼できる相手ではない。

 そんな相手の指示を受けて動くことはできないのと、もし指示を受けてあれこれ動くことになれば、親皇帝派が本気で潰しにかかってくるというのもある。

 あくまでも第三勢力としての立場を崩さないことが重要。


 「一つ、主からの言伝を預かっています。“表立っての関係とまではいきませんが、忌々しい簒奪者を倒すまで仲良くしましょう”」

 「倒したあとが怖くなる言伝ですが」

 「どこも一つになれず大変。とだけ」


 メッセンジャーは言うだけ言うと、去っていった。

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