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139話 小さな勝利

 「状況はどうなってる!」

 「敵艦隊の一部と戦闘状態にありますが、相手は小惑星を押し退ける形でこちらに向かっています」


 アルケミアのブリッジでは、メリアが顔をしかめたままモニターを見ていた。

 外の状況と、敵味方の位置を三次元的な地図に記したもの、それらが複数のモニターに同時に表示されている。

 その情報を見てわかるのは、だいぶまずい状況であるということ。


 「多少の損傷は無視してくるか」

 「どうやら役割分担をしているようです。小惑星を押し退ける船と、それ以外という風に」


 小惑星を押し退けるのは、厚い装甲を持った耐久性に優れた艦船。

 少し目を凝らせば、その後ろにいる通常の艦船からは、大量の機甲兵が出てきていた。


 「備えはしてあると」

 「大量ですね。わたしが無人機による襲撃をしても効果が薄そうです」


 いくらファーナに操られた無人機が強力であるとはいえ、使える数には限りがある。

 攻撃すればするほどに迎撃されて数を減らしていくため、とりあえず仕掛けるということはできない。


 「……潜伏してる者たちに連絡。予定よりも早くなりそうだから準備を急ぐように」

 「わかりました」


 小惑星という厄介な障害物を間に挟みながら、メリアたち海賊と、それを討伐する艦隊の一部は撃ち合っていた。

 だが、船体を守るシールドを削り切れるほど当てることはできず、お互いにエネルギーを消耗していくだけ。

 そのエネルギーですら、時間と共に回復するため、見た目が派手な意外は変わったことはない。


 「敵の後続はどうしてる?」

 「動かないようです。ただ、何もしないわけにもいかないのか小惑星を攻撃してます」

 「そっちは今のところ気にせずに済むか。さて、そろそろ逃げるのは終わりにして、反撃の時間だ」


 数十隻の小規模な艦隊は、上下に分散していく。

 小惑星が集まっている範囲は、艦隊がなんとか動ける程度には全体的に薄く広い。

 そのため横だけでなく縦にも移動できる。小惑星の中に紛れる形で。

 とはいえ、移動の途中で狙われそうなものだが、それを防ぐ存在は小惑星以外にもあった。

 それはあちこちを漂うゴミ。

 有機物から無機物まで幅広い種類のゴミたちが、奥に進むほど姿を見せていく。


 「ったく、こういうところに不法投棄するのはよろしくないってのに。おかげで助かっているとはいえ」

 「ぼろぼろな船……の中に色々詰まってますね」

 「惑星での開発には制限がかかっている。当然、何か建築する場合は厳しい監視の元で行われる。ただし、宇宙での建築とかはだいぶ監視が緩い」


 メリアはそこまで言うと、軽く息を吐いた。


 「海賊の仕事の中には、荷物を運ぶというものもある。例えば、産業廃棄物がたっぷり詰まったぼろぼろな船とか」

 「色々と安く済ませたい企業が、そういった代物の処分を任せるわけですか」

 「エール星系みたいな豊かではないところは、ちょうどいい場所なわけだ。処分に関しては、こんな小惑星の集まりの中に置いていけばいい。そして一仕事終えた船相手に稼ぐため、ここに暮らす者は警察とかに通報したりしないでくれるというおまけ付き」


 話している間にもゴミは増えていき、小惑星と合わせてちょっとした壁を形成していた。

 こうなると、船体に色々ぶつかることを覚悟して進まねばならず、ファーナはやや不満そうな表情を浮かべる。

 アルケミアという大型船もファーナの一部であるため、積極的にぶつかるのは気分がよくないのである。


 「敵艦隊の動きは?」

 「こちらを追ってきました」

 「まあ、向こうと撃ち合っても直接被害を与えられる船だし、そうなるだろうね」

 「目標地点に到着しました。反対部分に移動した他の船は、射程範囲外にいます」

 「合図を出せ!」


 別の場所に隠れている者たちに通信を行う。

 すると、数秒ほど経ってから討伐艦隊の正面という位置から、高出力なビームがいくつも放たれる。

 戦艦の主砲以上の威力と太さを持ったその攻撃は、小惑星や不法投棄されたゴミを巻き込んで直進していき、討伐艦隊の先鋒に次々と命中していく。


 「今の攻撃で十隻が沈みました」

 「よし、対応される前に撃てるだけ撃つように伝えろ」


 ブリッジのモニターの一つには、攻撃に合わせて新たに味方の反応が増える。宇宙船よりもやや大きく表示されるそれは、防衛ステーションだった。

 元々は惑星防衛用に作られているため、シールドの耐久性はそれなりに維持したまま、移動能力を犠牲に攻撃に特化してある。


 「いやー、考えましたよねー。まさか防衛ステーションを砲台代わりに使うなんて」


 することがない様子のルニウは、メリアの近くにあるモニターを眺めると、少しずつ減っていく敵艦隊の反応に視線を移した。

 戦艦の主砲以上の威力を持つビームは、それなりに連射ができるのか、およそ十秒に一回放たれる。

 そのたびに敵艦隊の反応は減っていくが、元々の数が三十基と少ないため、まだ勝利には程遠い。


 「戦いは火力が必要になる。生身での銃撃戦から、宇宙での艦隊戦まで」

 「やられる前にやれ?」

 「そう。結局はそれだ。避けるのは大事だが、そもそも相手の数を減らせばいいわけで」


 話している間に、海賊艦隊の方でも攻撃を行っていた。

 とはいえ、数が少ないので決定力が不足しているものの、そこはファーナが動かす無人機部隊が猛威を振るう。

 無人機のコストは、宇宙船に比べれば非常に安い。

 つまり使い捨てること前提の運用が可能であるため、防衛ステーションの攻撃から逃れようとする相手を捨て身の攻撃によって妨害することもできる。


 「うわーお、ファーナってば、結構えげつないことやってますよ。推進機関に突入させて自爆とか」

 「……戦力差があるから、こうでもしないと対抗できない。それにあの艦隊は、あたしのオリジナルに協力してる側だからね。容赦なんてする意味がない」


 皇帝の座を奪い取ることに成功したメアリ・ファリアス・セレスティア。

 彼女に協力する者たちも敵ではある。

 それに今は内戦の最中であり、犠牲を出さない方法は存在しない。


 「後続に動きは……無しか」

 「見捨ててる可能性があったりして」

 「それならそれで、こちらとしては助かる」


 大まかな状況としては、討伐艦隊の正面に防衛ステーションが存在し、一方的に攻撃を加えている。

 小惑星が邪魔をして急速な行動が不可能なため、先頭から少しずつ削られている形となっている。

 メリア率いる海賊艦隊は、討伐艦隊を挟むように上と下に分かれて存在しており、その中でもアルケミアが最も激しい攻撃を行っていた。


 「正面からの激しい攻撃、そしてアルケミアからの無人機部隊による襲撃、あとは小規模ながらも通常の攻撃」

 「どれかに対応すれば、他への注意が薄くなる。なんというか、いやらしいやり方ですよ。ほんと」

 「そりゃね、個人の技量でどうにかなる規模の戦いじゃないんだ。正面からやりあえる戦力でもない。なら、ルニウの言ういやらしいやり方で相手するしかない」


 戦いの規模が大きくなればなるほど、個人の技量の出番は減っていく。

 単なる海賊だったこれまでと違い、今は艦隊を含めた多くの戦力を動かす指揮官としての能力が求められる。

 幸か不幸か、幼少の頃に受けた貴族としての教育の中には、部隊を率いることを念頭に置いたものもあった。


 「はぁ、帝国貴族ってのは……」


 メリアは色々と不満を口にしたいのを我慢すると、ブリッジのモニターに映し出される敵の反応を見る。

 既に二百隻近くが沈められたからか、相手は逃亡しようとしていた。

 普通ならここは追撃したいところだが、後続を含めれば二千隻以上残っているので、さすがに自重するしかない。


 「敵艦隊、少しずつ離れていきます」

 「撃退が関の山か。数が少ないから仕方ないとはいえ」


 多少の打撃は与えた。

 これがどう他のところに影響するかは不明だが、わずかとはいえ反皇帝派が有利になるだろう。

 惑星どころか、星系から出ていくのを見届けたあと、メリアは全身から力が抜けたように崩れていく。

 座っていても床に落ちそうなほどであるため、近くにいたルニウが慌てて抱きかかえる。


 「ちょちょ、ちょっと、どうしたんですか!?」

 「……危機を乗り越えたから、気が抜けた」

 「今まで余裕そうだったのに」

 「さすがに三千隻相手となれば恐怖するに決まってるだろ」


 命令を出す者が怯えていては、他への影響が大きい。なのでメリアは恐怖心を押さえ込んでいた。

 艦隊戦ともなると、流れ弾によっていきなり危険な状況になることがあり得るためだ。

 危機を乗り越えて安全が確保されたなら、隠す意味もない。


 「もういい。離してくれ」

 「うぅ、名残惜しいですが、粘るとお仕置きされそうなので諦めます……」


 このあとは全体の被害の確認が行われる。

 アルケミアを中心とした艦隊だが、これは奇跡的に死者はゼロ。

 ただし、手足が吹き飛んだりして使い物にならなくなった者もいくらか出ていた。


 「細胞の培養などで、手足が戻るのを待つしかない。数ヶ月は使えないか」


 防衛ステーションの方では、多少の損傷があったものの重傷な者はいなかった。

 結果だけを見るなら、ひとまず大勝と言ってよかったが、次も上手くいくとは限らない。

 戦力を整えて再びやって来る可能性があるため、早速次の計画を考える。

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