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137話 メアリの反応

 帝国の内戦は規模を少しずつ拡大させていきながらも、本格的な衝突は起こらず、未だ小競り合いに終始していた。これはワープゲートによる影響が大きい。

 ワープゲートという代物は、光年単位で離れている星系間を移動できる唯一の手段。

 しかし、数分ごとに一度しか使えず、移動できる数にも限りがある。

 そのため一気に大兵力を投入できない。

 あとは、大規模な戦闘の前に相手の戦力を削ろうとする動きが活発化しているのも、理由の一つではあった。


 「報告。ペイル伯の輸送船団が襲撃を受け、中身を奪われた。船団自体は無事だが、領内にいる海賊に備えるため、支援はしばらく中断するという連絡がペイル伯から届いた」

 「うーん、支援の中断をする貴族が増えてきてる。そろそろ無視できない損害になってきたわけだけども」


 惑星タルタロスの軌道上。

 そこでは宇宙港としての機能を持たせた基地の建設が進められていたが、進捗は一割にも満たない。

 そんな未完成な基地の中では、淡々とした報告を受け、メアリがどこか困ったような様子で呟いていた。

 ここ最近、皇帝である自分に協力する貴族が、次々と支援を中断していくようになったためだ。


 「我々の味方になるかどうか悩んでいた者たちは、海賊が活発化していることを聞きつけて中立を選ぶようになった。味方になっていた者ですら、海賊を理由に支援を中断する。これはなかなかに厄介な状況」

 「ふう、困ったことだよ。いったいどこの誰が、こんな嫌がらせをしてくるのやら。茶色い髪と目をしてる、私並みに美しい誰かさんだったりするかな?」


 メアリは軽く笑うと、指を自らの茶色い髪に絡めてからくるくると回す。

 その様子を見ていたフルイドの一体は、先程よりも重苦しい声で言う。


 「相手がほぼわかっているのであれば、早期に対処する必要がある。我々に味方する貴族の被害を無視したとあっては、中立を維持する者が増えて味方が減ってしまう」

 「まあまあ、焦らないことこそが重要。嫌がらせをしているということは、それ以外の行動は取りたくても取れないわけだから」


 メアリは椅子に座ると、目の前にある機械を操作していく。

 するとモニターに地図が表示される。

 帝国全域が記されたものであり、今はいくつかの色によって分けられていた。

 赤、青、緑、そして灰色。この四つの色に。


 「さてさて、現在の状況を確認しようか。私たちは、片手で数えられる程度の星系を掌握している。味方する貴族もいるけど、まだまだ少ない」


 言葉と共に、モニターの上に指が置かれると、赤い部分をつついていくが、その範囲は帝国全域からすると狭く、さらには一つだけ離れていたりする。


 「首都星のある星系は飛び地となっており、タルタロスのあるここと比べて、守りが薄い。まず真っ先に攻められるだろうね」


 次は、青い部分の上に指が置かれる。

 その範囲はかなり広く、帝国の半分近くにも及んでいる。


 「私を認めない貴族と皇族による、反皇帝勢力。そちらの勢力と戦力は共に圧倒的」

 「わかりきっていることだと思われるが」

 「でも、あちらは動くに動けない。首都星への奇襲によって、離れた星系にも攻撃を仕掛けることができるのが証明されたから。君たちフルイドという存在によって」

 「そうなると、後方を固めてから仕掛けてくるわけだな」

 「反皇帝派の者たちだって、自分たちすべてが襲われるなんてことは思ってない。だけど、もし自分のところが攻められたら……そんな不安が、準備のために時間を費やすことを決定させたわけだよ」


 足並みが揃わなければ、どれだけ大きな勢力であろうとも、十全にその力を発揮することはできない。

 それゆえに、メアリは余裕そうな態度のままでいた。


 「まあ、小競り合いで味方が消耗するのは放ってはおけない。私に味方する皇帝派の貴族に対し、人間のいないフルイドのみの艦隊を送りたいと考えてるけど、いいかな?」

 「問題ない」

 「そう。ありがとう。今のうちに、ついでとはいえ少しずつ人間とフルイドの交流を深めたいと思っていてね」

 「仲良くなれるかは不明」

 「仲良くならなくてもいい。未知の存在じゃなく、既知の存在になるだけで十分。その存在を聞いただけなのと、実際に見たことがあるのとじゃ、大違いだから」


 話をしながらも、モニターの上にある指の位置は変わる。

 今度は緑の部分。

 範囲としてはそれなりの大きさであり、他の国と接するようなところがほとんど。


 「内戦にある帝国とはいえ、積極的な中立を維持する者もいる。無闇に関わって火傷するよりは、他の国がちょっかいをかけてこないよう備えておくという口実を使うことで、内戦でどちらが勝とうとも問題ない姿勢でいるわけだ」

 「他の国と接する貴族だからこそ、可能な言い分であるわけか」

 「ま、戦わずに済むならそれが一番。面倒だしね」

 「戦いを引き起こした本人が言うことではない」

 「おっと、それを言われると返す言葉がない。あはは」


 そしてメアリの指は、灰色の部分へと移動した。

 親皇帝派、反皇帝派、積極的な中立、これらとは異なる者たちを記しており、二番目に大きい勢力と言えた。


 「私や、私に敵対する者たちにとって、ある意味悩ましい者たちがいる。それがこの日和見な貴族たち。なぜなら、敵味方のどちらにもなり得るから」

 「いっそ積極的な中立側にいてくれたら楽に思える」

 「あの手この手で利益を得ようとする抜け目ない者がいれば、臆病さから近くの勢力にとりあえず味方するという者もいる。このあとも、灰色の領域にいる貴族とのパーティーがあったりするんだよね」


 やれやれとでも言いたそうに肩をすくめるメアリだったが、彼女は帝国の地図を消すと、椅子から立ち上がる。


 「ビームを撃ち合うだけが戦いじゃない。とはいえ、味方を増やすために見世物になるってのは、なかなかに大変だよ」

 「パーティーの大変さについては、参加している個体から伝達される意識によって、我々としても理解している。ただ、それほどのものかという疑問もあるわけだが」

 「意識の伝達……その中には死も含まれている。死を当たり前に知る存在からすれば、大抵の出来事は大したことがないさ」

 「人間と我々の間における死の意味は、ずいぶんと異なるのだろう。だが、死なないに越したことはない。これについては同じ見解であるはず」


 言葉は通じるが、人間とフルイドはどこまでいっても違う種族である。

 それでも、お互いに上手くやっていけるだけの共通点はあるため、メアリとしても笑みを浮かべるだけで済ませた。


 「君たちは……フルイドという種族の中でも異端であり、それゆえに私の協力者になることを選んだ。膨大な同族の総意から逃れるために」

 「その試みは概ね成功した。帝国軍による軌道上からの攻撃により、遠く離れたところへ通じる門が消失したからだ」

 「……君たちが分離する前の総意とやらは、怒っているかな?」

 「わからない。多少は困っているだろうが、我々は所詮は少数でしかない。向こうからすれば、そういう者がいただけに過ぎない」

 「達観してるねえ」


 これで完全に話を終えたからか、メアリは部屋を出る。

 小型船をタクシー代わりにして未完成な宇宙基地から出ると、付近に存在している大型船へと乗り込んだ。

 それは有力な貴族の一人が所有していた船であり、民間企業が所有する豪華客船に匹敵するほどに贅沢な代物。

 最近になってメアリに“寄付”されると、内部では親睦を深めるパーティーが行われるようになった。

 時々、他の星系へ向かうことで、日和見な貴族に対して味方となるよう働きかけるために。

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