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136話 海賊としての活動

 千隻もの艦船、それは個人の戦力として見るならかなりのものだが、勢力として考えるとちっぽけなものでしかない。


 「メリア様、出発の準備は整いました」

 「よし」

 「ついでに貰ったものも移送する用意ができました」

 「……あれもくれるのは、太っ腹というかなんというか」


 メリアは目の前にある端末を弄ると、とある画像を出す。

 それは宇宙から惑星を撮った写真であるが、主役は惑星ではなく、その軌道上にある防衛ステーション。


 「元々は惑星防衛用の代物。ソフィアが公爵になる前からヴォルムスに大量にあったあれを三十。正直、使いどころが見当たらないわけだが」

 「そちらについてはわたしが改造するので、ご安心を。とりあえずは、自力での移動ができるようになれば色々と使い道が出てきます」

 「砲台代わりには使えるか」


 防衛ステーション自体は、デブリなどに備えた自前のシールドがあるため一般的な艦船よりは高い防御力を持つ。あとは移動能力さえ付与すれば、それなりの戦力になるわけだ。

 とはいえ、改造が済むまでは輸送船で引っ張っていく形で運ぶ必要がある。


 「まずはどう動きますか?」

 「ルガーに通信」

 「はい」


 同じ星系にいるため、多少離れていてもそこまで待たずに出てくる。


 「どうもどうも。大層な戦力と共に行かれるようで」

 「皇帝側と反皇帝側の動きはどうなってる? ニュースを見ればわかるようなのじゃなく、裏の者が知るような情報が欲しい」

 「あまり表と違いはないです。一部の皇族からの支持を取りつけて皇帝になったメアリですが、ひとまず自分たちに味方するよう周囲の貴族に働きかけてます。反皇帝側は、あれは簒奪者ということで討伐するよう周囲に訴えてますが、旗印となる皇族がいないので、まとまりを欠いてます。とはいえ、数自体は上回っているので、勝ち目はあるんじゃないですかね……? まあ、一番多いのはどっちにもつかず様子見してる貴族なんですが」


 皇帝となったメアリの勝利を疑わない様子のルガーであるが、これはフルイドという強力な戦力の存在が影響している。

 惑星タルタロス周辺での艦隊戦、首都星セレスティアでの地上戦。そのどちらにおいても、圧倒的な力が示されたために。


 「現時点で判明してる、皇帝側についてる貴族のリストを」

 「こちらになります。……襲うんですか?」

 「輸送船辺りを適当にね」

 「まるで海賊のやり口ですが、この戦力で正面から戦うのは、ある意味自殺行為。仕方ないと言えば仕方ない」

 「ルガーはこちらと一緒に行動せず、情報収集に専念を。ついでに、捕虜となっているフルイドに関しては身代金が取れないか試すから移送を」

 「居場所が見つかってドカン、だけは勘弁してくだいよ」


 やがて、メリア率いる独自の艦隊は、表立ってどこかの勢力に加わることなく行動を開始する。

 最初の目標は、皇帝側についた貴族の領地をいくらか荒らすこと。


 「メリア様、少しいいですか?」

 「うん? 何か気になることでも?」

 「大したことではありません。ただ、皇帝側と反皇帝側の立ち位置について、捻れているなと思いまして」


 千隻以上となれば、ワープゲートを越えるだけで数時間ほどかかってしまう。

 その待ち時間の最中、ファーナは言う。

 親皇帝と反皇帝、二つの立ち位置について。


 「あの高齢な、かなり若作りした皇帝が生きていたら、呼ばれ方は逆だったろうね。しかし、あたしのオリジナルであるメアリが、奪い取る形で皇帝となった。首都星にいた皇族による保身のためとはいえ」


 皇帝が変われば、状況も変わる。

 帝国の敵であったメアリは、一応は皇帝になったため、今度は彼女の敵が帝国の敵ということになる。


 「勝てると思いますか?」

 「どうだかね。まだ、様子見してる貴族がほとんどだけど、フルイドという存在を考えるに……反皇帝側は苦しいだろうね」


 これはかなり苦しい戦いになる。

 メリアはそう考えていた。

 機械に侵食するフルイドという異種族。

 その異質な特性は、宇宙という戦場においてかなりの強みを発揮する。


 「それでもなお、メアリを倒すつもりですか?」

 「ああ。けりをつける必要がある。そうでないと、あたしは怯えながら生きていくことになる」

 「でもそれだけじゃない」

 「……何が言いたい?」

 「メアリという人は、わたしを欲しがっていたはず。それを断って敵対するということは、わたしはメリア様にとって大事な存在であるということ。違いますか?」

 「…………」


 ファーナはにこにこしながら手を握る。

 メリアは無言でそれを振り払おうとするが、がっちりと掴まれているのでまったく離れない。


 「手を離せ」

 「ここは、何か言うべき言葉があるとは思いませんか? あると思いますよね?」

 「……どういう言葉が欲しいんだ」

 「それをわたしに言わせるのですか?」

 「勝手な期待をされても、あたしは何も言わない」

 「強情ですね。まあいいです」


 ファーナは手を離すものの、どこかに行ったりはせず近くに居続けた。


 「まったく、これから死ぬかもしれないってのに」

 「だからこそです」

 「周囲に見られると示しがつかない」

 「誰かがブリッジに来たり、通信が来たら、すぐに離れるのでご安心を」

 「わざわざ端末使ってべたべたするな」

 「そうは言いますが、人間と同様のセンサーがあるのは、人型をしたこの端末だけですから」


 まともではない部類に入る人工知能。

 そんなファーナが外部を認識するためには、機械に搭載されたセンサーを頼るしかない。

 もし、あらゆる機械が破壊され、人工知能たる本体だけが残った場合、ファーナにとって世界はどのような認識となるのか。


 「……とりあえず、メアリとの決着がついてからにしてほしいね」

 「約束してくれますか?」

 「する。面倒事がなければ、いくらかファーナの要望を聞いてもいい」

 「録音しましたからね」


 ここまで言うと、ようやく離れるファーナであり、メリアは軽く息を吐いたあと、星系を移動したあとの行動について計画を練っていく。

 千隻を襲撃に使用するのはさすがに刺激を与えすぎる。

 それに警戒も強まり、護衛が増えることで、戦闘による犠牲が出やすくなる。

 なので最初は少数の精鋭で仕掛けることに決まるが、いざ目的地であるワープゲート付近に潜伏すると、ターゲットとなる輸送船の多さに表情は険しくなってしまう。


 「多いね」

 「つまり、それだけメアリは支援を得て、次への準備を整えているわけです」

 「ここは片っ端から襲います?」

 「ま、それが手っ取り早いか。人死にはできる限り出さないように」


 記念すべきかどうかやや揉める最初の襲撃は、アルケミア単体で行う。

 実行するのは、ファーナとルニウ。

 メリアは交渉役としてブリッジにいる。

 今回、実験部隊の者たちには、船内で留守番をしてもらう。


 「まずは護衛の無力化。その後、輸送船をじっくりと」


 流れ弾が怖いので、最初はまばらに分散している護衛の艦船を襲う。

 気を抜いているのか、陣形らしい陣形を取らずにいたため、ファーナが操る無人機によってあっという間に無力化が済んでしまう。


 「うーん、弱い。これで護衛とか」

 「これはむしろ、わたしが強いんです。向こうの油断もあるとはいえ」


 反撃らしい反撃がないまま速攻できたのは、無人戦闘機によって無人の機甲兵もどきを運んだおかげ。

 戦闘機は攻撃の加減が難しいが、素早い上に小回りが利く。

 これに取っ手をつけて、人型の機甲兵もどきが両手で握ることで、簡易的ながらも高速で移動できるようになる。

 そして反撃の用意が整う前に、船体に取りつかせ、砲台や推進機関を破壊することで、人死にを出さずに無力化できるわけだ。

 なお、これはあくまでも無人機だからこそ可能なやり方であり、有人機でやろうとすると、戦う前から搭乗している者は消耗してしまう。


 「ワープゲートで逃げた船は諦めるとして……。周囲の船に告げる。こちらは海賊。命が惜しいなら積み荷を放棄するように。素直に出さない場合は、船を破壊して無理矢理に取り出すこともできる」


 護衛は無力化され、輸送船のすべてに人型の作業用機械が取りついている。

 この状況はどうしようもないと考えたのか、輸送船から次々とコンテナが出てくると、宇宙空間を漂い始める。


 「よーし、回収したあと離脱する」

 「各種資材があるので、改造とかが捗ります」

 「一部のコンテナには、ちょっとお高い嗜好品とかありますよ。なんか高そうな葉巻に、高そうなお酒です」

 「普通の状況じゃ、すぐお尋ね者になる。でも今は違う。好きなだけ稼げる」

 「メリア様、海賊らしくなってきましたね」

 「うへへ、これですよこれ。がっつり奪って稼ぐ。これこそ私が夢見た光景」

 「はいはい。ここから先は警戒強まるから苦労するよ」


 二十隻の輸送船から大量の物資を手に入れたあと、悠々とその場を離脱するアルケミアであった。

 そしてこの独自の海賊行為は、最初はあまり注目されなかったが、被害を受ける貴族が増えていくたびに注目されるようになっていく。

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