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129話 廃棄された宇宙船の出所

 「血を分析したのなら、そこから新たに作ればいいのでは?」


 先程までと比べ、明らかにまずい状況。

 いざという時に備えて周囲をそれとなく見ていきながら、メリアは話を繋げていく。


 「ああ、いや、そっちはそうするけど、もう一つ話すことがあるんだよね。ファーナという人工知能を搭載したアルケミアという船。そこでナノマシンは開発されてた。君はそれらを所持しているだろう? あれは元々私のなんだ。返してもらえるかい? 共和国の独立戦争のどさくさに行方不明になってしまってね」


 廃棄された宇宙船の出所は、まさかとも思えるところからであったが、メリアにあまり驚きはない。

 あの性能、あの規模、もし秘密裏に作るとなれば、国が関わっていないと不可能であるからだ。


 「それについては貰える物次第」

 「まあそうなるね。支払いは状況が一段落済んでからになるから、その時に引き渡せばいいよ」

 「ただ、既に認証を」

 「あー、そういう機能も搭載してたね。問題ない。君と私は同じ遺伝子を持つから。……ああ、いや、一応聞いておこう。認証はナノマシンを打たれる前か後か」

 「打たれた後に」

 「ふむ、残念だ」


 メリアは違和感から咄嗟に後ろへ下がった。

 その瞬間、目の前を刃がかすめた。

 それはロボットの指先に隠された小さなナイフであり、もし下がっていなかったら、命を失っていたかもしれない。


 「なぜ攻撃を……?」

 「認証した者が死なないと、新しく認証できない。もしナノマシンが打たれる前であれば、オリジナルである私は誤魔化すことができたんだけどね」

 「もう一つ、同じのを作ればいい」

 「そうしたいところだけど、ファーナは偶然生まれたバグみたいな存在。あんな人工知能がそう簡単に作れたら苦労はないよ」

 「それは、まあ……」


 今の言葉には同意するしかないメリアであったが、その様子を目にしたメアリは、どこか面白そうに笑う。


 「おっと、ファーナに振り回されたことがあるみたいだね?」

 「…………」

 「楽しかっただろう?」

 「何を言って……」

 「割と好き勝手に行動するけど、決定的な一線は越えない。優れた能力を持ち、いくらか拒絶しても離れることなく接し続けてくれる。いやあ、海賊として過ごしていた君とは相性がよかったんじゃないかな」


 話している間にも距離を詰めてくるため、メリアはその分だけ距離を取りつつ、武器として使えそうなものを探す。

 ビームブラスターは撃てる回数に制限があるので今はまだ使わない。威力を高めれば高めるほど、内部のエネルギーを消耗するからだ。


 「鬱陶しいだけだ」

 「ふーん。でもその鬱陶しさが心地よかったんじゃないかい?」

 「そんなこと……」


 自らのオリジナルであるメアリ。

 彼女にそう言われ、即座に否定するも、心のどこかに言葉にできない何かが燻っていた。


 「ちなみに、ファーナを参考にして作った人工知能はある。それは今、非公式なアプリを運営して人間社会を学んでいる最中。まあ、ファーナほどの万能性はないけど、人を操って行動させるくらいはできるね」


 クスクスと笑う姿は、今これから誰かを殺そうとしているようには思えないほど。

 しかし、一歩一歩確実に追い詰めていく動きは、ある意味彼女の二面性を表している。


 「ふん、恐ろしい皇帝様だ」

 「恐ろしくないと、付き従わない者がいるからねえ。当時の貴族は、今以上の数だから」

 「その恐ろしさにひれ伏したくなるよ」

 「ふふふふ、口ではそう言うけど、頭の中は違う。私にどうやって反撃しようか思考している」

 「…………」

 「遠隔操作したロボット越しでも、君の殺意は伝わってくる。もっと上手く隠さなきゃ」

 「それはどうも……!」


 メリアは近くにあるガラスの容器を投げつけた。

 中身が粘性の液体であるそれは、メアリの動かす本人を模したロボットに命中する。

 そこにビームブラスターを放つと、軽い爆発を起こしてロボットの表面が破壊され、中の機械が剥き出しになる。


 「おっと、そう来たか。人工皮膚も安くないんだけどね」

 「脆いのがいけない」

 「それはしょうがない。美しい私と限りなく同じようにしないといけないから、性能に関しては妥協した。それでも人を殺すのには困らないし」


 話の途中、一気に飛び込み、指先に仕込まれた小さなナイフが次々に振るわれる。

 上から、横から、あるいは斜めからも。

 メリアはその攻撃を、近くに置いてある機械たちで防いでいく。

 ここは皇帝の治療を行う場所であり、様々な精密機械が存在する。

 しかし、それでも完全に防ぐことは難しく、浅く斬られた頬や腕から出血してしまう。


 「くっ……!」

 「抵抗すれば、それだけ苦しみは長くなる」

 「だからといって、死ぬことを受け入れられるか」


 遠隔操作だからなのか、メアリの動かすロボットは全体的に隙が大きい。

 だが、そこをロボット自身の出力で補っているため、どうしてもどこかを斬られて怪我は増え、出血量も増していく。


 「はぁはぁ……」

 「そろそろ終わりかな? 普通なら死んでるところだけど、ナノマシンのおかげで出血はだいぶ抑えられてる」

 「くそっ、他に打つ手は」


 勝手に作り出され、勝手に殺される、

 そんなの冗談じゃないと叫びたいメリアであったが、体力的に限界が近づいていた。

 重い機械を動かすことを含めた激しい動き、あちこちからの出血、そういった積み重ねが肉体を蝕んでいた。

 今いるのは地下十階。

 ほぼ密室と呼んでいい場所であり、目の前にいる相手を倒す以外に逃げる方法はない。

 とはいえ、倒したところで地上にいるフルイドたちからどう逃げるかという問題もある。


 「ここで、終わるのか」

 「恥じることはない。なにせ私が相手だからね。このメアリ・ファリアス・セレスティアが」


 メアリは最後まで言葉を発することはできなかった。

 室内にあった、自走できる医療用機械が動き始めると、体当たりをしてから重量を生かして押さえ込んだからだ。

 それも一つではなく複数。


 「動きを止めました。今です」

 「その声……ああ、わかった」


 メリアはビームブラスターを最大出力にしたあと、機械に抑え込まれているメアリ、正確には彼女が遠隔操作しているロボットへ近づく。

 そのまま剥き出しとなった機械部分へ狙いを定めると、引き金を引いた。


 「今回は私の負けだよ。次また会おう」

 「うるさい」


 ボン!


 メアリを模したロボットは小さな爆発を起こし、その機能を完全に停止した。

 なんとか命拾いしたメリアは、大きく息を吐いたあと壁に寄りかかる。


 「ファーナ、助かったよ。でもどうやってここに?」

 「わたしの端末の一つを、メリア様の船に乗せているからです」

 「……出発前に軽く点検した時は見当たらなかったが」

 「わたしは小さいので、丸まって隠れることのできる隙間の一つや二つ見つけ出せます」

 「まあ、それで船に異常がないなら、とやかくは言わない。ただ、あたしの船は軌道上にあるはず。軌道エレベーターは使用不可能になっているし、アクセスできるほど近くに来るとなると降り立たないといけないが」


 助かったとはいえ浮かび上がる疑問に対し、今度は別の声が答える。それはルニウの声。


 「それについては私が説明を!」

 「ルニウか」

 「あの時、私だけ宇宙港に向かうことになったんですが、船に入った瞬間ファーナからの通信が来てですね」

 「メリア様のヒューケラは、宇宙専用の代物です。しかし、ルニウが乗っているオプンティアですが、単機で大気圏の突入と離脱が可能な船です」

 「あー、オプションが色々あった気がする」


 ソフィアの相続を手助けしたお礼として、オプンティアという船を購入してもらったことがある。

 その時、カタログを読みながら選んだのだが、オプションの部分は特に気にせずにいた。

 戦闘に関係ないものばかりだったために。


 「ソフィアは、船のオプション全部乗せと勘違いしてたようで、カタログに書かれていたものすべてが搭載されています。大気圏の突入と離脱はその一つというわけです」

 「どおりでコックピットのシートが少し違うわけだ。あの時は新品の船だからそう思ってたが」


 大気圏の突入と離脱を可能とするオプション。

 自分で購入する場合は値段の違いで気づくところ、他人に購入してもらったので気づかなかった。

 思わずなんともいえない表情になるメリアだったが、いつまでもそうしてはいられない。

 すぐにエレベーターに乗ると、地上を目指す。


 「船は今どこだ?」

 「宮殿の上空です。フルイドは帝国軍との戦闘を優先しているため、こちらに手が回っていません」

 「これ普段なら法律違反ですけど、異常事態なのとメリアさんを助けるためなので、しょうがないですよね」


 首都星セレスティアの宮殿。

 その上空を飛行するようなことがあれば、かなり重い罰が与えられる。

 しかし今は、帝国自身の状況が状況であり、罰を与えるどころではない。

 メリアが地上に出たあと空を見上げると、天井の一部がいつの間にか破壊され、そこからワイヤーに繋がれたファーナが垂れていた。

 視線をさらに上に動かすと、貨物室を解放しているオプンティアが見える。


 「さあ、メリア様。わたしを抱きしめてください。そうすればワイヤーを巻き取ってそのままオプンティアに乗り込めます」

 「……もっとまともな乗り方は」

 「ありません。宮殿はあちこちが破損しており、船の重量に耐えきれない可能性がありますから」


 万全の状態なら、三十メートル級の小型船程度が乗ったところで宮殿は崩れない。

 しかし戦場となったあとではわからない。


 「はぁ、しょうがない」

 「力強く抱きしめてください。滑ると危ないので」

 「はいはい」


 メリアはファーナを抱きしめると、向こうも抱き返す。

 そしてワイヤーが巻き取られていき、少しずつ貨物室へと近づいていく。


 「こうするのはいつぶりでしょうか」

 「ちょっとその口を閉じてろ」


 やがて回収が済んだあと、オプンティアはそのまま大気圏を離脱して宇宙へ。

 そのまま自動操縦のヒューケラと共にワープゲートへ向かうと、首都星を巡る争いから離れることに成功する。

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