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128話 メアリという皇帝

 古い時代を生きていた皇帝。

 そんな彼女は、自分を模したロボットの腕を付けたり外したりしながら遊びつつ、ゆっくりと語っていく。


 「すべては、フルイドという異種族との出会いから始まった。当時、色んな用事のついでに惑星タルタロスを訪れていた私だったが、ちょっとした事故があって移動用の乗り物が墜落してしまう」

 「その時に出会ったと?」

 「そうなるね。人類が宇宙に進出してから、途方もなく長い月日が過ぎている。なのに、言葉を交わせる知的生命体とは出会わないまま。しかしそれを覆す存在がいた。……いやあ、当時の私の興奮を分けてあげたいくらい」


 懐かしい過去を思い返して笑みを浮かべる姿は、心の底からそう思っていることが理解できる。

 しかし、メリアは顔をしかめると拒絶するように頭を振る。


 「それよりも、早く話を進めてほしいね」

 「やれやれ、せっかちだ。……それで、当時の私は人類史に残る発見をどうするべきか考えた。なにせ、フルイド側からすれば人類は異種族。お互い、慎重に相互理解を深めないといけない」

 「まあ、いきなり発表するだけだと、すぐに揉めることは予想できる」


 同じ人間ですら、文化の違いなどで揉めることがある。

 異なる種族ともなれば、ある程度相互理解が進んでからでないと発表することは難しい。


 「それで私は毎日フルイドと人類の今後について考え続けた。なにせ、圧倒的なまでに未知の存在であるから。少しずつだけど、向こうも色々と明かしてくれててね? 種族としての特性とかを。もう毎日が楽しかったんだけども、ここで問題が起きた」

 「……共和国の独立戦争」


 短い間とはいえ、メリアは帝国貴族としての教育を受けている。

 それは帝国を揺るがす一大事であり、教科書の中では帝国における最大の危機と書かれていた。


 「目の前のことに夢中になって、遠くのことがおざなりになる。どれだけ優れた人間であろうと、そういうミスをしてしまう。セレスティア帝国の皇帝であった私も、そんなありふれた人間の一人でしかなかったってわけ」


 過去の自分に呆れているのか、皇帝であった過去を思い返しながら、メアリはやれやれといった様子で肩をすくめてみせた。


 「帝国貴族は、若いうちから精子や卵子を取り出して保存する。そして人工子宮などを利用して大量に子を作り、選別された優れた者だけが家のすべてを相続する。だからもう大変だった。有能な者たちが協力して敵に回るわけだから」


 遺伝子調整をせずに、遺伝子調整した平民を上回ることを帝国貴族は求められた。外見、頭脳、身体能力、ありとあらゆる部分において。

 とはいえ、それは楽なことではない。

 大量に作って選別するという方法でなんとか成功するも、それは貴族の間にあった格差をさらに大きなものにした。


 「弱小な貴族を飲み込んで辺境の王となった、とある貴族が企んだ反乱。それは最初こそ小さかったがどんどん規模は大きくなった。やがて帝国を二分する事態となり、私はフルイドどころではなくなった」

 「教科書には、当時のメアリ皇帝が病によって亡くなり、共和国は独立することになったと書いてあった。けれど、当の本人はコールドスリープをしていた。これはどういうことか聞きたいところだけども」


 メリアの疑問に対し、当時を生きていた皇帝は大きく頷く。


 「まず、星系間を移動するにはワープゲートしか手段がない。このワープゲートだけど、数分に一回、少数の船しか利用できないため、一度に大量の艦船を投入することが不可能。そのせいで攻める側はかなり不利」

 「それで?」

 「冷たい反応だね。それで私は一つの考えを実行に移した。他を無視して反乱の首謀者を討ち取るというものを。……多大な犠牲を出しながらも成功したそれのおかげで、反乱は縮小する動きを見せていた。とはいえ、後始末は長引くだろうから、私は一時的にコールドスリープして配下に任せることにした。だが、それがいけなかった」


 面倒事を配下に任せて自分は眠る。

 その結果、病で亡くなったことにされて共和国が成立し、長い日々をコールドスリープしたまま過ごすことになった。

 古い時代の皇帝であったメアリは、一度話を中断すると、遠隔操作しているロボットの腕を振るい、座っている椅子の背もたれを破壊した。


 「後始末は自分でしないといけない。手痛い失敗から私が学んだことだよ。だからこんなロボットを用意してまで私はここにいる」

 「……なんの後始末のために?」

 「ついてきなさい。そこにいる水色の髪の者は、宇宙港に送ってあげるから、外にいるフルイドのところへ」

 「待ってください。私も」

 「オリジナルとクローンの間でだけ話したいことがある。部外者は来るんじゃない。わかるね?」

 「ルニウ、この皇帝様の機嫌を損ねると危ない。先に戻っていろ」

 「わ、わかりました」


 ルニウが出ていくと、オリジナルとクローンの二人きりとなる。

 オリジナルであるメアリは、別室へと移動していくため、彼女のクローンであるメリアは、警戒しながらついていく。


 「そろそろ計画ってやつを聞かせてもらいたいが」

 「後始末が済んでからだよ」


 途中、だいぶ奥行きのあるエレベーターがあった。

 それに乗り込むと、地下十階のボタンが押される。


 「ほとんどの者は逃げた。しかし、逃げるに逃げられない者もいる」

 「……皇帝か。殺すのか?」

 「そうなるね。彼はわかりやすい帝国の象徴でもある。まあ、君が止めてもいいんだよ?」

 「止めたあと、殺されないという保証があるなら」

 「……ふふふ」


 メリアは、笑みを浮かべるだけで答えない相手を見て、軽い舌打ちをする。

 結局、自分の命を考えるなら見過ごすしかないわけだ。

 やがてエレベーターが地下十階に到着すると、短い通路を歩き、どこか病院の中とも思える空間に出る。

 本来は何人もの人々がいただろうその空間には、今は一人を除いて誰もいない。

 清潔なベッドの上にいる、意識不明なままの皇帝以外は誰も。


 「メリア、私のクローン。私は悪党だと思うかい?」


 生命維持装置の電源を切りながら、その言葉は発せられる。


 「とんでもない悪党だと思ってるよ」

 「しかし、勝てば正義だ。勝てば官軍、負ければ賊軍。良い言葉だと思わない?」

 「ふん……自分が勝ってる側だからそんなことが言える」

 「まあね」


 意識不明だった皇帝は最新の生命維持装置のおかげで命を繋いでいたが、それが動かなくなると、彼の命はやがて消えていく。


 「さて、皇帝は死んだ。宮殿を制圧した。あとは一時的にでも首都星を確保してしまえば、正統性もバッチリ。帝国は一つにまとまれず、私の敵ではない」

 「で、計画とやらは?」

 「まずはフルイドという異種族の隣人と共に、国を発展させていく。その恩恵の片鱗は、道中で見てきたはず」

 「生物的な兵器たち……」

 「今はまだ小さな兵器でしか、ああいうのはできない。宇宙船とかはまだまだ。でもできるようになれば……共和国や星間連合を飲み込み、私が皇帝となったセレスティア帝国こそが銀河を統一する」


 メアリは軽く踊る。皇帝として多くのダンスをしてきたのを感じさせる動きで。

 ふわりと回り、そのあとメリアへ手を差し出した。


 「私は優しいからね。クローンの中で唯一生き残った君に良い思いをさせてあげたい。可哀想なメリア・モンターニュ。私と共に銀河を手に入れよう。そしていつか宇宙すらも掴み取るんだ」

 「……メアリ皇帝。質問したいことがあります」

 「おや? どんなことかな?」

 「なぜ、たかがクローンなんかにそこまでの執着を? 自分で言うのもあれですが」


 クローンとしての自分を語る時、メリアは顔をしかめそうになるが、なんとか我慢する。


 「……これは言っておかないといけないか。君は以前、カミラ・アーベントによって血を採取された。そうだろう?」

 「ええ、お返しに殺してやりましたが」

 「その血は分析され、私の方に内容が届いた。そしてとても気になるものが含まれていることに気づいた。それはとあるナノマシン」

 「…………」


 メリアはできる限り無表情を維持していた。

 ファーナに拘束され、無理矢理に打ち込まれたことを思い出したために。


 「実を言うとね、当時の私は不老不死の研究をさせてた。そこではいくつかのアプローチが取られたけど、比較的現実的なのはナノマシンを用いたもの。死ににくくして若さを維持できる代物なわけ。当時は効果が出たり出なかったりする試作品止まりだったけれど、君の血を分析したら驚くことに成功していたから、もう驚くしかないよね」

 「……何が言いたいのか、もう少しわかりやすく」

 「どこで手に入れたのか聞きたいなって」


 遠隔操作によるものか、エレベーターに通じる扉はロックされた。

 話が済むまで逃がすつもりはない。

 そんな彼女の意思を示していた。

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