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123話 救出の仕事

 厄介な兄妹が訪れてから数日、メリアのところに個人的な来客があった。


 「は~い。元気にしてる~?」

 「……アンナ、どうしてここがわかった」

 「私の情報網は、帝国にもある程度は張り巡らされてるのよ? 一度使えば、しばらく使えなくなるのが難点だけど、今使わずしていつ使うのか、ってね」


 共和国の特別犯罪捜査官、アンナ・フローリン。

 元々が帝国貴族でありながらも、結婚相手が遺伝子調整した共和国の軍人であったため、貴族としての地位を剥奪された。

 そんな彼女は、メリアにとっての旧友であると同時に、厄介事を持ち込む面倒な人物でもある。

 乗船許可を出したあと、アルケミア内部の空いている一室で話し合うのだが、アンナはやって来るなりメリアの全身をじろじろと見ていく。


 「何が気になる?」

 「ねねね、どうせだから火遊びしない?」

 「誰がするか。浮気だったら他の適当な相手とやってろ」


 冗談なのか本気なのか。

 とにかくろくでもないアンナの提案を、メリアは即座に拒否する。


 「で、ふざけたことを言うためだけに来たわけじゃないはず。用件は?」

 「えー、いくつか星系を挟んでるからバレないのに」

 「これ以上ふざけるなら、無理矢理にでも出ていってもらうが」


 メリアはわずかに視線を動かす。

 その先には監視カメラが設置されていて稼働していた。つまりファーナがカメラ越しに見ている。

 ちょっと合図を出せば、人型の端末か普通のロボットのどちらかが入ってきて、迷惑な客人を追い出してしまうだろう。


 「もう、つれないわねえ。……なぜわざわざ来たかというと、ちょっと助力が欲しいの」

 「どんな?」

 「監視カメラは無しにしてくれる? ついでに盗聴とかも」

 「ここはカメラだけで、それ以外のは設置してない」


 メリアが手を振ると、設置されたカメラは機能を完全に停止する。

 アンナはそれを確認すると、先程までのおふざけ混じりに話していた様子から一変し、真面目な表情となる。


 「メリア、あなた個人への依頼になるけど受けてくれる?」

 「何をするのか次第」

 「そこまで波風立たないものだから安心して。帝国内部にいる潜入捜査官の救出をお願いしたいの」

 「……十分に波風立ちそうだけどね」

 「まだ捕まってないはずだから大丈夫。見つかる前に助けて、共和国に運んでくれるだけでいい」

 「とりあえず……どこにいて、どういうことをしてるのか聞きたいが」

 「目標となる人物がいるのは、首都星セレスティア。表向きは、高級ホテルのスタッフをしている」


 名前はエマ・ファーノン。

 何年も前から帝国に潜入し、定期的に情報を送る存在。

 送る情報のほとんどは、帝国で放映されているニュースを見ればわかるようなことばかりだが、これは怪しまれないようにする偽装のため。

 時折、本命となる重大な情報を混ぜたりする。

 そんな潜入捜査官たるエマだが、首都星セレスティアで危険なことが起こるという情報を送ったあと、連絡が途絶えてしまう。

 今の帝国はだいぶ混乱に満ちているため、調査と救出を兼ねてアンナが送り込まれたとのこと。


 「なんと悲しいことに私一人だけ。ひどいと思わない?」

 「こういう場合、せめて数人は必要だろうに。いや……処分するためなら一人で向かわせる意味もあるか?」

 「ま、私を消そうと考える企業は普通にいるし、そういう可能性もあるわけ。なので信頼できる現地の協力者が必要なのよ」

 「決める前に一つ聞いておきたい。共和国は帝国に介入するつもりだったりするのか」

 「軍備増強しつつも、今のところは静観。もしメアリ・ファリアス・セレスティアという人物が皇帝となるような事態になれば、さすがにどうなるかはわからないけど」


 昔、メアリが皇帝であった時代、共和国の独立戦争があった。

 今を生きる者にとっては大昔のことだが、当時を生きていた彼女は旧領の奪還に動くのではないか。

 そういう心配が共和国内部に拡大しており、警戒は強まっている。

 ただ、実際に動くまではいかない。

 帝国内部の混乱に巻き込まれたくないという考えも強いために。


 「どう? あなたにとって満足行く答えだった?」

 「とりあえずはね。ああ、そうそう、報酬に期待できるかどうかについても聞きたいね」

 「救出できたら、私から上に話は通す。できなかった場合は、私の財産からちょびっとだけ」

 「なら急ごう。まだ内戦が広範囲に拡大してないうちに」


 帝国とメアリは、お互い攻めるに攻めれない膠着状態となっている。

 皇帝が撃たれたことによる混乱を突いて、メアリは星系を一つ奪ったものの、それ以上の攻勢は行わないまま。

 どちらかの陣営が次の一手を打つ前に、さっさとアンナからの仕事を済ませてしまおうとメリアは考えた。

 しかしながら、すべての戦力を動かすことはできない。留守番する者が必要になる。


 「ファーナ、留守を任せる」

 「不満ではありますが……わかりました。首都星セレスティアは遠いので、遠隔での支援とかはできなくなります」


 フランケン公爵家の艦隊を置いておくわけにもいかないため、公爵たるソフィアと知り合いになっているファーナが留守番することに。


 「はいはい、質問があります。私も留守番ですか? ついていっていいですか?」

 「……人手はあった方がいい。あまりうるさくしないことを約束できるなら認める」

 「よし、ファーナには悪いけど、私はメリアさんと行動しちゃうからね」


 ルニウは、自分がついていくことを認められると、わざわざファーナに対して煽りに行く。

 さすがに苛立ったような表情を浮かべるファーナだが、軽く頭を振ると肩をすくめてみせる。


 「その程度で浮かれることができるのは、わたしからすれば、ある意味羨ましいものです」

 「むむむ……」


 言外に、一緒にいる以上のことをしてみせたと語るファーナであり、ルニウは何か聞きたそうな視線をメリアへと送る。


 「あのー、聞きたいことが」

 「却下。仕事が優先される。留守番したいなら話してもいいが」

 「くっ……それなら我慢します」


 やや面倒なやりとりが済んだあと、メリアとルニウは、アルケミア内部の格納庫に向かい、小型船へそれぞれ乗り込んだ。

 そしてアンナの操縦する小型船についていく形で、帝国の首都星セレスティアを目指す。




 ファーナ以外、誰もいなくなったアルケミアのブリッジ。

 白い髪をした少女型の端末は、誰とも話さないならそこまで必要とされないため、空いている席に目を閉じて座っていた。

 人間がいないため、船内の重力はだいぶ弱くされている。


 ピピピピ


 小刻みなアラームが鳴るが、それは緊急の通信。

 すぐに少女型の端末は目を開けると通信に出る。


 「こちらルガー。急ぎの報告がある」

 「メリア様は既に別の星系へと移動しています」

 「なに!? まあいい、そっちで伝えてくれ。メアリ側に協力する海賊とやり合ったんだが、フルイドという奴が入った小さなコンテナが出てきた。おそらくは他のところへ運ぶ途中だったんだろう。宇宙空間に漂ってるが、消すか回収するか、どうすればいい?」

 「帝国に引き渡すという手もありますが」

 「俺が仕えてるのは帝国じゃない。メリア・モンターニュという人物だ」

 「……では、メリア様の代理としてわたしが。コンテナのフルイドに伝えてください、捕虜になるかどうかを」

 「わかった」


 一時的に通信は切れるが、数分もしないうちに再び行われる。


 「驚いたな。宇宙空間で自在に動く生き物ってのは。まあとにかく、おとなしく捕虜になるとのことだ」


 同じ星系にいたとはいえ、だいぶ距離があったのか数時間ほど経ってから到着する。

 フルイドは機械に侵食するということで、通信機能を持たせた簡易的なロボットを送ってやりとりを行う。

 場所は宇宙空間。

 いざという時、ビーム砲を撃って対処できるように。


 「なぜ、海賊のコンテナの中に?」

 「そうする必要があったまで」

 「何かの作戦のためですか」

 「そういったことについては言えない」

 「その場合、しばらく宇宙空間を漂ってもらいますが。船を侵食されたくないので」

 「……宇宙空間にそのまま晒されるのは好ましくない。なので少しばかり言おう。海賊は移動手段でしかなく、いくつかの惑星にて行動する予定だった」

 「その惑星のうち、フランケン公爵に属するところを抜いてもらうことは?」

 「問題ない。最初から目標ではないゆえに」

 「どこが目標かについては」

 「さすがに言えない」


 これ以上の質問をしても、満足行く答えは出てこないだろう。

 ファーナはそう判断すると、通信を切った。

 捕虜になったフルイドについては、適当な中古の船を入手し、その中に入ってもらう。シールド関係以外は取り除いた上で。

 その後は使われていないコロニーの片隅で待ち続けてもらうが、これに関してフルイド側からの異論はなかった。

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