118話 ある海賊との再会
あまり活動せずに潜伏している海賊の討伐というのは、それなりに難しい。
どこかから流れてきたデブリが集まっていたり、小惑星が密集しているところという風に、大まかな場所は絞り込めるが、それでもなお広大な宇宙の中から探し出す必要があるからだ。
臆病、あるいは警戒心が強い者は、怪しげな船が近づけばすぐに逃げてしまう。
勇敢、もしくは好戦的な者の場合、罠を用意した上で仕掛けてくる。もし、考えなしに追いかけたなら、返り討ちにされてしまう。
ならばどうするか。
「ファーナ、追われる者として、上手な演技を頼むよ」
「ふふ、任されました。変装の意味も含めて、他人に対する通信映像はわたしが作成したものを使用します」
その場で実演してみせるファーナであり、メリアのいるヒューケラの操縦席からは、大人のような姿になった映像が流される。
「大型輸送船アルケミー号の船長をしているファナと申します! とまあ、こんな感じです」
「あー、今実演しなくてもいい。それとルニウ、お前はあたしと一緒に追いかける側だ。やりすぎない程度に攻撃を加えろ」
「うぅ、結構大がかりなので緊張してきますね」
「もっと緊張するようなことをやってきただろうに」
「それはまあ、別腹?」
「使う言葉が違う」
海賊が潜伏しているだろう星系に到着したあと、メリアはおんぼろの小型船であるヒューケラに乗って外に出た。
これは海賊としての演技を行うため。
ルニウには、あまり使う機会のないオプンティアという小型船を任せる。
一隻よりも二隻の方が、色々と説得力を高めることができるからだ。
そして最も重要な、海賊に追われている輸送船の船長という役目を、ファーナは演じることになる。
「パトロール艦隊には話を通してあるから、少し派手に暴れても問題ない」
「フランケン公爵様々ですねえ。貴族の後ろ楯って凄い、ってなわけで」
「まあ、あたし自身がモンターニュ伯爵であるのも影響してるんだろう。さて、お喋りは終わりだ。隠れてる奴らを誘い出すよ」
まずはファーナの操る大型船アルケミアが先行していく。
その表面には、人型をした無人の作業用機械が大量に展開している。
それは一見すると、大型船の表面を攻撃するような動きをしていたが、砲台などの武装を無力化しているように見せかけているだけに過ぎない。
「誰か! 誰か通信に出てください! こちらアルケミー号! 海賊に襲われています!」
広域通信によって助けを求めるのは、声を大人に変えているファーナ。少女なままでは、さすがに怪しまれてしまうからだ。
「突如海賊の一団に襲われ、護衛の船は推進機関を破壊されてしまい、このアルケミー号は単独で逃げるしかありませんでした! しかも厄介なことに、船体には人型をした作業用機械が取りついています! このままでは危険なので誰か救援を!」
危機的な状況のせいで、慌てているのを装う。
船の状況を余すことなく語るのは、普通なら怪しまれるところだが、実際に船を攻撃されているため、どうとでも誤魔化すことができる。
ほとんど無力化させられた大型船。
それは海賊からすれば、あまりにも美味しい獲物。
「ああっ!? 推進機関が! もはや自由な行動が難しくなりました! 誰か救援を!」
小さな爆発を起こすと同時に、アルケミアの推進機関の一部を止めてしまう。
爆発は無人機によるものであり、誤魔化しのため事前に用意した適当な残骸を上から設置していく。
固定に関しては、人間よりも小さい箱型の作業用機械をこっそりと使用した。
これにより、遠くから見れば破損した推進機関という風に見せかけることができる。
「ルニウ、そろそろ派手に行くから、集束率を弱めたビームの用意を」
「わかりました。威力弱めで、ピカピカと派手な感じですね」
今までは散発的に攻撃を加え、シールドに負荷を与えていたメリアたちだったが、ここからは動きと攻撃を派手なものにしていく。
大道芸、とまではいかないものの、戦闘といういうよりもまるで劇のようにアルケミアの周囲を動き回り、あちこちにビームを放つ。
大型船と小型船なのでそもそもの出力の差があるが、近距離から一方的に攻撃を加えているという構図は、何も知らない者からすれば襲っている側の勝ちだと判断するだろう。
「メリア様、未確認機の反応が」
「来たか」
襲撃を演じている合間にも移動し続けているため、デブリや小惑星が漂う場所に到着しようとしていた。
その奥からは、百メートル級の中型船が五隻現れる。
四角四面な外観は、パッと見た感じどこぞの企業に所属しているように思えるが、警察などの目を誤魔化すための偽装でしかない。
その証拠に、民間の船では禁じられている軍用の武装が船体の内部から出現する。
「ははぁ、なるほど。武装を格納することでステルス性能を重視したタイプか。発見するのも得意そうだ」
お互い、だいぶ接近している。
何かあれば、やるかやられるかという状態にしかならない。
とはいえ、心配はなかった。
アルケミアには無人戦闘機も存在しているため、戦力差は圧倒的であるからだ。
海賊の小規模な艦隊程度、軽く蹴散らしてしまえる。
「そこの小型船、あれはあんたの獲物か? 手伝うから分け前を貰いたい」
「分け前、ね。他に仲間は?」
「昔は結構いたんだが、今はこれだけだ」
「そうかい。なら……断る。お前たちがあたしの獲物だ」
「……ちっ、どこかの手の者か」
すぐさま戦闘に発展し、五隻の中型船による攻撃がメリアの乗るヒューケラへと放たれるも、軽く回避してみせた。
そこからはもう戦いとは呼べなくなる。
アルケミアの格納庫から次々に無人戦闘機が発進すると、海賊船の武装や推進機関を集中的に狙って無力化してしまう。
攻撃や移動ができなくなれば、あとは死ぬのを待つだけ。
海賊船は降伏すると、代表らしき者が話し合いたいと通信を入れてくる。
「こちらは丸腰で行く。もちろん一人でだ」
「……何を話したいんだい」
「色々と秘密のことを。銀河中のニュースで見ることのできる、今一番熱い話題についても話せる」
「まあ、丸腰なら話そう」
ヒューケラとオプンティアの二隻がアルケミアの格納庫に入ったあと、海賊側の一隻とアルケミアがドッキングする。
連絡通路を渡ってやって来るのは、一人の男性。
彼がヘルメットを外すと、やや見覚えのある顔が出てきたので、メリアはピクリと顔の一部を動かす。
ソフィアを首都星セレスティアへ連れていくために乗った豪華客船。
その船内にあるバーで声をかけてきた人物にかなり似ていた。
「おや、そちらは全員ヘルメットしたままか。一体のロボットを除いて」
「当然だろ。さっきまで宇宙船を操縦していたんだ」
「何か怪しい動きをすれば撃ちます」
「そうそう。全身に穴が空いちゃうから」
警戒に満ちた対応を受け、男性は肩をすくめる。
「申し訳ないが、座れる場所はないかな。立ったまま長話をするのは少しきつい」
「ルニウ、椅子持ってこい」
「え、あ、はい」
ファーナは銃を構えていたため、ルニウは人数分の椅子を近くの部屋から運んでくる。
そして全員が座ったあと、海賊の男性は軽くため息をついた。
「話す前に、まずは自己紹介からだな。俺はルガー。ルガー海賊団のお頭ってところだ。そしてそこのでかいお姉さん。あんたは……あの時リアと名乗っていたよな?」
「何の話かわからないが」
「ほら、豪華客船の。覚えてないか?」
「…………」
「その反応は当たりか。どうしてわかったのかについては簡単だ。声だよ声」
海賊の男性はルガーと名乗り、そのあと自分の喉を叩いてみせた。
人を判別する方法はいくつかある。
一番代表的なのは外見だが、他には匂いに、動き方、そして声。
まさかの再会ではあるが、メリアからするとあまり嬉しいものではない。




