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117話 わずかな過去

 突如現れた古い時代の皇帝。

 帝国へ実質的な宣戦布告をした彼女を討伐するため、大量の艦船が投入された。

 だが、帝国が派遣した討伐艦隊が敗北したという事実は、瞬く間に人類の領域すべてへと広まる。

 それはメリアたちもすぐに知ることとなった。


 「り、臨時ニュースをお伝えします。つい先程、帝国軍は敗退し、立て直しのために周辺星系へと下がりました。か、艦隊の大部分が、侵食を受けて取り込まれたのが、要因としては大きいと思われます」


 これは普通の艦隊戦ではなく、実質的には人類対人類以外の知的生命体による戦いと呼べるもの。

 戦力差はだいぶあったにもかかわらず、こうして敗退してしまったのは、同じ人類たるリポーターたちにとっても漠然とした不安があるようだった。


 「……勝ってしまったか」

 「あまり嬉しそうではないようですが」

 「向こうにいる誰かさんが、あたしと同じ顔をしているからね」


 メリアは、メアリのクローンである。

 服装や髪型、あるいは表情による顔つきで違いはあるものの、やろうと思えば簡単に同一の姿になれる。

 他人からすれば、自分のことをメアリと勘違いされる可能性が非常に高いため、彼女のことが気に食わないメリアからすれば、非常に苛立つ状況であるわけだ。


 「まあ、まだ一つの星系を確保しただけ。しかも人がまともに暮らすことが難しいタルタロスくらいしか惑星はない。それなりに続く内戦になったが、勝敗はわからない」

 「次はどういう動きがあるのでしょう」

 「はいはい、それについては私に考えが!」


 一緒にニュースを見ていたルニウはすぐに、手をあげると、何か言いたそうにウズウズしていた。


 「……言うだけ言ってみろ」

 「大体、こういう場合って色んなところに潜伏させた仲間が動くもんですよ」

 「根拠は?」

 「ワープゲートの存在です」

 「ふむ、続けな」

 「どうして、今まで宇宙がなんだかんだ平和なのか? それは星系から星系を移動する手段が、ワープゲートしかないからです」

 「ま、宇宙で活動する者としては、知っていて当然だね」


 人類の領域は、いくつもの惑星や星系を内包する広大なものとなっている。

 しかしながら、星系間を移動するためにはワープゲートを利用するしかないが、一度に利用できる数には制限がある。

 しかも、一回ごとに数分の待ち時間が発生するため、短時間で大軍を移動させるというのは不可能。

 攻める側は少数しか動かせず、守る側は圧倒的な数で待ち構えることができる。

 なんなら、ワープしてきた瞬間を狙って攻撃すればいい。

 つまり、国家間の戦争になったとしても、攻めるに攻められないという状態に陥ってしまう。


 「勝てない戦いなんて、する意味ないですからね」

 「でも、あいつは帝国に対して仕掛けた」

 「となると、ワープゲートを確保できるだけの味方がいると考えるのが妥当なわけですよ」

 「はぁ……恐ろしい話だ。そして新たに不安なことが浮かび上がるわけだが」


 ため息混じりに頭を振るメリアに対し、次はファーナが声をかける。


 「フランケン公爵たるソフィアが、メアリという人物の協力者であるかどうか。ですね」

 「そう、そこだよ。色々と気になってくる」


 公爵位を相続することになったソフィアだが、本来ならもっと継承権の高い者がいてもおかしくない。

 帝国の公爵ともなれば、大勢の子どもがいるはずだからだ。

 なのに、アスカニア伯爵であるソフィアが相続するというのは、いささか怪しい部分があった。


 「しかしですよ、メリアさん。貴族って家によっては関係がグチャグチャなところがあるので、単に偶然から相続したという線も」

 「それも十分にあり得る。基本的に貴族同士で結婚するからね」


 遺伝子調整していない平民との結婚もあるにはあるとはいえ、基本は貴族同士になる。

 その時、ルニウは何か閃いたとばかりに目を大きく見開くと、同時に両手を大きく打った。


 「あっ! メリアさんメリアさん」

 「……なんだい」

 「メリアさんが若い頃? 幼い頃? その辺りの時に婚約相手とか決まってたりしましたか?」

 「いや、ないよ」


 生まれが生まれなため、他の貴族の子との関わりは少ない。

 それこそ、婚約するようなことは欠片もなかった。


 「え~、つまらない」

 「殴られたいなら、そうしてやるが」

 「いやいや待ってください。まだ質問が」

 「で、その質問とやらは?」

 「異性か同性かを問わず、言い寄られたりしたこととかは」

 「……ある」

 「おお!」

 「わたしも気になってきました」


 便乗するようにファーナも横から言う。


 「おいこら、今は帝国が大変な時期で、あたしたちは公爵からの仕事を受けている途中なんだが」


 おふざけをしている場合ではないことをメリアは口にするも、ルニウは不敵な笑みを浮かべると腕を組む。


 「タルタロス周辺での戦闘が始まったというニュースを見てから、宇宙港を移動していません。それはつまり、海賊を討伐しに行く間の移動時間が、たっぷりあるということ」

 「そうなりますね。全速力で向かったとしても、十時間以上はかかります。海賊が潜伏しているところは何ヵ所かに分かれているため、話す時間には余裕があります」


 個人的な興味のためにファーナも協力しているのを目にしたメリアは、このままじゃ埒が明かないことに一度舌打ちをする。

 さっさと出発するように言ったあと、非常に渋々といった様子で話し始めた。


 「最初は、貴族同士のパーティーの時だった。十歳の時、小規模なパーティーに参加したものの、何人かの男子と女子があたしを取り合う騒ぎになった」

 「おおー!」

 「なかなかに興味深いです」

 「……その時は、子ども同士ということもあって、大人から軽く注意されるだけで終わった。ただ、十二歳の時に問題が起きた」

 「ふむふむ、いったい何が」

 「波乱の予感がします」

 「こ、こいつらは……!」


 ルニウは目を輝かせ、ファーナはしみじみとしながら頷く。

 メリアとしては怒鳴ってやりたいところだが、そうしたところで後日また聞き出そうとしてくるのは明らか。

 一度ため息をついたあと、話を続ける。


 「あたしとダンスする相手は誰が一番目になるのかといったことを、男子二人が言い合い、さらに掴み合いの喧嘩になる。他にも数人を巻き込んで怪我人が出ると、それからあたしがパーティーに呼ばれる機会は大きく減った」

 「あちゃー、とんだ災難ですね」

 「メリア様に迷惑をかけるとは困ったものです」

 「……今のあたしに迷惑かけてる奴は、ちょうど目の前にいるんだが。大きいのと小さいのがね」

 「まあそれは置いておきましょうよ」

 「そうです」


 メリアは何か言いたげに口を開くが、途中でアルケミア内部にあるスクリーンを見る。

 外を映し出しているが、距離が離れるほどに惑星はどんど小さくなっていき、代わりにワープゲートへと近づいていく。


 「話せるようなものは、これで終わり」

 「えー」

 「物足りないです」

 「……人の過去をなんだと思ってる。あたしは特殊な生まれで、引き取った親も金のためにあたしの面倒を見ていた。貴族として暮らしていた間は、そこまで話せるようなことはない」

 「つまり、海賊になってからは色々話せたり?」

 「ぜひとも聞きたいところですが」

 「はいはい。それはまた今度」


 メリアは手をひらひらと振って話す気がないことを示したあと、アルケミアの広い船内を一人で移動していく。

 向かうのは格納庫。

 おんぼろ船であるヒューケラの前に立つと、軽く呟いてから頭を振る。


 「もしも……海賊にならずずっと貴族のままでいられたら、どういう人生を歩んでいたんだか」


 思わず口にした内容の馬鹿馬鹿しさに苦笑したあと、ヒューケラに乗り込んで操縦席に座った。

 海賊から襲撃を受けても即座に対応できるように。

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