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115話 山積みとなっているあれこれ

 漆黒の宇宙を進む大型船があった。

 アルケミアという名称を持つその船は、一キロメートル級という巨大さゆえに、メリアたちの実質的な拠点となっている。

 通常の船とは違い、工場などの施設が内包されているのも理由としては大きい。

 今は惑星ヴォルムスのあったフランケン星系から離れ、とある場所を目指していた。


 「メリアさん! 一緒にこれで遊びましょう!」

 「却下。先にすることがある」


 アルケミアはファーナによって運用されるため、内部にいる者がするべきことは基本的に少ない。

 退屈を持て余したルニウは、ゲーム機を持ってメリアを誘うが、あっさりと拒否されてしまう。


 「ふん、いいですよーだ。ファーナ、余ってる端末あるでしょ? 動かしてこっちに来て!」

 「やれやれ、仕方ありませんね」


 ルニウはわざとらしく怒ってみせたあと、ファーナを誘い、割り当てられた自らの部屋へと去っていった。


 「……さて、今のうちに会社の方を見ていかないとね」


 帝国は全体的にきな臭い状況にあるが、しないといけないことは山積みとなっている。

 これまで休業状態だった、なんでも屋についてのことがまず一つ。

 ソフィアから千人の労働者を紹介されて雇ったわけだが、仕事の割り振りをどうするかという部分が厄介だった。


 「戦闘には使えない。そうなると普通の労働を任せるしかないが……」


 突然千人も必要になるところは少ない。

 そのため、数人から数十人と小分けにして、小さな仕事を任せる形になるわけだ。

 今のところ、フランケン公爵領内部になんでも屋の支社を複数作り、千人の労働者は分散して所属させている。


 「お疲れですか?」

 「全部ファーナに任せたくなるね。でも、それじゃ自分の会社のことがわからなくなる。移行するのは少しずつじゃないと」


 せめて、ある程度把握した状態でないと不安が残る。なにせメリアは社長であるからだ。

 文章だけの指示なら、惑星に寄らずとも可能なため、一通り済ませたあとメリアは目の前の端末から離れる。


 「ふぅ……会社はこれでいいとして、次は公爵閣下であるソフィアからの仕事か」

 「公爵領に潜んでいる海賊の討伐。成功報酬はそこそこ。あの時みたいに、大規模な戦力はいないので楽な限りです」

 「……あの時か」


 既に亡きエルマーからの依頼を思い返す。

 大量の海賊をまとめ上げている者を排除するため、海賊たちの中に潜入した時のことを。

 その際に遭遇したカミラ・アーベント。

 惑星ヴォルムスに君臨していた彼女は、明確な目的を持っていた。

 メアリという古い時代の皇帝のために活動していたのだ。


 「クローンであるあたしの血が、オリジナルを目覚めさせることに繋がったんだろうか」

 「どうでしょう? 血を取られなくても、遅かれ早かれだとは思います。カミラ以外にも、メアリという人物のために動く者は大量にいるはずですから」

 「まあ、一番気になるのは大型空母だね。カミラとの繋がりがあるということは、メアリとも繋がっている」


 今のところ、帝国の大型空母の話題は耳に入ってこない。

 もし動いたなら、それは大きな状況の変化をもたらすだろう。

 具体的には、メアリの勝利という形に。


 「一応聞いておきたい。もし帝国の大型空母との戦闘になったら、勝てるかどうかを」

 「内部に格納している戦闘機や艦船次第ですが、苦しい部分があるかと。そもそもこのアルケミアよりも大きいので」

 「まあ、そうなるか」


 いくらか話をしたあと、メリアは端末の画面を切り替える。

 それは海賊が潜伏していると思わしき星系が記されており、輸送船の被害が出ている航路も細かく付け加えられていた。


 「どれも他の貴族に接する星系ばかり。貴族と繋がってる海賊じゃないだろうね」

 「その可能性は……大いにあり得ますね」

 「無人機はどうなってる?」

 「人型機械と戦闘機の両方が揃っています」

 「遠近どちらでもそれなりに戦えるか」

 「もし海賊が貴族の名前を出してきても、こちらは公爵が後ろ楯になっています。余裕ですよ余裕」

 「だといいけどね」


 それからしばらく進み続け、一度補給と休息のために、公爵領内部にある有人惑星の宇宙港へと停泊する。


 「もしかすると長丁場になるかもしれない。多少の買い物は公爵閣下が立て替えてくれるから、食料や資材を中心に揃えろ」

 「メリアさん、いえ、社長。惑星に降り立って遊びに行きたいです」

 「駄目だ。出歩いていいのは宇宙港だけ。一応、大きな仕事を受けてる状態というのを理解しておくように」

 「はーい」


 ルニウが宇宙港を出歩いている間に、メリアは星系間通信を行う。

 大規模な設備を設置できる惑星や宇宙港でしかできないため、今のうちにしておこうと考えたわけだ。

 その相手は、今現在学園コロニーで生活しているセフィ。


 「はい。こちらセフィです」

 「意外とすぐに出たけど、休みだったりする?」


 画面上には、白い髪と赤い目、さらに褐色の肌をした少女が現れる。

 メリアとしてはやや不本意ながらも、養子として引き取った子どもであり、そうしたのはセフィが非常に特殊な体質と能力を持っているため。

 通信は学園の方に記録されているので、やや演技を交えてのやりとりとなる。


 「そうなります。今日は休みだったので、自室でごろごろしていました」

 「ごろごろ、ねえ? 友達とかと遊んだりは?」

 「……クラスメイト相手に抱きつき回ったせいで、まだ少し距離があって、部屋に招くほど仲の良い人はいません」

 「そ、そう」


 抱きつき魔という渾名がついたということを語るセフィに、メリアとしてはわずかながらも険しい表情となってしまう。


 「とはいえ、少しずつ仲を戻しているのであまり心配はいりません。ただ、いくつか言いたいことがあります」


 最初に会った時からあまり表情を変えないセフィだが、この時ばかりは不満そうな表情を隠そうともしなかった。


 「どうして連絡がここまで遅れたんですか?」

 「……仕事とかで、色々と立て込んでいて」


 それはなかなかに耳が痛くなる言葉だった。

 メリアは言い訳を口にするが、内心では遅すぎたという自覚があるため、どうしても強く出ることはできない。


 「帝国の方にいるようですが、大丈夫なんですか? 星間連合のニュースでは、惑星タルタロスでの騒動は、常に放映されてるくらいに注目されています」

 「大丈夫。今いるところは、タルタロスのある星系からだいぶ遠くて、巻き込まれる心配はないから」

 「次に学園へ来るのは、いつ頃になりますか?」

 「……帝国での騒動が一段落したら」


 皇帝かメアリ、そのどちらが勝利するのか。その後の情勢がどうなるのか。

 そういった部分を含めての答えだったが、セフィは肩をすくめると頭を振った。


 「仮にも親なんですから、もう少しそれらしくしてください」

 「もちろん、わかってる」

 「ちなみに、数ヶ月もするとコロニー全体で取り組む学園祭があります。その時には、普段はあまり親と会えないけど会えるんだと、とあるクラスメイトの男子が言っていました。その子の親は共和国の大きい企業の社長のようで」

 「……しっかり来ることを約束する」


 確実に来れるのか、やや不安ながらも、メリアは通信画面越しに約束をする。

 セフィはそれを聞いて満足そうに頷いたが、もし約束を破ればいったいどうなるか。

 通信が終わったあと、メリアは軽く息を吐いた。


 「帝国に、星間連合でも予定ができた。体が足りない」

 「数ヶ月もあるので、そこまで心配はいらないのでは?」

 「普通の場合は。果たして、タルタロスでの状況がどうなるか。割とそれ次第な部分がある」

 「まずは目の前の仕事を頑張りましょう」

 「ああ、そうだね」


 数時間後、買い物などを済ませたことでアルケミアは宇宙港から離れるが、その時緊急放送が行われる。

 タルタロス周辺において、睨み合いをしていた双方の艦隊が動き、大規模な戦闘が始まったとのこと。

 それは帝国だけでなく、共和国や星間連合を含めて非常に多くの人々の注目を集めた。

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