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112話 足場を固めるために

 「こちらへ。もうすぐ建物が……!」


 狭い路地には人が溢れ、思うように進むことができない。

 そこでファーナは、無理矢理ながらも近くの壁を破壊して道を作り上げてしまう。


 「これって犯罪だったりしません?」

 「ルニウ。そういうのは生き残ってから考えればいい」


 新たにできた道を通って別の建物の中に入り込んだ直後、激しい音が響いたかと思えば、先程までメリアたちがいた建物は部分的に崩れ落ちる。

 残りはまだ耐えているが、完全に崩れるのは時間の問題だろう。


 「やれやれだね。巻き込まれなくてよかったよ」

 「命拾いしました。メリアさんたちが来なかったら、私は地下で生き埋めになってたかも」

 「わたしのセンサーによると、まだ内部で戦闘が続いています」

 「……ファーナ、どれくらいで戦闘の音は消えると予想する?」

 「おそらく二十分ほどは続くでしょう。そして鎮圧の失敗という形で終わりを迎えます」


 ファーナからの報告を受けたあと、メリアは腕を組んで考え込む。

 ここは都市の内部。宇宙港からそれほど離れていないので、かなり発展していて大勢の人々が暮らしている。

 当然、それなりの戦力が存在しているため、違法な生き物の暴走はやがて鎮圧される。

 ただし、その間にどれだけ一般人の犠牲が出るのやら。


 「あの時キメラと戦った場所は、ほとんど人がいないところだった。ルニウも覚えてるだろ」

 「スラムがあって、そこからさらに人がいないコンテナばかりな地域でした。でも今は都市の中ですね。あれ? やばいのでは……」


 キメラという生体兵器は、とても厄介な存在である。

 透明になって隠れることができてしまうのと、携行できる程度の銃器では致命傷を与えることができないほどの耐久力の高さ。

 しかも、人間の利用する武器を扱える程度の知能もあるため、そんな存在が無力な一般人の溢れる都市の中で暴れるというのは、状況としては非常にまずい。


 「手っ取り早いのは、上空から強力な兵器で仕留めることだが……一般人に流れ弾が出ないようにしないといけない時点で大きな制限がある」

 「一般人守るために一般人殺しちゃいましたってのは、さすがに本末転倒ですからねえ」


 守る者を殺してしまっては意味がない。

 それに印象の問題も出てくる。


 「どうしますか? 一番確実なのは逃げることです。一応、まだ戦闘している者を手伝うこともできます」

 「……まずは、お偉いさんに連絡するところからだ。ファーナ、ソフィアへの通信は可能か?」

 「可能です。アルケミアを含めていくつか経由する形になりますが」


 惑星ヴォルムスは、フランケン公爵が所有している。文字通りの意味で。

 現在の権利は、相続したソフィアにある。

 そのため連絡を入れるのだが、やや眠そうな声が聞こえてくる。


 「どうしましたか? 突然の通信ですけど」

 「惑星ヴォルムスの、宇宙港近くの都市で問題が起きた。犯罪組織が管理していたと思わしき遺伝子操作された生物。それが逃げ出して暴れ始めている」


 あまりにもいきなり過ぎることを聞かされたからか、数秒近く沈黙が続いたが、驚きながらもソフィアは問いかける。


 「ええと、何かするおつもりですか?」

 「話が早いね。駐屯している軍か何かの指揮権を一時的に寄越してほしい。普通じゃ無理でも、フランケン公爵からの命令となれば可能になる」

 「……許可を出します。都市の中となれば、大勢の人がいるので急いで対応しないといけません」

 「助かるよ」

 「ただ、人々に犠牲が出たら、その分だけあなたの責任になります。どうかご注意を」


 通信が終わったあと、わずかに顔をしかめるメリアであり、それを目にしたファーナは首をかしげる。


 「どうやら、あまり気乗りしないように見えます」

 「面倒で危険。やらずに済むならそれがいい」

 「ではなぜ、先程の提案を?」

 「あたしは貴族だ。領地も何もない名ばかりのものとはいえ。皇帝とメアリ、どちらが勝利するとしても帝国は大きく動く。今のうちに足場を固めないといけない」

 「そのために、目の前を問題を利用するわけですか」

 「そうなるね。──都市の中で危険な生物が大暴れ。それを止めた立役者は、モンターニュ伯爵家の当主メリア・モンターニュ。フランケン公爵と繋がりのある彼女はただ者ではない。って具合に」

 「なるほど。わたしも頑張らなくてはいけませんね」


 話が一段落したあとは、調子の悪そうなルニウに話題が移る。


 「こっちはどうにかする。安全なところに避難するんだ」

 「うーん……ついていきたいところですが、さすがに今の調子じゃ足手まといになるので、軌道エレベーターの近くで過ごしておきます」


 軌道エレベーターは、地上と宇宙を繋ぐとても重要な施設。

 ほとんどの惑星は、これがないと経済が成り立たないと言っていいほどであり、いざという時への備えに満ちている。

 しかし、それゆえに他の地域へ助けに向かうことはない。

 あくまでも軌道エレベーターを最優先としているために。

 安全を求めるなら、自分から向かうしかないわけだ。


 「宿が決まったら知らせるようにね」

 「わかってますよー」


 タクシーを見つけて乗り込み、離れていく姿を見送ったあと、メリアはファーナと共に辺りを見回す。


 「警察か軍の関係者がいたら教えるように」

 「よくよく考えると、そういう組織からすれば、外部の者が指揮をするのって嫌がりそうです」

 「だろうね。逆の立場ならあたしも嫌に思う」


 少しすると、数人の警察を見つける。

 すぐにフランケン公爵からの許可を得ていると言って情報の共有を求めたが、怪しい者を見るような目を向けられる。


 「怪しい……」

 「たまにいるんだ。貴族からの許可を得たとか言って絡んでくる者が。君もその類いか?」

 「……まいったね。急ぎだから証明する物とかはないし」


 交渉する時間は無駄なので、遺伝子操作された生物を戦わせる見世物が地下にあったということを伝えたあと、一番近くにいる軍の場所を尋ねた。


 「む、我々はそれを摘発するために突入する予定だった。現在の異常について何か知っているのか?」

 「突入はやめといた方がいい。惑星マージナルにおけるパンドラ事件についてのニュースを見たことは?」


 その質問に対して、全員が反応をする。


 「見たことあります。さすがに重大な出来事なので、こちらにも伝わるほどでした」

 「共和国の方であった大きな事件だ。アステル・インダストリーという大企業が、あれほどの悪事をしていたとは驚くばかり」

 「そのアステル・インダストリーが取引していたキメラという生体兵器。あれが地下にいた」


 メリアがそう言うと、警官たちは驚きのあまり固まってしまう。


 「よりによって、この都市の中で!?」

 「……なんということだ。もし、崩落が起きずに突入していたら、我々は死んでいたか」

 「あれが都市の中で暴れたら、大勢が危険に晒される。なので軍の場所を教えてほしい」

 「わかった。君を近くの軍まで連れていく。摘発の際、遺伝子操作された生物との戦闘が起きた場合に備えて、装甲車両が数台と数十人の兵士が近くで待機している」


 メリアとついでにファーナは、警察の車両に乗ると、数十秒もしないうちに軍関係者の集まる工事現場へ到着した。

 それは一時的に周囲の目を誤魔化すためのカモフラージュであり、外からは建物の工事をしているようにしか見えない。

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