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105話 フルイド

 「ジジ……ジジジジ……」


 通信機の機能を利用しようとしているのか、雑音が流れる。

 それは時間と共に明瞭な音声へと変化していき、やがて確かな言葉となった。


 「何を、求める?」

 「いったい何者であるのか。まずはそれを知りたい。どういう存在なのか」

 「□#%◯&」

 「あー、なんだって?」


 それは人間には聞き取れない言葉……というよりも言語だった。

 メリアはガシガシと茶色い髪を手でかき回したあと、呆れ混じりに顔をしかめた。


 「一度しっかりと休みたい。丸一日ぐっすりと眠りたくなる」

 「しかしメリア様、それでは問題の先延ばしにしかなりません」

 「問題に対処するため頭をすっきりさせることは大事だよ。……まあ、それどころじゃないか」


 囚人の暴動に、謎の存在による襲撃。

 これを丸一日放置していたら、今よりも面倒なことになる可能性は高い。

 渋々といった様子で、四本足で立つ機械の方を見る。


 「とりあえず、なんて呼べばいい? 名前は?」

 「ルグ。そちらでもわかるような言語で説明するなら」

 「ご丁寧にどうも」

 「どういう存在かについては、そちらの言語での名称は好きに決めればいい」

 「なら……フルイドとでも呼ぶ」


 色々言いたいところだが、メリアはぐっと我慢すると、自己紹介を手短に済ませてから話を進める。


 「ルグとやら、なんでここを襲った?」

 「それが総意だったから」

 「どこの?」

 「我々。つまり君が言うフルイドの」

 「どういう意味か、わかりやすく説明してほしい」

 「意識の伝達により、我々の情報は常に共にある。個体としての境界は曖昧なものとなり、我々は総意によって動く」

 「……ルグ、お前の種族はそういう存在であるわけか」

 「そうだ。そして、今のやりとりも他の個体に伝わっている。我々は一つが全てであると同時に全てが一つでもある」

 「なら、しっかりとお話をする用意をしないといけないね。こんな間に合わせの部屋ではなく」


 目の前にいるルグと話すだけで、種族の大部分とやりとりするのに近い状況になることから、まずはしっかりとした話し合いの場に移るところから始める。

 とはいえ、無事で綺麗なところは少なく、何もない小さな一室に椅子を運び入れただけの部屋で向かい合う。


 「さて、どこから話したもんだか。……襲うことが総意と言ったが、その理由を聞かせてほしい」

 「契約があった」

 「いつ? 誰との?」

 「契約の中には、詳しい内容を言わないことも含まれている」

 「そうだろうね。こっちでも同じようなことはある。それじゃ、もう一つ。襲うのはいつになったら終わる?」

 「時期が訪れるまで」

 「その時期とやらは、いつになるのか」

 「我々にはわからない」

 「……なのに結構な大暴れか」

 「多少の犠牲は出ようとも、誤差に過ぎない」


 ルグの言葉をどれだけ信じるべきか。

 完全な嘘も完全な真実も口にしていない。

 少なくともメリアにはそう思えた。


 「話題を変えたい」

 「答えられることと答えられないことがある」

 「地下にあるあの建物……こっちじゃ遺跡と呼んでるが、あれを建造したのか」

 「建造に関わってはいない」

 「利用する方法について理解しているのか」

 「それについては肯定する」

 「人間……例えるならあたしたちのような種族が遺跡を建造したのか?」

 「していない」


 いくつか質問したあとメリアは腕を組み、背もたれに寄りかかると、少しの間目を閉じる。

 遺跡を建造していないのに、利用方法については理解しているときた。

 人間が建造したことについては否定したが、これはフルイドという種族以外にも、知性を持った生命体が存在しているのだろう。


 「人間とフルイド、それ以外の種族について知っていることは?」

 「答えられない」


 知らないではなく、答えられない。

 その返答を聞き出した時点で、メリアは詳しく聞き出そうとはせず、話をさらに変える。


 「そういえば、どうしてこんな風に話し合う気になったのか。お互い、戦闘をして犠牲もあったというのに」

 「ここにいるのは、全体からすればわずかな数に過ぎない。例え全滅しようとも些細なこと。多少の危険があろうとも、話す機会があるなら話しておく方が退屈しない」

 「あたしとルグのやりとりは、意識の伝達により他の者も聞いていて、楽しんでいるわけか」


 人類とは異なる知的生命体。

 もし、このような存在が実在していることを外部に広めたら、いったいどれだけの混乱が起きることか。


 「もし、遺跡を破壊したらどうなるか聞いても?」 

 「質問の意図は?」

 「宇宙から、地下にある遺跡を破壊しようとする動きが進んでいる」

 「それは困る。我々の中でここに来ている個体が戻れなくなる」

 「つまり、あの遺跡はなんらかの門として機能しているわけか。なら今のうちに戻ればいい。準備には時間がかかっている」

 「それはできない。契約をしたので、それが果たされるまでは」

 「……どんな契約だ」

 「それは言えない」


 堂々巡りな状況に、メリアは頭が痛そうな様子となる。

 契約をしたとは言うが、何もわからないのでは予想することもできない。


 「もし、あたしが遺跡を破壊すると言ったら?」

 「我々はそれを止めるだろう」

 「その結果全滅するとしても? そもそも、宇宙からの破壊を止めることができないと、遅かれ早かれだ」

 「…………」


 無言だったが、それはファーナが何体も倒したからなのは間違いない。

 それを示すように、カメラのレンズらしき部分は壁際に佇むファーナへと向いていた。


 「一つ提案がある。今の襲撃を中断してほしい。その間に、遺跡周辺にいる一部の囚人たちを移送する。もう十分に混乱は起きた」

 「わかった。総意としても休息が必要なので受けよう。宇宙からの行動はどうしようもない」


 何か考えがあるのか、とりあえず一時的とはいえ中断することを受け入れた。

 ただし、残りの個体は、どこかに集まったりはしないまま隠れ続けるとのこと。

 それでも襲撃がなくなれば行動はしやすい。


 「ルニウ、男性の囚人の中から発言力のありそうな奴を見繕うから手伝え。ファーナは、ロボットを操作して暴動を鎮圧すると同時に、移送を進めるように」

 「あ、はい」

 「わかりました」


 男性の囚人から見繕うのは、暴動が起きたのは遺跡に近い男子収容所の区画が中心となっていたから。

 女子収容所は遺跡から離れていたため、ほんの少ししかおらず、そちらについては適当に言いくるめることができる。

 今回の騒動は、主に遺跡を中心として始まった。それゆえの行動である。


 「囚人の皆さん、こちらに指示に従ってください。宇宙からの攻撃で死にたくなければ」


 暴動の鎮圧自体は、数日近い時間がかかったが、大きな問題のないまま収束していく。

 皇帝の命令によって、宇宙からタルタロスを攻撃する艦隊がやって来るということを伝えたからだ。

 あの皇帝ならやる。

 そんな話が小声ながらも拡散していくので、報告を聞いたメリアはなんともいえない表情になる。


 「あの皇帝、貴族からも平民からも微妙な評判だが」

 「それでどうします? 攻撃艦隊は星系内部にやって来ましたけど」


 ワープゲートを越えて、百隻ほどの艦隊が到着した。

 タルタロスに到着するまで、もうしばらく時間があるとはいえ、そのあとを考えると厄介な限り。


 「……ルグを含めたフルイドの一団は何をするのか。それ次第だね」


 囚人の移送を済ませ、遺跡周辺は完全な無人となっている。

 これならば、宇宙から遺跡を破壊しようとしても巻き添えを受ける者は出ない。

 自らも安全な本部の中で状況を見守るメリアだったが、やがて軌道上に展開した艦隊の一部から攻撃が行われる。

 遠目には大したことがないように見えるが、地面に着弾した瞬間、距離が離れている本部が揺れるほどの衝撃が発生した。


 「……凄まじいね」

 「宇宙からこういう攻撃できるとか、一方的にやられ続けたら惑星終わっちゃいますよ」

 「報告します。今の一撃によって遺跡は消滅しました」


 地面すらも余裕で貫通する圧倒的な威力。

 宇宙から地上を攻撃するという行為に制限が加えられるのはなぜか。

 それを一目で理解するには十分過ぎるものだった。


 「……お待ちください。なにやら跡地から高出力反応が。いえ、惑星全域で隠された機械の反応が」


 タルタロス全域が震えるほどの振動が発生したあと、驚くべきことに地面が割れて内部から宇宙船が現れる。

 大型のが一隻、あとは小型のが数百隻。

 それらは宇宙へと射出されるのだが、一見すると中にいる乗員が潰れそうな勢いだった。

 ただし、大型船だけはゆっくりと移動し、徐々に加速して宇宙へと出た。


 「なんなんだあれは」

 「ずっと隠されてた艦隊……ですかね?」

 「なんのために?」

 「わかったら苦労しませんよ」

 「追加の報告です。小型船はすべて無人であり、動きからして大型船には人がいると思われます」


 どういうことか尋ねる前に、捕虜として確保していたルグがやって来る。


 「これで彼女との契約は果たされた」

 「色々知ってそうだね。教えてもらえるかい?」

 「それはよくない。彼女が語るのを待つべきだ」

 「は? 何を言って……」


 話している間に、皇帝から派遣された艦隊と謎の艦隊との戦闘が発生した。

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