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104話 事態の進展

 まさかの相手が現れたものの、タルタロスという惑星のことを考えると、そこまで不自然というわけでもない。

 惑星を丸ごと一つ、囚人を閉じ込めるために使っているのだから。

 その希少性ゆえに、帝国の皇帝としても状況は気になるところだろう。


 「……まさか、このようなところで皇帝陛下を目にするとは思いませんでした」

 「この星系には訪れていない。通信だけのことだ。まあそれは置いておくとして……兵士や職員が逃げたのは事実であるのか?」

 「はい。光学迷彩をした何者かに長官が殺され、その時センサーの類いが反応しなかったこともあって、軌道エレベーターで宇宙港へ逃げました」

 「……見えない相手、しかもそれが厳重な守りを突破して立場ある者を殺した。恐れる気持ちは理解できるが、だからといって逃げるのはよくない。そうだろう?」


 さすがに不機嫌そうな声になっているが、メリアとしてはどうすることもできない。


 「私に言われても困ります。なにせ、囚人として過ごしていましたから」

 「それで、その何者かについてわかっていることは?」

 「タルタロスの地下にある遺跡から出てきたと思われます」


 それは何気ない報告だったが、耳にした皇帝の表情は急激に変化していく。

 最初は無表情、次に怒りに満ちていき、最後は顔を隠すように手で覆う。

 自らの中を激情が駆け巡るが、それをなんとか抑えようとしている。そんな様子だった。


 「遺跡……遺跡と言ったか?」


 確認するかのように呟くので、メリアは無言で頷く。

 何か言えば、刺激し過ぎてしまう可能性があったために。

 すると皇帝は唸るような声を出し、近くにあったテーブルへ拳を叩きつけた。


 「……大まかな場所を伝えれば、あとはこちらで対処する」


 明らかに怒っている。ただ、その理由がわからない。

 皇帝の反応からして遺跡が関係していることは確実。

 とはいえ、今は先に聞くべきことがあった。


 「どのような対処をなされるのですか?」

 「軌道上から地下深くを貫通する実体弾を射出する」

 「結構な深さがありますが」


 極寒の環境である地上からの影響を減らすため、地下に何もかもが存在する。

 当然、そう簡単に崩落しないよう頑丈に作られており、地面という巨大な緩衝材もあることから、軌道上から攻撃したところで耐えてしまうだろう。


 「そもそも、宇宙から地上を攻撃できる兵器には大きな制限があるはずでは」


 人類が宇宙に進出してから長い月日が流れていたが、その間に色々な制度が作られていた。

 メリアが言ったものはその一つであり、これは有人惑星を戦場にしないために作られた。

 人が居住可能な惑星というのは、宇宙全体からすればとても希少なものであり、戦争によって失われることを避ける必要があるからだ。

 各国の軍が本気を出せば、惑星一つを生物が住めない完全な焦土にすることは可能であるがゆえに。


 「結局のところ、どのような制度を作ろうとも、抜け穴というのは存在する」

 「…………」

 「惑星タルタロスはテラフォーミングの最中であり、まだ居住可能な惑星にはなっていない。書類上は」


 地下で過ごし、外部から物資を運び入れることで、タルタロスでの生活はギリギリのところで成り立っている。

 わざわざ書類上と皇帝は口にしたが、これはつまり、かなり威力のある兵器を投入することに他ならない。


 「遺跡以外の被害は、どのくらい出ることを想定していますか」

 「少なければ数千人。多ければ数万人はいくだろう」

 「それはさすがに」

 「多少の犠牲が出ようとも、これが最も手っ取り早い。なに、タルタロスにいるのは囚人ばかりだ。兵士や職員たちは軌道エレベーターにいる。巻き添えが心配なら今のうちに避難したまえ。弾頭と兵器の手配、それに移送を含めて一週間ほどはかかる」

 「……わかりました。場所については、のちほど送ります」


 通信が切れたあと、メリアはやれやれとばかりに首を振る。

 そろそろこの惑星における騒ぎは終わりを迎えるだろうが、代わりに結構な犠牲が出る。

 知らないならともかく、知ってしまったので気分はよくない。


 「メリアさん、なんだか気分悪そうですね」

 「数千人かそれ以上が死ぬのを聞かされるとなると、気分がよくなるわけないだろ」

 「まあ、仕方ありませんよ。それか、いっそのこと先に遺跡を破壊してみるとか?」

 「あたしたちだけでか。姿が見える相手ならともかく、見えない相手じゃ分が悪過ぎる」

 「それはそうなんですが」


 話しているうちに、ファーナからの通信が入ってくる。

 生け捕りにしたアンノウンのパワードスーツを、すべて取り除くことができたというものだ。

 その報告を受け、メリアとルニウの二人は急いで向かうが、ファーナが指差す方向にある物体を目にすると固まってしまう。


 「これが……中身……?」

 「なんなんですかね、これって」


 ベッドの上に横たわるのは、不定形な粘液の塊。どことなく機械油のような色をしており、大きさとしては手のひらに乗る程度。

 よく見ると、機械の部品が乗ってもあまり沈まないため、だいぶ弾力性があるように思える。

 すぐ近くには、ばらばらに分解されたパワードスーツの残骸が積み上げてあった。


 「ファーナ」

 「成分は不明です。生きているのか、微妙に動いています」

 「まいったね……」


 思わず、自らの顔に手を当てるメリアだった。

 奇妙な謎の存在を皇帝に報告すべきかどうか。

 そもそも報告したらしたで、秘密を知ったということを理由に消してくるのではないか。

 どうすればいいのか、頭が痛くなってくるが、なんらかの答えを出さなくてはならない。

 どうあっても時間は過ぎていき、やがて皇帝による力ずくでの解決が図られるからだ。


 「意志疎通は? できるかどうかで色々変わる」

 「言葉を理解してはいるようです。ただし、こちらに伝わるような方法がないみたいで」

 「おおーい、私の声聞こえるー?」


 ルニウが近づいて声をかけると、少しだけプルプルと震える。

 声に反応して動くため、意識はあるようだった。


 「動いた、動きましたよ」

 「……交流が一方的じゃどうしようもないが」

 「じゃあ次はこれで」


 ルニウは水色をした自分の髪の毛を一本引き抜くと、目の前のプルプルと震える塊に触れさせる。

 すると少しずつ中に取り込まれていき、やがて半透明な体内らしき部分に、髪の毛はすべて入った。

 だが、時間が経つと吐き出すように排出され、それを見たルニウはやや不機嫌そうになる。


 「あ、こいつ私の髪を吐き出しやがりましたよ」

 「いや、髪の毛とか普通に吐き出すだろうに」


 なにやってんだと言いたげなメリアであるが、試しに食べ物をやってみることにした。

 兵士や職員向けの食堂にある冷蔵庫から、適当にお菓子を持ってくると、指先で小さくしたのを与える。

 まずはポテトチップス。次はクッキー。どちらも砕いて小さくしてある。

 量は少ないため、目を凝らす必要があったが、きちんと食べているのか消化されていき、最終的にはなくなった。


 「物を食べることはできそうだ」

 「生き物、といっていいんでしょうかね? これって一応」

 「お二人とも、そこをどいてください。こちらを試します」


 人間二人が盛り上がっている間、人工知能たるファーナはなにやら小さな機械を運んでくると、プルプルと震える粘液の塊を料理用の大きなスプーンですくいあげ、機械の上に乗せてしまう。


 「パワードスーツを動かせたとなると、他の機械類を動かせるかもしれません」

 「武装になりそうなものは」

 「もちろん、存在しないのを用意しています」


 粘液の塊は機械の上に乗ったあと、恐る恐るといった様子で何本もの線を伸ばし、ペタペタと触っていく。

 そして何かを確認したあと、染み込むように機械の中へ入っていった。


 ガタッ……ガタガタ


 数秒もしないうちに機械は動き始めると、足らしき部分が現れ、四本足で立つ四角い機械が出現した。

 よく見ると、通信機や金属のパーツを適当に組み合わせただけの代物であり、本来は動かないものを粘液の塊が操作していると考えてよかった。

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