101話 別れと再会
薄暗い地下の鉄道において、メリアたちは厄介な出来事に遭遇する。
現在進行形で使える線路が減っていき、進めるルートが制限され、そのせいで何度か戦闘に巻き込まれたのである。
もはや刑務官は警備員は逃げ出したあとであり、囚人同士の戦いばかり。
「戻ったところで道はない。だけど進み続けても敵ばかり。どうなることやら」
「何を迷ってる。敵は全員殺す。とても簡単だ」
「でもそれは相手も同じ。殺すだけじゃなく、私たちが殺されないようにしないと」
二日、三日と時間は過ぎていく。
その間にも戦闘は激しさを増していたが、これはどうやら食料を巡っての争いが始まっているのが理由だった。
「……何人死ぬと思う?」
「それを聞くとはね。かなり死ぬだろうさ」
「私たちのエリアの刑務官みたいに、囚人を連れて脱出するところもあるとはいえ、それは少数派。タルタロスには食料を生産する施設はあまりない。本部や各地の支部で作られてるけど、全員のお腹を満たすことはできない」
タルタロスは惑星を丸ごと一つ監獄として利用している。
しかし、地上が雪と氷ばかりなので食料を自然から得ることはできない。
基本的に、外部からの輸送で成り立っており、それが途絶えればどうなるか。
かなり凄惨な光景になることが想像できてしまう。
「その前に逃げ出したいところだけどね」
「同感だ。ハッキングで資産を確保した。あとは表の世界でゆっくりしたい」
「その、二人の話を邪魔するようで悪いんだけど、そろそろ列車壊れそう……」
整備も点検もなしでずっと動かし続け、時折戦闘に巻き込まれることもあった。
問題ない方がおかしいところだが、三人にとっては死活問題である。
地下の鉄道網は各地を繋いでいるとはいえ、各地の駅はかなりの距離があるため、それを歩いていくのは半分自殺行為。
列車という頑丈な代物の中だからこそ、安全で楽に食料と武器を運べている。
「修理は」
「無理。そういう技能はない」
「同じく。動かし方はわかるけど、それだけ」
打つ手はない。
そもそも、列車を修理をするための道具や資材がないのだが。
「……まずい状況だね」
「でも、一応朗報があるわ。あと数時間もすれば本部へ到着できる」
「それのどこが朗報だ。メリア、アイシャはああ言ってるが、上の奴らが軌道エレベーターで宇宙港に逃げたと刑務官は言っていた」
「はぁ、戦闘に備えるしかないわけだ」
交代で休みながら、一切止まることなく進み続けたからか、三人がいたエリアからはかなりの距離があるはずの本部には、あともう少しというところまで来ていた。
とはいえ、暴動の鎮圧を放棄したということは、大勢の囚人がいるに違いないため、ため息混じりに武器の確認をしていくメリアだった。
「あと数分で到着するわ」
「まずはグレネードを投げ込むとして」
「いや、待て。何かおかしい」
異変に気づいたのかロシュがそう言うと、メリアとアイシャの二人も遠くに目を凝らす。
激しい戦闘があったのか、だいぶ囚人の死体が存在している。
男性が八割、女性が二割といった具合だが、ちらほらと生き残りを発見することができた。
どこで調達したのか、その生き残りたちは食事をしていた。
本部の駅へと降り立ったあと、何があったのか尋ねるも、返ってきた答えは驚くべきものだった。
「これは、今本部を制圧してる人がくれた。名前は、確かルニウだったかな?」
「……そのルニウとやらについて詳しく教えてもらえるかい? あたしたちも、何か食べたいところでね」
「詳しくは知らない。ただ、ここを襲撃した奴らを無人の機械を使って返り討ちにした人で、メリアという人を探してるらしい」
「人型のロボットはいたか?」
「あー、人型ね。白い髪と青い目をしたやつがいたと思う。でもなんで少女の姿なんだろな。でかい方が荒事に使えるってのに」
「それだけ聞ければ十分だ」
メリアが話を聞き終えたあと、待ってましたとばかりにロシュとアイシャは肩に手を置く。
無言ながらも、説明しろという意思が目から伝わる。
一度列車に戻ってから、メリアは軽く話をする。
ルニウというのは自分にとっての外部の仲間であるという風に。
「なるほどなるほど。ずいぶんと有能な者がいるようで羨ましい」
「そうねえ。私の協力者ときたら、何か問題あったのか連絡が途切れてしまったし」
「……で、これからどうする?」
メリアがそう質問をすると、二人は既に決めていたのか即座に答える。
「この辺りでお別れってところだね。どうせそのうち、鎮圧のための部隊が大量に送られてくる。宇宙からの艦隊によって」
「あまり目立ちたくないのよね。資産の方は念入りに調べられると、ちょっとまずいから」
「あとは、ルニウとやらがわざわざここを制圧しているのは、何かやるためだろうと想像しているため、あたしらは参加しない」
「ごめんなさいね。やっぱり自分の身が可愛いものだから」
「……わかった。それならお別れだ。囚人として短い付き合いだったけど、色々助かったよ。それじゃ」
ここからは別行動となる。
自分は皇帝との茶番によってここにいるが、あの二人はそうではない。
メリアとしても納得できるため、無理に引き留めたりはしなかった。
そして一人になったあと、中に入れるかどうか人間用の扉に向かう。
貨物用の大きい方は、守りやすくするためか固く閉ざされているためだ。
「閉まってる。けれどカメラは生きてる」
自分の姿がカメラからしっかり見える位置に座ったあと、しばらく待つことに。
数分もすると扉が開き、ファーナが現れる。
「まずは急いで中へ。敵が近くに隠れている可能性があります」
久しぶりの再会だが、警戒している様子を見てメリアは急いで扉の向こうへ走る。
すると扉はすぐに閉まり、ファーナはなおも警戒のために周囲を見ていく。
「何かいるのかい」
「光学迷彩らしき装備をした存在が。その者たちによりタルタロスの長官が殺され、厳重な守りを突破されたことに動揺した兵士や職員たちは、軌道エレベーターから宇宙港へと移動しました」
「この分じゃ、軌道エレベーターに行っても閉まってそうだね」
「なので、わたしたちはこうして拠点として使えそうなこの本部とやらを占拠し、色々な調査をしていました」
「ところで、どうしてここにいるのか聞きたいところだが」
メリアは首をかしげた。
外部からここに来れる者は限られている。
惑星タルタロスのある星系へ繋がるワープゲートは、警備艦隊が見張っているからだ。
「ここの長官ですが、海賊と繋がっていました。わたしとルニウは、その繋がっている海賊を偶然襲撃すると命乞いとして儲け話を出されたため、それに乗った次第です」
「……海賊行為で金を稼ぐ、か。バレないようにしてるんだろうね?」
「襲うのは海賊ばかりなのでご安心を。まあ、盗まれた一般人の財産などは、海賊退治のお礼ということで貰っていますが」
「ちゃっかりしてるようでなにより」
移動途中、メリアは内部を見てあることに気づく。
意外と囚人がいることに。
「そこそこいるけど、これは?」
外にいる者との違いを尋ねると、周囲に話し声が広まらないようファーナは小声で囁く。
「問題を起こさない者だけを中に入れています。まずは外でしばらく待機してもらい、大丈夫そうだと判断できたら中に入れます」
「異常事態の今では、必要なことか」
「人手がいるのに、殺したり殺されたりがあっては困りますから」
「それは、そうだね」
男性の囚人と戦闘をしたことを思い返し、ある程度納得するメリアだった。
話しているうちに、ルニウのいる指揮所へと到着する。
もはや注意する者もいないということで、好き勝手に改造がされており、散乱している剥き出しのケーブルで足元はごちゃごちゃしていた。




