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99話 遺跡と謎の存在

 「待った。私たちはあなたに危害を加えない」


 大勢の人々が倒れているという目の前の状況は普通ではない。

 なので少しでも情報を得るために、白衣の女性を落ち着かせようとするルニウであったが、白衣の女性は何かに怯えるような様子で部屋の隅へと逃げていく。


 「ここは急ぐべき場面なので、力ずくで確保します」

 「あ、ちょっと」


 異常事態ということでファーナは白衣の女性に近づくと、両腕を無理矢理に押さえ込む。

 当然ながら激しい抵抗をされるものの、機械の身体には何の影響もない。


 「とんでもないロボットだな。市販されてるのと比べて、中身が違いすぎる」

 「まあ、私じゃなくてあの人だったら、言うこと聞くかもしれないんですけどね」


 ルニウは周囲の海賊と顔を見合わせたあと、やや気まずそうな様子で女性の前に立つ。


 「ええと、ごめんなさい。ここで何があったのか教えて?」

 「……うぅ、せっかく扉を閉めたのに開けるなんて、もうみんな死ぬ」

 「それはどういう……」


 ドサッ


 さらに詳しいことを聞き出そうとするルニウだったが、背後から人が倒れる音が聞こえてくるため慌てて振り返る。

 すると、胴体から刃を生やした海賊たちの姿を目にする。


 「ぐっ、な、なんだこれは」

 「がは……敵が、いる」


 よく見ると、空間にわずかな揺らめきがあることから、光学迷彩をした何者かに背後から刺されていた。

 それをルニウが理解した瞬間、ファーナはこの場における最大の脅威と判断したのか、白衣の女性から離れて光学迷彩をした何者かに仕掛けていく。


 「ルニウ、そこにいる女性の護衛を任せます」

 「そうは言っても、ろくな武器が」


 タルタロスに入る際、あまり大きな武器は持ち込めず、片手で撃てるビームブラスター程度が限界。

 相手が光学迷彩をしていることを考えると、近接武器も欲しいところ。


 「仕方ないか。ほら、邪魔にならない場所に移りますよ」

 「は、離して」


 ルニウは女性の腕を握ると、空間が揺らめくところから距離を取る。

 少しでもファーナの邪魔をしないようにという考えから。


 バチバチバチ!


 「効きません」


 そうしている間にも、ファーナと光学迷彩をした何者かとの戦闘が始まり、なにやら光の刃らしき代物が振るわれる。

 だが、ファーナは自らの頑丈さを利用して片腕だけで防ぐと、そのまま空間が揺らめくところを殴りつけた。


 「…………!!」


 その一撃は相手を吹き飛ばすには十分な威力であり、光学迷彩は破損して維持できないのか、隠された姿が現れる。

 それは一見すると、やや特殊なパワードスーツを着ているように見えるが、姿を目にした白衣の女性は叫ぶ。


 「は、早くあれを殺して! 仲間を呼ばれる前に早く!」

 「生け捕りにした方がいいのでは?」

 「あなたロボットでしょ!? 人間の言うことが聞けないの!?」

 「命令には優先順位というものがあります」


 話している間にも攻撃は行われるため、ファーナは反撃を行う。

 どうするべきか悩み、いくらか手加減したものであったが、既にだいぶ弱っていたのか床に倒れ伏す。


 「ファーナ、もしかして殺しちゃった?」

 「不可抗力というものです。生け捕りにすれば、色々と聞き出せたとは思いますが」


 良くも悪くも人の生き死には慣れているため、状況の割には気が抜けた会話をするものの、次に起こる出来事は警戒を一気に高めた。

 それは床に倒れた何者かが、空気の中へ溶けていくように消えてしまうからだ。


 「今のはいったい……」

 「殴った感触からすると実体がある存在でした。なのに消えていく。謎の存在ですね」

 「さらにまずい状況になってきた。同行してた人たちも死んでしまったし」


 突然の奇襲により、海賊たちは全員が死んでしまい、生き残りはルニウとファーナだけ。

 一応、白衣の女性もいるとはいえ、今後のことを考えると頭が痛い。


 「これじゃ、メリアさんを助けるどころじゃない。まず自分たちが生き残ることを考えないと」

 「まあ、わたしだけなら脱出するのは簡単……いえ、宇宙に出ることを考えるといくつもの壁が」

 「とりあえず……何が起きてこうなったのか教えてくれますか?」


 このままではどうしようもないため、ルニウはひとまず何かを知っているだろう白衣の女性に声をかける。


 「それは……」


 どこか怯えていたが、襲撃してきた何者かをファーナが余裕を持って倒したため、意を決した様子で口を開いた。


 「始まりは、あの遺跡です。あの遺跡が振動し、それに呼応する形で地震が起きました」

 「なるほど。まさかの地震だったけど、そういうことか」

 「待ってください。そもそも遺跡とはなんですか?」

 「あ、確かに」


 ファーナの疑問に、ルニウも同意するように頷く。


 「……詳しいことはわかりません。数百年も前から存在しているとしか、教えられませんでした。かろうじて、遺跡は門のような形状をしていることはわかりましたが」

 「あなたはどうしてここに?」

 「私は……考古学を学んでいたことから、貴族の方を通じてここで働くことになりました。謎の遺跡を最初に見た時は、これは凄い発見だと喜んでいましたよ。だけど、まさかあんな存在が出てくるなんて……」


 話の途中で何か恐ろしいことを思い出したのか、白衣の女性は恐怖に身体を震わせる。

 普通ならここは一度時間を置いてから尋ねた方がいいが、今は時間が惜しいのでルニウはすぐに尋ねた。


 「あんな存在ってのは、さっきの透明になるようなパワードスーツを着た何者かのこと?」

 「……はい。遺跡が振動してから現れました。各種のセンサーを配置していたため、すぐに異質な存在がいることに気づきましたが、遺跡の周囲にいた者は全員が死亡。施設内にいた者は私のように避難をしましたが……」

 「透明なあれが、既に中にいたと」

 「片手で使える小型のビームブラスターしか、使える武器がなかったのもまずかった。なんとか倒したものの、生き残ったのは私だけ」


 研究員や警備員は命を失い倒れている。

 この分だと、他のところにいる者もやられているだろう。

 そうなると、謎の存在がどれくらいいるかだが、これについてはファーナのスキャンでも不明とのこと。


 「ここは地下施設であり、スキャンを阻害するものが数多くあります。相手が近くに来た時しかわかりません」

 「遺跡は気になるけど、まずは逃げるしかないか」

 「こういうところだと、いざという時の自爆装置などがあったりしませんか?」

 「とのことだけど、ええと……」

 「ルイスよ」

 「私はルニウで、こっちはファーナ」


 ルニウが一瞬悩んでいると、白衣の女性は名乗る。

 お互いに自己紹介が済むと話が進められる。


 「自爆装置だけど、残念ながらないわ。人間以外の知的生命体が作ったであろう謎の遺跡。そんな希少な代物を傷つけないよう、厳重に守られてる」

 「どうせなら、研究員とかも厳重に守ってくれたらよかったのに」

 「……それは言わないで。それよりもまずは逃げないと」


 ここに長居しても危険であるということで、ひとまず地下にある駅へ向かうことを提案するルイス。

 タルタロスの各部分は地下の鉄道網によって繋がっており、近くの支部に向かってここで起きたことを報告し、謎の存在に備えてもらう必要がある。

 そうしなくては、すべての者が危険に晒されるために。


 「わたしが先導します。お二人は最大の警戒をしつつ、いつでも撃てるようにしておいてください」

 「わかった」

 「ええ。あまり撃つのは得意じゃないけど」


 避難するための部屋から駅まではすぐに到着する。

 だが、そこにいるはずの人々は血を流して床に倒れていた。


 「そんな。既に他のところへ向かっている!?」

 「どうでしょうかね。他の生き残りであることを願いたいもんですけど。それと、通信できる設備とかあります?」

 「……ある。まずは知らせないと」


 ルイスはすぐさま駅にある通信機に近づくと、本部へ連絡を取ろうとする。

 数秒後には繋がるが、何か大きな問題が起きているのか騒がしい。


 「どうした? 何かあったか?」

 「研究員のルイスです。廃棄施設の駅より緊急の連絡を。異常が発生し、施設より謎の存在が現れてほとんどが殺されました。すぐに戦力を送ってください。光学迷彩への備えを万全にした上で」

 「ええい、惑星北部の囚人たちが暴動を起こした次は、機密の方で異常とは!」


 そのまま遺跡とは言えないのか、通信では言い換えてある。


 「待ってください……北部での暴動?」

 「何者かに刑務官や警備員がやられ、監視のなくなった囚人たちが脱走し始めた」

 「……その、お聞きしたいのですが、暴動が起きたのは廃棄施設周辺の収容所だったりしませんか?」


 何かに気づいたのか、ルイスは恐る恐る質問をする。

 それから十秒ほどが過ぎると、通信越しに重苦しい雰囲気の言葉が入ってくる。


 「その通りだ。徐々に範囲は拡大している」

 「いけません! 列車の中に光学迷彩をした存在がいる可能性があります。すぐに全域へ緊急事態であることを知らせ、駅に到着する列車へ備え……」


 通信は途中で中断される。

 突然の銃撃によって通信機を破壊されてしまったからだ。

 すぐさまファーナが迎撃に向かい、なんとか生け捕りにしようとするも、驚くことに自らの肉体へ光の刃を突き刺し自害してしまう。

 それは情報を渡さないための行動であると同時に、人間と同等の知性を持っていることを確信させた。


 「相手は知性を持った謎の存在であり、わたしだけではどうにもなりません」

 「一対一では勝てても、集団相手だと危ないか。放置するのは怖い。でも武器がないから逃げるしかない」

 「……まずは本部へ。そこに最も多くの兵力が存在し、武器も揃っています」


 無事な列車に乗り込むと、ルイスは慣れた様子で動かしていく。

 だいぶ自動化が進んでいるのと、遺跡に関わる研究員は動かし方を理解しておくようにという方針ゆえに、動かすことができるとのこと。


 「そういえば、ルニウさん。あなたはどこから施設の中に?」

 「ちょっと地上で探索をしていたんですけど、地震のせいで地下に落ちていって、壁に穴が空いていたので入った次第です」

 「そう」


 ルイスは考え込むと、大きなため息をついた。


 「どうかしました?」

 「謎の存在が暴動を広めているのはなぜか。それを考えていたの」

 「こっち側の対処能力を飽和させて何か行う、とか?」

 「その目的は? そもそもどうして突然現れたの」

 「こういう場合は、タイムマシンとか違う世界からというのが、ありがちなものですけど。まあ、死んだら消えるのでタイムマシン説は無しですかね」

 「……まずは目の前の危機をどうにかしてからにしましょう。確証となるものはないのだから」


 不安を抱えた一行を乗せて、列車はかなりの速度で進んでいく。

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