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98話 崩落した先にて

 地下でメリアが喧嘩を行う数時間前。

 雪と氷だらけなタルタロスの地表を、集団で進む存在があった。

 それは三台の輸送車両……どれも軍用の頑丈そうな代物である。


 「うわー、辺り一面同じ光景ばかり」

 「ルニウさんよ、もう少し静かにしてくれないか……通信で話すのは単純にうるさい」

 「そうは言っても、作業用機械の中はあまり動けないし、暇なので」

 「白い髪したロボットと話せばいいだろ」


 軍用の輸送車両だけあって、人型の作業用機械を軽々と積み込めるほどのキャパシティがあった。

 これは、雪に隠れた穴などに引っかかって車両が動けなくなった場合への備えである。

 生身の人間が作業したところで、吹雪の中ではあまりにも効率が悪い。

 その点、宇宙でも運用できる人型の作業用機械ならば、極寒の環境や厳しい地形でも問題なく作業を行える。

 重力のせいで万全とまではいかないが。


 「予定の地点まであとどのくらいですか?」

 「もう少しだ。いくつか目安となる場所はあるが、そこから先はこの目を使って探す必要が……」

 「報告、センサーに反応あり」


 探し物をするため、車両にはどれも高性能な機材を設置してある。

 通信によって一人が知らせると、すべての車両が速度を落とす。


 「おっと、これは当初の予想よりも早く仕事を終えられそうだ。南の方に送った奴らと合流したあと、すぐ宇宙に戻れるか」


 車両の中はいくらか穏やかな雰囲気に包まれるも、それはすぐになくなる。

 反応のある場所に到着するも、そこには小さな裂け目があるだけ。

 その一番底に、航空機らしき残骸がわずかに見えるが、地形的な問題から回収するのはなかなかに難しい。

 なぜなら、氷の板が蓋をするように存在していたからだ。

 それゆえに、裂け目の底を見ることができたのである。


 「深いな……まずは確認からだ」

 「なら、こっちのファーナを出します」


 氷の蓋に小さな穴を空けたあと、人間を投入する前にファーナが降りていく。太いワイヤーや光源となる大型のライトと共に。


 「メリア様を助けるはずが、こんな穴の底に向かうというのも……波乱万丈と言うべきでしょうか」


 氷の蓋のおかげか、裂け目部分にはほとんど雪が積もっていない。

 その代わり鋭い氷などが存在するが、ファーナの動かす端末は機関銃の直撃を受けても無傷なほど頑丈なため、これといった問題のないまま底に到着する。


 「こちらファーナ。航空機の残骸のところにまで到着しましたが、これといって積み荷の類いは見当たりません」

 「なに? それは困ったな。周囲の氷に埋まっている可能性は?」

 「見える範囲にはありません。破壊して調べる場合は、かなりの時間がかかります」

 「……残骸があるということは、ほぼ確実にこの周辺にあるはずなんだが」


 無駄足となる可能性に、車両の内部はやや重苦しい雰囲気に包まれる。

 しかし、それどころではなくなる事態が発生してしまう。

 わずかな揺れを足元から感じ始めたからだ。

 最初はファーナが気づき、やがて地表部分の車両まで揺れは伝わる。


 「な、な、なんだ!?」

 「ゆ、揺れてますぜ」

 「お前ら落ち着け。これは地震といって惑星では普通に起こり得る出来事だ」


 基本的に宇宙で過ごし、惑星に降り立っても長居しない場合、地震というものを経験したことがない者はどうしても現れる。

 驚愕する一部の海賊の反応を耳にして、ルニウは思わず苦笑するも、すぐに険しい表情となる。

 なぜなら、地震は一向に収まる気配を見せず、ますます激しいものとなっていくからだ。


 「ま、まずい。こんなに大きな規模だと……! 足元が……!」


 焦ったところでどうすることもできない。

 やがて立っていられないほどの揺れになり、辺り一面崩れ去る。

 当然ながら車両は巻き込まれ、作業用機械の中にいたルニウは激しくシェイクされて意識を失ってしまう。




 「うぅ、ひどい目にあった」


 意識を取り戻したルニウは、まず自分の身体の状態を確認する。

 作業用機械は大きくないので中は狭く、不幸中の幸いなのか怪我の類いはない。

 多少の吐き気はあるものの、これは時間と共になくなるだろう

 乗っている機械の損傷は、それなりではあったが、普通に動く分には問題ない。

 そこで次は通信を行うが、反応があるのはファーナだけだった。


 「生きていましたか」

 「ファーナはどこ? 見当たらないけど」

 「ここです。どいてください」


 コンコンという音がしたかと思うと、わずかな衝撃が伝わる。

 ルニウは慌てて人型の作業用機械をその場から移動させると、雪と氷まみれなファーナが立ち上がり、付着していたそれらを手で払っていく。


 「それにしても、ずいぶんと深いところにまで落ちてしまったようです」

 「うわ、外の光があんなに遠い……」


 どのくらい奥底に落ちていったのか、ルニウが見上げた先には小さな光の点しか存在せず、辺りは真っ暗。

 ファーナは無事なライトを作動させて光源を確保すると、周囲の海賊たちを救出していく。


 「くそっ、まさかこんなことになるとは」

 「ど、どうします? 救助は望めそうにないですが」

 「黙ってろ……。ルニウ、ついでにファーナとやら。そちらの経験からして、この危機を抜け出す考えは?」


 地下深くに取り残され、脱出する手段はない。

 食料などはいくらかあるものの、数日もすればなくなる程度。

 助言を求められるルニウとファーナだが、今の状況をどうにかする手段は持ち合わせていない。


 「いえ、ないです」

 「右に同じく」


 首を横に振るしかないものの、周囲の探索をしていた海賊の一人が驚きの声をあげる。


 「うお、こっち見てください! 建物があります!」

 「なに!?」


 建物と聞いて、全員の注目が一点に集中する。

 雪と氷の中にいるよりは、適当な建物の中にいた方がマシだからだ。


 「……帝国の建物。なんでここに」

 「地下にある収容所的なあれじゃないんですか?」

 「いや、この付近は手がつけられていない。そう長官殿に教えられていたが」


 本来なら何もないところに、帝国の建物が存在する。

 それは首をかしげることだが、幸いにもタルタロスの長官から許可を得て外に出ている。

 とりあえず中に入ることはできるだろうと思い、扉らしき部分に近づくが、反応はない。


 「皆さん、こちらの壁に亀裂が。ここから中に入ることができそうです」

 「でかした、白い髪のロボット」


 ファーナはこっそりとスキャンを行い、地震による影響なのか壁に空いた穴を見つける。

 怪しい建物とはいえ、雪と氷の中は寒いので、生き残った者が全員入り込むと、そこは見慣れた構造をした通路だった。


 「本部とかとほぼ同じ。ただ……」

 「人がいない」

 「結構な規模に思える。なのに誰もいないのはなぜだ?」


 激しい地震が起きたとなれば、状況の確認のために人がいてもおかしくはない。

 にもかかわらず、今のところ誰にも出会わないまま、警報の鳴り響く通路を進むことができていた。

 セキュリティに関しては、ファーナがハッキングを行うことでどうにでもなるため、足止めはされない。


 「ほう、かなりの腕前だ。いっそうちの海賊団に引き入れたいが」

 「残念ながら、既に私と同じで先約があるので」

 「ふん、そんなに入れ込む相手が、いったいどういう人物なのか気になってきたな」


 ちゃんとした建物の中ということで雑談する余裕が出てきたが、それも途中で終わってしまう。

 建物の中心部に到着したからか、ガラス張りの通路に出たのだが、何重にも張られたガラスの向こうには、これまた別の建物が存在していたからだ。

 それはどこの国でも見たことのない、独特な意匠をしており、一目見ただけで現代に作られた代物ではないことを理解する。


 「遺跡……」


 誰かがぽつりと呟くと、ルニウとファーナはお互いに顔を見る。

 警報が鳴り響いているのは地震のせいかと思ったが、もしかしてあそこにある遺跡のせいでもあるのでは?

 そんな考えが浮かんだのは、重要そうなこの区画においても、誰とも出会わなかったという事実から。


 「ファーナ、もしかしてやばい物を見てしまったかも」

 「まずは人を見つけて話を聞き出しましょう」


 何もわからない状況では、今後が不安になるので全員で人探しを行う。

 セキュリティはファーナによって無効化できるため、まずは監視カメラなどを掌握する。

 そして避難したかどうかを確認し、ここから一番近い者のところへ向かうと、そこにはレーザータレットが設置されていた。

 だが、あっさりとファーナによって無力化されると、扉のロックを解除して中に入ってしまう。


 「ひ、ひぃっ! 来るなぁっ!」

 「……これは」

 「なんだ? 何が起きている?」


 そこには、研究者らしき白衣を着た女性と、撃たれたのか床に倒れる大勢の男女という光景があった。

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― 新着の感想 ―
[一言] もう海外で地震体験アトラクションができても驚かないな。 ひょっとしたら学校教育の一環として地震や津波の体験コースが組まれる時代になるかもしれない。 ( まあ、日本では絶対に商売にならないだろ…
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