新・日本昔話
第壱章 モモの子
昔々、ある所におじいさんとおばあさんが住んでいました。おじいさんは山へ竹取りに、おばあさんは川へ洗濯に出かけていました。
すると川の上流の方から、どんぶらこ~、どんぶらこ~、と大きなモモが流れて来ました。おばあさんはそれを引き上げると、モモは半透明になっており、なんと中には赤ん坊が入っていました。
おばあさんはハッとして、急いで家にモモを持って帰りました。
おばあさんはモモを持って家に帰ると、おじいさんも丁度家に帰っていました。
「おじいさん! このモモを見てくださいな」
「なんと! 赤ん坊が入っているではないか!? それに、この文字は……」
その側面には「No.0」という文字がデジタル表記されていました。
おじいさんとおばあさんはどうにかしてモモを開けようとしました。おじいさんとおばあさんが手探りでモモを触っていると、おばあさんが意図せずに中央にあったボタンを押してしまいました。するとモモのハッチが開き、中の赤ん坊が姿を現しました。
「おじいさん見てくださいよ! モモが二つに割れましたよ!」
「ばあさんや。この赤ん坊を見ろ。なんて可愛い子なのじゃ!」
「本当ですね。この文字と言い、あの子にそっくり……」
「名前は何にしようかの?」
「そうですね。モモから生まれたから桃太郎にしましょうよ」
「それはいい。桃太郎。強く、大きく育つのじゃぞ!」
それからおじいさんとおばあさんは桃太郎を宝物の様に大切に育てました。桃太郎はたっくさん働き、村の子供達ともたっくさん遊んで友達がたっくさんできました。その中でも特に仲の良かった三人とは毎日の様に遊んでいました。桃太郎はご飯を一日に、十杯、二十杯と食べ、なんと三か月で立派な大人になってしまいました。
桃太郎はいつもの様に、おじいさんとおばあさんの手伝いをしようと思い、外へ出かけようとしました。しかし、おじいさんとおばあさんは桃太郎を呼び止めました。桃太郎を呼び止めたおじいさんとおばあさんは桃太郎も今までに見たことのない程、深刻な顔をしていました。
おじいさんは桃太郎の目を見て話し始めました。
「桃太郎。突然じゃが、お前には鬼退治に行って欲しいのじゃ」
「鬼退治、ですか……?」
「そうじゃ桃太郎。お前は知らんかもしれんが、近ごろ、鬼達はこの辺りの村々を襲い、金目の物や食料、女子供まで奪って行くのじゃ。鬼の見かけは額に角がある以外、わしら人間と、然程変わらん。しかし、たいそう凶暴な奴らじゃ、この村もいつ襲われるか分かったものではない。鬼共は、ここから北東に山を二つ超えた、鬼ケ浜辺の先にある『鬼ケ島』という所を根城にしておる。そこに赴き、凶暴で極悪な鬼共を退治するのじゃ」
「しかし、拙者にできるのでしょうか? それに、その様な事を突然申されましても……」
いつもは穏やかなおばあさんが桃太郎も見たことない様な真剣な眼差しを桃太郎に向けた。
「心配ない。桃太郎や。お前は巨大な岩を軽々持ち上げ、兎のように素早い。それに、家宝の刀とこれを持って行けば安心じゃ」
そう言っておばあさんが取り出したのは美味しそうなきび団子でした。
「それにな、桃太郎や。このきび団子には不思議な薬を煉りこんでおる。家宝の刀と一緒に持ってお行き」
「はい! 分かりました! おじいさんとおばあさんがこんなにも真剣に頼んでいるのです。拙者もその期待に応えて見せましょう!」
桃太郎は翌日、鉢巻を絞め、桃色の綺麗な布で作られた羽織を身に着けました。桃太郎はおじいさんとおばあさんに「行ってきます」と伝えると、家を出て行きました。
桃太郎を見送る二人の顔は、笑っていた……。
桃太郎が道を歩いていると、なんと特に仲の良かった友達三人が桃太郎の事を道端で待ち構えていました。
「みんな、拙者に何か用か?」
「「「桃太郎! 俺達も鬼退治に連れて行ってくれ!」」」
「しかし、危険だぞ。それに誰からその事を聞いたのだ?」
「俺は桃太郎のおじいさん!」
「俺は桃太郎のおばあさん!」
「俺は両方から!!」
どうやらおじいさんとおばあさんは桃太郎が鬼退治に行く事を村のみんなに話していたようでした。
桃太郎は困りながら友達三人におばあさんのきび団子を差し出しました。
「このきび団子で今日の所は手を引いてはくれないか?」
子供達は最初、不満げでしたが、結局きび団子をその場で美味しそうに食べ始めました。
子供達がきび団子を食べ終わると、子供達に異変が起き始めました。一人にはとがった耳に鋭い牙、一人には鋭い爪に長い手、一人には青緑色の美しい羽根に白いくちばしが生えてきました。
「何だか分からないがみるみると力が湧いてくるぞ! まるで犬みたいだ!」
「俺も猿みてぇだ!」
「俺だって雉のようだ!」
子供達はそれぞれ、犬人間、猿人間、雉人間となってしまいました。
桃太郎は友達を心配しました。ですが、友達は寧ろ先程よりも元気よく桃太郎に迫りました。
「「「これだったらついて行っていいだろ!!」」」
「あ。ああ……」
桃太郎は子供達に押され、仕方なく子供達を連れていく事にしました。桃太郎達は、再び道を歩き始めました。桃太郎達は強靭な体力で休まず歩き続け、あっという間に鬼ヶ浜辺に到着しました。そこからは黒い雲、荒れる海、そして、まがまがしい雰囲気の島。そう、「鬼ヶ島」が見えました。
桃太郎達は近くの漁村から船を借り、鬼ヶ島に向けて船を出しました。桃太郎達は荒波をなんとか乗り越え、鬼ヶ島に上陸する事ができました。そこから桃太郎達は島の奥地へと走り始めました。桃太郎達は途中鬼達に度々襲われながらも、難なく鬼を蹴散らし、遂には鬼の根城の門の前までたどり着きました。
雉の子は空を飛び、門の内側の直ぐ近くにいる鬼をつついたり、羽根で叩いたりしました。猿の子は門を器用によじ登り、鬼にとびかかると同時に顔を引っ掻きました。するとみるみる内に鬼達は逃げてゆき、門の近くはがら空きになり、猿の子が門を開きました。
そこに桃太郎と犬の子はすかさず飛び込むと、四人で一気に鬼に襲い掛かりました。雉と猿の子が、先程と同じ様に鬼どもをひるませ、その隙に犬の子は鬼どもを噛みちぎり、桃太郎は鬼達を輪切りにしました。
すると奥の方から他の鬼達より一回り大きく、村の男の身の丈程ある大きな斧を持った鬼が出てきました。しかし、その鬼には額に角がありませんでした。しかし、桃太郎達はその圧倒される様な雰囲気からこの鬼が鬼共の親玉だと考えました。
「お前ら! よくも俺様の仲間を!!」
大きな鬼は野太い声で桃太郎達を威圧してきました。しかし、桃太郎達はひるむことなく、立ち向かいました。
まず、猿の子が鬼の顔を引っ掻くと、雉の子のつつきで大きな鬼の左目を潰しました。その隙に犬の子は右腕にかみつき、大きな鬼があまりの痛さに尻もちをつくと、桃太郎は鬼の左腕を切り落としました。すると大きな鬼は鬼ヶ島全体に響き渡る様な叫び声をあげました。
「グワーーーーーーッッッッ!!!!」
大きな鬼は桃太郎達を振り払うと、残された左腕を抱えながら一目散に逃げだしました。桃太郎達は大きな鬼を追いかけるも、大きな鬼は図体のわりには風の様に速く、港まで逃げると、桃太郎達の乗って来た船を奪って逃げて行きました。桃太郎達は遠ざかっていく鬼を見る事しかできませんでした。
この時、桃太郎の中には、自分自身でも説明のできない思いがありました。
桃太郎達が海を眺めていると、海の中から女性が桃太郎達の方に歩み寄ってきました。その女性は真っ青な着物を纏い、釣竿を肩にかけ、長い黒髪を後ろでくくり、布の丈は短く胸元もあまり隠されておらず、立ち方もまるで男の様でした。
「お前がCm.カグツチだな。いや。兄貴って言った方がいいのか? まぁ、とにかく俺と一緒に来てもらうぜ」
「何のお話だ? 拙者の名前は桃太郎。拙者は育て親のおじいさんとおばあさんに頼まれてこの鬼ヶ島に鬼を退治しに来たのだ」
「お前本当に何にも知らね~んだな。いいぜ。話してやるよ。過去に何があったのか、鬼とは何なのか、そして、俺やお前は何者なのか……」
第弐章 創られたモノ
「俺の名前は、人型兵器『神』No.2Cm.アマテラス。この星の住人には浦島太郎と名乗っている。結論から言おう。俺とお前は二人の『月の民』によって創られたのさ」
桃太郎達は何が何だか分からず、唖然としていました。
「よく分からないのだが、そもそも月の民とは何者なのだ?」
浦島は桃太郎の問いに、あきれつつも答えました。
「はぁ~。月の民ってのはな。文字通り月に住んでいる人間の事だ。あいつらはこの星の人間達よりも体が大きく、額に角が生えていている」
桃太郎は慌てたように浦島に問いました。
「待ってくれ。それではまるで、鬼ではないか!?」
すると、浦島はさも当然かの様にその問いに答えました。
「あぁ。お前らの言う鬼とは、月の民の事だ」
「では何故、その月の民はこの星の人間を襲う?」
「人を襲うだと? 月の民はこの星の事を単なる資源採取場兼兵器の実験場としか考えていない。俺や、さっきのでけぇ奴がこの星に来たきっかけもただの実験さ。だから、あいつらがこの星の人間を襲っている事実は無いはずだぞ」
桃太郎には、新たな疑問がどんどん出てきました。桃太郎は聞きたいことが山ほどあり、また浦島に慌てて問いました。
「さっきの鬼もお主と同じように創られた物なのか?」
「あぁ、あいつは人型兵器『神』No.3Cm.スサノオ。あいつは俺らの弟にあたるんだが、一番力が強くて、熊を一度に何匹も投げ飛ばせるらしい」
「まあ、後の詳しいことはあの方から聞けばいい」
そう言うと、浦島はクジラの様に大きなウミガメを浜辺に呼ぶと、桃太郎達にこれに乗るように言いました。
そのウミガメは甲羅の上から中に入ることができ、中には空気もありました。明りに畳に机に座布団と、過ごしやすい空間が広がっていました。
桃太郎達が驚いていると、浦島は操縦席に座り、ウミガメを海の中へと進めていきました。
ウミガメはどんどん海の底へ潜ります。どんどん、どんどん潜って、日の光も届かないような深さまでやってきました。すると、突如目の前が明るく光りだしました。そこには色とりどりのサンゴが生え、魚が踊る、大きなお城が見えてきました。
桃太郎達がお城の側に着くと、浦島が大きな城の中を案内してくれました。お城の中はサンゴで豪華に飾られ、魚達がせっせと仕事をしていました。浦島は桃太郎達を連れて、大きな門の前で止まりました。
「説明が遅れたが、ここは竜宮城と言ってあの方が月の民から身を隠すために造られた城だ。そして今から、お前らをあのお方に会わせる。決して無礼の無いように」
そう言うと、門の扉が開き、桃太郎達は中へと入りました。中には廊下よりも一層豪華な装飾が施され、中央の玉座には一人の女性が座っていました。その女性には短い赤髪と額に二本の角が生えていましたが、左の角は折れていました。
浦島は玉座の前に歩み寄ると跪きながら桃太郎達にも跪く事を強要してきました。
「面を上げなさい。ようこそ竜宮城へ。No.0Cm.カグツチとそのお友達の皆さん」
「拙者の事をそのように言うという事は貴方も人型兵器『神』と呼ばれる者なのですか?」
すると、女性は笑い出し、浦島は急に怒りだしました。
「この方は俺らみてえな人型兵器『神』なわけないだろ! このお方は俺らの母親だ!!」
「「「「ええええーーーーーーーーーッッッッ!!!!」」」」
桃太郎と子供たちは顎が外れるほど声を出して驚きました。
「ふふふ。月ではDr.イザナギと呼ばれていました。信じられないかもしれませんが、私達が貴方を造ったのですよ。カグツチ。いや、今は桃太郎と呼んだ方がいいですかね?」
「なぜそちらの名を知っているのですか?」
「ずっと見ていましたから……。貴方が捨てられて、この星に来る事になってから今までずっと……」
「拙者は、捨てられたのですか……」
「ええ。あなたは我が夫である、Dr.イザナギによって捨てられました。彼は、貴方に対して怒り狂い、貴方を捨て、この星で貴方を殺すために三人の人型兵器『神』を造りました。その内の一人が、このアマテラス。この子は実地試験でこの星に来たところを私がハッキングしました。よって、今の様に私に従うようになってくれました。そして貴方が先程倒したスサノオ。そして後一人は、No.1Cm.ツクヨミ。彼女はこの地球の偵察係として使われ、貴方よりも前にこの星に来て、今は月で我が夫の助手をしています」
「その、拙者の父であるイザナギ殿が怒り狂った訳は何なのでしょうか?」
「それも話しておきましょう。イザナギが怒り狂った訳は、貴方が私を殺したからです……」
第参章 創り話
昔々、月のとある研究所に一組の夫婦が研究の日々を過ごしていました。妻のDr.イザナミは赤く綺麗な長い髪の持ち主で、額に二本の角を生やし、その姿は華聯という言葉を具現化した様でした。更に、彼女は心優しく、月の民の為に身を切り崩して研究を行う努力家でもありました。夫のDr.イザナギは輝くような金色の髪の持ち主で額に二本の角を生やし、容姿端麗な顔つきをしていました。彼は少々気が荒いところがありましたが、とても妻思いで、妻の為なら身を切り崩して研究を行いました。
そんなある日、月の民の政府から月の民を守るために強力な兵器を造って欲しいという依頼がやってきました。
イザナミは月の民のためならば、この依頼を受けようと言い出しました。しかし、イザナギは自分の造った物が兵器として使われる事に対して嫌悪感を覚えました。しかし、妻を守る事にも繋がると思ったイザナギは結局、その依頼を受ける事にしました。
イザナミとイザナギはせっせと新たな兵器を造っていきました。最初の頃は人間というよりもロボットに近かい物でしたが、土、水、木、風などの森羅万象の能力をそれぞれ持った人型兵器が出来ていきまた。これらの人型兵器の試運転は全て地球で行われました。それらの人型兵器達によって生まれたのが、今の日本列島です。この試験結果を見ていたイザナミとイザナギは人型兵器達が島をも創ってしまう程の力を発揮するとは思いもしませんでした。よって、二人は月の民が力を持ちすぎて暴走しない為に、次で最後にしようと決めました。二人は最後に火の人型兵器を造る事にしました。
その人型兵器には今まで使われていなかったありとあらゆる最新技術が使われました。更には、最近作成に成功した、摂取した者に異能力を与える薬も投与しました。この今までの兵器とは比べ物にならない力を持った人型兵器は、正式名称「神」となりました。
そして、その人型兵器は容姿も人間そのものになり、感情をも持ったのです。イザナミとイザナギはこの人型兵器を自分の子の様に扱い、その人型兵器に「カグツチ」と名付けました。
成功まであと少しというところで、イザナミは気づきました。これ、いや、彼の力は、敵はおろか、味方さえも滅ぼしてしまう力を秘めている事に……。
イザナミはカグツチの開発を止めようとしました。しかし、イザナギは開発によって放たれていた汚染物質によって脳と精神が破壊されてしまい、妻を守るためなら敵味方、そして自分すらも犠牲にしても構わないと考えていました。イザナギはイザナミの反対を押し切り、一人でカグツチの開発を続けました。
完成まであと少しというところで、イザナミはもう一度イザナギを止めようとしました。
「あなた。カグツチの開発を止めて! この子が完成しては、月の民を守るどころか、滅ぼしてしまう!」
「例え月の民が滅びようとも、君を守れるならば私はそれでいい。それにこの話を最初に受けようと言ったのは君じゃないか」
「確かにそうだけど……。何度も言うけど、私気づいたの。これは月の民のためにならない。この子は生み出してはいけないという事にね。だから止めて!」
「……。分かった。お前がそこまで言うなら、カグツチの開発を止めよう」
その瞬間、研究室に警報音が鳴り響きました。イザナミとイザナギが急いで確認すると、カグツチが暴走しかかっていました。二人はなんとか止めようとしましたが、止める事はできず、イザナミがイザナギに庇うように抱き着いた瞬間、カグツチのカプセルは大爆発を起こしました。イザナギが目を覚まし、彼の視界に入った物は、夫婦で築き上げてきた研究所の瓦礫の山でした。そして、足元には今まさに燃え尽きようとしている赤い髪が落ちていました。
イザナギは瓦礫をのかし、まだ燃えている場所に飛び込み、毎日寝ずにイザナミの事を探しました。しかし、そんなイザナギの努力も虚しく、イザナミは見つかりませんでした。見つかった物は、イザナミの左の角と、イザナミを殺したカグツチだけでした。その時、イザナギの中で決定的な事が起きました。イザナギは泣き笑いながら、怒り狂いました。
イザナギはカグツチを様々な手段で殺そうとしました。しかしカグツチは「神」と呼ばれる程の最強人型兵器。全く死ぬ気配を見せません。
イザナギは「神」を殺せるのはまた「神」だと考え、三体の「神」を造りました。しかし、どれもカグツチを殺せる程の物ではありませんでした。よってイザナギはカグツチを地球に捨てる事にしたのです。しかし、カグツチが地球の人々に利用されてはそれこそ月の民が滅ぶと考えたイザナギはNo1.Cm.ツクヨミを地球へ偵察に送りました。
これの偵察によってイザナギは地球の人々にカグツチを最大限利用する事は不可能だと考え、カグツチを地球に捨てました。そして、カグツチの入ったカプセルは、長い間宇宙と地球を彷徨い、どんぶらこ~、どんぶらこ~、と川に流され、おばあさんに拾われる事になります。
「これが、今までに起こった出来事です」
「ですが、イザナミ殿はこの通り生きているではありませんか」
「私は、奇跡的に地球転送マシーンの誤作動でこの星に送られました。ですから、片方の角と多少の火傷で済みました」
「イザナギ殿は今どうなっているのですか?」
「今は勝手に「神」を増産したとして、月の民の刑務所に入れられているそうです」
「それで、イザナミ殿が拙者達を呼んだ訳は?」
「貴方達には、我が夫、イザナギがしようとしている事を止めて欲しいのです」
「それは、イザナミ殿が直接イザナギ殿に会いに行けば良いのでは?」
「今彼はとても不安定な状況です。今私に会っても、何も感じないでしょう……」
「分かりました。ですが、どの様にして月に行くのですか?」
「今、ツクヨミと、スサノオをここに呼び寄せているところです」
すると、浦島が立ち上がり、イザナギに言いました。
「それでは月の民にこの場所がばれてしまうのでは? それに、お母様の事も知られてしまいます!」
「それならば安心なさい。既にあの子達がこちらに就く様にハッキング済みです」
地球のとある島。
「お母様がお呼びに!? 生きていられたのか……。しかし、今更お父様を裏切るのも……。とりあえず、あれを済ます事を優先するか……」
月の極秘地下研究所。
「お母様。生きていらっしゃったのですね。良かった。地球、何か懐かしい様な、地球と聞くと、無性に誰かに会いたくなるような……。なんでかしら? あ~。知りたい! 知りたい!! 知りたいぃぃぃぃ!!!! まぁ、その前にあれを済まさないとね……」
第肆章 解放されし者
月の刑務所、地下十階、特別独房。
その部屋は薄暗く、分厚い壁と特別なガラスで何重にも囲われており、囚人は特別な鎖に繋がれ、いくつもの監視カメラと銃口が一人の男に向けられていた。
そこに複数人の部下を連れた刑務所所長が管理室にやって来た。マイクの電源を入れ、会話ができるようにすると、ニヤリと笑って話し始めました。
「おい。博士さんよ、ここに入ってもう十年になるが、居心地はどうだ?」
すると、少しかすれた声で返事が来た。
「ほ~。もうそんなになるか……。じゃ~十周年記念囚人の俺にはケーキでも準備してくれてんのかな?」
「馬鹿言え。お前には臭い飯がお似合いだ」
「ケッケッケ……。冷たいな。俺の子供達なら祝ってくれるだろうに……」
「その子供達も今は軍の管轄下。残念だったな」
「そうだな。だが、俺の事は忘れちゃいねえよ」
すると、一人の看守が管理室に慌ててやって来た。
「失礼します! 所長!!」
「なんだ? 何かあったのか?」
「それが、過去にイザナギに加担していた者達がここに奇襲を仕掛けてきました! おそらく、イザナギの開放が目的かと」
「今すぐ看守を集めろ! それくらいなら対応できるだろう!」
「そ、それが……」
「なんだ? まだ何かあるのか?」
「そ、その。スサノオとツクヨミも参加しています!」
「何!? 奴らは軍の命令に従うようにプログラムしていたはずだろ!」
「原因は分かりませんが、そのプログラムにも背き、イザナギを目指しているのは事実です!」
「クソッ……。急いで軍にも救援を要請しろ! 軍が来るまで持ちこたえろ!」
「分かりました!」
刑務所内地下二階。
そこでは、看守達が次々にやられていき、罠もバリケードも意味を成していませんでした。その殆どはスサノオによって吹き飛ばされるかツクヨミによって戦意を失っていました。そして、イザナギ解放軍は次々に階層を下り、イザナギに迫っていた。
「おいおい。こんなにも脆いのか? 刑務所って所は?」
「そうですね。ですが少々強引すぎるのでは? 私、あまり血は見たくないのですが……」
「甘いな姉者は! それより、お父様から授かった天羽々斬は凄まじい威力だ」
「この白銅鏡も私の能力の効果を広めてくれて結構便利ですよ。でも、もっとこの刑務所の構造が知りたい。あ~。知りたくてたまらない!」
その頃、所長室では。
「今の状況は?」
「看守の過半数がやられ、今、イザナギ解放軍は地下六階層に迫っています」
「軍は?」
「それが、通信網を前もってにやられており、連絡が取れません。看守の数名が軍の基地に向かいましたが、それから音沙汰がないので、おそらく周りで待ち伏せしている敵にやられたのかと……」
「クソ!! こうなったら、イザナギを殺すしか無いのか……」
「しかし所長! 法律では本人が不審な動き、または脱獄しようとするか、死刑囚でもない限り勝手に殺すことはできません」
「とは言ってもこのままでは、じり貧でイザナギが解放されるだけではないか!」
「イザナギが解放されるタイミングで殺すしかありません」
「そうだな。少しでいい。時間を稼げ! そしてもっと連絡要員を増やせ! 何としても敵の包囲を突破し、軍に救援を求めるのだ!!」
「分かりました!」
「お前はこうなることを分かっていたというのか。Dr.イザナギ!!」
しかし、看守達の奮闘虚しく、あっという間にDr.イザナギ解放軍はDr.イザナギの特別独房に到達した。独房の分厚い壁も、特別製のガラスも、スサノオの怪力の前にはいとも簡単に破壊された挙句、制御室も占拠され、頼みの綱だった備え付けの銃も機能を停止した。
そして、Dr.イザナギの前にはスサノオ、ツクヨミを筆頭にしたイザナギ解放軍が跪いていた。
「「お父様。お迎えに上がりました」」
「ケッケッケ……。待っていたぞ。お前達のプログラミングを上書きできないようにしていて正解だったな」
「お父様。このツクヨミが、お祝いにケーキを持ってきましたよ」
「おお。これはありがたい」
「本当にお父様が無事で何よりです」
「スサノオ、その腕どうした? まぁ、今はいい。後で義手を作ってやろう」
「ありがとうございます。それと、お父様。我々から一つ伝えておかなければならない事が……」
「ん? なんだ?」
「お母さまが生きていらっしゃいました。私達にかの星に来て共にお父様を止めようという連絡が来ました」
イザナギはケーキを素手でちぎると一口食べて喋りだした。
「そうか。それじゃ~。我が最愛の妻に会いに行こうじゃないか……」
第伍章 兄弟姉妹
地球の竜宮城。
そこでは、桃太郎ことカグツチとカグツチ率いる獣人達、浦島太郎ことアマテラス、そしてDr.イザナミが、スサノオとツクヨミの到着を待っていました。
しかし、浦島が月の民の通信を盗聴し、とんでもない事が分かってしまいます。
「お母様。大変です!! 今、月の民の通信を盗聴できたのですが、なんとお父様が刑務所を脱獄。そして、お父様が率いる軍団が月の民を虐殺しています!」
「そんな馬鹿な……。彼は最も厳重な設備で投獄されていたはず。それに、あれだけ月の民のために研究をしていた人が月の民を虐殺するなんて……」
「その、イザナギ殿を止められる者はいないのですか?」
「勿論、月には軍隊がいますが……」
「何かその者達にも対処できない理由があるのか? 浦島」
「それが……。スサノオとツクヨミがお父様陣営として関与しているらしい……」
「そんな!? その二人はハッキングしてこちらに来るように命令したはず!」
「きっとお父様が何か仕掛けをしていたのでしょう」
「だとしたら最悪ですが、納得できますね。月の民の軍でもあの二人への対抗策は無いでしょうし……」
そうして、考えている時、突然侵入者の警報が鳴りました。浦島は慌てて防犯システムを確認しました。するとそこには月で暴れまわっているはずのDr.イザナギ軍が侵入してきていました。
「お母様! 大変です! お父様の軍が攻めてきました! ここは逃げましょう!」
浦島の発言に被せる様に桃太郎はイザナミに向かって物申しました。
「いえ。逃げてはいけません! これはイザナミ殿がいえ。お母様が向き合わななければならない試練だと思います。ここで逃げては、夫婦の仲はどうなるのですか!」
「確かに。桃太郎の言う通りですね。あの人の事です。わたしの事は殺さないでしょう。わたしはここであの人を、我が夫を待ちます!」
しかし、押し寄せるDr.イザナギ軍を野放しにするわけにもいかず、桃太郎と獣人達、そして、浦島は兵だけでも撃退することにしました。
桃太郎は話を聞いて気づいた自分の炎の能力を使い、刀に炎を纏わせて戦いました。加えて、浦島は指先から太陽の光を一点に集めためた高熱の光線を放ちました。
敵に囲まれると桃太郎は自分の周囲に炎を出し、一気に敵を焼きはらいました。そして、浦島は自分を中心に高熱の光を放ち、範囲内に居た敵を失明させ、その隙をついて、桃太郎達の獣人達と共に、周囲の敵を倒していきました。
すると突然、衣をまとった者が、奥の方から拍手をしながら歩いて来ました。その者の傍には黒髪の着物を着て手に白い銅鏡を持った、息をのむ程美しい女性と、桃太郎が逃したスサノオが、義手を付けた姿で現れました。
「いや~。我が子とは言え恐ろしい戦闘能力だ。実に素晴らしい」
「久しぶりだな。カグツチ。いや。兄者と言った方が良いか? というか、裏切り者の姉者もいるではないか! こりゃ、一石二鳥だな」
「そんなのどちらでもいいでしょう。すみません。挨拶が遅れました。私が人型兵器「神」No.1Cm.ツクヨミ。この子がNo.3Cm.スサノオ。それより、貴方からは何故かとてつもない関係を感じる。私の知らない記憶の中で何か繋がりがあるのですか? いや。そうにちがいないです! あ~。知りたいですね! 何故、この星に来るとうずくのか、そして貴方と出会っても同じ様に体がうずく。あ~! 知りたい! 知りたい!!」
スサノオは刀を二本抜き、構えます。そして、ツクヨミは自分と白い銅鏡を抱きかかえてもぞもぞしていました。
「すまんが、拙者はお主らとの関わりはよく分かっておらんのでな」
「兄者。油断は禁物だぜ」
その時、スサノオが桃太郎に向かって切りかかってきました。桃太郎はとっさに刀で受けることができましたが、スサノオはもう一本の刀を使い、横から切りかかってきました。これには桃太郎は後ろに下がって避けました。しかし、桃太郎は脇腹に切り傷を負いました。
「どうだ? お父様から頂いた天羽々斬と天叢雲剣の威力は?」
この時、浦島と獣人達はツクヨミによって戦意を削がれてしまい、ただ見ていることしかできませんでした。
そして、その後も桃太郎はスサノオと互いに一歩も引かない戦いを続けました。しかし、体力的にこのままでは桃太郎が負けるのは必然でした。そこで桃太郎は隙を見て、ツクヨミに横から切りつけました。ツクヨミも当然避けようとしましたが、一手間に合わず、腹部を切られてしまいました。
「イダーーーーイッッ!!」
ツクヨミはもだえ苦しみました。すると自然とツクヨミは能力を解いてしまい、浦島とお供達は正気に戻りました。この隙に浦島は、スサノオに向かって、光線を連発しました。そして獣人達もスサノオをひるませます。その隙を逃すまいと桃太郎はスサノオの急所に向かって炎の舞の様に攻撃を繰り出しました。
スサノオはその攻撃をもろに食らってしまい、その場に倒れこみました。
その時、桃太郎達の後ろから、矛を持った女性が堂々と歩いてきた。
「もう止めなさい!! この戦いは終わりです!!」
「ケッケッケッ。会いたかったぜ。我が愛しき妻、Dr.イザナミよ」
「ええ。私もですよ。あなた。いや、Dr.イザナギ」
第陸章 家族
イザナギは矛を振り回し、舞の様なものを踊ると、さっきまで死の淵をさまよっていたスサノオとツクヨミが治癒され、気持ちよさそうに眠りにつきました。
その時のツクヨミの寝顔は、笑顔でしたが、泣いていました。
「この子には失った記憶を少し思い出してもらいました。あなたのエゴで道具になるのはかわいそうだったので」
「おいおい。俺らが造っていたのはただの道具だろ? 腐った月に住む奴らが求め、利用しようとした、ただの道具を俺達は造っていたに過ぎないだろうがよ!」
イザナミは表情と声の大きさが一変し、必死さが伝わってくる、正に鬼の形相になっていました。
「私だって、最初はあなたと同じ様な気持ちで研究を進めてた。でも、完成していくカグツチや、私のために動いてくれるアマテラスを見て道具なんて思えなくなった。あなただって、そうだったはず! 完成していくカグツチを見て、我が子の様だと言っていたじゃない!」
イザナギは拳を握りしめ、下を向き、怒った様子だったが、小声でぼそぼそと何かを言っていました。
「黙れ……」
「あなた。あなたなら私の言いたい事が分かるでしょ?」
「黙れ…………」
「あなた……」
「黙れーーーーーーッッッッ!!」
その時、イザナギから雷撃の様なものが放たれ、桃太郎と獣人達、そしてアマテラスに命中し、そのまま五人は意識を失った。イザナミはというと、持っていた矛で雷撃を防ぐ事が出来た。
「流石だな。人型兵器「神」に命を与え、人型兵器を自在に操ることで国をも創る事ができる天之瓊矛は。正に俺達の最高傑作」
「あなた。いや。イザナギ。貴方の目的は一体何?」
この時のイザナミの表情は怒りに包まれていた。
「ゴミ掃除さ」
すると、イザナギはニヤニヤ笑いながら上を向き、腕を広げ話し始めました。
「ゴミってのは月の民の事さ! 俺はゴミを掃除し、そして、このゴミによって創られた世界を創り直してやる!!」
「何故その様な事を!?」
「そんな事より、さっさとその天之瓊矛を渡してもらおうか」
「嫌よ。この世界にも幸せに暮らしている人はいっぱい居る。それも全て創り変えてしまうなんて、私は認められない!!」
「君だって、月の民の行いには疑問を持っていたではないか?」
「そ、それは……」
イザナギは今までよりも大声をあげて話し始めました。
「誰が正義で誰が悪かなんて事は勝った奴が決める!! そして勝つ者は神が決める!! 俺達に天之瓊矛がある限り、俺達が神だ。俺が天之瓊矛を使って無敵の兵器を操り、新たな天地を創り出す。そうすれば、何をしようと俺達が正義だ!! さあ、さっさと天之瓊矛をよこせ!」
イザナミは下を向き、少しずつ喋りだしました。
「貴方は悪です……。貴方は悪です! 貴方の計画では誰も幸せにならない! 貴方の言う理論は双方どちらも勝った時に幸せを手に入れられるから成り立つ。貴方の計画はどう? 実行して、何もない星以外に何が残るの?」
イザナギの顔は真っ赤になり、今にも燃え上がりそうな程激怒していました。
「うるさい!! 渡さないのであれば、力づくで奪ってくれる!!」
イザナギは拳に電撃をこれでもかという程集め、イザナミに向かって殴りかかりました。しかしイザナミは自身の体中が燃え上がり、イザナギを跳ねのけました。そしてそのまま、イザナミは、ゆっくりとイザナミに近づき、顔をイザナギの顔の間近まで近づけました。
「あなたは何も変わってない。無茶をするとこも、一つの事に熱くなるとこも、そして、私を見つめるその瞳も……」
イザナミはイザナギに抱き着き、口付けを交わしました。すると、お互い雷も、炎も引いていきました。そして二人は抱き合ったまま、涙を浮かべながら話し始めました。
「あなた。ただいま」
「イザナミ……。すまない……。俺はあの時お前を失ったと思い、あの実験を進めさせた腐りきった軍を恨み、気づけば、自分を含めた月の民全体とそれらの創った物全てを恨んでしまっていた……。今まで俺は自分が分からなくなってしまっていた。イザナミ。言うのが遅れてしまってすまない。生きていてくれてありがとう……。おかえり」
「あなたこそ。無事でいてくれてありがとう。あなた。お帰りなさい」
「あぁ。ただいま」
最終章 おかえり
「さて、この子達はどうしようか?」
「この子達は、地球に住まわせましょう。わたし達との記憶も、能力も無くしてしまって」
「あぁ。それがいいだろう」
イザナミとイザナギは天之瓊矛を桃太郎達にかざしました。すると周囲は暖かい光に包まれました。
桃太郎が目を覚ますと、そこは馴染みのあるおじいさんとおばあさんの家の前でした。そして、周囲には先程まで竜宮城で倒れていたはずの桃太郎の兄弟達と友達が人間の姿で倒れていました。
桃太郎は何があったのか思い出せず、頭を抱えていると家の中からおじいさんとおばあさんが出てきました。おじいさんとおばあさんは桃太郎達を見て満面の笑みを浮かべました。
「桃太郎や。ありがとう」
「おかえり……」
それから、桃太郎はおじいさんとおばあさん、そしてツクヨミ、アマテラス、スサノオの兄弟達と仲良く暮らし、友達とも、前の様に沢山遊んだりしたそうな。その光景を旅人の夫婦がこっそり覗いていた事は、みなさんには内緒のお話。
番外編 月の子
昔々、ある所に竹取の翁と呼ばれるおじいさんが、おばあさんと幸せに暮らしていました。ある日、おじいさんがいつもの様に、竹を取りに山へ行くと、竹林の奥で黄金に輝く竹が一つありました。おじいさんはその竹の光っているところだけを持ち帰りました。おばあさんと一緒に観察していると、「No.1」という文字が竹の表面にデジタル表示されていました。おじいさんとおばあさんはどうにかして竹を開けようとしました。おじいさんとおばあさんが手探りで竹を触っていると、おばあさんが意図せずに中央にあったボタンを押してしまいました。すると竹が二つに割れ、中から可愛らしい女の子と、莫大な量の黄金が出てきました。
おじいさんとおばあさんは、町に屋敷を建て、その女の子をとても可愛がり、「かぐや」という名前を付けました。
かぐやは、あっという間に大きくなりました。かぐやは、黒く長い美しい髪に、黒真珠の様な瞳を持っており、成長するにつれ、どんどん華聯になっていきました。それを聞いた町の男達は、かぐやの事を、かぐや姫と呼んでいました。
かぐや姫の噂は町の外にも広がり、かぐや姫を一目見ようと多くの人々が集まりました。
「こんなに来られても、私困るんだけどな~。まぁ、色んな噂聞けて色んな事知れるからいいけど」
中にはかぐや姫に結婚を迫る男性も珍しくなく、中でも熱心な者が五人居りました。
その五人はお金や、宝石、織物などをかぐや姫に送りましたが、見向きもされません。
かぐや姫はその五人を呼ぶと、それぞれに、「蓬莱の玉の枝」「火鼠の皮衣」「仏の御石の鉢」「龍の首の珠」「燕の子安貝」を持ってくるように伝え、持ってきた者と結婚すると言いました。
「あの方々も、月の国宝を持って来いと言われたら流石に諦めるでしょう」
かぐや姫の思惑通り、誰もそれらを持って来る事はできませんでした。
そんなある日、今度はなんと帝からも結婚を迫られました。
「流石に帝はまずい……。これは流石にお父様に……。いや、でも、ここでの暮らしとおじいさんやおばあさんからは離れたくない。私は一体どうしたら……」
かぐや姫がそんなことを考えていると、かぐや姫の脳内に声が聞こえてきました。
……。ジーーーーー……。
『おい。ツクヨミ……』
「お父様!?」
『そっちはかなりややこしいことになりそうだな』
「ええ。少々ですが……」
『少々? 大分悩んでいる様子だったが?』
「いえ。そんなことは……」
『まぁいい。もう必要なデータは殆ど取れた。お前はこっちに帰って来い』
「そんな!? まだ私はここに居たいです!」
『口答えするな!! お前は私が造った道具に過ぎない。私の命令だけ聞いてれば良いのだ。偵察用に知りたいという欲が多くなるように造ったが、どうやら要らぬ事まで知ってしまったようだな。次の満月の夜に迎えに行く。いいな』
「はい……。分かりました。お父様……」
かぐや姫は涙をぬぐいながら答えました。
『それでいい』
ブチッ……。
かぐや姫はその夜、寝ずに一晩中涙を流し続けました。
かぐや姫は次の日、おじいさんとおばあさんに真実を伝えました。
「おじいさん。おばあさん。実は私は、月から来たのです。私は役目を終えたので、次の満月の夜に、帰らなくてはなりません」
おじいさんとおばあさんは啞然としていて、何も言えませんでした。
「本当にごめんなさい。私はまだおじいさんとおばあさんと一緒にここで暮らしたいのです……」
「わしらだってそうじゃよ」
おじいさんとおばあさんはかぐや姫にぐっと抱き着きました。
おじいさんはその日から、帝や、かぐや姫を知っている男達全員にかぐや姫を守ってくれるように頼みました。みんなはかぐや姫を守る為に武装して月からの迎えに備えました。
迎えた満月の夜。武装し、空を警戒する男達。
そして、その時は来ました。額に角を生やし、ウサギの面を付けた巫女服か白の袴を着た者達が、笛太鼓を奏でられながら雲に乗りやって来ました。男達は矢を構え、追い返そうとします。互いにかぐや姫の為に血で血を洗う戦いが起きました。しかし、かぐや姫は自分の為に血が流れるのがどうしても我慢できませんでした。
その時、かぐや姫の瞳は瑠璃色に輝き、かぐや姫は心から叫びました。
「やめてーーーーーーーーーーーーーッッッッ!!!!」
すると、男達は全員武器を置き、戦意を損失してしまい、そのまま寝てしまいました。おじいさんとおばあさんは何が起きたのか分からず慌てていると、屋敷の奥から瑠璃色の光に包まれ、髪もほどけ、髪も体もふわふわと浮いている、かぐや姫が出てきました。
「かぐや姫、その姿は……」
「これが私の真の姿です。おじいさん、おばあさん。今までありがとうございました」
かぐや姫はおじいさんとおばあさんに一礼をし、雲に乗ると、イザナギの前に立ちました。
「ただいま戻りました。お父様」
「うむ。なんだ? その濡れた顔は?」
「いえ……。気にしないでください……」
「まあいい。この羽衣を羽織ればこの星での事は忘れられる。羽織れ」
「嫌です……。嫌です! お父様! 私はこの星で暮らした日々を、おじいさんとおばあさんとの日々を忘れたくございません!」
すると、イザナギはかぐや姫の頬を叩き、怒鳴りました。
「黙れ!! 前にも言ったが、ツクヨミ、貴様は私の単なる道具に過ぎない! 私の命令だけを聞いていれば良いのだ」
「かぐやです……」
「何だと?」
「私の名は、『かぐや』です!!」
かぐや姫はこの時、涙を流しながらも、堂々とイザナギの瞳をにらみつけていました。
「ええい!! この星の者共に毒されおって!!やはり知りたいという欲が多くなるように造ったのは間違いだった。早く羽衣を着せろ!!」
周りに居たウサギの仮面を付け巫女服を着た者達が羽衣を着せようとしましたが、かぐや姫はそれを払いのけました。
「結構です!! 自分で羽織ります。ただし……」
「ただし?」
「あの秘薬を下さい。せめておじいさんとおばあさんに恩返しがしたいのです」
「……。分かった。良いだろう。渡して来い」
イザナギはかぐや姫に秘薬を渡しました。かぐや姫は、おじいさんとおばあさんの元に行き、秘薬を差し出しながら言いました。
「おじいさん、おばあさん。今まで育ててくださり、本当にありがとうございました。せめてもの恩返しに、この秘薬をどうぞ。これは飲むと異能力に目覚める薬です。かぐやは、おじいさんとおばあさんと一緒に過ごす事ができて、大変うれしゅうございました……」
かぐや姫とおじいさんとおばあさんは強く抱き合うと、かぐや姫は素直に雲の上に戻り、再びイザナギの前に立ちました。
「お父様。私は知りたいという欲を間違いだとは思いません。この星に来て、一番大切な事。それを知れましたから……」
かぐや姫は、最後におじいさんとおばあさんの方に振り向き、満面の笑みを浮かべると、自ら羽衣を羽織りました。かぐや姫は、地球での記憶を全て忘れてしまいました……。そして、かぐや姫とイザナミ達は何事も無かったかの様に月へと帰って行きました。
一方、おじいさんとおばあさんは、それから生涯月の民を大いに憎み、この秘薬を使っていつの日か、いつの日か、月の民に必ず復讐し、かぐやを取り戻す事を誓いました。
十年後……。
おばあさんが川で洗濯をしていると、どんぶらこ~、どんぶらこ~、と大きなモモが流れて来ました……。
おしまい。